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82 邸の探検という名のお散歩 2
しおりを挟むアレから割とすぐに戻って来たシュルツとスタンプラリーに出発した。
当然のようにシュルツが抱き上げようとしてきたのでフェアたんを抱っこしていない方の手を上げて待ったをかけた。
「シュルツ、僕は自分の足で歩いて行きたい」
「だが、心配なんだ(どこで転けるか)」
「シュルツのお家の探検なんだから、自分で歩かないと憶えられないよ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいが・・・・・・」
シュルツがもの凄く心配そうな顔で言ってくるが、いくら鈍臭い僕だって平らな床で早々転けないってば。
「とにかく、一人で歩くの! フェアたんもいるから大丈夫!」
半ば意地になってさっさと歩き出した途端に絨毯に足を取られて、躓いた。
すかさずシュルツの太い腕で抱えられて、僕はカアッとなった顔を思わずシュルツの首に埋めた。
たぶんシュルツはその熱に気付いていると思う。
「・・・・・・ほらみろって、笑わないの?」
言ったそばから転けて恥ずかしいのと情けないのとごちゃ混ぜで、シュルツに八つ当たりした。
でも大人だからか、なんでもない様な余裕で許してくれる。
「イツキが一生懸命なのは分かっているから。卑下しなくていいんだ。焦らなくていい。転けるイツキも可愛いからな」
「・・・・・・転ける僕もいいなんて、シュルツって本当に僕大好きだよね?」
「ああ、愛してるからな」
「───っもう・・・・・・、僕も、すっ・・・・・・好き」
恥ずかしくてぎゅうぎゅうしがみ付きながらシュルツの耳元で呟いたら、熱の篭もった瞳で見つめられて妙な雰囲気になって焦った。
ここで抱き潰されたら、また探検どころじゃなくなる。
言ったそばから一人歩きが頓挫してしまったので、知らんぷりしてシュルツに歩いて貰おう。そうしよう!
「シュ、シュルツ! まずはどこがいいかな?」
シュルツは僕の急な話題変更に気付きながらも瞳に灯った熱を消してくすりと笑うと、僕の持ってたチェックシートを指して教えてくれた。
「まずはさっき行ったばかりの食堂から行こうか。一階から順に回って、次は二階。時間にもよるが、三階は午後かな?」
「うわあ、やっぱり広いんだね。一日かかりそう! ヨシ、頑張るぞー!」
「おう」
シュルツに抱っこされたままの締まらない体勢での気合いだったが、シュルツは気にもせずに応えてくれて、ひとまずさっきまでいた抱っこで食堂に向かうのだった。
「頼もー!」
「・・・・・・たのもー? そういえば母上もよくそう言ってたな」
「ああ、うん。道場破りに来た人がそう叫んでた」
「・・・・・・道場・・・・・・訓練場みたいなところか? というかイツキの細腕では破れないだろう」
シュルツが食堂の扉を開けてくれたので、僕は大きな声で叫んだ。
シュルツが気にしたので教えてあげるとそんな返しがきてぐぬぬ・・・・・・っと奥歯を食いしばった。
どうせ鈍臭いよ! ものの例えだもん! 本当にする気ないよ。
そんな僕のヘンなかけ声にも動じずに振り向いてくれたのは食堂を清掃中の使用人さん達。
「こんにちは。さっき振りですね、イツキ様」
「ご機嫌麗しゅう」
「探検ですか?」
手を動かしながらこちらに対応してくれる皆。さすがプロだね。僕だったら絶対に手が止まってるよ。
「はい。探検です! ここが一番です!」
僕がウッキウキでチェックシートを掲げると、皆がワッと喜んでくれた。
「一番最初だって!」
「やった!」
「ここの仕事当番でよかった!」
などなど。
僕はシュルツに下ろして貰うと、シートを片手に皆に近付いた。
「このチェックシートにサインお願いします!」
「畏まりました。はい。これでいいですか?」
「! ありがとうございます」
食堂の欄に器用にフォークとナイフのイラストを書いてくれた。
嬉しくてほくほくしていると、使用人さん達が何やら包みを手に持っている。いつの間に?
「イツキ様、これはチェックされた場所にいる者達からのささやかなご褒美です。どうぞ」
「───えっ、ぼ、僕に? いいの?」
「はい。まだまだ先は長いので頑張って下さいね」
そう言ってそっと手渡してくれた包みには、飴やクッキー、チョコレートなどが入れられていた。
さっきシュルツに言ったから、急いで用意してくれたんだろう。
僕は嬉しくて、泣きそうになった。
「ありがとうございます」
このあともチェックする度にお菓子や可愛らしいカードなどを貰って、幸せな気分で午前中が終わったのだった。
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