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【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
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「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」
「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。
呆気にとられているヴィシャール第一王子殿下に、常に身につけている婚約破棄合意書をささっと見せ、半ば強引に署名をさせた。
高らかに婚約破棄合意書を掲げるタリーシャに、陛下はもう一度「ああー」と言って頭を抱えた。
タリーシャ・オーデリンドは子爵令嬢である。領地は王都から馬車に揺られて一日ぐらいの場所に位置する、のどかな田舎だ。特筆すべき産業もなく、農業と牧畜が主な税収である。
そんなタリーシャがヴィシャール第一王子殿下の婚約者に選ばれたとき、タリーシャは「なんで?」と思った。おそらく国中の貴族も同じ思いだったであろう。
当然、貴族は荒れた。そしてヴィシャールは荒ぶった。千年の歴史を誇り、近隣諸国を圧倒するウダイヤール王国の、誉れ高き次期国王たる己には、もっとこう、なんかあるだろうと。例えば妖艶な美女が多いことで名高い、隣国サルマカーンの王女とか。生つばゴックンの色気を振りまいているらしいぞ。
もしくは海洋国エリゼンタールの勇ましき王女とか。ほぼ裸体に近い服装でイルカを乗り回していると聞く。引き締まってしなやか、かつ出るとこ出てると評判だ。
ヴィシャールは思春期の男である。分かりやすい色気に弱いのだ。今ヴィシャールが夢中になっているユジャーレ侯爵令嬢は、全体的にまろみを帯びたいい感じのむっちり度合いである。柔らかそうだな、埋もれてみたいな、そんな魅力がある。
それに引き換えタリーシャときたらどうだ。化粧とドレスを取っ払ったら、そのまま男子寮にぶち込めるぐらいの少年感である。なんか固そうだな、そんな失礼なことを考えている王子である。
そんなヴィシャールの思惑などタリーシャはとうに承知であった。ヴィシャールは王子としてはあるまじき軽やかな口を持っている。
「殿下はワタクシのような豊満な女性がお好みなのですって」
数々の夜会でタリーシャは嘲りを受けた。
「身の程を知りなさい。たかが子爵令嬢に務まるほど、王妃の地位は易くはありません」
面と向かって高位貴族からたしなめられることもあった。
タリーシャは田舎領地で健やかに育った田舎令嬢だ。体も心も頑丈だ。しかし、連日の遠回しな、ときには直接的な批判は、タリーシャの心を蝕んだ。
タリーシャは泣き寝入りするほど淑やかな貴族ではない。普通の貴族女性では決してとらない手段にでた。
「陛下、お時間をください」
王妃教育の隙を縫って、直答の許されぬ至高の存在に、廊下で直訴したのだ。不敬で切られてもおかしくない。だが、陛下は一瞬止めた歩みをすぐ元に戻し、侍従がタリーシャについてくるよう促した。
「二人きりにしてくれ」
部屋に入ると陛下はそう言って人払いをすると、タリーシャの対面に座る。
「聞こう」
タリーシャは思いの丈を訴えた。礼儀はすっ飛ばし、とにかく婚約を解消してもらおうと必死だった。
「わたしには無理です……」
感極まってタリーシャは号泣した。ひどい顔だ。淑女が人前で見せるものではない。
陛下は宙をヒタと見すえると、おもむろに口を開いた。
「彼女に話してもよろしいでしょうか」
ヒラン 何もない空間から一枚の紙が落ちてきた。
『いいよ』と書いてある。
タリーシャは仰天した。涙と鼻水でズルズルの上に、目と口をパカっと広げたタリーシャはとてもアレな状態であったが、陛下は気にしていないようだ。
「そなたは神に選ばれたのだよ。ゆえに婚約を解消することはできぬ」
タリーシャは言葉が出てこなかった。陛下がそっと差し出してくれたハンカチで、涙と鼻水をふいた。
「歴代の王にだけ伝えられるのだ。次期王の妃は神によって定められる。そなたは神に選ばれた。ヴィシャールはそなたと婚姻を結ばぬ限り、王にはなれぬ」
「そんな、そんなことって……私はどうすれば」
捨て猫のような哀れなタリーシャであった。
「ヴィシャールにはよく言い聞かせておく。貴族にも話をしよう。国のため、覚悟を決めてはもらえぬか」
陛下のまっすぐな言葉は、タリーシャの心にしみた。
「分かりました。王妃教育を続けます。誰に何を言われようと負けません。でも、もし学園の卒業式までに殿下が婚約をやめたいとおっしゃった場合、白紙に戻していただけませんか?」
「約束しよう」
その約束は書面に記された。タリーシャの署名は既に書かれてある。タリーシャはその書類を肌身離さず大事に持ち歩いた。そして、ついに、約束の期限ギリギリで、今日、王子が、署名してくれたのだ。
「おっしゃーーーーー」
バサバサバサッと鳥が一斉に飛び立った。
馬車に繋がれた馬が竿立ちになる。
騒然となった会場外を、タリーシャは猛スピードで駆け抜けていった。清々しい笑顔であった。
タリーシャは毎日が充実している。生きてるって素晴らしい、自然とそう感じる。
堅苦しい王宮での王妃教育とはおさらばし、息の詰まる王都を離れ、生まれ育った領地に戻ってきたのだ。ここにはタリーシャの陰口をたたく者はいない。
「お嬢さま、おはようございます。子馬が生まれたんですよ。また見に来てくださいね」
「はーい」
「タリーシャお嬢さま、さっきとったリンゴです。どうぞ」
「ありがとう」
「タリーシャさま、今から釣りに行くんだけど、一緒に行きましょう」
「行く行く」
タリーシャと子供たちが川でわっしわっしと釣り上げていると、豪華な馬車が止まった。高そうな服を着た育ちのよさそうなお坊ちゃんが降りてきた。そういえば、父さまが客人が来るって言ってたっけ。きっと妹のタビサの婚約者候補だな。
タリーシャはニコニコしながら挨拶をする。
「ようこそいらっしゃいませ。タリーシャです。屋敷までご案内しますね」
「初めまして、ヴィクトールです。大きな魚ですね。タリーシャ様が釣られたのですか?」
「はい。これは煮込みにするとおいしいんですよ」
ヴィクトールはぜひ食べたいなどと、タリーシャが喜ぶところをグイグイついてくる。
この坊ちゃん、なかなかやりよる。いい義弟になりそうだ。タリーシャはホクホクした気分になった。
ヴィシャールとの婚約破棄騒動で、タリーシャは傷持ち令嬢である。結婚はとっくに諦めている。できれば妹が婿をとって、後を継いでほしい。そのためにも有能な婿がほしい。そうすれば自分はのんびり手助けするぐらいでいいではないか。
邪魔にならないようにひっそりするので、このまま屋敷の離れででも住み続けたいものだ。うっとうしい小姑と思われないようにしなくては。タリーシャは最大限の愛想を大盤振る舞いした。
ヴィクトールはその後も何度か領地を訪れる。タビサと三人で早駆けに行ったり、羊の毛刈りを手伝ったり。ヴィクトールは領地に溶け込む意欲がみなぎっているようだ。若いのに感心な坊ちゃんである。
タビサにこっそりヴィクトールをどう思うか聞いたところ、いい人なんじゃなーい、と気のない返事をされた。いかん、これでは二人の仲が進展しない。お姉さんとして二人を導かねばならん、タリーシャは決意を固めた。
祭りがあれば、タビサを着飾らせ、ヴィクトールと二人で行くようにすすめる。なぜか二人共タリーシャも一緒にと言って聞かないので、仕方なくなるべくおじゃま虫にならないよう離れて歩く。
今日は花を見に丘へ行きたいとヴィクトールが言うので、タビサの髪をかわいく結い上げた。丘は寒いかもしれないから、レースのショールもかけてあげる。
「いってらっしゃい。楽しんで来てね」
そう言って手を振ると、二人はため息をついてタリーシャを馬車に押し込む。なるほど、まだ若いから、二人きりでは間がもたないんだな。しょうがないから、お姉さんが盛り上げてあげよう。タリーシャは張り切った。馬車の中は笑い声が途切れず、ヴィクトールは涙をふきながら言った。
「ああ、こんなに笑って過ごせるのはここだけです。ずっといられたらいいのに」
ずっといてくれていいんですよ。タリーシャは心の中でつぶやいた。
そろそろか、きっと今日がプロポーズなんだな。いざそのときとなったら、あらゆる力を振り絞って、背景と同化する所存である。タリーシャは気合いを入れた。
丘に着いた。白い沈丁花が咲き誇り、甘い香りが漂っている。完璧である。まさに絶好の場所だ。
タリーシャは全精力を注いで、気配を消す。ん? タビサはどこに? ちょっ、あの子なんであんなに木と同化しちゃってんの。早く、こっちに、今すぐ。
タリーシャは強い念を送った。タビサはそっと木の後ろに隠れた。何やって、思わず声が出そうになったとき
「僕と結婚してください」
ヴィクトールが跪いた。
うむ。よいぞ、よきよき。タリーシャはニマニマしかけ、ふと気づいた。ヴィクトール、こっちちゃう、あっちあっちー。
タリーシャは小首をかしげる。何度もヴィクトールとタビサに視線を往復させる。首を振りすぎて痛くなってきた。
ヴィクトールはタリーシャの手を取った。
「僕の妻になってください、タリーシャ・オーデリンド。そして僕と共にこの国を導いてください」
「ええっ!」
ヴィクトール第二王子殿下とタリーシャ子爵令嬢の結婚式は、それは盛大なものであった。二人はよく話し合い、臣下や民の声に耳を傾け、善政を敷いた。
神託を気軽に使って先代の王にたしなめられていることは、侍従によって完璧に隠蔽されている。
<完>
「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。
呆気にとられているヴィシャール第一王子殿下に、常に身につけている婚約破棄合意書をささっと見せ、半ば強引に署名をさせた。
高らかに婚約破棄合意書を掲げるタリーシャに、陛下はもう一度「ああー」と言って頭を抱えた。
タリーシャ・オーデリンドは子爵令嬢である。領地は王都から馬車に揺られて一日ぐらいの場所に位置する、のどかな田舎だ。特筆すべき産業もなく、農業と牧畜が主な税収である。
そんなタリーシャがヴィシャール第一王子殿下の婚約者に選ばれたとき、タリーシャは「なんで?」と思った。おそらく国中の貴族も同じ思いだったであろう。
当然、貴族は荒れた。そしてヴィシャールは荒ぶった。千年の歴史を誇り、近隣諸国を圧倒するウダイヤール王国の、誉れ高き次期国王たる己には、もっとこう、なんかあるだろうと。例えば妖艶な美女が多いことで名高い、隣国サルマカーンの王女とか。生つばゴックンの色気を振りまいているらしいぞ。
もしくは海洋国エリゼンタールの勇ましき王女とか。ほぼ裸体に近い服装でイルカを乗り回していると聞く。引き締まってしなやか、かつ出るとこ出てると評判だ。
ヴィシャールは思春期の男である。分かりやすい色気に弱いのだ。今ヴィシャールが夢中になっているユジャーレ侯爵令嬢は、全体的にまろみを帯びたいい感じのむっちり度合いである。柔らかそうだな、埋もれてみたいな、そんな魅力がある。
それに引き換えタリーシャときたらどうだ。化粧とドレスを取っ払ったら、そのまま男子寮にぶち込めるぐらいの少年感である。なんか固そうだな、そんな失礼なことを考えている王子である。
そんなヴィシャールの思惑などタリーシャはとうに承知であった。ヴィシャールは王子としてはあるまじき軽やかな口を持っている。
「殿下はワタクシのような豊満な女性がお好みなのですって」
数々の夜会でタリーシャは嘲りを受けた。
「身の程を知りなさい。たかが子爵令嬢に務まるほど、王妃の地位は易くはありません」
面と向かって高位貴族からたしなめられることもあった。
タリーシャは田舎領地で健やかに育った田舎令嬢だ。体も心も頑丈だ。しかし、連日の遠回しな、ときには直接的な批判は、タリーシャの心を蝕んだ。
タリーシャは泣き寝入りするほど淑やかな貴族ではない。普通の貴族女性では決してとらない手段にでた。
「陛下、お時間をください」
王妃教育の隙を縫って、直答の許されぬ至高の存在に、廊下で直訴したのだ。不敬で切られてもおかしくない。だが、陛下は一瞬止めた歩みをすぐ元に戻し、侍従がタリーシャについてくるよう促した。
「二人きりにしてくれ」
部屋に入ると陛下はそう言って人払いをすると、タリーシャの対面に座る。
「聞こう」
タリーシャは思いの丈を訴えた。礼儀はすっ飛ばし、とにかく婚約を解消してもらおうと必死だった。
「わたしには無理です……」
感極まってタリーシャは号泣した。ひどい顔だ。淑女が人前で見せるものではない。
陛下は宙をヒタと見すえると、おもむろに口を開いた。
「彼女に話してもよろしいでしょうか」
ヒラン 何もない空間から一枚の紙が落ちてきた。
『いいよ』と書いてある。
タリーシャは仰天した。涙と鼻水でズルズルの上に、目と口をパカっと広げたタリーシャはとてもアレな状態であったが、陛下は気にしていないようだ。
「そなたは神に選ばれたのだよ。ゆえに婚約を解消することはできぬ」
タリーシャは言葉が出てこなかった。陛下がそっと差し出してくれたハンカチで、涙と鼻水をふいた。
「歴代の王にだけ伝えられるのだ。次期王の妃は神によって定められる。そなたは神に選ばれた。ヴィシャールはそなたと婚姻を結ばぬ限り、王にはなれぬ」
「そんな、そんなことって……私はどうすれば」
捨て猫のような哀れなタリーシャであった。
「ヴィシャールにはよく言い聞かせておく。貴族にも話をしよう。国のため、覚悟を決めてはもらえぬか」
陛下のまっすぐな言葉は、タリーシャの心にしみた。
「分かりました。王妃教育を続けます。誰に何を言われようと負けません。でも、もし学園の卒業式までに殿下が婚約をやめたいとおっしゃった場合、白紙に戻していただけませんか?」
「約束しよう」
その約束は書面に記された。タリーシャの署名は既に書かれてある。タリーシャはその書類を肌身離さず大事に持ち歩いた。そして、ついに、約束の期限ギリギリで、今日、王子が、署名してくれたのだ。
「おっしゃーーーーー」
バサバサバサッと鳥が一斉に飛び立った。
馬車に繋がれた馬が竿立ちになる。
騒然となった会場外を、タリーシャは猛スピードで駆け抜けていった。清々しい笑顔であった。
タリーシャは毎日が充実している。生きてるって素晴らしい、自然とそう感じる。
堅苦しい王宮での王妃教育とはおさらばし、息の詰まる王都を離れ、生まれ育った領地に戻ってきたのだ。ここにはタリーシャの陰口をたたく者はいない。
「お嬢さま、おはようございます。子馬が生まれたんですよ。また見に来てくださいね」
「はーい」
「タリーシャお嬢さま、さっきとったリンゴです。どうぞ」
「ありがとう」
「タリーシャさま、今から釣りに行くんだけど、一緒に行きましょう」
「行く行く」
タリーシャと子供たちが川でわっしわっしと釣り上げていると、豪華な馬車が止まった。高そうな服を着た育ちのよさそうなお坊ちゃんが降りてきた。そういえば、父さまが客人が来るって言ってたっけ。きっと妹のタビサの婚約者候補だな。
タリーシャはニコニコしながら挨拶をする。
「ようこそいらっしゃいませ。タリーシャです。屋敷までご案内しますね」
「初めまして、ヴィクトールです。大きな魚ですね。タリーシャ様が釣られたのですか?」
「はい。これは煮込みにするとおいしいんですよ」
ヴィクトールはぜひ食べたいなどと、タリーシャが喜ぶところをグイグイついてくる。
この坊ちゃん、なかなかやりよる。いい義弟になりそうだ。タリーシャはホクホクした気分になった。
ヴィシャールとの婚約破棄騒動で、タリーシャは傷持ち令嬢である。結婚はとっくに諦めている。できれば妹が婿をとって、後を継いでほしい。そのためにも有能な婿がほしい。そうすれば自分はのんびり手助けするぐらいでいいではないか。
邪魔にならないようにひっそりするので、このまま屋敷の離れででも住み続けたいものだ。うっとうしい小姑と思われないようにしなくては。タリーシャは最大限の愛想を大盤振る舞いした。
ヴィクトールはその後も何度か領地を訪れる。タビサと三人で早駆けに行ったり、羊の毛刈りを手伝ったり。ヴィクトールは領地に溶け込む意欲がみなぎっているようだ。若いのに感心な坊ちゃんである。
タビサにこっそりヴィクトールをどう思うか聞いたところ、いい人なんじゃなーい、と気のない返事をされた。いかん、これでは二人の仲が進展しない。お姉さんとして二人を導かねばならん、タリーシャは決意を固めた。
祭りがあれば、タビサを着飾らせ、ヴィクトールと二人で行くようにすすめる。なぜか二人共タリーシャも一緒にと言って聞かないので、仕方なくなるべくおじゃま虫にならないよう離れて歩く。
今日は花を見に丘へ行きたいとヴィクトールが言うので、タビサの髪をかわいく結い上げた。丘は寒いかもしれないから、レースのショールもかけてあげる。
「いってらっしゃい。楽しんで来てね」
そう言って手を振ると、二人はため息をついてタリーシャを馬車に押し込む。なるほど、まだ若いから、二人きりでは間がもたないんだな。しょうがないから、お姉さんが盛り上げてあげよう。タリーシャは張り切った。馬車の中は笑い声が途切れず、ヴィクトールは涙をふきながら言った。
「ああ、こんなに笑って過ごせるのはここだけです。ずっといられたらいいのに」
ずっといてくれていいんですよ。タリーシャは心の中でつぶやいた。
そろそろか、きっと今日がプロポーズなんだな。いざそのときとなったら、あらゆる力を振り絞って、背景と同化する所存である。タリーシャは気合いを入れた。
丘に着いた。白い沈丁花が咲き誇り、甘い香りが漂っている。完璧である。まさに絶好の場所だ。
タリーシャは全精力を注いで、気配を消す。ん? タビサはどこに? ちょっ、あの子なんであんなに木と同化しちゃってんの。早く、こっちに、今すぐ。
タリーシャは強い念を送った。タビサはそっと木の後ろに隠れた。何やって、思わず声が出そうになったとき
「僕と結婚してください」
ヴィクトールが跪いた。
うむ。よいぞ、よきよき。タリーシャはニマニマしかけ、ふと気づいた。ヴィクトール、こっちちゃう、あっちあっちー。
タリーシャは小首をかしげる。何度もヴィクトールとタビサに視線を往復させる。首を振りすぎて痛くなってきた。
ヴィクトールはタリーシャの手を取った。
「僕の妻になってください、タリーシャ・オーデリンド。そして僕と共にこの国を導いてください」
「ええっ!」
ヴィクトール第二王子殿下とタリーシャ子爵令嬢の結婚式は、それは盛大なものであった。二人はよく話し合い、臣下や民の声に耳を傾け、善政を敷いた。
神託を気軽に使って先代の王にたしなめられていることは、侍従によって完璧に隠蔽されている。
<完>
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