わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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第五王子への餌づけ疑い 5

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 三の宮に飛び込んできた若い青年の声。
 周囲は騒然となり、床の上でうずくまっていたロアナは、思わず身を縮める。

(な……に……?)

 と、いつの間にか、側妃の侍女が短鞭を振り下ろすのをやめている。
 不思議に思ったロアナがよろよろと顔を上げると、誰かが傍らにひざをついたところだった。

「ロアナ!」

 心配そうに眉間をよせた青年は、走ってここに駆けつけたのか肩で息をしている。

(──え……?)

 その顔を、ロアナは戸惑いと共に見つめた。

 色白で、頭髪は明るく軽やかなブロンド。
 二重で目が大きく、虹彩は鮮やかなオレンジ色ではつらつとした印象を受けた。
 一方で鼻筋のとおった小顔は肌が際立って美しく、とても可愛らしい。容姿はまだ少年と青年の境というふうだが、身長はすっと高く、かがんでいても、彼のスタイルのよさははっきりとわかった。
 
 その青年を見たロアナは、まずはポカンと口を開けて目を奪われた。
 なんてきれいな人だろう、と、思って。痛みをこらえてずっとかたく目を閉じていたせいもあってか……その姿は、まるで天使のように光り輝いているようにみえた。
 ロアナは一瞬、自分がたった今まで鞭で打たれていたことすら忘れそうになる。

「ロアナ大丈夫⁉」

 心配そうで、悲しそうな声。
 ただ、名を呼んでくれているからには、知り合いに違いない、と思ったが。なぜか、その目の覚めるような美貌の青年には、ロアナはまったく心当たりがなかった。

(ど、なた……? あ、ら……でもいま、この方……『お母様』っておっしゃっ、た……?)

 それではまさか……と、息を呑んでいると。
 瞳を丸くしたロアナの隣で、彼女の背中を見た青年がキッと側妃を睨みつける。

「お母様! なぜこんな……なんてことをするの!」

 怒鳴られた側妃リオニーは、しかしなんでもないことのように平然と片方の眉を持ちあげる。

「あらフォンジー。どうしてここに? 今はお勉強の時間でしょう?」

 怪訝そうに首をかしげたものの、息子の顔を見たとたん、その表情は甘くゆるむ。
 けれどもフォンジーは、そんな母親を強くなじった。

「やめてよお母様! ロアナはなにも悪くないんだから! 彼女のお菓子を勝手に食べていたのは僕だよ! なんでロアナが罰を受けないといけないの⁉」

 だが、側妃リオニーは、「まあまあ、なにをいっているの」と、手にした扇を顔の前で振りあおぐ。

「食事制限でつらい思いをしているあなたの行く先に、よりによって甘い菓子を放置していたその者がもちろん悪いに決まっているわ。フォンジー? これはね、イアンガードの策略なのよ」

 側妃リオニーは子供をあやすような口調でそういった。

 ……むろん、王子が通りかかりそうなところ……といっても。現場はフォンジーとは関係のない宮で、しかも使用人用の区画。
 だが、それがわかっていても側妃にとっては下々が悪いのだ。

「フォンジー? いいこと? この者たちはね、みな、わたしたち王族がここちよく生きるために、ここに存在しているの。それができぬものは、罰せられて当然なのよ。大丈夫、あなたを害するものは、侍女だろうとイアンガードだろうと、このわたしが全員始末して──」

 やるわ、と、側妃が自信満々にいいきろうとしたとき。
 その甘い毒のような言葉を、フォンジーが笑顔でぶった切った。

「……はあ?」
 「「⁉」」

 その瞬間。
 低くドスのきいた声を聞いて、室内にいた誰もがギクリと身を凍らせた。
 第五王子フォンジーの麗しい顔に……悪魔が降臨している。

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