わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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第三王子の無自覚 1

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 淡々と長い廊下を歩く青年は、真顔で考えていた。
 その目は、暗い廊下の奥を真っすぐに見据えている。

(……、……、……俺は……どうしていつもこうなんだ……?)

 彼にはそれがまったくわからない。

(俺はただ……ロアナが心配で二の宮にかけつけただけだったはず……)
(それなのに……どうして、俺は、彼女にいたわりの言葉もかけず……フォンジーと睨み合うような事態になったのだろう……)

 一人難しい顔で首をひねるのは、第三王子ウルツ。
 疑問を抱えて歩く青年の眉間には、深いしわが。

 国王に弟を探すように命じられていたは本当のことだった。
 しかし、その途中、侍従から二の宮と三の宮で起こった騒動を聞いて、内心すっかり慌ててしまった彼がそのことを思い出したのは、じつはあそこでフォンジーの顔を見てのこと。
 
 と、青年はふと、そのフォンジーと共にいたロアナが、自分を唖然と見ていたことを思い出す。

(それに……なぜかロアナが俺に怯えていたような気がする……)

「?」

 実は彼は、自分があの場で相当いかめしい顔をしていたことに、まったく自覚がなかった。
 ただウルツは、ロアナのぐったりした様子が気の毒で、側妃リオニーの横暴にとても腹を立てていた。どうやらそれが、あまりよくない形でにじみでていたらしいが、彼はそのことには気がついていない。

 ウルツは一連のことを不思議に思いつつも、みだれることのない歩調で廊下を進み──と。

「⁉」

 その足が、不意にぴたりと止まる。
 廊下の途中ではたと足を止めた青年は、愕然と己の手を見下ろした。
 ずっと握りしめていた手を持ち上げて開くと、そこには深緑色の小さな小瓶。
 ウルツの双眸が、カッと見開かれる。

(…………………………渡し忘れた……)

 途端、珍しいことに、ウルツの瞳にしょんぼりした哀愁がにじむ。

 それは、彼がロアナに渡そうと思ってもってきた回復薬であった。
 隣国産の非常に効果の高い魔法薬で、彼女が傷ついたと聞いて、慌てて自室の奥から引っ張り出してきたのに。うっかり──渡すのを忘れていた。

「………………」

 ウルツは無言で消沈。
 あの時は、つい、ロアナとフォンジーの親しそうな様子に驚いてしまって……。

 しかし視線を廊下の先にやると、もうそこは母の書斎。廊下にいた取り次ぎの者が彼に気づき、先んじてもう中へ入っていってしまった。……きっと、いつも忙しくせかせかしているウルツに気を使ってくれたのだろう。
 だが、これではもう談話室に引き返すことはできない。
 青年はひそやかなため息を一つ。

(………………あとで侍女頭に届けさせるか…………)

 
 そうして若干気落ちしたままのウルツが、書斎へ入室すると。
 最奥にある大きな机の向こう側には、長い銀髪の貴婦人が。
 その婦人は不思議な雰囲気をまとった女性で、ゆったりと構えた姿はまるで大らかな天女のようでもあるが、油断ならぬ魔女のようでもあった。
 その机のかたわらには、侍女頭の姿もあった。
 
 と、側妃イアンガードは、やってきた息子に苦笑。

「ご挨拶申し上げます母上」
「……ウルツ、そち、なんだその顔は」

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