わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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第三王子の無自覚 2

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「? なにがでございましょうか」

 ウルツは怪訝に答えたが、母は片方の眉を持ち上げてじっと息子を見る。
 自分と同じ色の、底知れぬ瞳に食い入るように見つめられて、ウルツはいやそうに目を細める。

「母上、魔法で心を読むのはおやめください」

 彼の母、側妃イアンガードは、もとは魔法研究に熱心な隣国の出身。
 輿入れ前は自身も魔法研究に勤しんでいたという経歴の持ち主で、当代一の才女と謳われた。
 彼も母から手解きを受け、魔法の才能は高いほうではあるものの、母のように人の心を読むまでの力はなかった。
 イアンガードは、息子であるウルツですら、なにを考えているのかいまいち理解できぬ人物。
 魔法での探りを拒絶するように、不快を顔に露わにすると。目を細めてじっとウルツを見ていた側妃は、息子の煙たそうな顔を笑った。

「そのようなこと、魔法なぞ使わずともわかる。まったく……その不機嫌そうな顔をおやめ」
「わたしはいつもこの顔です。機嫌で顔色が変わるほど青くはありません」
「ほう、ほう、ほう。よういうわ」

 母には愉快そうにころころと笑われたが、ウルツには、本当に自分が不愉快そうだという自覚はまったくない。
 笑い続ける母に、憮然という。

「わたしの機嫌などどうでもよいことです。それよりも、こたびの側妃の件、いかがなさるおつもりですか?」

 すると母は、また笑う。ただ、今度は顔に呆れが滲んでいた。

「“殿下”と呼べ、“殿下”と。あれでもそちの父の妃ぞ」
「そのように敬って呼ぶに値しません」

 たしなめられて、しかしきっぱりいい捨てた息子に、母イアンガードは苦い顔。

「やれやれ……リオニーも横暴だが、そちはそちで融通が利かん。それで? そちはどう処理するのがふさわしいと?」
「そうですね……感情でいわせていただけるのなら、今すぐ陛下に上奏してこの国から追放してやりたいです」
「……ほう、感情とな?」

 まった無感情という口調で『感情』などといわれた母は愉快でならない。
 しかしウルツは、母の反応などまったく無視して淡々と続ける。

「不当な理由を原因とした、誘拐に私刑。国王の側妃として許されることではありません。品位に欠けるおこないです」

 いいながら、ウルツの心は怒りに燃えていた。そのせいで、傷つけられた者がいる。
 それが誰であれ彼は許せないが、よりにもよって、それがなのである。
 さきほど使用人用の談話室で見た、身がつらそうな姿を思い出したウルツはいっそう怒りがこみあげてくる。

 ──が。

 彼の場合、それは表情には現れない。
 特に、この人の心さえ読む母の前では、彼の感情はよけいに身のうちだけに収められる。

 だが、そんな息子の不器用さを見透かすようなまなざしで眺めている母は、フッと笑う。

「しかし──そちはもうすでに側妃のところに乗りこんで、さんざん文句を並べ立ててきたあとだそうだな?」

 イアンガードの調べによると、フォンジーがロアナを連れ帰ったあと、三の宮には、すぐに第三王子……つまり彼女の息子ウルツが、大勢の手勢をつれて乗りこんでいった。
 まあ、もちろん相手は父親の妃の一人。直接的な手出しはしていないだろうが、おそらく彼女の息子のこと。側妃に対する苦情と、嫌みと、脅しは大嵐のように激しかったに違いない。
 自分の息子に正論でひどくやりこめられるリオニーを想像すると、イアンガードは愉快でならない。
 ちなみにウルツが連れて行った大勢の手勢たちは、現在も三の宮を取り囲んだままである。皆、なかなか屈強な武人揃い。三の宮はさぞ困っているに違いない。
 それを証明するように、彼女のもとには、リオニーからの『あんたの息子は、いったいどういうつもりだ⁉』という感情的な苦情文がもうすでに届いている。
 イアンガードはコロコロと笑った。
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