わたしの正体不明の甘党文通相手が、全員溺愛王子様だった件

あきのみどり

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兄弟たちの衝突 1

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 驚愕に見開かれた瞳の中には、夜闇に浮かぶ金の王冠。
 そのまわりを取り囲む虹彩には、濃い群青色と澄んだ水のような薄い青の波が見えた。
 それは煌めいていて、とても神秘的で。まるで星空みたいだわとロアナは思った。

「……、……大丈夫か?」

 つい魅入られ惚れ惚れとしていると、ふいにごく間近から声が聞こえた。
 不安をにじませて、こちらを探るように押し殺した声に、ロアナはハッとする。

「……ぇ……?」

 思わずかすれた声が出た。
 ロアナの目の焦点が、その瞳から瞳の持ち主の顔に合わせられると、彼女の思考はたちまち止まる。

 ……第三王子、ウルツ殿下。 

 それを改めて認識した瞬間ロアナの頭に雪崩れこんできたのは、さまざまな言葉たち。

『王家の方々は、我々とは違う重責をになっておいでなのです!』『わずわらせるなど言語道断!』『命もなくみだりにそばに近づいてはなりません!』『影も踏まぬように気をつけなさい!』『ご尊顔をじろじろ見ては不敬です!』

 脳裏を駆け巡る、上役たちの厳しき教え。
 それらを走馬灯のように一気に思い出したロアナは、現状のありさまに血の気が引いた。

 間近にある第三王子の顔。
 背中に感じるがっちりと受け止められた感触と、あたたかさ……。
 
 ここで、ロアナの精神に、一拍の静寂。

「……、……、……」
「ロアナ?」

 ハッとしたような顔をしたかと思ったら、急に身を凍らせた娘にウルツは不安。
 しかし次の瞬間、彼の腕の中で気が遠くなったような表情をしていた娘が、喉の奥から絞り出すように、ひゃーっっっ! と、なんとも悲壮感に満ちた悲鳴を上げた。

「⁉」

 これには心配(をしているが、つたわりにくい)顔で彼女を見ていたウルツも唖然。

「申し訳ありません! 申し訳ありません殿下‼」
「⁉」

 そして、ウルツはさらに困惑を重ねる。
 自分の腕から慌てて離れて行った娘は、その場で平伏し、一心に謝罪を叫んでいる。

 ……正直、このときロアナはまだ、作業台のほうにつっこんでいったはずの自分が、なぜウルツに抱き留められるような事態になったのかがよくわかっていなかった。
 しかし、とにかく自分が“王族”という聖域を侵したのだけは確か。
 
「お、おい……?」
「そ、そ、粗忽者なるわたくしめを、どうかお許しください殿下!」

 震える声で懇願され、ウルツは困惑。どうやら顔を伏せた下で、ロアナは涙ぐんでいるようだった。
 これには青年は焦ったが、しかし聡い彼はすぐに彼女が怯えている理由を理解する。

(……ああ、俺が抱き留めたことを気にしているのか……?)

 しかしそれは彼が魔法を使ったがゆえ。もちろん彼はロアナにケガをしてほしくはなかったし、せっかく作ったクッキー生地につっこんで、台無しにしてしまったと嘆き悲しんでほしくもなかった。
 それに、柔らかく調整した魔法で彼女が跳ね返ってくることは想定していたことであるし、当然受け止める気でいた。
 ゆえに青年は、床の上にへばりついた娘に『そんなことはするな』と伝えようと身をかがめ、その肩に手を伸ばした、が……。

「っ兄上!」
「!」

 そこに誰かの鋭い声が飛び込んできた。

 その声には、厳しい制止のニュアンスがにじんでいた。怪訝な思いでウルツが振り返ると、そこには先ほど帰ったはずの弟フォンジーの姿。

「……フォンジー?」

 ウルツの片方の眉が不可解そうに持ち上がる。
 ……が、厨房の入口に現れた弟は、なぜか全身に怒りをみなぎらせていた。
 明るく温厚なはずの弟の、見たこともないほどに殺気立ったようすを見て、ウルツは一瞬唖然としてしまった……。
 
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