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二章
12 ミリヤム、ローラントに唆される
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捕まえて風呂場に連行できた少年隊士達は17名。まず脱衣所前でブラシをかけた順に風呂場に送り入れ、一番綺麗そうだったエメリヒを最初に洗った。毛に石鹸をこすり付けて湯を頭からかける作業を延々繰り返し、ミリヤムは最後の大物のところへ足を向ける。
「さあ最後は坊ちゃんですよ!」
と、叫んで石鹸を掲げるミリヤムの前にちょんと座るのは勿論ローラントだ。ローラントは残念そうにため息をつく。
「あーあ、せっかく記録更新中だったのに……」
「……どうして少年様達はそういう意味の不明な記録樹立に熱心でいらっしゃるんでしょうねえ……はーミリにはちっとも分りません」
「大人はそう言ってすぐ子供の挑戦をはばむよね……ミリーこれも僕らが大人になるのに必要な階段だよ」
「はー……無入浴期間更新記録がですか……」
ちっとも悪びれる様子の無いローラントにミリヤムもため息をついた。
「まあわたくしめは坊ちゃん達に蚤をつけるわけにも、皮膚病にするわけにもいきませんのでしっかりその記録は阻ませていただきますよ、まったく……」
疲れたようなミリヤムにローラントは「ちょっとくらい平気なのに」と笑った。そうしてミリヤムが彼に湯をかけようとすると、彼はきゅろんと愛らしい表情でミリヤムを見上げた。その表情にミリヤムは思わず手桶を持った手を止める。ミリヤムは思った。ローラント坊ちゃんが何かを企んでいる……!
ミリヤムはいぶかしむ様な半眼でローラントを見る。
「……なんですかローラント坊ちゃん。ミリには分ってますよ、坊ちゃんがそういうお顔をなさる時は大抵よからぬことをお考えでしょう……」
「そんなあ、ミリーったら失礼だなあ、うふふ。……そんなことよりさーミリー、僕達なんか洗ってないでヴォルデマー様のお背中でも流して来ればいいのにー」
「!?」
笑いながら言われた台詞にミリヤムの手の内から石鹸がすぽーんと抜けて飛んで行った。それは遠くの湯船で遊んでいた少年隊士の一人に当たって、浴場内に爆笑が沸き起こる。
「せせせ、せなせせせ!? ヴォル、ヴォルデマー様の……!?」
慌てふためくミリヤムにローラントは殊勝な様子で言い募る。
「僕……ミリーとヴォルデマー様の事応援してるからさ……本当は兄上にして僕の義姉になってくれるのが良かったんだけど、まあヴォルデマー様でもいいや! ほら、石鹸持って行って来なよ!」
「いや無理ですから!?」
別の石鹸をローラントに握らされたミリヤムは動揺してあわあわ言っている。
「男性のご入浴中のお風呂に進入できるわけがないでしょう!?」
「え?」
「え?」
「え?」……
ミリヤムの叫びに入浴場にいた少年隊士達が皆顔を上げて微妙な顔をして振り向いた。が、ミリヤムはその突っ込みたそうに集中した視線に気がつかなかった。ミリヤムは真っ赤な顔で頭を抱えている。
「無理です!! 一万歩譲っても、もうヴォルデマー様だけは無理!!」
「なんで? 最近ヴォルデマー様またお忙しそうだよ? ゆっくり身体洗えてないんじゃない?」
「う……」
ローラントはのっしりミリヤムにすごむ。
「ヴォルデマー様が皮膚病になってもいいの……? ノミにやられたらどうする?」
「い、嫌だ……!」
「ミリーだってヴォルデマー様をふんわふんわにしたいでしょう?」
「ううう……し、したい……!」
「ヴォルデマー様喜ぶと思うなあ……ミリーだってヴォルデマー様喜ばせたいよね?」
「うっ……少年隊士様の純粋そうな目の輝きが心に刺さる……! た、確かに……!」
「怪我した時はヴォルデマー様に助けてもらったんでしょ? 仕事復帰できたのもヴォルデマー様のお陰だよ? ちゃんとお礼しなきゃー」
「お、お礼……そうかお礼……」
「お陰さまでこんなにちゃんと仕事が出来るようになりました、ってお見せしておいで! ほらほら!」
「は、はい!!」
にこにこしたローラントにドンと背中を押され、ミリヤムは思わず駆け出した。ミリヤムはあわあわ言いながら、途中にあった石鹸や桶を拾い、入浴場を飛び出して行く。
「いってらっしゃーい」
ローラントは手をひらひら振ってそれを見送った。──と、そんなローラントにエメリヒが困ったような顔で近づいて行く。
「……ローラントったら……うまい事言ってミリーさんを追い払うんだから……ミリーさんその気になっちゃったじゃないか……」
友の言葉にローラントは悪い顔で「ぐふふ」と笑う。
「ぎりぎりセーフ……これで新記録間違いなし!」
「……ローラント……洗いなよ……」
汚いよ……と、エメリヒはげっそり呟くのだった。
「さあ最後は坊ちゃんですよ!」
と、叫んで石鹸を掲げるミリヤムの前にちょんと座るのは勿論ローラントだ。ローラントは残念そうにため息をつく。
「あーあ、せっかく記録更新中だったのに……」
「……どうして少年様達はそういう意味の不明な記録樹立に熱心でいらっしゃるんでしょうねえ……はーミリにはちっとも分りません」
「大人はそう言ってすぐ子供の挑戦をはばむよね……ミリーこれも僕らが大人になるのに必要な階段だよ」
「はー……無入浴期間更新記録がですか……」
ちっとも悪びれる様子の無いローラントにミリヤムもため息をついた。
「まあわたくしめは坊ちゃん達に蚤をつけるわけにも、皮膚病にするわけにもいきませんのでしっかりその記録は阻ませていただきますよ、まったく……」
疲れたようなミリヤムにローラントは「ちょっとくらい平気なのに」と笑った。そうしてミリヤムが彼に湯をかけようとすると、彼はきゅろんと愛らしい表情でミリヤムを見上げた。その表情にミリヤムは思わず手桶を持った手を止める。ミリヤムは思った。ローラント坊ちゃんが何かを企んでいる……!
ミリヤムはいぶかしむ様な半眼でローラントを見る。
「……なんですかローラント坊ちゃん。ミリには分ってますよ、坊ちゃんがそういうお顔をなさる時は大抵よからぬことをお考えでしょう……」
「そんなあ、ミリーったら失礼だなあ、うふふ。……そんなことよりさーミリー、僕達なんか洗ってないでヴォルデマー様のお背中でも流して来ればいいのにー」
「!?」
笑いながら言われた台詞にミリヤムの手の内から石鹸がすぽーんと抜けて飛んで行った。それは遠くの湯船で遊んでいた少年隊士の一人に当たって、浴場内に爆笑が沸き起こる。
「せせせ、せなせせせ!? ヴォル、ヴォルデマー様の……!?」
慌てふためくミリヤムにローラントは殊勝な様子で言い募る。
「僕……ミリーとヴォルデマー様の事応援してるからさ……本当は兄上にして僕の義姉になってくれるのが良かったんだけど、まあヴォルデマー様でもいいや! ほら、石鹸持って行って来なよ!」
「いや無理ですから!?」
別の石鹸をローラントに握らされたミリヤムは動揺してあわあわ言っている。
「男性のご入浴中のお風呂に進入できるわけがないでしょう!?」
「え?」
「え?」
「え?」……
ミリヤムの叫びに入浴場にいた少年隊士達が皆顔を上げて微妙な顔をして振り向いた。が、ミリヤムはその突っ込みたそうに集中した視線に気がつかなかった。ミリヤムは真っ赤な顔で頭を抱えている。
「無理です!! 一万歩譲っても、もうヴォルデマー様だけは無理!!」
「なんで? 最近ヴォルデマー様またお忙しそうだよ? ゆっくり身体洗えてないんじゃない?」
「う……」
ローラントはのっしりミリヤムにすごむ。
「ヴォルデマー様が皮膚病になってもいいの……? ノミにやられたらどうする?」
「い、嫌だ……!」
「ミリーだってヴォルデマー様をふんわふんわにしたいでしょう?」
「ううう……し、したい……!」
「ヴォルデマー様喜ぶと思うなあ……ミリーだってヴォルデマー様喜ばせたいよね?」
「うっ……少年隊士様の純粋そうな目の輝きが心に刺さる……! た、確かに……!」
「怪我した時はヴォルデマー様に助けてもらったんでしょ? 仕事復帰できたのもヴォルデマー様のお陰だよ? ちゃんとお礼しなきゃー」
「お、お礼……そうかお礼……」
「お陰さまでこんなにちゃんと仕事が出来るようになりました、ってお見せしておいで! ほらほら!」
「は、はい!!」
にこにこしたローラントにドンと背中を押され、ミリヤムは思わず駆け出した。ミリヤムはあわあわ言いながら、途中にあった石鹸や桶を拾い、入浴場を飛び出して行く。
「いってらっしゃーい」
ローラントは手をひらひら振ってそれを見送った。──と、そんなローラントにエメリヒが困ったような顔で近づいて行く。
「……ローラントったら……うまい事言ってミリーさんを追い払うんだから……ミリーさんその気になっちゃったじゃないか……」
友の言葉にローラントは悪い顔で「ぐふふ」と笑う。
「ぎりぎりセーフ……これで新記録間違いなし!」
「……ローラント……洗いなよ……」
汚いよ……と、エメリヒはげっそり呟くのだった。
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