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172 まさかの阻止
しおりを挟むグステルの予定では、明日は決戦の日だったのである。
彼女がヘルムートに愛をささやかれた日から数日。
実家との手紙でのやり取りを経て。苦しい思いをしているだろうラーラのためにも、いよいよ叔母と直接交渉し、すべての悪事の引き際を徹底的に突きつける。
交渉決裂の可能性はあまり考えなかった。
持ち前のしぶとさを大いに発揮して、叔母には絶対に王都からの撤退を了承させるつもりでいた。
万が一その日に決着がつかなければ、領都に連行コースで延長戦。
無理やりにでも叔母たちを領都に帰還させて、父の健在とアルマンの失脚を目の当たりにさせる。
そこまですれば、さすがの叔母も観念するだろうという算段だった。
ただ、エルシャについては、彼女の“グステル・メントライン”の偽物としての立場を取り上げるか否かの判断はまだ検討中。
だが、とにかく彼女を一度、王太子から引き離すべきだという結論にいたった。
そこで王太子がどれだけエルシャに執着を見せるかによって、また事態は変わってきてしまうのである。
もし、そこで王太子が正ヒロインラーラを置いてでも、メントライン家にエルシャを追ってくるほどの気持ちを持っているのならば、グステルたちはまた非常に厄介な立場に陥ることになる、と、思っていた、の……だが…………。
グステルは、焦る気持ちを隠して苦く笑う。
「……まさか、こうなろうとは……」
……結論から言えば、交渉はテーブルにつく前にくつがえされた。
なぜならば。
まさに“まさか”の方向から、彼女たちの作戦を阻止する者が現れたからである。
それは決戦の日と定めたその日の前夜のことだった。
グステルたちが拠点とするその家を、突然見知らぬ男たちが訪れた。
はじめはフリードがつけてくれた護衛がその対応に出たが、彼はすぐに拘束されてしまう。
……仕方がなかった。
相手はかなりの手練れの上、多勢だったのである。
そうして家はすぐに制圧されて、グステルは、彼らにあっという間に連行されてしまった。
唯一幸いなのは、もうすでに夜更けで、早寝のイザベルが寝ていたこと。(※グステルがお子様の遅寝を許さない)
男たちは静寂のなか、速やかにグステルを捕捉した。イザベルはおそらく彼らの訪問には気がついていない。
グステルは、悲壮な顔をしている双子の婦人たちに彼女とユキのことを頼んで、大人しく男たちに従った。
どう考えても、その場にいたグステルたちの手勢では、太刀打ちのできぬ相手と判断してのことだった。
夜の街を、統率のとれた隊列で進む男達。彼らについて歩きながら、グステルは思わず皮肉な笑いをうかべてしまう。
先ほどまでは、混乱で彼らの姿もよく観察できていなかったが。こうして月明かりのもと眺めてみると、どうしても呆れが沸き上がるのだ。
「あらぁ……まあ……なんてことかしら。騎士様がいっぱぁい……」
そう、彼らは騎士だった。それも、王国の騎士である。
武装した男たちが物々しく進んでいく姿は、遠くから眺めているだけならば、なかなか壮観。だが、笑っている場合ではなかった。
なぜならば、彼らを遣わしたものとして思い浮かぶのは、どう考えたって王太子。
グステルは、ため息。
騎士たちの手前平静を装おっているが。まさに、(マジか……)という心持ち。
(……以前お兄様に『国家権力なめすぎでは?』って言ったけど。まさに、私もそうだったのねぇ……)
いや、そうではない。
グステルとしては、こんな事態になるとはまったく予想外のこと。
確かに彼女は先日王太子と再会し、彼の前から逃亡したが。
しかし、かの正ヒーローが、ここまで本腰をいれまくって自分を探し出そうとするなんて、思ってもみなかったのである。
再会したとき彼女は、ただの無礼ないち領民。
彼がそこまでの価値を自分に見出すはずがないのである。
(ほんと……もう、なんで?)
もし可能性があるとするなら、王太子が、グステル同様、何か運命的なものでも感じた場合。
だが、その場合にしても、グステルは悪役令嬢という存在なわけで。なんなら運命的な嫌悪感のあまり、憎まれ、避けられるだろう……くらいに思っていた。
と、そこまで考えたグステルはゾッとする。
(え……つまり……これは、探し出して消してやろうとか……そんなアレ?)
そう考えると、先日の恐怖を思い出し怖くなる。
そもそも、この連なるような騎士の数だ。
とても、単に王太子に無礼を働いた庶民を捕らえようというような代物には思えなかった。なにやらとても執念めいたものを感じ、グステルはうすら寒いものを感じてしまった。
(……ヘルムート様……)
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