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後日談
6ー2 デスマッチ開催
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──結果。
「それで──城下の鍛冶屋に迷惑をかけたのだな……? ギズルフと共に」
「えっとぉ……」
静かな眼差しで事実確認をしてやると、彼の妻は視線を上に向け、あちらこちらの天井をきょときょとと見ながら、両手の指を所在なさげに動かした。
そんな彼女の両側面には、人族の顔に彼と同じ獣の耳を持った幼い息子たちが、母の足を一本ずつ抱き締めるようにくっついている。
ランドルフはじっと、まるで母を叱る父を責めるような目で、父ヴォルデマーの顔を見ている。
ルドルフに至っては涙目である。オロオロしながらミリヤムのスカートに頬を押し当てている。
そんな息子たちを微笑ましく見つつ、双子でも全然性格が違うのだなぁと感心しつつ。表情だけは平静を保ったヴォルデマーは、妻を見た。そう激しく叱るつもりはないが、鍛冶屋に迷惑をかけた以上、彼女からしかと事情を聞いておかねばならなかった。
「……ミリヤム?」
穏やかに問うと、天井を見ていたミリヤムがやっと彼を見る。どうやら──ようやく説明する言葉を頭の中で組み立てられたらしい。彼女は言った。
「誤解です、違うんですヴォルデマー様。わたくしめ、若様と一緒になってお店で暴れたわけではないんです。ただ……お城中のハサミというハサミを若様がお隠しになられたので──」
ミリヤムの話はこうだ。
城のハサミが無いのなら、城下で手に入れるまでと。ミリヤムはルカスと共に(×)。ルカスに追いかけられながら(○)城下へ降りて行った。……のだが。
ハサミを扱っていそうな城下の雑貨屋は皆、何故かミリヤムにハサミが売れないと言うのだ。
どうやら──すでにギズルフが手を回していたらしい。
「──偉大なる辺境伯領跡取り息子様は、配下をお使いになり、城下のハサミ取扱店のすべてにお触れを出して人族にはハサミを売ってはならんと仰りやがったようで。ええそりゃあこの辺境伯領の領都には私とルカスくらいしか人族はいませんからね。若様にしては案外的確な命令ですけれども」
「…………」
ヴォルデマーはまずは自分の兄、ギズルフに呆れた。
確かに現在冬季に向かうこの辺境伯領には、ほとんど人族はいない。比較的暖かい夏季には人族も行商に来たりもするが、もうすぐ雪が降ろうというこの季節は人族には厳しく、その前にだいたいの人族たちが領都を離れて行く。
しかし、たかだか子供の髪を切らせないためだけに領都中に迷惑をかけているようで。ヴォルデマーはなんだかとても申し訳ない気持ちになった。
「……、……それで?」
やれやれと思いながら促してやると、ミリヤムが「ええとだからですね」と続ける。
「ならば、もうハサミを作ってもらうしかないかなと思いまして……」
それで唯一知っていた城下の鍛冶屋を訪れたのだが……そうしたらば、そこに“ヤツ”がいたのだ。
『!?』
『ん? ミリヤム何やって──』
ルカスを引き連れ鍛冶屋を訪れたミリヤムは、鍛冶屋の奥に大きな狼族の背中を見つけて、さっと物陰に隠れる。ポカンとしているルカスを引き摺り込むのも忘れなかった。
『っ何するんだよ!』
『しっ! あそこに──若様がいる』
不意をついてヘッドロックで商品棚の後ろに連れ込まれた幼馴染が怒るが、ミリヤムは素早く口の前で人差し指を立てる。
『ん……? ああ、あれギズルフ様なのか。……お前よく背中で分かったな……』
なかば呆れながらルカスが言うと、ミリヤムがさも当然と言いたげな顔をする。
『そりゃああの背中にはわたくしめ散々お世話になっておりますし。(※乗り物として)若様の背中はわたくしめという背乗りの小猿、もしくはわたくしめというヤモリの定位置というか……』
『……お前それ言っててなんかおかしいなと思わねぇの?』
『疑問など不要。今はあの横暴様がいったい何故あそこにいらしているのかを知るほうが先決です。もしや……鍛冶屋にまでわたくしめにハサミを作るなと命令して回っているのでは……!?』
『…………』
ルカスのツッコミを流して、ミリヤムは商品棚の柱を握りしめ、奥歯をぎりぎり噛んでいる。宿敵を見るような目で、鍛冶屋と話しているギズルフを睨む娘に──ルカスは何やら仏頂面で。すでにツッコミを諦めたような表情をした。
と、奥からギズルフの豪快な笑い声が上がった。あまりの声量に、思わず二人の肩がビクッと揺れる。
『そうかそうか! ふ、よくやったぞ! なるほどこれはいい……』
ニヤリ、と狼族特有の大きな口の端が持ち上がるのが見えた。途端、ミリヤムが悔しそうに、『あれは絶対くだらぬことを企んでいる顔です!』と、囁くような小声でルカスに断言。
“良からぬこと”ではなく、“くだらぬこと”と、言いつつ悔しそうなミリヤムを見て、自分たちの行動もかなりくだらぬことのような気がしてきて。ルカスがため息をつくが……
しかしミリヤムはそんなことはお構いなし。厳しい目つきでギズルフを監視している。
するとその視線の向こうで、ギズルフが何かを天井に向かって掲げた。大柄な狼族の青年が満足げに掲げているのは──
『ハサミ──!?』
……ではなく。
どうやら、小型の剣。が、二本。
『んんんっ?』
辺境伯領跡取り様は、それらを誇らしげに両手に持ち、はた迷惑にも店内のガラスが割れそうな大声で笑っている。
その姿と握られた対のような剣を見て──ミリヤムが怪訝そうに眉を顰める。と、笑いながらギズルフが言った。
『ははははは、ざまぁみたことか(※おそらくミリヤムに向けられたもの)! これで我が(甥っ)子らに剣術を──……!』
『っっやっぱりかい!!!!』
『ちょ、や、やめ……っ』
ギズルフが言った瞬間、飛び出したミリヤムがギズルフに頭突きした。一瞬遅れて気がついたルカスの制止は間に合わなかった。
身長差ゆえに、ミリヤムの突き出した頭は見事にギズルフのしっぽの付け根あたりにヒットしたが──……
『……ん? ち、貴様か……』
当然の如く、強靭な狼族の男はビクともしなかった。が、男は一瞬遅れてハッとする。
『!? やめろ壊れ物族め! 貴様、俺様の強靭さをいまだに理解できぬのか!?』
馬鹿め! と、怒鳴りながら気味悪そうにしている男は、ミリヤムたち人族女性をガラス細工並みに繊細で軟弱だと思い込んでいる。
しかし、まあギズルフの思い込みは置いておくとして。
渾身の頭突きでもびくともしない男に悔しく思ったミリヤムは。つい──
『…………』
無言で、むんずとギズルフの尾の付け根を握りしめた。
これにはギズルフも周囲もギョッとする。
『ぎゃ!? き、貴様……せ、戦士の尾を鷲掴みにするとは……! なんたる無礼だ!』
怒りに震えながらも、それに任せて彼がミリヤムの手を振り解かないのは……男がミリヤムを“壊れ物”だと思っているからゆえである。乱暴に押せば床にぶち当たって骨が砕けるか、首の骨が外れるくらいに思っている。※怖い。
そんな彼の怯えを分かっているが、気遣ってやる気のないミリヤムは、ぎろりと義理の兄を睨みあげた。
『はぁ!? 何が無礼だ! 人様の大事な息子様にそんなよく切れそうな刃物を持たせようなどと目論む輩に礼儀が必要ですか!?』
くっそーと、ミリヤムは鍛冶屋を見回した。
『例の、若様が我が子らに剣と槍を発注したのはここの鍛冶屋でしたか……』
ハサミを追い求めてここまで来たが思わぬ収穫を得たと、ミリヤムはギズルフの向こう側に立っている狼族の鍛冶職人を睨んでいる。
ちなみに──職人は、いつまでも辺境伯領の嫡男のしっぽを握りしめたまま離そうとしない娘を見て恐れ慄いている。それは獣人族同士でもしないような蛮行である。そんな行為を小柄な人族の娘が、彼ら狼族が誇る辺境伯領内で一二を争う強さと名高いギズルフのしっぽに対して行っているという事実が恐怖でしかない。
しかしどうやらこの奇行で、職人にも彼女が城下で噂の辺境伯の次男の妻ミリヤムだということが分かったらしい。鍛冶屋は変な噂の多い辺境伯家の奥方を宥めようと両手を持ち上げた。
『い、いえ若奥様、狼族の子供たちは早いうちから戦闘訓練は行うものでして……贈り物としても武器は一般的で……』
『そ、その通りだ! そもそもランドルフとルドルフはシェリダン家の血筋、伯の初孫なのだぞ!? 早いうちから鍛えて立派な戦士に──』
と、ギズルフが言った瞬間、彼のしっぽの付け根を握っていたミリヤムが手の力をぎゅっと強める。
『ぐ……き、さ、ま……!』
ギズルフ鬼の形相。職人は慄いて後ずさったが、ミリヤムは憮然としたままカケラも怯えはしなかった。
『お黙らっしゃいませ、若様め! 母親が駄目だっつってんですから駄目なものは駄目! 知らないんですか!? わたくしめ、稀代の心配性侍女ミリヤムです!!』(『お前、もう侍女じゃねーよ……』と、ルカスが突っ込んだが黙殺された。)
母となったミリヤムは、バーンッと胸を張り、巨体の狼族青年を睨み上げる。
『わたくしめの許可なく我が天使たちに刃物なんぞ持たせたら……わたくしめ死に物狂いでハサミを手に入れて──我が子たちではなく、若様をトリミングして素敵なお坊ちゃまカットにしてやりますからね──!?』
『な……、っにぃ!?』
ガーン……ッと、ギズルフの顔が引き攣り──
その瞬間ゴングが鳴った。
哀れ鍛冶屋は、ミリヤムとギズルフの口喧嘩デスマッチ会場と化した。
マシンガントークのミリヤムと、威嚇咆哮を武器とするギズルフの口喧嘩は──鍛冶屋にとても迷惑をかけた。
──それを聞いたヴォルデマーは、やれやれとため息をつく。
「それで──城下の鍛冶屋に迷惑をかけたのだな……? ギズルフと共に」
「えっとぉ……」
静かな眼差しで事実確認をしてやると、彼の妻は視線を上に向け、あちらこちらの天井をきょときょとと見ながら、両手の指を所在なさげに動かした。
そんな彼女の両側面には、人族の顔に彼と同じ獣の耳を持った幼い息子たちが、母の足を一本ずつ抱き締めるようにくっついている。
ランドルフはじっと、まるで母を叱る父を責めるような目で、父ヴォルデマーの顔を見ている。
ルドルフに至っては涙目である。オロオロしながらミリヤムのスカートに頬を押し当てている。
そんな息子たちを微笑ましく見つつ、双子でも全然性格が違うのだなぁと感心しつつ。表情だけは平静を保ったヴォルデマーは、妻を見た。そう激しく叱るつもりはないが、鍛冶屋に迷惑をかけた以上、彼女からしかと事情を聞いておかねばならなかった。
「……ミリヤム?」
穏やかに問うと、天井を見ていたミリヤムがやっと彼を見る。どうやら──ようやく説明する言葉を頭の中で組み立てられたらしい。彼女は言った。
「誤解です、違うんですヴォルデマー様。わたくしめ、若様と一緒になってお店で暴れたわけではないんです。ただ……お城中のハサミというハサミを若様がお隠しになられたので──」
ミリヤムの話はこうだ。
城のハサミが無いのなら、城下で手に入れるまでと。ミリヤムはルカスと共に(×)。ルカスに追いかけられながら(○)城下へ降りて行った。……のだが。
ハサミを扱っていそうな城下の雑貨屋は皆、何故かミリヤムにハサミが売れないと言うのだ。
どうやら──すでにギズルフが手を回していたらしい。
「──偉大なる辺境伯領跡取り息子様は、配下をお使いになり、城下のハサミ取扱店のすべてにお触れを出して人族にはハサミを売ってはならんと仰りやがったようで。ええそりゃあこの辺境伯領の領都には私とルカスくらいしか人族はいませんからね。若様にしては案外的確な命令ですけれども」
「…………」
ヴォルデマーはまずは自分の兄、ギズルフに呆れた。
確かに現在冬季に向かうこの辺境伯領には、ほとんど人族はいない。比較的暖かい夏季には人族も行商に来たりもするが、もうすぐ雪が降ろうというこの季節は人族には厳しく、その前にだいたいの人族たちが領都を離れて行く。
しかし、たかだか子供の髪を切らせないためだけに領都中に迷惑をかけているようで。ヴォルデマーはなんだかとても申し訳ない気持ちになった。
「……、……それで?」
やれやれと思いながら促してやると、ミリヤムが「ええとだからですね」と続ける。
「ならば、もうハサミを作ってもらうしかないかなと思いまして……」
それで唯一知っていた城下の鍛冶屋を訪れたのだが……そうしたらば、そこに“ヤツ”がいたのだ。
『!?』
『ん? ミリヤム何やって──』
ルカスを引き連れ鍛冶屋を訪れたミリヤムは、鍛冶屋の奥に大きな狼族の背中を見つけて、さっと物陰に隠れる。ポカンとしているルカスを引き摺り込むのも忘れなかった。
『っ何するんだよ!』
『しっ! あそこに──若様がいる』
不意をついてヘッドロックで商品棚の後ろに連れ込まれた幼馴染が怒るが、ミリヤムは素早く口の前で人差し指を立てる。
『ん……? ああ、あれギズルフ様なのか。……お前よく背中で分かったな……』
なかば呆れながらルカスが言うと、ミリヤムがさも当然と言いたげな顔をする。
『そりゃああの背中にはわたくしめ散々お世話になっておりますし。(※乗り物として)若様の背中はわたくしめという背乗りの小猿、もしくはわたくしめというヤモリの定位置というか……』
『……お前それ言っててなんかおかしいなと思わねぇの?』
『疑問など不要。今はあの横暴様がいったい何故あそこにいらしているのかを知るほうが先決です。もしや……鍛冶屋にまでわたくしめにハサミを作るなと命令して回っているのでは……!?』
『…………』
ルカスのツッコミを流して、ミリヤムは商品棚の柱を握りしめ、奥歯をぎりぎり噛んでいる。宿敵を見るような目で、鍛冶屋と話しているギズルフを睨む娘に──ルカスは何やら仏頂面で。すでにツッコミを諦めたような表情をした。
と、奥からギズルフの豪快な笑い声が上がった。あまりの声量に、思わず二人の肩がビクッと揺れる。
『そうかそうか! ふ、よくやったぞ! なるほどこれはいい……』
ニヤリ、と狼族特有の大きな口の端が持ち上がるのが見えた。途端、ミリヤムが悔しそうに、『あれは絶対くだらぬことを企んでいる顔です!』と、囁くような小声でルカスに断言。
“良からぬこと”ではなく、“くだらぬこと”と、言いつつ悔しそうなミリヤムを見て、自分たちの行動もかなりくだらぬことのような気がしてきて。ルカスがため息をつくが……
しかしミリヤムはそんなことはお構いなし。厳しい目つきでギズルフを監視している。
するとその視線の向こうで、ギズルフが何かを天井に向かって掲げた。大柄な狼族の青年が満足げに掲げているのは──
『ハサミ──!?』
……ではなく。
どうやら、小型の剣。が、二本。
『んんんっ?』
辺境伯領跡取り様は、それらを誇らしげに両手に持ち、はた迷惑にも店内のガラスが割れそうな大声で笑っている。
その姿と握られた対のような剣を見て──ミリヤムが怪訝そうに眉を顰める。と、笑いながらギズルフが言った。
『ははははは、ざまぁみたことか(※おそらくミリヤムに向けられたもの)! これで我が(甥っ)子らに剣術を──……!』
『っっやっぱりかい!!!!』
『ちょ、や、やめ……っ』
ギズルフが言った瞬間、飛び出したミリヤムがギズルフに頭突きした。一瞬遅れて気がついたルカスの制止は間に合わなかった。
身長差ゆえに、ミリヤムの突き出した頭は見事にギズルフのしっぽの付け根あたりにヒットしたが──……
『……ん? ち、貴様か……』
当然の如く、強靭な狼族の男はビクともしなかった。が、男は一瞬遅れてハッとする。
『!? やめろ壊れ物族め! 貴様、俺様の強靭さをいまだに理解できぬのか!?』
馬鹿め! と、怒鳴りながら気味悪そうにしている男は、ミリヤムたち人族女性をガラス細工並みに繊細で軟弱だと思い込んでいる。
しかし、まあギズルフの思い込みは置いておくとして。
渾身の頭突きでもびくともしない男に悔しく思ったミリヤムは。つい──
『…………』
無言で、むんずとギズルフの尾の付け根を握りしめた。
これにはギズルフも周囲もギョッとする。
『ぎゃ!? き、貴様……せ、戦士の尾を鷲掴みにするとは……! なんたる無礼だ!』
怒りに震えながらも、それに任せて彼がミリヤムの手を振り解かないのは……男がミリヤムを“壊れ物”だと思っているからゆえである。乱暴に押せば床にぶち当たって骨が砕けるか、首の骨が外れるくらいに思っている。※怖い。
そんな彼の怯えを分かっているが、気遣ってやる気のないミリヤムは、ぎろりと義理の兄を睨みあげた。
『はぁ!? 何が無礼だ! 人様の大事な息子様にそんなよく切れそうな刃物を持たせようなどと目論む輩に礼儀が必要ですか!?』
くっそーと、ミリヤムは鍛冶屋を見回した。
『例の、若様が我が子らに剣と槍を発注したのはここの鍛冶屋でしたか……』
ハサミを追い求めてここまで来たが思わぬ収穫を得たと、ミリヤムはギズルフの向こう側に立っている狼族の鍛冶職人を睨んでいる。
ちなみに──職人は、いつまでも辺境伯領の嫡男のしっぽを握りしめたまま離そうとしない娘を見て恐れ慄いている。それは獣人族同士でもしないような蛮行である。そんな行為を小柄な人族の娘が、彼ら狼族が誇る辺境伯領内で一二を争う強さと名高いギズルフのしっぽに対して行っているという事実が恐怖でしかない。
しかしどうやらこの奇行で、職人にも彼女が城下で噂の辺境伯の次男の妻ミリヤムだということが分かったらしい。鍛冶屋は変な噂の多い辺境伯家の奥方を宥めようと両手を持ち上げた。
『い、いえ若奥様、狼族の子供たちは早いうちから戦闘訓練は行うものでして……贈り物としても武器は一般的で……』
『そ、その通りだ! そもそもランドルフとルドルフはシェリダン家の血筋、伯の初孫なのだぞ!? 早いうちから鍛えて立派な戦士に──』
と、ギズルフが言った瞬間、彼のしっぽの付け根を握っていたミリヤムが手の力をぎゅっと強める。
『ぐ……き、さ、ま……!』
ギズルフ鬼の形相。職人は慄いて後ずさったが、ミリヤムは憮然としたままカケラも怯えはしなかった。
『お黙らっしゃいませ、若様め! 母親が駄目だっつってんですから駄目なものは駄目! 知らないんですか!? わたくしめ、稀代の心配性侍女ミリヤムです!!』(『お前、もう侍女じゃねーよ……』と、ルカスが突っ込んだが黙殺された。)
母となったミリヤムは、バーンッと胸を張り、巨体の狼族青年を睨み上げる。
『わたくしめの許可なく我が天使たちに刃物なんぞ持たせたら……わたくしめ死に物狂いでハサミを手に入れて──我が子たちではなく、若様をトリミングして素敵なお坊ちゃまカットにしてやりますからね──!?』
『な……、っにぃ!?』
ガーン……ッと、ギズルフの顔が引き攣り──
その瞬間ゴングが鳴った。
哀れ鍛冶屋は、ミリヤムとギズルフの口喧嘩デスマッチ会場と化した。
マシンガントークのミリヤムと、威嚇咆哮を武器とするギズルフの口喧嘩は──鍛冶屋にとても迷惑をかけた。
──それを聞いたヴォルデマーは、やれやれとため息をつく。
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