平凡な私が絶世の美女らしい 〜異世界不細工(イケメン)救済記〜

宮本 宗

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149 マティアスと夫婦の時間 sideマティアス

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夜だけの僅かな夫婦の時間。
寝室で待つ妻の体を組み敷き、朝日が昇らんとするぎりぎりの時間まで抱いた後、名残惜しい気持ちを抑え最愛の妻の柔かな体を抱き締めながら眠る日々。
三時間程度の睡眠を取った後、寝ぼけ眼なままの妻に見送られまた一日が始まる。
それが、サイカを妻にしてからの日常になっていた。

「以上でございます。」

「ああ。引き続き頼んだ。」

「話は変わりますが陛下、妃殿下とは良好な関係を築いていらっしゃるご様子。」

「おお、そうですな!妃殿下と仲睦まじいご様子で私どもも安心しておりますぞ。
いやいや、後は妃殿下がご懐妊なさいましたらレスト帝国も安泰ですなあ!」

「陛下と妃殿下が婚儀を上げられて早五ヶ月。ご懐妊が楽しみでなりません。」

「まだ、五ヶ月であろう。子は授かりものですじゃ。陛下もまだまだお若い。そう急ぐ事もあるまいて。」

「うむ。バーナ伯爵の言う通りだ。
今は陛下も妃殿下も“新婚”という期間よ。それに…今は陛下も多忙を極めておる。ご夫婦の時間も満足に取れていないだろう。そう急かすものではないぞ。」

「しかし…陛下がお生まれになったのも、六年掛かりましたからなあ。
万が一、という事もあるやも知れません。」

「ベリス子爵、今の発言は無礼であるぞ。」

「ああ…いやいや、年寄りの心配とでも思って下され。」

ベルナンド、バロウズ。そして奴らの遊びに興じていた貴族たちや不正を行っていた貴族たちを処罰して数ヵ月。
膿を出す、という意味ではタイミングが良かったが…そのお陰でサイカとの時間も満足に取れない。
貴族たちの中には今俺を擁護してくれたような者たちもいれば、子はまだかと嫌味のようにねちねちと言ってくる者も多かった。
大体、サイカに何の不満がある。
サイカのような女は他にいない。美しく優しく、愛らしい女だ。
この世界でとてつもなく醜い容姿に生まれた俺の妻になった女だ。
国の為に俺の元に嫁いできたはずのルシアは俺を嫌悪し愛人を作った。
ルシアであっても他の国の王女であっても子は望めなかったろう。
けれどサイカは違う。サイカは俺を愛している。夫婦の営みは毎晩あるし、臣下たちが言うように仲もかなり良好だ。
だと言うのにこいつらは何が不満なんだ。…いや、単にそういう性格で嫌味を言いたいだけなのかも知れないが。

「会議は以上か?なら解散する。各自勤めに戻れ。」

『畏まりました。』

ふう、と小さく溜め息を吐くと老いた臣下が一人、会議室に残っていた。

「…どうした、ダロン。」

「陛下、お気になさいますな。男は子を生む苦悩を知らず、知らんから好き勝手に言えるのですじゃ。
人間とは欲深い生き物。一つ満たされるとまた一つとキリがない。ほっほっ。」

「……。」

「それにあれは単に嫌味な性格をしておるだけじゃて。男として陛下に嫉妬してもおるから小さな嫌味を言って気分を晴らそうとする器の小さい男なのですじゃ。いやあ、小さい小さい。
もし、妃殿下の耳にあの様な声が届いているのであれば…子は授かりもの。焦る必要はないと妃殿下にお伝え下され。」

「ああ、必ず伝えておこう。礼を言うぞ。」

皺を深めて笑うのは父の代からレスト帝国を支えるダロン伯爵。不正を嫌い、非道を嫌う良識を持った数少ない貴族だ。
膿を出す、と言っても貴族の性質は変わらない。
ベルナンドたちを処罰した事で暫くの間は大人しくしているだろうが利己的で損得感情の強い彼らの事だ。
暫く経てばまた大なり小なり不正を行う者もいるだろう。
それまでにある程度基盤を固めておかなくてはならない。

「…まだまだやるべき事は多いな…。」

そう。俺とサイカはまだ新婚の期間だ。
結婚して五ヶ月。まだまだ夫婦の甘い時間を過ごしても許される期間だ。
だと言うのに夫婦の甘い時間を満喫することも出来やしない。
政務の間の僅かな休憩時間、そして夜が来て、朝を迎える数時間だけが俺がサイカと過ごすことを許された時間だ。
立場故に仕方のない事だと分かっている。
けれど、ヴァレリアやカイルと恋人の時間を過ごす、過ごしたと聞いて羨ましく思わないわけがない。
俺はサイカの事になると狭量な男だから。
サイカの事で俺が介入出来ないのが不満だし、目の届かない所にやりたくない。例え会う相手がヴァレリアやカイル、リュカであろうと、俺以外にサイカを任せたくはない…そんな、どこまでも身勝手な男。
出来る事なら俺だって、サイカと夫婦水入らずの時間を過ごしたいのだ。それが出来るのであれば。

「…ああ、たった一日でもいい。
心置きなくサイカと過ごす時間が欲しいものだ…。」

一人ごちた言葉は虚しく部屋に響く。
あとどれくらい月日が経てば、サイカとゆっくり過ごせるだろう。
後半年もすればサイカはリュカとも婚儀を挙げる。
そうなれば…また、更にサイカを独占するのは難しくなってしまう。
せめてドライトやリスティアの仕事を分散出来れば…自国の事だけであればサイカと十分な時間が取れるが、誰に任せられると言うのだろう。
ドライトの件はあちらの国の沽券にも関わる。故に内情を知っている者は少なく、リスティアの件は戦後処理のような状態だ。
レスト帝国の高位貴族とリスティアの王太子が企てた事件はレスト帝国とリスティア連合国の双方で処理をしなくてはならない。
そいったものを任せられる相手を考えると…唯一思い当たるのがリュカだ。
が、リュカも多忙な男。広大なクラフ公爵領、そのトップに立つ者が抱える仕事量は俺と並ぶくらいには多い。
ままならんな、と呟いたその数日後、俺はリュカに感謝した。

「マティアス。お前もサイカとゆっくり夫婦の時間を過ごしたくはないか?」

「過ごしたいとも。それが可能であれば。」

「二日程度なら、僕がその時間を作ってやれる。だから同じく二日、サイカを僕の領地で過ごさせろ。…どうだ?乗るか?」

「詳しく聞こう。」

リュカが提案した取引は実に嬉しい内容だった。
よくよく話し合い、俺とリュカ双方の合意の元サイカをクラフ公爵領へ送り出し…そしてまた数日後、俺はサイカと過ごす夫婦の貴重な時間を手に入れたのだ。

「では頼んだぞ、リュカ。」

「ああ、任せろ。……これが上手く行ったら…。」

「そうだな。今後も頼むだろう。」

「よし!」

長ったらしく仕事の説明をしなくとも、リュカであれば分かるだろう。
俺は足取り軽くサイカの元へ急いだ。

「マティアス!?」

「サイカ、一緒に過ごすぞ。」

「え?…え!?」

「そなたらは下がれ。用があれば呼ぶ。それまで入ってくるな。」

『畏まりました。』

驚いて目を見開いているサイカの脇に手を入れ、抱えてその場を回る。

「わ!?マ、マティアス!?」

「はは!」

そのまま抱き締めてソファーに座り、サイカの首筋に顔を埋めればサイカの甘い、だが優しい匂いが鼻に広がった。

「マティアス、一緒に過ごすって…嬉しいけど…すごく嬉しいけど大丈夫なの?」

「ああ、問題ない。
そういう取引でそなたをリュカの元へ送ったのだ。」

「!!リュカが…!」

「二日、二人で過ごそう。
サイカとの夫婦の時間を満喫したい。」

「はいっ…!嬉しい…!!」

「俺もだ。…すまない、寂しい思いをさせてしまって。」

「ううん、いいの。マティアスが無理してないかが心配でしたけど。
…いつも三時間くらいしか寝てないでしょう…?今日はどうします?ゆっくり寝ます?」

「今しがた二人で過ごそうと言ったばかりなんだが?
折角リュカが用意してくれた機会だ。
寝るのは惜しい。…寝て体を癒すなら、そなたと過ごして癒したい。」

「それをマティアスが望むなら。」

「そなたは望んでいないのか?」

「分かってるくせに。気持ちはマティアスと一緒。すっごく嬉しい!」

「はは、すまない。そなたの口から聞きたくてな。よし、久々の夫婦二人の時間だ。共に過ごそう。」

「マティアスは何かしたい事はあるの?」

「そうさな…。」

サイカと共に何をしよう。
考えてみるとしたい事が次々と思い浮かぶ。
ヴァレリアやカイルのようにサイカとデートをするのもいい。
二人で何処かに出掛けたのも随分以前の事のように思う。
あの日サイカから貰った万年筆は大切に、とても大切に使っている。
使わずにいようとも思ったが…それでは贈ったサイカが悲しむだろう、そう思った。
市民街の雑貨屋に置いてあった品だ。決して高級品ではないし、雑に扱えば直ぐに壊れてしまう、誰もが手に出来る万年筆だ。
けれどサイカから贈られたあの万年筆と同じ物はこの世に二つとない。

景色の良い所へ行くのもいい。
少し馬車を走らせれば眺めの良い所はいくらでもある。
ディーノの領地にある花畑で過ごした時にように…最愛の妻の、さながら花の女神の如く、咲き誇る花のような愛らしい笑顔をこの目でじっくりと堪能するのもいいだろう。

新婚らしく昼間から睦み合うのもいい。
愛しい愛しい妻と愛し合う行為は何度回数を重ねても足りない。
このまま朝が来なければいいのにと何度思った事か。
このままずっと、寝所にこもりたいと何度思った事か。
朝も昼も夜も関係なく互いを愛していると伝えられたなら…そう思った途端、今日一日サイカとしたい事が決まった。

「…マティアス…?」

サイカを抱え、サイカの自室にあるベッドに近付く。
結婚してからサイカがこのベッドで夜を過ごした事は未だない。
夜にサイカが過ごす場所は俺の寝所と決まっているからだ。
ベッドに近付いていると気付いたサイカは俺を見て顔を赤らめた。
何とも可愛い、愛らしい表情だが誤解をしている。まあ、仕方のない事なのだが。

「真っ赤だな。」

「え、だ、だって、今、まだ、こんなに明るいのに…、」

「ははははっ!」

「マティアス?」

「いや、そうではない。
抱きたい、と毎日思う。…が、今は違う。」

「…え?」

「…何。直ぐに分かる。」

サイカと会う前の俺は、男女の色恋が分からなかった。
想い合う、愛し合う。どの言葉も俺には当てはまらないと思っていた。
実際サイカと出会わなければ、今も愛を知る事はなかっただろう。
人としての好意は分かる。気が合う合わないも分かる。友が何かも分かる。
俺を一人の人間として扱ってくれ、今も俺を支えてくれている爺や侍女長だったマーサ、そして同じ差別を受けるリュカやディーノらが居てくれたからだ。
けれどそれが男女の事になると途端に分からない。
想い合う二人という存在を羨ましいと思った。
愛し合う二人という存在を羨ましいとも。
ルシアが俺の側妃になっても、自分の妻という存在が出来ても、恋も愛も知る事はなかった。
これが俺の妻になる女かと、他人事のような感覚。
『妻』『側妃』という言葉が自分の感情の中で一人歩きしていて、『ルシア』という一人の人間に対し、特別な感情は湧かず、政略結婚であるからこんなものかと納得した。
恋情や愛情といった特別な感情がなくとも互いに手を取り国を守っていけたらいいとは思ったが。

夫婦となって、幾ばかりかの月日が流れても同じ。ライズとの関係を知って感じたのは呆れと、仕方がないという感情。
嫉妬や怒り、喪失感は感じなかった。
ただ。誰かと想い合う、愛し合うというのは己の立場や責任、周りの事も忘れてしまう程の幸福感を得られるのだろうな、と思った。
父や母、爺にマーサ然り。周りの誰か、この国にいる多くの者たちは自然に番う相手を見つける。
出会い、互いに恋をし、愛するようになる。
家同士の政略的なものも多いが、それでも共に過ごす内に情が芽生え、絆が深まる者も多い。
大勢の人間はそうして当たり前の幸せを手にするのに、自分の人生はどうだ。
考えると余りにも理不尽でやるせない。
孤独を感じていた。何をしていても誰といても、この世に自分一人だけしか存在しないような、毎日そんな気持ちだった。

酷い孤独を感じ、虚しくなって花街に向かったあの日、偶然見上げた建物のその最上階にサイカはいた。
花街の様子を見下ろすサイカは目を疑う程美しかった。顔まで隠すように外套を着ていた俺に気付いたサイカが俺に向かって手を振った瞬間、俺は恋に落ちたのだ。
自分でも知らず知らずの内に、落ちていた。
ただ手を振られただけ。直接目の前にいるわけでもない。会話もしていない。人となりも知らない。名前すら知らない。
それなのに、どうしても。どうしても会いたいと勝手に体は動いていた。
水揚げの権利を半ば強引に買った。
期待するな。希望を持つな。結果は知れている。きっと同じ結末を辿る。
ああだけど、期待してしまう。希望を持ってしまう。もしかしたら、結果は違うかも知れない。夢を。ほんの一時でも幸せな夢が見られるかも知れない。
不安や恐れ、期待に希望。様々な感情と葛藤し迎えた当日はもう、このまま死んでもいいと思える程温かい何かに満たされた時間だった。
最初から好意があった。それは間違いない。
外見から。実際に会ってみれば心根が。
表情が、声が、仕草が。他とは違う好意があった。
恋に落ちたのは一瞬。そこから色んな感情が色鮮やかに。

「…マティアスのしたい事って…これ?」

「ああ。いつぞやの時のようにベッドの上でサイカといちゃいちゃしながら過ごしたくなった。」

「恋人みたいにいちゃいちゃしながら過ごすようになったのは…水揚げが終わって…そうだ。二度目の時でしたね。
あの時私、マティアスを甘やかしたいって思ったんですよねぇ。甘やかして、私も甘えよう、みたいな?」

ベッドに寝そべり、俺の上にサイカを寝転ばせ互いの髪や体に触れながら口付ける。
あの日、サイカから『このままいちゃいちゃしながらお話をしましょう?』と言われた時、心の中では盛大に動揺していた。みっともない所を見せたくなくて何とか体裁を保とうとしたが…きっと全部を隠せてはいなかったと思う。
そのとんでもない美しい容姿に見惚れ、落ち着かない。
その温かく優しい、情の深い心根を知ると嬉しくて舞い上がりそうになる。
そう、色んな感情がそれはそれは色鮮やかに。

「今だから言える事なのだが…。」

「?」

「出会った頃は、平静を保つのに必死だったんだ。
水揚げの時も緊張していたのは分かっただろう?」

「うん。」

「最初は容姿からだと伝えた事があったな。
女神のように美しいそなたならば、俺を受け入れてくれるかも知れない。憐れんでくれるかも知れない。そういう打算もあった。
美しさに見惚れて、性根を知って嬉しくて、期待して。」

「……。」

「目を見て、名を呼ばれるだけで。そんな些細な事が嬉しくて堪らなかった。
優しくしてくれるのが嬉しくて。俺に向かって笑顔を見せるそなたが可愛くて仕方なかった。甘えられるのも、甘やかされるのも、感じた事のない幸せを感じた。」

「マティアス…、」

「仕事上だとしても優しくされるのは嬉しかった。好意を伝えられるのも。そんな事はそれまで無かったから。
…当時の俺はそなたの言葉が全て嘘でもいいと思った。
好きだと言われて天にも昇る気持ちだった。」

そう。娼婦と客だったあの頃。まだ出会ったばかりだったあの頃。
好意の言葉の数々が仕事での対応だったとしても、嘘だとしても、俺は本当に心の底から嬉しかったのだ。
けれど俺は知っている。
サイカは、気持ちが伴っていない言葉を伝えはしない女だと。
仕事だった。娼婦と客だった。それでも、当時サイカの心には俺への好意があり、あの言葉の数々は決して嘘ではないとサイカがどんな女か理解しているからこそ知っている。
嘘が苦手な女だ。隠し事も。自らの良心に基づいた善悪の基準が分かりやすい。
小さな嘘、大きな嘘。程度はあれど人を騙すような嘘をサイカは好まない。自分の良心が痛むからだ。

「でもなサイカ、そなたは素直な女だ。
だから気持ちの強さは違うものの…俺に伝えてくれた好意の言葉は仕事上のそれだけでなく、真実も含まれていると何処かで伝わっていた。
そう。そなたの心根が伝わっていたから、俺はそなたの言葉を信じれたのだ。」

それからだ。サイカにますます強く惹かれたのは。

「恋人同士のように過ごそう。
そう言われて…どうしようもない程浮かれた自分がいた。
疑似だとしても、本当に嬉しくて仕方なかった。胸が高鳴った。楽しくて、幸せだった。
世の中の恋人たちはこんなに幸せな気持ちで過ごしているのかと、そう思った。」

「…私も。恥ずかしいのは勿論あったけど…すごく楽しくて、嬉しくて、幸せで。何だかわくわくして不思議な気持ちだったの。
まるで本当に恋人みたいって、そう思った事も沢山ありましたし。」

「ああ。…あの日もこうして俺の上にサイカが寝転んで甘い時間を過ごしただろう?
…もう、な。色んな感情で心の中は大忙しだったんだぞ?
そういうのを出さないように必死だった。」

「初めての時は兎も角…その後は動揺しているとか、そんな風には見えなかったけすけど。」

「はは、必死になって見せないようにしていたからな。
サイカの言葉や態度で浮かれ…喜んでいるみっともない男の姿を見せたくなかった。
…少しでもよく思われたいという男心だな。」

「ふふ…!そんな事を思ってたんだ。」

俺の体の上に寝転んでいるサイカが笑う。
俺の髪に優しく触れながら、頬を赤く染めて笑っている。
見つめる瞳は輝いていて、少し見える歯も、赤らんだ頬も何もかもが可愛く見える。
あの日もこんな気持ちだった。
疑似の“恋人”だったが、俺の上で笑うサイカが可愛くて仕方なかった。
この愛らしい娘をどうしてくれよう。
サイカの体の重みすら幸せで、どうしようもなく浮かれた感情のまま、喜びを叫びたくて仕方なかった。

「思い返すと楽しい事ばかりだな…。
もどかしく思った事もあったが娼婦としてのそなたと過ごした日々は…楽しく、嬉しく、幸せなものばかりだった。」

「うん。…私もです。
大変な事もあったけど…楽しかったし嬉しかったし、幸せでした。
娼婦だったから、マティアスたちにも会えましたしね。
ふふ。娼婦とお客さんだったのに、今は夫婦だなんて本当に不思議。」

「そうだな。…こうしてそなたに好きなだけ触れられるようになったしな。
そう思えば出会った頃よりも互いに随分、遠慮のような気を使わなくもなった。いい事だ。」

柔らかく弾力のあるサイカの尻を遠慮なく揉むと、こら!とサイカが叱る。こういったやり取りもあの頃は嫌われたくなくて出来なかった事だ。

「気を使わなくなっても、遠慮しなくなってもそれでもまだ慣れない事もある。」

「なあに?」

「そなたを前にすると浮かれてしまう事だ。いつだって取り繕うのが精一杯で…男の見栄を通すのが難しい。
緩んだ顔はしていないだろうか。
みっともない表情をしていないだろうか。
いつだって、そなたの中では一番良い自分でいたい。そういう部分だけを見せていたい。」

「どんなマティアスも大好きです。
泣いてるマティアスも、怒ってるマティアスも、私には魅力的に見えますよ。」

「はは、そうか。…そなたには俺の情けない部分も魅力に映るか。」

「はい。とっても!」

穏やかな日差しが窓から射し込む中、サイカは美しく微笑む。
心から好いた女であればどんな姿も魅力的で愛しく映る。
出会った頃から妻の愛らしさと美しさは変わらない。
…いいや、ますます愛らしく美しくなっている。
まだまだ熟すのは早い、恋人同士のような夫婦の甘い一時を過ごしながら過去と、今に思いを馳せてみれば……あの頃も今も、サイカに対しては然程変わらない。
まるで子供のように感情の制御が出来ない時があって、心踊って寝付けない日もあって。
姿を目に映すとどうしようもなく傍に居たくなって、傍に要ればそれはそれで嬉しくて落ち着かない。
目を見て話しているだけでも楽しくて嬉しい。
手が触れただけで幸せな気持ちになる。
抱き締めたくて堪らない気持ちになって、胸が高鳴って、ときめいて。いい年をした大人である自覚が薄れてしまう。

「もう夫婦になったというのに…俺はまだまだ、恋をしているんだな…。」

出会ってからずっと、妻に恋をしている。
幸せな恋を、ずっとしている。
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