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168 私だけが知っている

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ヴァレとの結婚式が無事終わった後、ヴァレとの新居に親しい人たちだけを招いた二次会は大いに賑わった。
背中まで伸びていた美しい髪をバッサリと切り、それまで中性的だったヴァレリアがすっかり男らしく生まれ変わって、囲まれる人たちに見違えたと声を掛けられてはありがとうございますと自信に満ちた顔で笑っているのを彼の隣で、肩を抱かれながら私は見ていた。
髪の長かったヴァレも格好良かったけれど、髪が短くなったヴァレは心臓に悪いくらい男らしくて格好良い。
もし、ヴァレがこの世界で女として生まれていれば…それはもう、誰よりも美人だったに違いない。絶世の美女と言われる私よりも余程美人だ。間違いなく。

この世界では太っていない男は皆総じて厭われる対象だ。
お義父様やマティアス、カイルのような筋肉が目立つ逞しい肉体であろうと、リュカのように程よく鍛えられた美しい肉体であろうと、ヴァレのようにすらりとして均等の取れた肉体であろうと、体に付いている肉の割合が多くなければ男として有り得ないと判断されてしまうのだ。本当に意味が分からない。
“太っている”と呼ばれる身体にも色々ある。例えば力士はアスリートだ。彼らのような脂肪もあるけれど大方は筋肉で出来ている身体とか、プロレスラーのムチムチとして見えるが流石格闘家とあって鍛え上げられた筋肉の上に薄く脂肪が乗っている身体とか、ただただぶよんとして柔らかいだけの、筋肉よりも脂肪の方が多く目立つ身体があって、違いは確かにはっきりとあるのにこの世界の人たちは力士のような身体もプロレスラーのようなムチっとした身体もただ太っているだけの身体も、特に違いを感じず同一視しているように思うのだ。否、多分、実際そうなのだろう。
美男子と呼ばれる男たちの身体は決して同じではない。
太っているけど筋肉が凄いだろうなという人もいれば、ただ丸々と肥えただけの人もいるのだ。
娼婦時代に私を襲った男もぶよんぶよんとした脂肪多しタイプだったが周りからは美男子…イケメンと評されていたらしいし…本当に意味が分からない。

話が反れてしまったけれど、マティアスたちのような逞しい筋肉が目立たなくとも、ヴァレは“男”だ。
すらりとしていても、そこに女性らしさはなく、私を支える腕は力強い。
骨ばった手は私より大きくて、肉の付いていない長い指だってごつごつして太い。
線が細い身体だって、着ているものを脱いでしまえば…その下に、驚く程男らしく整った肉体があるのだ。
彼を嫌悪する女たちは知ることもない。
彼が如何に、素晴らしい男であるかを。
細くて気持ち悪いと言われる彼の身体が、どれ程美しいか。
触れる身体のどこもかしこも、目眩がする程熱く、私を組み敷く身体がどれ程力強く、逞しいか。


「サイカ。疲れましたか?」

「あ…、ううん、大丈夫!」

「そう…ですか?…でも、」

ぐ、と。私の肩を掴む力が強まって、更に引き寄せられた耳元でヴァレが囁く。
“とても、熱っぽい視線を感じたのですが”と。
壮絶な色気を含んだ声に、ぞくぞくと背筋が粟立った。
うっとりと、蕩けるような視線を向けるヴァレだって、きっとこの先私しか知らない。
まだ日が明るい内からおかしな気分になってきた頭を振って、私は笑う。
いつもと変わらない、優しい笑顔と表情で家族や親族、マティアスたちと話すヴァレは二次会がお開きになるまで周りにも私にも気を遣い、どこまでも紳士だった。
ただ、私の肩を抱く手は時間が経つにつれ力と熱が増しているのを多々感じて…それが少しだけ、ほんの少しだけ恐いと思ってしまった。何だか、この後にとんでもない事が待っていそうで。
その予感は正しかったと言っておく。



「…サイカ…“待て”の時間は…もう、終わりにしてもいいですよね…?」

「あ、あの、」

「ずっと我慢してたんです。ずっとずっと、ずぅっと、今日の、初夜を迎えるまでは紳士でいなければと思っていたんです。二人きりになるまでは、紳士でいなくてはと思って。」

「あ、う、うん…今日も紳士でした。」

「そうでしょう?
私は陛下やリュカ殿、カイル殿に比べ立場が弱い。だから…信用や信頼を失う訳にいかないんですよ。クライス侯からは特に。
私はまだ、これからだから。まだこれから、足場を固めていかなくてはならないから。
貴女を繋ぎ止める為にはね、味方や安心材料を減らす訳にはいかないんです。
早く貴女と二人きりになりたいと思っても…周りへの対応を疎かにする事は出来ない。」

「ヴァ、ヴァレ…」

「我慢、したんですよ。ずっとずっと。今日を迎えるまで、この時間になるまで。
だからもう、しなくてもいいですよね?
我慢も、待ても。紳士な私でなくとも、貴女は受け入れてくれますよね?」

「ぅ…」

「それともまだ…駄目ですか…?」

「あ……ぅ、」

ベッドの上。
ヴァレに抱き上げられ、私は胡座を掻いた彼の上に座っている。
ヴァレの太腿に足を開けて座っている私と、彼の中心はぴったりとくっついており、布越しでもその熱さが伝わってきている。
恥ずかしくて、最早“あ”だとか“う”だとか、言葉にならない言葉しか発していない私を余所に息を荒げながら、ヴァレは私のドレスを着々と脱がしていく。
ね?ね?いいですよね?ね?こんなに我慢したんですから。もういいでしょう?ね?
そんな、懇願する声に混じって、“ハッハッ”と獣のように興奮した息が耳にかかる。
耳朶を甘噛みしながら、そのまま穴の中に舌が這い、くぐもった水音と荒い息遣いが頭に響く。

「サイカ、いいと言って…サイカ…。
早く…早く、…ねぇ、サイカ…」

ね?と私を見る顔は優しい顔のまま。
眉と目尻を下げ、懇願するような表情ではあったが、目は違った。
それはもうぎらぎらと妖しく奥が輝いて、そしてどろりと溶けていた。
まだ女を知らなかった頃の彼は手練手管なんて言葉も知らないような人だった。
初めは拙く触れるだけで、その手が時々怯えているようにも感じて。
だけど、理性が飛んだ後は拙さも怯えも感じない程荒々しくて、中性的な彼のそんなギャップに翻弄もされたけれどそれでも手練手管と言う言葉は彼に似合わなかったはずなのに。

「はぅ……ぅぁ…!」

「ねぇ、サイカ。…サイカがいいと言ってくれなければ…私は貴女の気持ちいい所に触わる事が出来ないんです…。
貴女の許しがないままの内は…紳士でいなくてはならない。
…私、十分頑張って待てをしたでしょう…?」

漏れる吐息が時折荒々しくなって、ドレスもコルセットも脱がされもう何も身に付けてはいない身体の線をなぞり、戯れに耳を犯す彼。
腰が跳ね、くすぐったさに身を捩っても止まる事はなくて、それどころか煽るように触れてくる。
私の大事な所にごりごりと硬いのが当たっているのもきっと態とだ。
私の性欲を引き出すように、煽るように布越しに硬くなった陰茎を押し当て、時折揺すって刺激してくる。
恥ずかしいと思う気持ちはいつまで経っても、何回セックスをしても無くなるものではないから、最初の一声、その勇気が中々出ない。
身体の線をなぞるだけではなくて、耳だけではなくて、もっともっと、沢山、色んな所を触って欲しい。
布越しではなくて、押し当てるだけではなくて、なかに入ってきて欲しいのに焦らされている。
無理矢理、強引にしてくれてもいいのに、なのに彼は、優しく微笑んだまま、そのくせ目だけは意地悪く私を見て楽しんでいる。
私が言葉にするのを待っている。
出会った頃は知らなかった、手練手管を使って。
紳士な顔が、穏やかで物腰の柔らかい優しい姿が全てではなくて、その皮の下に、彼の本質がある。優しい、紳士の皮を被った獣がいる。
私が自ら、“蹂躙してほしい”と言葉にするのを、彼という獣はずっと、今も待っているのだ。

愛し愛される事は幸せだ。奇跡だ。
はくはくと出した言葉は、きっと彼の耳に届いただろう。
愛し愛され、そして征服されたいと懇願する、私の願いは。


「……よ」

「うん?聞こえませんでした。…サイカ、もう一度。私に聞こえるように…はっきりと。私が欲しいと言って下さい、サイカ。」

どろりどろりと、アメジストの瞳が甘く誘っていた。

手練手管なんて知らなかった、純粋で純情な男だった彼を変えたのは私という女だ。
暴力的なまでの雄の色香を全身に纏わせ、私を落とそうと誘惑している。
全てのひとが、当てはまるという訳ではないけれど、私は、幸せだと思う。
愛する男に容赦なく蹂躙され征服され、そして得られる女の幸せが確かにあるのだ。


「…我慢、しなくていい…から。
私、…ヴァレが欲しい…。
ヴァレに、めちゃくちゃにして欲しい…。」

「…ああ……!
その言葉をずっと待っていました…!!」

噛み付くような口付けに先程までの余裕なんて一つも感じない。
口内に侵入してきた舌は執拗に私の舌を追って暴れている。
呼吸も追い付かなくて、溢れてくる涎を飲み込む事も出来なくて、口端から溢れていくそれをヴァレは、一滴も溢すまいと舐めとる。
そのまま首筋へ、鎖骨へと下がり、まるで私を食すような愛撫が始まった。

「はぁ…サイカ、…可愛い…美味しい…」

「あ、あん!ヴァレ、ヴァレぇ…!」

「あは。可愛らしい乳首がぷっくりして…食べて欲しいとお願いしているんですね…可愛い。」

「はぅぅ…!?」

あーん、と口に含んだ乳首を舌先でちろちろ転がすように。
それだけで甘い痺れが腰を通り、こそばゆい感覚を逃がそうとくねらせればヴァレの布越しに硬くなった陰茎がクリトリスを刺激して、思わず大きな声が出てしまった。

「布越しでは物足りないでしょう?
…サイカは欲張りだから、あちらもこちらも一緒に可愛がってあげないと。
大丈夫。沢山気持ちよくして差し上げます。
沢山愛して、めちゃくちゃにして差し上げますからね。」

天使のように微笑んだヴァレに、獰猛な牙が見えた気がした。

「あ、待っ…きゃぅ!?あっ?あっ、やあ、い、いっしょ、だめ、だめぇ…!」

ヴァレの胡座に跨がり座っていた私を後ろに倒すとそこは柔らかいベッドの上。
私の足の間にヴァレの身体が割り込み、両の膝裏を腕で抱えたかと思うとそのまま愛撫を続けてしまう。
少し苦しい、蛙のようなおかしな体勢に羞恥がどっと溢れたけれど襲ってくる快楽にそれどころでは無くなっていった。
指で、唇で、舌で愛撫され続ける胸と、陰茎を使ってクリトリスと入り口へ刺激を与えてくる。
つるんとした亀頭から先走りが溢れ、その粘膜のまとわりつく刺激も容易く快楽を呼んだ。
あ、あ、と小さな喘ぎが止まらず、お腹の奥がもっと大きな刺激を欲しがって切なく鳴いてしまう。
にちゃにちゃと粘りけの混じった卑猥な水音はヴァレの先走りだけではなく、自分の中から出ているものが多いだろう。
下から上へ。ヴァレが腰を動かし硬く反った陰茎を擦り付けるたび、私の腰も一緒に動く。

入れて、入れて、入れて。
入って、入ってきて、入れて。

そんな欲と一緒に、はしたなく腰が動いて…そして、つるんとした大きな亀頭が入り口に侵入すると、悦んで締め付けた。

「ぁくっ……はは、凄い締め付けてる…堪りませんね…」

「あぁあ……いりぐち……きもち、いい…すごいぃ…」

「こら…待って、サイカ。」

「やだ、やだぁ…も、がまん、できないよ…がまん、いやぁ…!」

「…このままびゅーってしたら…赤ちゃんが出来るかも知れないでしょう…?」

「…あかちゃん…」

「そう。私とサイカの子供。
とても残念ですが…暫くは、避妊薬を飲みましょうね…。
けれど。その時が来たら……無防備なサイカの子宮に沢山、子種を飲ませてあげますからね。」

小さな瓶に入った液体を口移しで与えられる。
苦味の強い避妊薬のはずなのに、ヴァレの唇から与えられると甘く感じた。

「上手に飲めましたね。えらいえらい。
ここからは…手加減なしで。…いいですよね?」

うっそりとヴァレが笑う。
どろりと溶けたアメジストの瞳に獲物だけが写っている。
私を見下ろし、真上に反った雄々しいそれを見せつけるようにしごいている。
私は魅了されたように逆らえなくて、逆らう意思すらも無くて、うつ伏せに寝そべり獣のようにお尻を高く上げ、はしたなさを感じる事もなく大事な所を両手で広げ彼を誘った。

「…ああ…サイカ、なんていやらしい…!」

ゆっくりと。
入り口に先端の大きなカリが押し入る。
ヴァレの骨ばった、大きな手のひらが私の尻を掴み、一気に自分へと寄せた。

「あああああああぁぁぁ…!!」

「ぐっ……サイカ、そんな…入れただけで…!」

たった一突き。それだけで私は簡単に達し、きゅんきゅんと脈打ちながらヴァレを締め付けている。
ちかちかと周りに光の粒が飛んで、余韻も凄くて一気に身体に怠さを感じたけれど、気持ちよさと興奮が覚め止まない。
もっともっとと腰が小刻みに動いて、ヴァレが小さく笑うのが分かった。

「…全く貴女って人は。愛しいったらない。」


ばつばつと肌のぶつかる大きな音がする。
ぶつかる肌からは互いの粘膜が糸を引いて、くっついて、離れてを繰り返している。
精液と愛液の混じったものが私の太腿を伝いシーツを汚す。
体勢が変わるたび濡れたシーツの冷たさを感じて、だけどいつまで経っても乾く事はない。
私ははしたない程の大きな喘ぎが止まらず、ヴァレは咆哮しながら私を犯す。
互いに理性なんて等に無くなって、獣のように激しく交わっている。
ベッドの上にはもう、ただの雄と雌しかいなかった。

「お、あっ、あ、ぅあ、お、おっ、ああ…!」

「は、はっ、ぐ、は、おっ、ぐっ…あ、はぁっ…!!」

人らしい言葉はない。
好きも愛してるもない。
ただただ意味を成さない言葉ばかりが出ている。
けれど、ヴァレの愛はこれでもかという程私に伝わっている。
ヴァレの中に収まらない愛が、私を愛して愛して、堪らないくらい愛しているその情がヴァレの中でどうにも出来なくなって、行き場を失ったものが全部、直接ぶつかってくる。
十分過ぎる程に伝わってくるのだ。
言葉なんて必要ない。
きっと、私の気持ちも十分過ぎる程彼に伝わっているだろう。
愛する雄にひたすら求められ支配され蹂躙される幸せ。
優しく紳士な人の皮を一皮剥けば、彼は強く雄々しく、美しい獣だった。

「ぐああ…!!」

「ひっ…ぁ、ああーーーー!!」

後ろから抱き締めるようにヴァレの腕が腹に回り、彼の身体が重くのし掛かってくる。
身動き一つ出来ないまでの力強さに、彼が、正しく男として生まれたのだと強く思う。
身動きの取れないまま何度目になるだろうか分からない子種を注がれ、また休む暇もなく犯され、愛され続ける。
有り得ない量の子種は既に膣には収まらず溢れてしまっているのに、それでもヴァレは私に子種を注ぎ続けるのだ。
私に快楽を与え、絶頂を与え続け、自分という雄を刻み付ける。
それはもう、力強く。
そのたびに私は信じられない気持ちになるのだ。
どうして、彼程素晴らしい男が世の女たちに嫌われているのか。
こんなにも素晴らしい雄なのに、その事実に気付いてもいない世の中の女たちが信じられなくて、そして、とても嬉しい気持ちになるのだ。
知らないなんて可哀想に。
彼が、どんなに素晴らしい男か知らないなんて。
こんなに強く逞しい男が何人もいるはずがないのに。
知らないなんて、なんて可哀想なの、と。
だけど、知らなくていい。知って欲しくない。
私だけが知っていたのでいい。
私しか知らなくていい。
これから先だって、私だけが知っているだけでいい。
ヴァレリア・ウォルトという男が、どれだけ素晴らしい雄なのかは。

出会った頃の自信のない、おどおどして頼りなさげな、吹けば消えてしまいそうな彼はもういない。
出会った頃の、女のおの字も知らない純真で純情な彼はもういない。
今、私を組み敷いているのは荒々しく、強く、美しい獣だ。
私を蹂躙し、支配する強い雄。
支配者に相応しい、雄々しい獣。
とびきりの雄に私は愛され、この上ない悦びと幸せを感じていた。




※お知らせ※
いつも読んで下さいありがとうございます。
最近めっきり更新頻度が落ちていて、お待たせしてしまった状態で申し訳ない…
ですが!やる気と完結させたい気持ちは無くなっていませんので!
最後までやりきる所存ですっ!!

話が変わりますが、今回も二周年のお礼話を作成してる最中です。
今回はアンケートなしで勝手に書かせて頂いてますが、前回、前々回と希望の多かった愉快な信者たちのお話になります。
楽しみにして頂いると嬉しいです☆
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