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① 悪夢の始まり
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幸せな微睡みを漂っている中、何かが蒼の身体を這っていた。
何かは生あたたかく、何かは優しく滑るように蒼の身体を這っている。
「あふ…、…ぅぅん…」
何ともそこばゆい感覚。けれど気持ちがいい。
何かは優しく時に力強く、執拗に蒼の身体を這っている。
「はぅ…ん、ぁ…んっ…あぁ…」
身体中を這う何かが人の手と舌かも知れないと気付いたのは暫く経ってから。
確かめるように、労るような優しい手付きで胸を揉まれ、唇に何度も温かいものが落ちてくる。
胸の先をきゅっと摘ままれ、甘く痺れるような心地よさに身を任せていると、“ふ”と耳元で音がして、蒼はその音を大好きな夫の声に違いないと思った。
口付けと優しい愛撫は尚も続いており、蒼は嬉しさと愛しさで胸がいっぱいになった。
洋太のセックスはいつも急性で荒々しく、それが前戯であろうと変わりなかったけれど、今はこんなにも優しく蒼に触れている。
蒼の反応を確かめるように、蒼が気持ちいいと感じるように、蒼を労るようなその優しい愛撫はこれまでの独りよがりなものではなく、蒼ありきのものに感じられて、とても幸せな気持ちだった。
「…ぁん……ようちゃん…」
キスもセックスも、蒼の相手は全部洋太だけ。
それは当たり前の事だったから、蒼は特に意識もせず夢見心地のままに洋太の名前を呼んだだけだったのだが。
「いっ…!?」
しかし次の瞬間突然胸に痛みが走り、蒼がそれまで心地よさに閉じていた目を大きく開けると二つの金色と目がかち合った。
「ひっ!?」
「酷い娘だな、蒼。
俺を愛していると言うたその唇で別の男の名を呼ぶか。」
「!?」
目を開けたすぐ先に、息を呑むほど美しい男の顔があった。
蒼の鼻先と男の鼻先がくっついてしまいそうな距離だというのに、蒼は男の金の瞳に見つめられ何故か顔を背ける事が出来ないでいる。
凡そ、同じ“人”とは思えなかった。
何故か自然と頭を下げなければならないような…恐れ、敬わなければならないような、そんな訳の分からない気持ちにさせる雰囲気も、金色に輝く瞳も。蒼は目の前の美しい男を人間だとは到底思えなかった。
視線を反らすことも出来ず、ただじっと時を止めたように見つめ合う中、再び男が口を開く。
「蒼よ。約束を違えたな。」
「……え…?」
にぃ、と。目の前の男がぞっとするような冷たい笑みを浮かべた瞬間、蒼の中の本能が大きな警鐘を鳴らした。
逃げなければ。逃げなければならないとそう思うのに、まるで身体が縫い付けられたようにその場から動くことが出来ない。
怪しく光る金色の瞳の中に、青ざめた蒼が映っていた。
「お前に罰を与えねばならん。」
「…ば、罰…?」
「そう青ざめるな。お前を痛め付けようなどとは思っておらん。」
「…な、に…?」
「蒼。お前が素直になれば…すぐに赦してやろう。」
蒼には男の言葉の意味が一つとして理解出来なかった。
一体、何の罰だというのか。何をしたが故の罰なのか。これから何をされるのか。
動けず固まったままの蒼の唇に男の唇が重なり、くちゅ、と生温かい舌が這った。
「蒼。お前を痛め付ける気はないが。…俺はな、此度の事に腹を立てておるのよ。…お前を憎たらしく思うほどに。」
「な、なにも、してない…私、何も、」
「いいや。お前は約束を違えた。
…蒼、約束とは重いものだ。そう、特に俺との約束は。
覚えておらん、では到底許されぬし俺の気が晴れん。
しかしなぁ、蒼。俺は優しい方だ。
…だからはよう、素直になろうな。」
気遣うように頬を撫でられてから。そこから恐ろしい行為が始まった。
男は蒼を組み敷いたまま再び口付けを始める。
蒼は唇を閉じて抵抗するけれど、息苦しさに耐えきれず僅かに唇を開けば途端、舌を捩じ込まれた。
蒼の舌の上を男の舌がなぞるように上下に這い、蒼が逃げようと舌を引っ込めようとしたなら蒼の舌を男が吸った。
後頭部に手が回り、くちゅくちゅと音を立てながら容赦ない口付けが続く中、蒼の背筋に甘い痺れが走る。
こんなキスを、蒼は知らなかった。知らない感覚が恐ろしくて、蒼は洋太に助けを求めた。
「ふぁ、ひぅ…よ、ん、よ、ちゃ…よう、ちゃ…たひゅ、たしゅけ…ぁ、んんっ…!?」
蒼が涙を流しながら洋太に助けを求めると、男は荒々しく蒼の口内を犯す。
息をする間もなくまた容赦もない。
蒼は何とか鼻で息をしようと試みるけれど、鼻呼吸だけでは追い付かない。
激しい口付けに空気が足りず蒼は死んでしまうかも知れないと本気で思った。
死ぬかもしれないという恐怖。そして洋太以外の男に口付けをされているのも嫌で、蒼は男の舌を思いきり噛んで抵抗を見せた。
蒼の必死の抵抗により、男の唇が一旦離れ蒼は咳き込みながら必死に呼吸を整える。
もう止めて、と懇願しながら男に視線を向ければ…
「っ…」
男の金の瞳が冷たく蒼を見下ろしており、その瞳には怒りや憎しみしか感じられず蒼の身体が大きく震え出してしまう。
「伽の最中に他の男を呼ぶとは何事か。」
「ぁ…お、お願い、お願いします…、も、止めて下さい…!私、何もしてない…それに、お、夫がいるんです!結婚してるんですっ!夫、夫を、愛してる!洋ちゃ…夫以外の人と、こ、こんなことしたくないんです…だから「黙れ」
夫がいるから止めてほしいと懇願すれば余計に男に怒りが全身に突き刺さる。
蒼は恐ろしくて堪らなかったけれど、止めて下さいとひたすら懇願し続けることしか出来なかった。
男は冷たく蒼を見下ろしたまま、再び蒼の身体に触れ始めた。
男の愛撫は執拗で、けれど荒々しくはなく優しい手付きで蒼の身体に快楽を刻み付けていく。
洋太以外との行為など考えられない。
心の底から嫌だと思っているのに、心とは裏腹に蒼の身体は男の愛撫に反応していた。
男につねられ、吸われる事を期待しているかのように蒼の乳首はじくじくと熱を持ち、ぴんと硬くなって主張している。
男の舌先が乳首の先端に少し触れただけで、蒼の身体は大袈裟なほど反応した。
「この手に収まらん大きな乳…雄の視線を嫌でも集めただろう。
この白く柔い肌に跡を付け揉みしだきいやらしく形を変えているのを見ると堪らん気持ちになるな…。」
「ああぁ、いやぁ…!やめて…やめてよぉ…!」
「嫌だ止めろと言うなら何故、お前の此処はこんなに硬くなっている。こねれば甘い声を上げしゃぶれば背を反らすのは何故だ?嫌ではなく悦い、だろう?…蒼は嘘つきよなあ。」
「ちがぁ…!ほ、とにいぃ、いやあぁ!あんっ、あんんっ!」
今まで経験した事のない感覚が蒼の身体を支配していた。
嫌で仕方ないのに。恐ろしくて堪らないのに、なのに身体がちっとも言う事を聞きやしない。自分の身体であるはずなのに、まるでそうではないような、自分の身体が、男のものであるかのような錯覚さえし始める。
男の瞳は変わらず冷たいままであるのに、そのくせ手付きは酷く優しくて丁寧なのがまた恐ろしかった。
男は手と舌で蒼を翻弄し、訳も分からず快楽を拾い堪らず喘ぐ蒼を見て楽しんでいる様子だった。
「そろそろ…女陰も愛でてやろうか。あれだけ喘いでおったのだから、さぞ寂しかったろう。」
ほと?と蒼が疑問に思っている内、男が蒼の股の中心、その割れ目をなぞる。
男の指が上下に割れ目をなぞるだけでぬちゃぬちゃと蒼にとって信じられない大きな水音がした。
「はは。蒼の此処は待ちわびておったのか。なぞっているだけというのに…穴に近付くと勝手に吸いついてくるわ。
はよう入ってこいと誘っているようだぞ?」
「あぁぁ、ちがぁ」
「何が違う。んん?この音が聞こえんとは言わせんぞ蒼。
全部、お前の女陰から出ているではないか。…なあ、蒼。」
「ひんっ、ちが、こん、こんな、のぉ、ちがぅぅ…!」
「そうか。違うというならこの目で確かめてみるとしよう。」
そう言って。男は蒼の両足をいとも簡単に持ち上げ広げ、除き込むように股の間に顔を近付ける。
自分自身は勿論、洋太にも陰部を至近距離でまじまじと見られた経験などなかった蒼は恥ずかしさの余り力を入れて両足を閉じようとしたけれど、男の腕がそれを許さなかった。
「ほお…蒼の此処は余り男を知らぬようだな。
はぁ…しかし…このいやらしい匂いは堪らん…。
蒼。お前の此処がどうなっておるか、よぉく教えてやろう。お前の此処は尻の穴まで蜜を垂れさせ物欲しそうにひくついておるぞ。」
「ぅぅ…」
「どれどれ……ははっ!これはまた凄い事になって…。この小さな穴の入り口からどんどん蜜が溢れてくるわ…勿体無い。」
「!!?ひあ、ああぁぁぁぁぁ!?」
蒼は男が何をしているのか分からなかった。
じゅるじゅる、ずそそそとおかしな音が聞こえ信じられないほどの快楽が背筋を走り、頭がおかしくなりそうだった。
「ああ、あひっ、な、にゃに、して、ひぃん…!」
「旨そうだからな。舐めて吸って、味わっておるのよ。」
「ぁじ…?あぁぁぁああぁ…!」
「うん…?されたことがないのか?」
「なっいぃ…!こん、な、ゃめ、あっ!こん、しやないぃぃ…」
「そうかそうか。此処にしゃぶりついたのは俺が初めてか。よいよい。気に入ったのならもっとしてやろうな。」
男は何が嬉しいのか。
楽しそうに笑いながら蒼の左右の太股を持ち、自分の顔へと引き寄せ蒼の陰部にしゃぶりつく。
それはもう、執拗に。じゅるじゅる、ずず、と蒼の羞恥を煽るような卑猥な音を立たせながら膣内に舌を這わせ、奥から溢れる愛液をすすり、小さな芽を弄んでいる。
指で膣の浅い所を引っ掻けば、蒼はひんひんと声にならない声で鳴いた。
悔しさと恥ずかしさ。そして洋太以外にこんなことをされているのに、勝手に身体が反応してしまう情けなさといったらなかった。
男が与える快楽は蒼には全て未経験の快楽だった。
“気持ちいい”がどんどん大きくなって背筋がぞわぞわとしてしまう。
身体が変だ。さっきからおかしい。変だ。何かくる。何かが。
その“何か”がきてしまったら、きっとおかしくなってしまう。
蒼は未知の恐怖、不安を必死に抑えようとした。
唇を噛み締め、爪が肉に食い込むまで手をぎゅっと握りしめ、訳の分からない感覚に必死に耐えようとしたのに。
「蒼。…蒼。
何も恐ろしいことはない。抗う必要もない。快楽に身を委ね…達け。」
男が蒼の唇に深く口付け、器用に親指で芽を押し潰しつつ人差し指と中指で膣内を掻いた瞬間、蒼の中で何かが弾け、塞がれた唇、その奥から甘く媚びるような音が漏れた。
「んうぅぅ~~~♡」
「…蕩けた顔をしおって…ああ、愛いなあ…蒼…。
どうだ?初めて達した感想は。悦かったろう?」
「……は…ぇ……?」
「お前の愛する夫とやらは妻たるお前を悦ばせることも出来んかったらしい。
蒼の体はこんなにも素直でいやらしい体をしておったのに。…可哀想になあ。」
快楽の余韻でまともに思考が働かない蒼には男の言葉すら耳に届いていなかった。
「全身を痙攣させるほど悦かったか?
愛い愛い。蒼は愛いなあ。
…どれ。もっと悦くしてやろう。」
目尻を下げ、蕩けるような笑みを向けながら、男は再び蒼の身体を愛撫し始めた。
もう指一本すら動かすのも億劫で抗う気力すら蒼にはなかった。
恐怖を感じるほどの強い快楽が男によって与えられる、地獄のような時間。
「あんっ♡あんっ♡ひぅ、ぁ、ぁあ!やらぁ、んっひぃん…♡」
「よしよし。気持ちいいなぁ、蒼。
蒼の体は素直ないい子だ。好きなだけ達するといい。その蕩けた顔をもっと見せておくれ。」
小さな波と大きな波が繰り返し押し寄せ蒼の思考を奪っていく。
何度めかも分からない波が蒼を襲い意識が遠退く瞬間、瞼の裏に洋太の顔が浮かび、蒼は掠れた声で愛する洋太の名を呼んだ。
「…理性が残っておったか…口惜しいことよ。」
男の、感情を削ぎ落としたような表情。
ああ、終わった。やっと終わったんだと、蒼はこの恐ろしい行為の終わりが訪れたことを悟った。
「はあっ…!はぁ、はぁ…、……ぁ…?…ゆ、め……?」
視界が開き、勢いよく体を起こすとそこは洋太と蒼が暮らすマンションの寝室だった。
視線を下げればきちんと寝間着を着ており、震える手でボタンを外せばあの恐ろしい行為の跡も何処にもない。
夢だった。あれは全部夢だった。
夢だった?本当に?
行為の跡など何処にもないのに、蒼の体には快楽の余韻が残っていた。
夢なのか現実だったのか。夢であってほしい。
視線を隣へ向ければ、蒼の隣で静かに寝息を立てる洋太がいた。
幸せそうに眠る洋太の寝顔を見て、蒼はあれが夢だったのだとやっとそう思うことが出来た。
「……かった。…夢で、よかった…」
安堵すると涙が溢れた。
洋太ではない男との恐ろしい行為。
洋太ではない男に愛撫され感じた自分。
洋太を裏切る行為。
夢での行為は愛撫だけで最後までは為されなかったものの、行為そのものが蒼にとって地獄だった。
夢で良かった。本当に良かった。
恐怖と嫌悪と罪悪感と自責の念、そして安堵。色んな感情が涙になって溢れ落ちる。
蒼は涙を止めることなく眠る洋太の胸元に寄り添い、洋太の寝顔を見つめ続けた。
「いってらっしゃい、洋ちゃん。」
「いってきます!」
会社へ向かう洋太を笑顔で見送り、蒼は幸せな現実を噛み締めた。
重く感じる体も、疼いたままの体も気のせいだ。
夢は夢。ただの夢。夫になった洋太との生活こそが現実。
掃除に洗濯、料理と忙しく体を動かし、夫の帰りを待ち、その夜は洋太に抱き締めてもらって眠りについた。
愛する夫の腕の中にいれば、二度とあんな恐ろしい夢は見ない。そう思って。
疲れからか、睡魔はすぐにやってきた。
目を開けた蒼は布団の上に座っていた。
洋太と眠る寝室のベッドではなく、広い和室、畳の上に敷かれた布団の上。
昨日見た夢と同じ部屋の中に、蒼はいた。
「待ったぞ、蒼。」
「!?」
耳に残るその低い声。
信じられない気持ちで恐る恐る視線を向ければ、夢の中で蒼に恐ろしい行為を行った男がいた。
着流し姿の男は片膝を立て、尊大な態度で座っており、その姿はやはりこの世のものとは思えない、恐ろしく美しい容姿をしていた。
ゆるくうねった腰まである白い髪に筋の通った鼻。
金の瞳が蒼をじっと捉え、薄い唇は弧を描いている。
どうして。何故またこの男の夢を。
そんな疑問が浮かぶが喉が張り付き言葉が出ない蒼をおかしそうに見つめ、男は立ち上がる。
一歩。男が足を進めると蒼の本能が警鐘を鳴らす。
また一歩。男が足を進めた所で蒼は気付く。昨日と同じく、体が縫い付けられたように動かないことに。
夢であるのに。自分の夢であるはずなのに視線すら反らせず、男が一歩、また一歩と蒼に近付くのをただ見るだけしか出来ない。
あと数歩進めば男が蒼の前に立つといった所で、しゅる、と男が帯を解き、帯と共に男の着流しが床に落ちる。
男の裸体はまるで彫刻のようだった。
獣のように雄々しくしなやかな、“雄”という言葉が相応しい肉体。
膝をつき蒼の頬に手を添える男の瞳に怯える自分の姿が映った瞬間、蒼はこれから始まるだろう地獄に恐怖した。
「今宵もたんと悦ばせてやろうな。蒼。」
怯えた表情の蒼とは違い、男はうっとりとした表情だった。
(ああ。私が一体、何をしたというのだろう。)
蒼の目から一筋、涙が溢れた。
同姓からは嫌われ同姓の友人も出来ない。
好意もない異性から言い寄られ、欲の隠せていない、性の対象とした気持ちの悪い目で見られ、慕った母親からも疎まれている。
洋太と結ばれ、夫婦になって、これからの日々は幸せを感じながら生きていくことが出来ると喜んでいたのに。
蒼は洋太を裏切るような夢を見てしまう自分にどうしようもなく腹が立った。
そして再び、地獄の時間が始まる。
「洋ちゃ…洋ちゃん、洋ちゃん洋ちゃん洋ちゃ…んぶっ!!」
蒼が洋太の名を呼べば、男は噛み付くように蒼の唇を塞いだ。
男の舌が喉まで侵入しえずく蒼にも容赦なかった。
着ていた寝間着は引きちぎられ、蒼はあっという間に生まれたままの姿になった。
「ひぃ!」
蒼の股の間に男の体が割り込み、細い腰を大きな手が掴んだかと思うと蒼の体が下に引きずられ、尻が男の太股に乗ったのが分かったのと同時に熱く硬い、大きな何かが蒼の膣口にぴたりとくっついた。
それが“何か”を理解した瞬間、蒼は余りの恐怖に堪らず悲鳴を上げ、その“何か”から少しでも距離を取ろうと必死にもがいた。
「いやあああああああ!!」
蒼の膣口のぴたりとくっついたままの男の亀頭。
仰向けだった体を捻り、ずりずりと這うように上へと蒼は逃げるけれど、男によって簡単に元の位置に戻されてしまう。
寝間着も下着も身に付けていない。露になった蒼の膣口に狙いを定めるようにして男の亀頭がくっついている。
止めて、挿れないで、洋太以外、夫以外は嫌だと悲鳴交じりに懇願すれば、男は苛立ったままの表情は変えず冷たい目付きで蒼を見る。
「そうか。…それほどまでに夫とやらを愛しておるか。」
その問いに、蒼は何度も頷いた。
目の前の男に理解してもらおうと夫への想いを隠すことなく語った。
自分のこれまで。幸せとは言いがたかった人生も洋太がいたから生きてこれたその真実を。
自分には洋太だけ。夫が大切で、誰よりも愛している事を蒼は必死に男に伝えた。
どうか分かって欲しい。こんな夢など見たくない。もう解放してほしいとそんな思いを込めて。
しかし、男は無情だった。
「蒼。ならば耐えればよいだけだ。」
「…え?」
「俺も別に鬼ではない。そしてこれは伝えた通りお前への罰よ。お前は罰を受けねばならん。それだけの事をした。
なに。簡単な事。お前の、夫へのその愛を俺に示せばよい。」
「?」
「無理矢理押し入る真似はせん。
お前の女陰が固く閉じたままであればよい話だ。
愛する夫とやら以外とは嫌なのだろう?であれば。夫以外に触れられいやらしく感じるはずもあるまいて。…なあ?蒼。」
“耐えろよ”と耳元で囁かれた後、男の表情を見た蒼はゾッとした。
何の感情もこもっていない表情だったけれど、男が怒っているのは分かった。
心の底からの怒りを、蒼は感じた。
何が男の逆鱗に触れたのか、蒼には分からない。
ただ、どうしてと自問することしか出来ず、男が蒼の体に触れた。
「っ……く、…ぅあ……ひっ…!」
「ほれ蒼、もっと耐えよ。
…愛する夫がいるのだろう…?」
「ぅくっ…ひ、…ひぁ…んっ…」
「これ、指を噛むな。指だろうとお前が傷付くのは好かん。」
「はぅぅん……!」
蒼は背筋を這う快楽に手の甲を噛み、痛みで上書きしようとしたけれど、男の手によって両手を敷き布団へと縫いとめられとうとう大きな声を出してしまう。
ならばと唇を噛もうとすれば男は蒼の唇を塞ぎ舌を絡めてくる。
気持ちいい。気持ち悪い。嫌だ。恐い。気持ちいい、気持ちいい気持ちいい。
与えられる快楽が蒼には恐ろしくて堪らない。
男は時間をかけ丁寧に、執拗に蒼の体を味わい、触れ、快楽を引き出す。
何とか声を出さないように蒼は我慢するけれど口を開けば自分の声とは思えない甘い声が出てしまい、男が喜ぶ。それがまた蒼を情けない気持ちにさせた。
「蒼。それ、もっと耐えぬか。何だこの濁った音は。にちゃにちゃぬちゃぬちゃといやらしい音をさせおって。」
男は楽しそうに笑っていた。
目が三日月のように弧を描き、愉快といった様子で笑いながら耐える蒼を見ている。
心の底から楽しんでいる様子だった。
「ああ…蒼の此処は素直なことよ…魔羅の先に吸い付いては…はよう入ってこいと誘って…。」
「さそって、ないぃ…!」
「そうか?擦って…入り口に触れれば悦んで吸い付いておるが…。お陰でうっかり入らんようにするので精一杯よ。」
男は上下にゆっくりと腰を動かし、芽と膣の入り口を刺激しながら蒼の全身を弄ぶ。
口内と耳の穴を舌で犯し、たぷんと大きく育った胸に歯を立て乳輪ごと吸い付いては乳首を舌で転がし甘噛みを繰り返す。
ちゅぽ、と男の唇が蒼の乳首から離れ、胸を凝視すると…うっとりと、それはもう蕩けるような表情で笑った。
「噛み跡に赤い跡。蒼の白い肌に映えて美しいぞ…。乳首も赤く腫れて…愛いなあ。」
どれだけ弄ればそうなるのか。
蒼の乳首は可哀想なほど腫れ、じんじんと熱を持っている。
ふう、と男が息を吹き掛けるだけで。それだけで甘い痛みが蒼を襲い、体が大きく跳ねたその瞬間。
「ーーーー!!?」
蒼の中に、異物…男の亀頭が入ってしまった。
「…ああ……入ってしまったなあ。」
男の亀頭が膣口を割り込みくぽりと膣に入った瞬間、男の手管によってさんざん体を弄ばれ快楽を与えられ続けた蒼はきゅうきゅうと男のを締め付けながら達してしまう。
男を拒絶する心に反して、蒼の膣内は待ち望んでいたように男を味わっていた。
子宮の疼きが男に直接伝わるほどに。
「は……これは堪らん…。」
陰茎を優しく包みこみながら、奥へ奥へと蒼の膣が男を誘う。
もっともっと、もっと奥へと蒼の子宮の疼きが亀頭を通って男へ。
男は愛しげに蒼を見つめながら微笑んだ。
「終いだな、蒼。」
そう言って、男は蒼の奥へと腰を進めた。
そこからの世界は、蒼の知らない未知の領域だった。
何かは生あたたかく、何かは優しく滑るように蒼の身体を這っている。
「あふ…、…ぅぅん…」
何ともそこばゆい感覚。けれど気持ちがいい。
何かは優しく時に力強く、執拗に蒼の身体を這っている。
「はぅ…ん、ぁ…んっ…あぁ…」
身体中を這う何かが人の手と舌かも知れないと気付いたのは暫く経ってから。
確かめるように、労るような優しい手付きで胸を揉まれ、唇に何度も温かいものが落ちてくる。
胸の先をきゅっと摘ままれ、甘く痺れるような心地よさに身を任せていると、“ふ”と耳元で音がして、蒼はその音を大好きな夫の声に違いないと思った。
口付けと優しい愛撫は尚も続いており、蒼は嬉しさと愛しさで胸がいっぱいになった。
洋太のセックスはいつも急性で荒々しく、それが前戯であろうと変わりなかったけれど、今はこんなにも優しく蒼に触れている。
蒼の反応を確かめるように、蒼が気持ちいいと感じるように、蒼を労るようなその優しい愛撫はこれまでの独りよがりなものではなく、蒼ありきのものに感じられて、とても幸せな気持ちだった。
「…ぁん……ようちゃん…」
キスもセックスも、蒼の相手は全部洋太だけ。
それは当たり前の事だったから、蒼は特に意識もせず夢見心地のままに洋太の名前を呼んだだけだったのだが。
「いっ…!?」
しかし次の瞬間突然胸に痛みが走り、蒼がそれまで心地よさに閉じていた目を大きく開けると二つの金色と目がかち合った。
「ひっ!?」
「酷い娘だな、蒼。
俺を愛していると言うたその唇で別の男の名を呼ぶか。」
「!?」
目を開けたすぐ先に、息を呑むほど美しい男の顔があった。
蒼の鼻先と男の鼻先がくっついてしまいそうな距離だというのに、蒼は男の金の瞳に見つめられ何故か顔を背ける事が出来ないでいる。
凡そ、同じ“人”とは思えなかった。
何故か自然と頭を下げなければならないような…恐れ、敬わなければならないような、そんな訳の分からない気持ちにさせる雰囲気も、金色に輝く瞳も。蒼は目の前の美しい男を人間だとは到底思えなかった。
視線を反らすことも出来ず、ただじっと時を止めたように見つめ合う中、再び男が口を開く。
「蒼よ。約束を違えたな。」
「……え…?」
にぃ、と。目の前の男がぞっとするような冷たい笑みを浮かべた瞬間、蒼の中の本能が大きな警鐘を鳴らした。
逃げなければ。逃げなければならないとそう思うのに、まるで身体が縫い付けられたようにその場から動くことが出来ない。
怪しく光る金色の瞳の中に、青ざめた蒼が映っていた。
「お前に罰を与えねばならん。」
「…ば、罰…?」
「そう青ざめるな。お前を痛め付けようなどとは思っておらん。」
「…な、に…?」
「蒼。お前が素直になれば…すぐに赦してやろう。」
蒼には男の言葉の意味が一つとして理解出来なかった。
一体、何の罰だというのか。何をしたが故の罰なのか。これから何をされるのか。
動けず固まったままの蒼の唇に男の唇が重なり、くちゅ、と生温かい舌が這った。
「蒼。お前を痛め付ける気はないが。…俺はな、此度の事に腹を立てておるのよ。…お前を憎たらしく思うほどに。」
「な、なにも、してない…私、何も、」
「いいや。お前は約束を違えた。
…蒼、約束とは重いものだ。そう、特に俺との約束は。
覚えておらん、では到底許されぬし俺の気が晴れん。
しかしなぁ、蒼。俺は優しい方だ。
…だからはよう、素直になろうな。」
気遣うように頬を撫でられてから。そこから恐ろしい行為が始まった。
男は蒼を組み敷いたまま再び口付けを始める。
蒼は唇を閉じて抵抗するけれど、息苦しさに耐えきれず僅かに唇を開けば途端、舌を捩じ込まれた。
蒼の舌の上を男の舌がなぞるように上下に這い、蒼が逃げようと舌を引っ込めようとしたなら蒼の舌を男が吸った。
後頭部に手が回り、くちゅくちゅと音を立てながら容赦ない口付けが続く中、蒼の背筋に甘い痺れが走る。
こんなキスを、蒼は知らなかった。知らない感覚が恐ろしくて、蒼は洋太に助けを求めた。
「ふぁ、ひぅ…よ、ん、よ、ちゃ…よう、ちゃ…たひゅ、たしゅけ…ぁ、んんっ…!?」
蒼が涙を流しながら洋太に助けを求めると、男は荒々しく蒼の口内を犯す。
息をする間もなくまた容赦もない。
蒼は何とか鼻で息をしようと試みるけれど、鼻呼吸だけでは追い付かない。
激しい口付けに空気が足りず蒼は死んでしまうかも知れないと本気で思った。
死ぬかもしれないという恐怖。そして洋太以外の男に口付けをされているのも嫌で、蒼は男の舌を思いきり噛んで抵抗を見せた。
蒼の必死の抵抗により、男の唇が一旦離れ蒼は咳き込みながら必死に呼吸を整える。
もう止めて、と懇願しながら男に視線を向ければ…
「っ…」
男の金の瞳が冷たく蒼を見下ろしており、その瞳には怒りや憎しみしか感じられず蒼の身体が大きく震え出してしまう。
「伽の最中に他の男を呼ぶとは何事か。」
「ぁ…お、お願い、お願いします…、も、止めて下さい…!私、何もしてない…それに、お、夫がいるんです!結婚してるんですっ!夫、夫を、愛してる!洋ちゃ…夫以外の人と、こ、こんなことしたくないんです…だから「黙れ」
夫がいるから止めてほしいと懇願すれば余計に男に怒りが全身に突き刺さる。
蒼は恐ろしくて堪らなかったけれど、止めて下さいとひたすら懇願し続けることしか出来なかった。
男は冷たく蒼を見下ろしたまま、再び蒼の身体に触れ始めた。
男の愛撫は執拗で、けれど荒々しくはなく優しい手付きで蒼の身体に快楽を刻み付けていく。
洋太以外との行為など考えられない。
心の底から嫌だと思っているのに、心とは裏腹に蒼の身体は男の愛撫に反応していた。
男につねられ、吸われる事を期待しているかのように蒼の乳首はじくじくと熱を持ち、ぴんと硬くなって主張している。
男の舌先が乳首の先端に少し触れただけで、蒼の身体は大袈裟なほど反応した。
「この手に収まらん大きな乳…雄の視線を嫌でも集めただろう。
この白く柔い肌に跡を付け揉みしだきいやらしく形を変えているのを見ると堪らん気持ちになるな…。」
「ああぁ、いやぁ…!やめて…やめてよぉ…!」
「嫌だ止めろと言うなら何故、お前の此処はこんなに硬くなっている。こねれば甘い声を上げしゃぶれば背を反らすのは何故だ?嫌ではなく悦い、だろう?…蒼は嘘つきよなあ。」
「ちがぁ…!ほ、とにいぃ、いやあぁ!あんっ、あんんっ!」
今まで経験した事のない感覚が蒼の身体を支配していた。
嫌で仕方ないのに。恐ろしくて堪らないのに、なのに身体がちっとも言う事を聞きやしない。自分の身体であるはずなのに、まるでそうではないような、自分の身体が、男のものであるかのような錯覚さえし始める。
男の瞳は変わらず冷たいままであるのに、そのくせ手付きは酷く優しくて丁寧なのがまた恐ろしかった。
男は手と舌で蒼を翻弄し、訳も分からず快楽を拾い堪らず喘ぐ蒼を見て楽しんでいる様子だった。
「そろそろ…女陰も愛でてやろうか。あれだけ喘いでおったのだから、さぞ寂しかったろう。」
ほと?と蒼が疑問に思っている内、男が蒼の股の中心、その割れ目をなぞる。
男の指が上下に割れ目をなぞるだけでぬちゃぬちゃと蒼にとって信じられない大きな水音がした。
「はは。蒼の此処は待ちわびておったのか。なぞっているだけというのに…穴に近付くと勝手に吸いついてくるわ。
はよう入ってこいと誘っているようだぞ?」
「あぁぁ、ちがぁ」
「何が違う。んん?この音が聞こえんとは言わせんぞ蒼。
全部、お前の女陰から出ているではないか。…なあ、蒼。」
「ひんっ、ちが、こん、こんな、のぉ、ちがぅぅ…!」
「そうか。違うというならこの目で確かめてみるとしよう。」
そう言って。男は蒼の両足をいとも簡単に持ち上げ広げ、除き込むように股の間に顔を近付ける。
自分自身は勿論、洋太にも陰部を至近距離でまじまじと見られた経験などなかった蒼は恥ずかしさの余り力を入れて両足を閉じようとしたけれど、男の腕がそれを許さなかった。
「ほお…蒼の此処は余り男を知らぬようだな。
はぁ…しかし…このいやらしい匂いは堪らん…。
蒼。お前の此処がどうなっておるか、よぉく教えてやろう。お前の此処は尻の穴まで蜜を垂れさせ物欲しそうにひくついておるぞ。」
「ぅぅ…」
「どれどれ……ははっ!これはまた凄い事になって…。この小さな穴の入り口からどんどん蜜が溢れてくるわ…勿体無い。」
「!!?ひあ、ああぁぁぁぁぁ!?」
蒼は男が何をしているのか分からなかった。
じゅるじゅる、ずそそそとおかしな音が聞こえ信じられないほどの快楽が背筋を走り、頭がおかしくなりそうだった。
「ああ、あひっ、な、にゃに、して、ひぃん…!」
「旨そうだからな。舐めて吸って、味わっておるのよ。」
「ぁじ…?あぁぁぁああぁ…!」
「うん…?されたことがないのか?」
「なっいぃ…!こん、な、ゃめ、あっ!こん、しやないぃぃ…」
「そうかそうか。此処にしゃぶりついたのは俺が初めてか。よいよい。気に入ったのならもっとしてやろうな。」
男は何が嬉しいのか。
楽しそうに笑いながら蒼の左右の太股を持ち、自分の顔へと引き寄せ蒼の陰部にしゃぶりつく。
それはもう、執拗に。じゅるじゅる、ずず、と蒼の羞恥を煽るような卑猥な音を立たせながら膣内に舌を這わせ、奥から溢れる愛液をすすり、小さな芽を弄んでいる。
指で膣の浅い所を引っ掻けば、蒼はひんひんと声にならない声で鳴いた。
悔しさと恥ずかしさ。そして洋太以外にこんなことをされているのに、勝手に身体が反応してしまう情けなさといったらなかった。
男が与える快楽は蒼には全て未経験の快楽だった。
“気持ちいい”がどんどん大きくなって背筋がぞわぞわとしてしまう。
身体が変だ。さっきからおかしい。変だ。何かくる。何かが。
その“何か”がきてしまったら、きっとおかしくなってしまう。
蒼は未知の恐怖、不安を必死に抑えようとした。
唇を噛み締め、爪が肉に食い込むまで手をぎゅっと握りしめ、訳の分からない感覚に必死に耐えようとしたのに。
「蒼。…蒼。
何も恐ろしいことはない。抗う必要もない。快楽に身を委ね…達け。」
男が蒼の唇に深く口付け、器用に親指で芽を押し潰しつつ人差し指と中指で膣内を掻いた瞬間、蒼の中で何かが弾け、塞がれた唇、その奥から甘く媚びるような音が漏れた。
「んうぅぅ~~~♡」
「…蕩けた顔をしおって…ああ、愛いなあ…蒼…。
どうだ?初めて達した感想は。悦かったろう?」
「……は…ぇ……?」
「お前の愛する夫とやらは妻たるお前を悦ばせることも出来んかったらしい。
蒼の体はこんなにも素直でいやらしい体をしておったのに。…可哀想になあ。」
快楽の余韻でまともに思考が働かない蒼には男の言葉すら耳に届いていなかった。
「全身を痙攣させるほど悦かったか?
愛い愛い。蒼は愛いなあ。
…どれ。もっと悦くしてやろう。」
目尻を下げ、蕩けるような笑みを向けながら、男は再び蒼の身体を愛撫し始めた。
もう指一本すら動かすのも億劫で抗う気力すら蒼にはなかった。
恐怖を感じるほどの強い快楽が男によって与えられる、地獄のような時間。
「あんっ♡あんっ♡ひぅ、ぁ、ぁあ!やらぁ、んっひぃん…♡」
「よしよし。気持ちいいなぁ、蒼。
蒼の体は素直ないい子だ。好きなだけ達するといい。その蕩けた顔をもっと見せておくれ。」
小さな波と大きな波が繰り返し押し寄せ蒼の思考を奪っていく。
何度めかも分からない波が蒼を襲い意識が遠退く瞬間、瞼の裏に洋太の顔が浮かび、蒼は掠れた声で愛する洋太の名を呼んだ。
「…理性が残っておったか…口惜しいことよ。」
男の、感情を削ぎ落としたような表情。
ああ、終わった。やっと終わったんだと、蒼はこの恐ろしい行為の終わりが訪れたことを悟った。
「はあっ…!はぁ、はぁ…、……ぁ…?…ゆ、め……?」
視界が開き、勢いよく体を起こすとそこは洋太と蒼が暮らすマンションの寝室だった。
視線を下げればきちんと寝間着を着ており、震える手でボタンを外せばあの恐ろしい行為の跡も何処にもない。
夢だった。あれは全部夢だった。
夢だった?本当に?
行為の跡など何処にもないのに、蒼の体には快楽の余韻が残っていた。
夢なのか現実だったのか。夢であってほしい。
視線を隣へ向ければ、蒼の隣で静かに寝息を立てる洋太がいた。
幸せそうに眠る洋太の寝顔を見て、蒼はあれが夢だったのだとやっとそう思うことが出来た。
「……かった。…夢で、よかった…」
安堵すると涙が溢れた。
洋太ではない男との恐ろしい行為。
洋太ではない男に愛撫され感じた自分。
洋太を裏切る行為。
夢での行為は愛撫だけで最後までは為されなかったものの、行為そのものが蒼にとって地獄だった。
夢で良かった。本当に良かった。
恐怖と嫌悪と罪悪感と自責の念、そして安堵。色んな感情が涙になって溢れ落ちる。
蒼は涙を止めることなく眠る洋太の胸元に寄り添い、洋太の寝顔を見つめ続けた。
「いってらっしゃい、洋ちゃん。」
「いってきます!」
会社へ向かう洋太を笑顔で見送り、蒼は幸せな現実を噛み締めた。
重く感じる体も、疼いたままの体も気のせいだ。
夢は夢。ただの夢。夫になった洋太との生活こそが現実。
掃除に洗濯、料理と忙しく体を動かし、夫の帰りを待ち、その夜は洋太に抱き締めてもらって眠りについた。
愛する夫の腕の中にいれば、二度とあんな恐ろしい夢は見ない。そう思って。
疲れからか、睡魔はすぐにやってきた。
目を開けた蒼は布団の上に座っていた。
洋太と眠る寝室のベッドではなく、広い和室、畳の上に敷かれた布団の上。
昨日見た夢と同じ部屋の中に、蒼はいた。
「待ったぞ、蒼。」
「!?」
耳に残るその低い声。
信じられない気持ちで恐る恐る視線を向ければ、夢の中で蒼に恐ろしい行為を行った男がいた。
着流し姿の男は片膝を立て、尊大な態度で座っており、その姿はやはりこの世のものとは思えない、恐ろしく美しい容姿をしていた。
ゆるくうねった腰まである白い髪に筋の通った鼻。
金の瞳が蒼をじっと捉え、薄い唇は弧を描いている。
どうして。何故またこの男の夢を。
そんな疑問が浮かぶが喉が張り付き言葉が出ない蒼をおかしそうに見つめ、男は立ち上がる。
一歩。男が足を進めると蒼の本能が警鐘を鳴らす。
また一歩。男が足を進めた所で蒼は気付く。昨日と同じく、体が縫い付けられたように動かないことに。
夢であるのに。自分の夢であるはずなのに視線すら反らせず、男が一歩、また一歩と蒼に近付くのをただ見るだけしか出来ない。
あと数歩進めば男が蒼の前に立つといった所で、しゅる、と男が帯を解き、帯と共に男の着流しが床に落ちる。
男の裸体はまるで彫刻のようだった。
獣のように雄々しくしなやかな、“雄”という言葉が相応しい肉体。
膝をつき蒼の頬に手を添える男の瞳に怯える自分の姿が映った瞬間、蒼はこれから始まるだろう地獄に恐怖した。
「今宵もたんと悦ばせてやろうな。蒼。」
怯えた表情の蒼とは違い、男はうっとりとした表情だった。
(ああ。私が一体、何をしたというのだろう。)
蒼の目から一筋、涙が溢れた。
同姓からは嫌われ同姓の友人も出来ない。
好意もない異性から言い寄られ、欲の隠せていない、性の対象とした気持ちの悪い目で見られ、慕った母親からも疎まれている。
洋太と結ばれ、夫婦になって、これからの日々は幸せを感じながら生きていくことが出来ると喜んでいたのに。
蒼は洋太を裏切るような夢を見てしまう自分にどうしようもなく腹が立った。
そして再び、地獄の時間が始まる。
「洋ちゃ…洋ちゃん、洋ちゃん洋ちゃん洋ちゃ…んぶっ!!」
蒼が洋太の名を呼べば、男は噛み付くように蒼の唇を塞いだ。
男の舌が喉まで侵入しえずく蒼にも容赦なかった。
着ていた寝間着は引きちぎられ、蒼はあっという間に生まれたままの姿になった。
「ひぃ!」
蒼の股の間に男の体が割り込み、細い腰を大きな手が掴んだかと思うと蒼の体が下に引きずられ、尻が男の太股に乗ったのが分かったのと同時に熱く硬い、大きな何かが蒼の膣口にぴたりとくっついた。
それが“何か”を理解した瞬間、蒼は余りの恐怖に堪らず悲鳴を上げ、その“何か”から少しでも距離を取ろうと必死にもがいた。
「いやあああああああ!!」
蒼の膣口のぴたりとくっついたままの男の亀頭。
仰向けだった体を捻り、ずりずりと這うように上へと蒼は逃げるけれど、男によって簡単に元の位置に戻されてしまう。
寝間着も下着も身に付けていない。露になった蒼の膣口に狙いを定めるようにして男の亀頭がくっついている。
止めて、挿れないで、洋太以外、夫以外は嫌だと悲鳴交じりに懇願すれば、男は苛立ったままの表情は変えず冷たい目付きで蒼を見る。
「そうか。…それほどまでに夫とやらを愛しておるか。」
その問いに、蒼は何度も頷いた。
目の前の男に理解してもらおうと夫への想いを隠すことなく語った。
自分のこれまで。幸せとは言いがたかった人生も洋太がいたから生きてこれたその真実を。
自分には洋太だけ。夫が大切で、誰よりも愛している事を蒼は必死に男に伝えた。
どうか分かって欲しい。こんな夢など見たくない。もう解放してほしいとそんな思いを込めて。
しかし、男は無情だった。
「蒼。ならば耐えればよいだけだ。」
「…え?」
「俺も別に鬼ではない。そしてこれは伝えた通りお前への罰よ。お前は罰を受けねばならん。それだけの事をした。
なに。簡単な事。お前の、夫へのその愛を俺に示せばよい。」
「?」
「無理矢理押し入る真似はせん。
お前の女陰が固く閉じたままであればよい話だ。
愛する夫とやら以外とは嫌なのだろう?であれば。夫以外に触れられいやらしく感じるはずもあるまいて。…なあ?蒼。」
“耐えろよ”と耳元で囁かれた後、男の表情を見た蒼はゾッとした。
何の感情もこもっていない表情だったけれど、男が怒っているのは分かった。
心の底からの怒りを、蒼は感じた。
何が男の逆鱗に触れたのか、蒼には分からない。
ただ、どうしてと自問することしか出来ず、男が蒼の体に触れた。
「っ……く、…ぅあ……ひっ…!」
「ほれ蒼、もっと耐えよ。
…愛する夫がいるのだろう…?」
「ぅくっ…ひ、…ひぁ…んっ…」
「これ、指を噛むな。指だろうとお前が傷付くのは好かん。」
「はぅぅん……!」
蒼は背筋を這う快楽に手の甲を噛み、痛みで上書きしようとしたけれど、男の手によって両手を敷き布団へと縫いとめられとうとう大きな声を出してしまう。
ならばと唇を噛もうとすれば男は蒼の唇を塞ぎ舌を絡めてくる。
気持ちいい。気持ち悪い。嫌だ。恐い。気持ちいい、気持ちいい気持ちいい。
与えられる快楽が蒼には恐ろしくて堪らない。
男は時間をかけ丁寧に、執拗に蒼の体を味わい、触れ、快楽を引き出す。
何とか声を出さないように蒼は我慢するけれど口を開けば自分の声とは思えない甘い声が出てしまい、男が喜ぶ。それがまた蒼を情けない気持ちにさせた。
「蒼。それ、もっと耐えぬか。何だこの濁った音は。にちゃにちゃぬちゃぬちゃといやらしい音をさせおって。」
男は楽しそうに笑っていた。
目が三日月のように弧を描き、愉快といった様子で笑いながら耐える蒼を見ている。
心の底から楽しんでいる様子だった。
「ああ…蒼の此処は素直なことよ…魔羅の先に吸い付いては…はよう入ってこいと誘って…。」
「さそって、ないぃ…!」
「そうか?擦って…入り口に触れれば悦んで吸い付いておるが…。お陰でうっかり入らんようにするので精一杯よ。」
男は上下にゆっくりと腰を動かし、芽と膣の入り口を刺激しながら蒼の全身を弄ぶ。
口内と耳の穴を舌で犯し、たぷんと大きく育った胸に歯を立て乳輪ごと吸い付いては乳首を舌で転がし甘噛みを繰り返す。
ちゅぽ、と男の唇が蒼の乳首から離れ、胸を凝視すると…うっとりと、それはもう蕩けるような表情で笑った。
「噛み跡に赤い跡。蒼の白い肌に映えて美しいぞ…。乳首も赤く腫れて…愛いなあ。」
どれだけ弄ればそうなるのか。
蒼の乳首は可哀想なほど腫れ、じんじんと熱を持っている。
ふう、と男が息を吹き掛けるだけで。それだけで甘い痛みが蒼を襲い、体が大きく跳ねたその瞬間。
「ーーーー!!?」
蒼の中に、異物…男の亀頭が入ってしまった。
「…ああ……入ってしまったなあ。」
男の亀頭が膣口を割り込みくぽりと膣に入った瞬間、男の手管によってさんざん体を弄ばれ快楽を与えられ続けた蒼はきゅうきゅうと男のを締め付けながら達してしまう。
男を拒絶する心に反して、蒼の膣内は待ち望んでいたように男を味わっていた。
子宮の疼きが男に直接伝わるほどに。
「は……これは堪らん…。」
陰茎を優しく包みこみながら、奥へ奥へと蒼の膣が男を誘う。
もっともっと、もっと奥へと蒼の子宮の疼きが亀頭を通って男へ。
男は愛しげに蒼を見つめながら微笑んだ。
「終いだな、蒼。」
そう言って、男は蒼の奥へと腰を進めた。
そこからの世界は、蒼の知らない未知の領域だった。
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