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②快楽
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蒼にとってセックスとは快楽を得る為のものではなく愛する人と想いを交わす大切な行為だ。
そもそも蒼は裸になることに羞恥心を抱いている。
たぷんと大きく実った胸も蒼にはコンプレックスでぷにっとした腹も好んで誰かに見せたいと思った事はない。
排泄をする場所などもっての他だった。だから洋太とのセックスでも未だに羞恥心が大きい。
しかし蒼はセックスが苦手ではあるが、嫌いではない。
触れ合う素肌の心地良さも好きではあるし、洋太との愛が深まっていると実感できて幸せな気持ちになれるからだ。
セックスは蒼にとって愛する洋太との大切な行為。
愛を深め合う神聖な儀式、そのはずだった。
蒼は知らなかった。
快楽というものの恐ろしさを。
楽しい、嬉しい、気持ちいい、心地いいといった幸福感を与えるものには中毒性があり、過ぎれば人を堕落させてしまう事もある。
蒼は知らなかった。男が蒼に前戯で与えた快楽など、ほんの些細なものだったことを。
「はっ、はっ…ぅ…ああ…蒼…蒼♡
悦いぞっ、堪らん…蒼っ、熱く蕩けて…魔羅にちゅうちゅうと吸い付いてくるっ…うっ…この欲張りめがっ…」
「あっ、あっ、あん、あんっ、おっ、ぅ、あぁ、あああぁっ」
「あぁ、愛い愛い…気持ちいいなあ、蒼♡…はっ、浅いのが、いいか?…うん?奥の方がっ、はぁっ、いいかっ…?」
「あっ、ああぁ、いやぁ…ごちゅごちゅ、しないれェ…おぐっ、あ″っ、やら…あうぅん!あ″っっ…!!」
「…っ、奥が、悦くなってきておるのかっ♡いい子だ蒼っ…♡」
「あぁ、ぁあん、こ、わい、こわい、よぉ…!おくっ、おぐぅ、おく、ごわいぃ…!」
「そうかそうか♡ゆっくり奥を叩かれるのが好きか…♡
はぁ…蒼の奥がっ…魔羅の先を口付けるようにっ…はっ、吸い付いてくるっ……あーー…、腰が止まらんっ…♡」
男の陰茎が蒼の膣壁を掻き分けながら入ってきた瞬間、蒼は分けも分からず達した。
何が起こったのか蒼自身にも分からない内、頭の中に閃光が浮かんだと思った瞬間には強い刺激が一直線に体を突いていた。
蒼には自分の体がどうなっているかも、どうするのが正解かも分からない。
男との行為を心では拒んでいても、蒼の体はそうではなかった。
男の逞しい陰茎を待ち望んでいたかのように悦んで吸い付き離さない。
愛液は白く濁り、まるで子種のような濃さだった。
どうする事も出来ず、何が正解かも分からず、蒼はただ男がもたらす有り得ないほど強い快楽に訳も分からず喘ぐだけ。
男との行為で得るもの全て、何もかもが蒼には未知の経験だった。
「あっ、はっ、やぁっ!ひん、ひんっ、うぅっ…んああっ…!!」
「くぅぅ…、締まる…!悦いのが止まらんなあ、蒼♡
ぎゅうぎゅう締め付けてっ…子種をねだっておるのだなっ…♡」
蒼の中にある女の、雌の本能が男によって引き出されていく。
きゅんきゅんと子宮は疼きっぱなしで、陰茎が入り口まで下がると出ていくなと締め上げ、奥へ届くと亀頭に吸い付き子種をねだっては男を悦ばせている。
蒼には自分の体に一体何が起こっているのか分からない。
ただ、洋太との神聖な儀式とは全く違うのだけは理解していて、過ぎる快楽に恐怖すら感じていた。
抗う事が出来ない。抗う事も考えられない。
セックスをそう経験していない蒼が女の体を知り尽くしているかのような男の手管に敵うはずもなかった。
蒼はセックスの経験も豊富ではないし、洋太しか男を知らない。
体は成熟したものをもっていても、女として蒼はまだまだ未熟だった。
それは蒼しか女を知らない洋太も同じく。
性行為を覚えたばかりの洋太のセックスは若さ故もあり独りよがりなものだった。
刺激を受ける陰茎の気持ち良さに夢中で蒼を気遣う事もまだ出来ず、得る快楽のままに激しく腰を打ち付けるだけの行為。
蒼に快楽を与えるにはまだ男としての経験が足りていなかったのだ。
だから蒼が男から与えられる快楽に抗えないのも仕方がない事だった。
相手の、男としての経験値が洋太よりも遥かに上回っていたのだから。
「あ″あ″あ″ーーー、あ″あ″ぁあ…!」
悲鳴と、嗚咽と、喘ぎの混じった蒼の声が室内に響き渡ると男は目元を和らげ、労るように蒼の頭を撫でた。
「よしよし、蒼。何も恐ろしいことはない。何も。抗わずそのまま快楽に身を委ねておればいい。童のままだったお前の子宮が女へ変わろうとしておるだけだ。
蒼の夫とやらが男として未熟だったのよ。こんなにもいやらしい体を持て余しておったのになあ…。よしよし。よぅしよし。良い子だ、蒼。俺に身を任せよ。何も、恐いことなどないぞ。」
何度も何度も襲ってくる快楽の波に、蒼の理性はのまれそうだった。
感じている恐怖が消えてしまえばきっと取り返しのつかない事になってしまう。
そんな危機を感じているのに、男の甘い声と緩やかな動きで子宮を刺激する腰使いに思考が溶けていく。
労るように頭を撫でられ、情に満ちたような穏やかな視線と安堵させるような優しい笑みを向けられ、男の言葉通り恐怖など感じなくてもいいのだと、この大きな快楽に、男に身を委ねていいのだと思ってしまう。
未熟だった蒼の子宮は今、女としての悦びに目覚めようとしていた。
洋太だけしか知らない蒼の女の部分が洋太以外の男によって悦びを教え込まれていく。
自分の体が自分のものではなくなるような、作り変えられていくような恐怖と共に得る気が狂いそうなほどの快楽。
欲しい欲しい。子種が欲しい。孕ませて欲しいと疼きの治まらない子宮。
心は蒼自身なのに脳と体は別の人間のようにちぐはぐだった。
「蒼、お前は何も悪くない。この行為は男と女、雄と雌の本能よ。古くから続く本能の前では理性や知性など敵うはずもない。だがお前はよく耐えた。…もう良い。耐えるな、蒼。本能に身を委ね、男に支配される悦びを味わえ。お前が快楽にのまれても、お前が悪いことなどないぞ。」
男の亀頭が疼く蒼の子宮口を押し上げながら円を描く。
ぐりぐり、ぐりぐりと優しく子宮口を刺激され、背を仰け反らした蒼の脳が快楽の波に完全にのみこまれ、溶ける。
「あ…♡あぁぁああ……♡」
瞬間、蒼の口から媚び、甘えるような喘ぎ声が漏れた。
罪悪、不甲斐なさ、背徳、悦び、快楽。
ごちゃ混ぜの感情に支配された蒼の目からは止めどなく涙が溢れ、その表情は歪んでたものの、声や体、脳と子宮は悦び、男に媚びていた。
「はぁ…蒼っ…愛い♡愛いぞ蒼♡
その甘えたような喘ぎ声っ…子宮口も魔羅の先に口付けしながら好き好きと媚ながら囁いてっ…♡ああ、愛い…!もっとだ!もっと求めろ、蒼っ♡」
「あっ♡おっ♡ああ″っ♡んおっ♡あ、あっ、ああーーーっ♡とんとんんぅ♡しゅごいのっ♡こあい、こあいぃぃ♡」
「そうかそうかっ♡奥をっ、とんとん、はっ…するのがっ、そんなに良いかっ♡あー…、締まるっ…♡悦いっ♡気持ちいいぞ蒼っ♡蒼も、もっと気持ちよくなろうな♡何度でもっ、悦くさせてやるからなっ♡」
「はあっ♡くうぅぅぅんっ♡」
甘えたような喘ぎ声は止まらず、開いたままの唇からはだらしなく涎が垂れ、男が嬉しそうな顔で涎を啜れば蒼の膣は男の陰茎を締め付ける力を増す。
涙を流しながらもとろんと目は細まり、蒼の体は今まさに、初めて女の悦びを経験している。
目の前では小さな光が何度も弾け、目眩を呼び起こし蒼の意識が霞んでいこうとする中、男が色気を含んだ声で蒼に囁いた。
「愛しておるよ、蒼。」
“愛している”
その言葉を聞いた瞬間、蒼は少しだけ理性を取り戻す。
「…よ、ちゃ……愛…てる…」
「……お前は知らぬのだなあ。あの男がどんな男なのか。
…すぐに思い知るだろうよ。」
悪夢の終わりに洋太への愛を掠れた声で囁いた蒼を、男は忌々しげに見下ろしながら鼻で笑った。
悪夢から目覚めた蒼はあの行為がやはり夢である事に安堵したが、夢の中とは言え簡単に男に翻弄され感じてしまったはしたない自分と洋太を裏切る行為をしてしまった自分が許せなかった。
おまけに体が行為の名残を感じているのかまだ自分の中に男のモノが入っている感覚さえして腹の奥がきゅんと疼いているのも嫌だった。
あんなのはセックスではない。
あんなはしたない行為がセックスなわけがない。
セックスとは愛し合う者同士の為の神聖な行為のはずだ。
想い合う者たちが互いの愛を伝え合う、神聖で尊い儀式のはず。
それなのに、蒼は夢の中で男から与えられる快楽に夢中になっていた。
不甲斐なさや後悔、洋太への申し訳なさで罪悪感に苛まれ、蒼はせり上がってくる吐き気を止めることなくトイレで吐いた。
夢での男との何もかも全て、吐いたものと共に流れてくれればいい。
「行ってらっしゃい、洋ちゃん。」
「行ってきます、蒼。」
会社へ向かう洋太を笑顔で見送った蒼は何をするでもなく、ソファーに座りボーッと遠くを見つめて時間を過ごす。
どうしてあんな夢を見てしまうのか。
男は蒼に罰を受けなければならないと言った。
あの悪夢の行為が蒼への罰ならば、自分は何をしたのか。
考えたところで蒼には全く身に覚えがない。
誰かと間違えているのではないだろうか。
けれど男は蒼の名を呼ぶ。
ならば罰は、悪夢はいつ終わるのだろうか。
今日も眠れば悪夢を見てしまうのだろうか。
あの男に、会ってしまうのだろうか。
蒼は眠るのが恐ろしくて、その日の夜は眠る事をしなかった。その次の夜も。
睡眠は人間の三大欲求の一つであり、生きていく上でも大切なもの。
二日眠らなかった蒼の体調は最悪だった。
たった二日。されど二日眠らなかった蒼の目の下には見事な隈が出来、体は悪夢を見た後の比にならない程、鉛のように重く頭痛や吐き気、睡魔も酷かった。
家事をしていても次は何をするのだったか、この作業には何が必要だったかなど、今まで当たり前にやっていた簡単な事にすら頭が働かず失敗ばかり。
時間も倍かかり、洋太が仕事から帰ってくる時間までに夕飯の支度が間に合わなかった。
おまけに洋太に心配をかけてしまった為、蒼は全く眠らないという事は止めようと思ったものの、眠れば悪夢を見るかもしれないと思うとやはり恐くて堪らなかった。
どうしよう、どうすればいいと考えた蒼は、睡眠時間を削る事にした。
「最近来るのがとんと遅いなあ、蒼。
俺ははよう蒼に会いたくて堪らんのに寂しいではないか。」
「やぁっ…!」
「夫とやらがそんなに大事か?
…だが蒼よ。あの男はお前が想っているものと同じ想いをお前に抱いているわけではないぞ。
あの男は器の小さな男よ。そして身勝手極まりない。」
「ひっ…あっ…!かって、な、ことっあっ、ばかり…!」
「お前とあの男の愛は長くは続かんだろう。お前がどれだけ強く愛していても。あの男の愛は脆い。…いや、愛と呼ぶのも烏滸がましいか…。
あの男のあれは、愛ではなく己の欲を満たすだけのものよ。」
「っ、よ、ちゃ…はっ、そんな、人じゃっ、く、あっ…!」
「なに。すぐ分かるさ。…嫌でもな。」
睡眠時間を削っても蒼はやはり悪夢を見た。
毎日毎晩、どれだけ疲れていようと必ず悪夢を見続けた。
四時間の睡眠を次の日には三時間に削った。それでも悪夢を見てしまうから、二時間に削った。
全く眠らないよりはマシだけれど、それでもマシなだけで日々を二、三時間の睡眠で過ごすようになった蒼の顔色は病人かと思うほどに悪くなっていった。
男は夢の中で蒼に不吉な事ばかりを言うようになった。
蒼の心が洋太から離れていくのを望んでいるのだろう。
洋太がどんな男なのか。卑怯で臆病で小心者。身勝手で蒼の事など一つも考えていないと馬鹿にしたように蒼に言うけれど、蒼は男の言葉など信じなかった。
洋太の何を知っている。
幼い頃からずっと一緒にいたのは蒼で、男ではない。
だから男の勝手な言い分を信じる事もなかった。
自分と洋太の愛は永遠なのだ。
幼い頃から蒼は洋太だけが好きだった。
洋太もまた、蒼に告白した際、子供の頃から蒼が好きだったと伝えてくれた。
洋太との愛はこれからも変わらず続くもので、男が言うような未来など訪れない。
けれど、蒼と洋太の間には少しずつ亀裂が生まれていた。
「…蒼、今日はどう…?」
「あ…うん、少し怠いだけ…。」
「…そっか。じゃあ…しても、大丈夫かな?」
「え…?あ、う、うん…。」
洋太は顔色の悪い蒼を心配するけれど、自分のしたい事を我慢はしなかった。
蒼を気遣う言葉をかけたり心配そうな表情を見せるけれど、蒼が“大丈夫”と言えばそれ以上気遣う事はしなかった。
例えば。
朝から顔色の悪い蒼を知っていても、蒼が大丈夫と言えば会社の付き合いに参加して遅くに帰宅したり、蒼が辛そうだからといって休みの日に自ら家事を手伝ったりはしない。
そして今も、蒼の顔色が悪くとも、セックスしたくなったからセックスをする。
蒼は洋太のしたい事を止めるつもりはない。洋太の幸せは蒼の幸せだから。
だけど、
「…あんまり濡れてないな…。」
「んっ…」
「…入れていい?」
「え……うん………っ…!」
「きっつ…、でも、…はあ…これはこれで…気持ちいい…」
だけど、少しだけ。ほんの少しだけ蒼は寂しく感じた。
濡れていないままでの挿入は蒼にとって痛みしかなかった。
洋太は気持ち良さそうに勢いよく腰を打ち付けているが、洋太の腰が大きく動くたびに蒼の膣は痛んだ。
愛してる、愛してる蒼と譫言のように洋太の口から何度も出る言葉。
いつもならとても幸せな気持ちになるはずなのに、この時の行為では幸せよりも痛みが勝ち、終わった後に蒼は涙が溢れた。
少しずつ、少しずつ。
洋太と蒼の間に亀裂が入っていく。
蒼はこのままではいけないと、何とか悪夢を見なくなる方法がないか考えた。
神社や寺に行き毎晩悪夢を見てしまうと相談もしてみたが“大丈夫ですよ”と言って真剣には取り合われず厄除けも意味が無かった。
病院や心療内科も受診したが結果は“環境が変わった事によるストレス”としか診断されず悪夢を見る日々は変わらなかった。
少しずつ、少しずつ。
小さなもの、些細なものが積み重なりやがて大きな亀裂になっていく。
「…また濡れてない。」
「…ごめ、」
「気持ちよくない?」
「そ、んなこと、ないっ…」
「…そんな体調悪いなら、嫌って言いなよ。僕だって、無理にしたいとは思ってないんだからさ。」
「…う、ん…ごめんね、洋ちゃん…。
大丈夫だから、続けて…。」
「…っていうか、大丈夫な顔色じゃないじゃん。いくら触っても全然濡れないし。…俺もちょっと疲れた。」
「ごめ…」
「もう寝よう。」
怒ったような、呆れたような洋太の声に蒼は自分が情けなくなった。
自分が悪い。洋太は何も悪くない。
洋太にはしたいことをして欲しいのに、セックスだって、洋太に我慢させてしまっている。
小さな事が、些細な事が積み重なって少しずつ亀裂が大きくなっていく。
蒼は初めて、男の言葉が現実になってしまいそうな気がした。
「何かしたんですか…。」
「はて。何の事だ?」
「洋ちゃんに、です…!」
「何かとは、何だ?」
「最近、機嫌の悪い日が増えて…いつも、何だか苛々してて、…人に当たるなんて、しない洋ちゃんが…。
私にこんな悪夢を見せているように、洋ちゃんに何かしたんじゃないんですか…!」
「ははははは…!そうかそうか!
蒼、それはあの男の本性よ。これまで上手く被っておった化けの皮が剥がれつつあるだけよ。」
「何を…。洋ちゃんはいつも優しくて、誰かを気遣える人なんです!」
「ほう。…人を気遣える優しい人間が濡れてもいないお前に無体を働くのか。」
「!!」
「痛かったろうに。
…まあ、あの男の本性と信じたくないのならそれでいいさ。
俺は何もしとらんよ。する意味もない。何故なら、俺が何もせんでも何れこうなると分かっておった。あの男がどんな男か知っているからな。
これも、信じられぬのならそれでいい。」
「……。」
「殺してやろうかと思った事は何度もあるが。
しかし殺してしまっては得られんものがある。
それに…殺して終わりでは気が済まん。
あの男は知るだろう。己が、何に手を出したのか。」
「…え…?」
「さて蒼、今宵もまぐわうぞ。
うんと悦くしてやろう。」
この夜も蒼は悪夢を見た。
蒼の体を時間をかけ、優しく労りながら解した後に交わる。
蒼は男との行為で体に痛みを感じた事は一度もなかった。
蒼が望んでいない行為なのだから無理矢理と言えば無理矢理なのだろう。
けれど、男は蒼に強い快楽は与えても決して痛みを与える事はしない。
止めてという言葉は一切聞かないのに蒼に触れる手はいつも優しいもので、乱暴に触れたり痛め付ける事は決してない。
いっそのこと酷くされた方がいいと思えるくらい、男のセックスは蒼ありきのものだった。
「ふぅぅ…、やだ、…やさしく、しないでよぉ…」
「お前を痛め付けたいとは思っておらん。痛め付けるよりもうんと悦くしてやりたいのよ。
苦痛に歪む顔よりも蕩けた顔が見たい。
痛みの悲鳴よりも、甘く媚びた喘ぎ声が聞きたい。」
「ひっく…あんっ…やらぁ…やな、のにぃ…!」
「ああ…お前の女陰はよく締まるっ…!愛いぞ蒼っ…」
相手が洋太であればどんなに幸せだったろうか。
この快楽が洋太から与えられるものだったなら、蒼は罪悪を感じずに済んだのに。
罪悪感から必死になって快楽を耐える必要もないのに。
蒼が悪夢を見るようになって三ヶ月が経とうとしている中、洋太と蒼、二人の間に出来た亀裂はどんどん大きくなっていった。
まだまだ新婚であるはずなのに、洋太の機嫌が悪くなる事が増え、蒼を蔑ろにする言動や行動も増えてきた。
「…ただいま。」
「洋ちゃんお帰りなさい。
お仕事お疲れ様でした。」
「…うん。…今日も、まだ顔色悪いみたいだけど……あのさ、病気とかじゃないんだよね?」
「え?…あ、うん。…病気じゃないよ…。お医者さんからも何かの病気とは言われてないし…。」
「…環境が変わった事によるストレス、だっけ。」
「…う、うん。」
「…ストレス、ね。働いてもないのに?」
「……。」
「何がそんなにストレスなの?知らない土地だから?まだ慣れてないだけ?僕に着いてこない方が良かった?」
「ちが、そんなことないよ!」
「じゃあ何で、最近いつも顔色が悪いのさ。
僕はまだ転勤したばかりの会社で仕事しながら職場の人間関係にも気を使わなくちゃいけないんだよ。
会社で沢山気を使って、家に帰ったら顔色の悪い蒼がいる。
蒼が悪いわけじゃないけど、その顔色だと気も使う。…僕の方がストレスだよ。」
「…ごめん、…洋ちゃん、ごめんなさい…。」
「…はあ。…ご飯出来てるの?」
「う、うん!」
洋太の機嫌は日々違った。
蒼に優しい時もあれば苛立って蒼に当たることもあり、ねちねちと嫌味を言うこともあるけれど、蒼は自分が全て悪いと思っている為洋太に何を言われても耐えていた。
どれだけ八つ当たりされようと嫌味を言われようと、蒼は洋太を嫌いにはならなかったし変わらず洋太を愛していたけれど、蒼の意思など関係なく無理矢理セックスされるのだけは酷く悲しかった。
「いたっ…いたいよ、ひっ…よ、ちゃ…、」
「はっ、はっ…!もう少し、だからっ…我慢してっ…!あ、イキそっ…イクっ…あ、はっ、…くぅっ…!」
「っ、ぁ……ぐす…、」
この頃、蒼にとって洋太とのセックスは痛みを伴うものとなってしまっていた。
互いの愛を確かめ合う幸せに満ちた行為だったはずなのに、今は心も体も酷く痛む、そんな行為になっていた。
愛の言葉もなく、口付けや前戯もおざなり。
濡れてもいない膣に入ってくる洋太の陰茎は最早凶器だった。
心地良さも一つの快楽もない行為はまるで拷問のようで…蒼は行為の終わりが早く訪れるようにと涙を流しながら耐えるだけだった。
あんなにも、幸せだったのに。
洋太に触れられると、心地よくて幸せに満ちた気持ちになれたはずだったのに、今はただただ悲しくて苦痛なものになってしまった。
洋太とのセックスとは反して、男との行為は甘さを増していった。
「あんっ、あんんっ…、ぅぁ、あああっ♡」
「はは、随分気持ち良さそうだなあ、蒼♡奥を優しく刺激されるのがそんなに悦いか?
とんとんと奥を刺激するのに合わせてきゅうきゅう締め付けて…蒼が悦んでおるのが伝わってくるぞ♡」
「しょこ♡いやぁ♡ぐりぐり♡やらぁ♡」
「そうかそうか♡もっとしてほしいか♡あー…♡蒼の体はこんなにも素直なのに、心は中々素直にならんなあ。
最中は夫婦のように甘え媚ながら俺に縋ってくるくせにいつまでもつれん。
蒼、そろそろ子種が欲しいだろう?♡
今日こそは蒼の肚に出させておくれ♡」
「ひんっ♡ああ…♡あああぁ…♡やら、中、やらぁ♡よ、ちゃんも、まだっ、あん♡まだ、なのっ…♡らめ、なかっ♡らめっ…!」
「降りた子宮が子種を求めて吸い付いておるのに…なんと強情な♡
ほれ、とんとん♡とんとん♡蒼の子宮は孕みたくて仕方ない様子だぞ?」
「ち、が、うぅぅぅ…♡」
「あー…♡また吸い付きながら締めてっ…♡はぁ…♡このまま出してやろうな♡よく耐えた褒美だ♡」
蕩けた笑みを浮かべながら男が蒼の体を抱き込んだ。
仰向けで足を大きく開く蒼の身動きを封じるように抱き込み、男の腹と蒼の股の間に僅かな隙間も許さないと言わんばかりにぴたりと肌をくっつけ…どぷりと、濃厚な子種を射精し始めた。
「ーーーーーーーー♡♡♡」
悪夢を見るようになって三ヶ月が経った今日、蒼は、初めての膣内射精を経験した。
「蒼、俺の子種が子宮口の小さな穴を通り中に入っておるだろう?
重たい、濃厚な子種が子宮の中に溜まっていくのが分かるか?」
「♡♡♡」
「そうかそうか、分かるか♡
蒼の子宮が嬉しそうに子種を呑んでおるのが俺にも分かるぞ♡」
ごくごくと蒼の子宮は男の子種を味わい、はくはくと口を動かしながら声にならない声を上げ、全身を痙攣させながら絶頂を迎えた。
脳髄にまで届く快楽が蒼を襲う。
愛し合う夫婦のように口付けを交わしながら男の射精は長く続き、蒼の薄い肚が膨れても出ていく事はなかった。
絶頂さえも知らなかった蒼の体は夢の中で何度も繰り返される男との行為で変化していく。
男の手が蒼の弱い部分に触れるだけで、男の逞しい陰茎が蒼の奥を刺激するだけで蒼の体は簡単に快楽を拾い、絶頂を迎えるようになっていた。
まるで体が男専用になったように馴染んでしまっている。
唇を塞がれ舌が這うだけで、胸の先を押し潰されるだけできゅんきゅんと、蒼の膣壁は勝手に男の陰茎を締め付けてしまい、男を喜ばせているのが分かってしまう。
快楽を知り、絶頂を知り、そして今日の悪夢で膣内射精を経験した蒼の体にはもう何処にも、未熟だった面影などなくなっていた。
そもそも蒼は裸になることに羞恥心を抱いている。
たぷんと大きく実った胸も蒼にはコンプレックスでぷにっとした腹も好んで誰かに見せたいと思った事はない。
排泄をする場所などもっての他だった。だから洋太とのセックスでも未だに羞恥心が大きい。
しかし蒼はセックスが苦手ではあるが、嫌いではない。
触れ合う素肌の心地良さも好きではあるし、洋太との愛が深まっていると実感できて幸せな気持ちになれるからだ。
セックスは蒼にとって愛する洋太との大切な行為。
愛を深め合う神聖な儀式、そのはずだった。
蒼は知らなかった。
快楽というものの恐ろしさを。
楽しい、嬉しい、気持ちいい、心地いいといった幸福感を与えるものには中毒性があり、過ぎれば人を堕落させてしまう事もある。
蒼は知らなかった。男が蒼に前戯で与えた快楽など、ほんの些細なものだったことを。
「はっ、はっ…ぅ…ああ…蒼…蒼♡
悦いぞっ、堪らん…蒼っ、熱く蕩けて…魔羅にちゅうちゅうと吸い付いてくるっ…うっ…この欲張りめがっ…」
「あっ、あっ、あん、あんっ、おっ、ぅ、あぁ、あああぁっ」
「あぁ、愛い愛い…気持ちいいなあ、蒼♡…はっ、浅いのが、いいか?…うん?奥の方がっ、はぁっ、いいかっ…?」
「あっ、ああぁ、いやぁ…ごちゅごちゅ、しないれェ…おぐっ、あ″っ、やら…あうぅん!あ″っっ…!!」
「…っ、奥が、悦くなってきておるのかっ♡いい子だ蒼っ…♡」
「あぁ、ぁあん、こ、わい、こわい、よぉ…!おくっ、おぐぅ、おく、ごわいぃ…!」
「そうかそうか♡ゆっくり奥を叩かれるのが好きか…♡
はぁ…蒼の奥がっ…魔羅の先を口付けるようにっ…はっ、吸い付いてくるっ……あーー…、腰が止まらんっ…♡」
男の陰茎が蒼の膣壁を掻き分けながら入ってきた瞬間、蒼は分けも分からず達した。
何が起こったのか蒼自身にも分からない内、頭の中に閃光が浮かんだと思った瞬間には強い刺激が一直線に体を突いていた。
蒼には自分の体がどうなっているかも、どうするのが正解かも分からない。
男との行為を心では拒んでいても、蒼の体はそうではなかった。
男の逞しい陰茎を待ち望んでいたかのように悦んで吸い付き離さない。
愛液は白く濁り、まるで子種のような濃さだった。
どうする事も出来ず、何が正解かも分からず、蒼はただ男がもたらす有り得ないほど強い快楽に訳も分からず喘ぐだけ。
男との行為で得るもの全て、何もかもが蒼には未知の経験だった。
「あっ、はっ、やぁっ!ひん、ひんっ、うぅっ…んああっ…!!」
「くぅぅ…、締まる…!悦いのが止まらんなあ、蒼♡
ぎゅうぎゅう締め付けてっ…子種をねだっておるのだなっ…♡」
蒼の中にある女の、雌の本能が男によって引き出されていく。
きゅんきゅんと子宮は疼きっぱなしで、陰茎が入り口まで下がると出ていくなと締め上げ、奥へ届くと亀頭に吸い付き子種をねだっては男を悦ばせている。
蒼には自分の体に一体何が起こっているのか分からない。
ただ、洋太との神聖な儀式とは全く違うのだけは理解していて、過ぎる快楽に恐怖すら感じていた。
抗う事が出来ない。抗う事も考えられない。
セックスをそう経験していない蒼が女の体を知り尽くしているかのような男の手管に敵うはずもなかった。
蒼はセックスの経験も豊富ではないし、洋太しか男を知らない。
体は成熟したものをもっていても、女として蒼はまだまだ未熟だった。
それは蒼しか女を知らない洋太も同じく。
性行為を覚えたばかりの洋太のセックスは若さ故もあり独りよがりなものだった。
刺激を受ける陰茎の気持ち良さに夢中で蒼を気遣う事もまだ出来ず、得る快楽のままに激しく腰を打ち付けるだけの行為。
蒼に快楽を与えるにはまだ男としての経験が足りていなかったのだ。
だから蒼が男から与えられる快楽に抗えないのも仕方がない事だった。
相手の、男としての経験値が洋太よりも遥かに上回っていたのだから。
「あ″あ″あ″ーーー、あ″あ″ぁあ…!」
悲鳴と、嗚咽と、喘ぎの混じった蒼の声が室内に響き渡ると男は目元を和らげ、労るように蒼の頭を撫でた。
「よしよし、蒼。何も恐ろしいことはない。何も。抗わずそのまま快楽に身を委ねておればいい。童のままだったお前の子宮が女へ変わろうとしておるだけだ。
蒼の夫とやらが男として未熟だったのよ。こんなにもいやらしい体を持て余しておったのになあ…。よしよし。よぅしよし。良い子だ、蒼。俺に身を任せよ。何も、恐いことなどないぞ。」
何度も何度も襲ってくる快楽の波に、蒼の理性はのまれそうだった。
感じている恐怖が消えてしまえばきっと取り返しのつかない事になってしまう。
そんな危機を感じているのに、男の甘い声と緩やかな動きで子宮を刺激する腰使いに思考が溶けていく。
労るように頭を撫でられ、情に満ちたような穏やかな視線と安堵させるような優しい笑みを向けられ、男の言葉通り恐怖など感じなくてもいいのだと、この大きな快楽に、男に身を委ねていいのだと思ってしまう。
未熟だった蒼の子宮は今、女としての悦びに目覚めようとしていた。
洋太だけしか知らない蒼の女の部分が洋太以外の男によって悦びを教え込まれていく。
自分の体が自分のものではなくなるような、作り変えられていくような恐怖と共に得る気が狂いそうなほどの快楽。
欲しい欲しい。子種が欲しい。孕ませて欲しいと疼きの治まらない子宮。
心は蒼自身なのに脳と体は別の人間のようにちぐはぐだった。
「蒼、お前は何も悪くない。この行為は男と女、雄と雌の本能よ。古くから続く本能の前では理性や知性など敵うはずもない。だがお前はよく耐えた。…もう良い。耐えるな、蒼。本能に身を委ね、男に支配される悦びを味わえ。お前が快楽にのまれても、お前が悪いことなどないぞ。」
男の亀頭が疼く蒼の子宮口を押し上げながら円を描く。
ぐりぐり、ぐりぐりと優しく子宮口を刺激され、背を仰け反らした蒼の脳が快楽の波に完全にのみこまれ、溶ける。
「あ…♡あぁぁああ……♡」
瞬間、蒼の口から媚び、甘えるような喘ぎ声が漏れた。
罪悪、不甲斐なさ、背徳、悦び、快楽。
ごちゃ混ぜの感情に支配された蒼の目からは止めどなく涙が溢れ、その表情は歪んでたものの、声や体、脳と子宮は悦び、男に媚びていた。
「はぁ…蒼っ…愛い♡愛いぞ蒼♡
その甘えたような喘ぎ声っ…子宮口も魔羅の先に口付けしながら好き好きと媚ながら囁いてっ…♡ああ、愛い…!もっとだ!もっと求めろ、蒼っ♡」
「あっ♡おっ♡ああ″っ♡んおっ♡あ、あっ、ああーーーっ♡とんとんんぅ♡しゅごいのっ♡こあい、こあいぃぃ♡」
「そうかそうかっ♡奥をっ、とんとん、はっ…するのがっ、そんなに良いかっ♡あー…、締まるっ…♡悦いっ♡気持ちいいぞ蒼っ♡蒼も、もっと気持ちよくなろうな♡何度でもっ、悦くさせてやるからなっ♡」
「はあっ♡くうぅぅぅんっ♡」
甘えたような喘ぎ声は止まらず、開いたままの唇からはだらしなく涎が垂れ、男が嬉しそうな顔で涎を啜れば蒼の膣は男の陰茎を締め付ける力を増す。
涙を流しながらもとろんと目は細まり、蒼の体は今まさに、初めて女の悦びを経験している。
目の前では小さな光が何度も弾け、目眩を呼び起こし蒼の意識が霞んでいこうとする中、男が色気を含んだ声で蒼に囁いた。
「愛しておるよ、蒼。」
“愛している”
その言葉を聞いた瞬間、蒼は少しだけ理性を取り戻す。
「…よ、ちゃ……愛…てる…」
「……お前は知らぬのだなあ。あの男がどんな男なのか。
…すぐに思い知るだろうよ。」
悪夢の終わりに洋太への愛を掠れた声で囁いた蒼を、男は忌々しげに見下ろしながら鼻で笑った。
悪夢から目覚めた蒼はあの行為がやはり夢である事に安堵したが、夢の中とは言え簡単に男に翻弄され感じてしまったはしたない自分と洋太を裏切る行為をしてしまった自分が許せなかった。
おまけに体が行為の名残を感じているのかまだ自分の中に男のモノが入っている感覚さえして腹の奥がきゅんと疼いているのも嫌だった。
あんなのはセックスではない。
あんなはしたない行為がセックスなわけがない。
セックスとは愛し合う者同士の為の神聖な行為のはずだ。
想い合う者たちが互いの愛を伝え合う、神聖で尊い儀式のはず。
それなのに、蒼は夢の中で男から与えられる快楽に夢中になっていた。
不甲斐なさや後悔、洋太への申し訳なさで罪悪感に苛まれ、蒼はせり上がってくる吐き気を止めることなくトイレで吐いた。
夢での男との何もかも全て、吐いたものと共に流れてくれればいい。
「行ってらっしゃい、洋ちゃん。」
「行ってきます、蒼。」
会社へ向かう洋太を笑顔で見送った蒼は何をするでもなく、ソファーに座りボーッと遠くを見つめて時間を過ごす。
どうしてあんな夢を見てしまうのか。
男は蒼に罰を受けなければならないと言った。
あの悪夢の行為が蒼への罰ならば、自分は何をしたのか。
考えたところで蒼には全く身に覚えがない。
誰かと間違えているのではないだろうか。
けれど男は蒼の名を呼ぶ。
ならば罰は、悪夢はいつ終わるのだろうか。
今日も眠れば悪夢を見てしまうのだろうか。
あの男に、会ってしまうのだろうか。
蒼は眠るのが恐ろしくて、その日の夜は眠る事をしなかった。その次の夜も。
睡眠は人間の三大欲求の一つであり、生きていく上でも大切なもの。
二日眠らなかった蒼の体調は最悪だった。
たった二日。されど二日眠らなかった蒼の目の下には見事な隈が出来、体は悪夢を見た後の比にならない程、鉛のように重く頭痛や吐き気、睡魔も酷かった。
家事をしていても次は何をするのだったか、この作業には何が必要だったかなど、今まで当たり前にやっていた簡単な事にすら頭が働かず失敗ばかり。
時間も倍かかり、洋太が仕事から帰ってくる時間までに夕飯の支度が間に合わなかった。
おまけに洋太に心配をかけてしまった為、蒼は全く眠らないという事は止めようと思ったものの、眠れば悪夢を見るかもしれないと思うとやはり恐くて堪らなかった。
どうしよう、どうすればいいと考えた蒼は、睡眠時間を削る事にした。
「最近来るのがとんと遅いなあ、蒼。
俺ははよう蒼に会いたくて堪らんのに寂しいではないか。」
「やぁっ…!」
「夫とやらがそんなに大事か?
…だが蒼よ。あの男はお前が想っているものと同じ想いをお前に抱いているわけではないぞ。
あの男は器の小さな男よ。そして身勝手極まりない。」
「ひっ…あっ…!かって、な、ことっあっ、ばかり…!」
「お前とあの男の愛は長くは続かんだろう。お前がどれだけ強く愛していても。あの男の愛は脆い。…いや、愛と呼ぶのも烏滸がましいか…。
あの男のあれは、愛ではなく己の欲を満たすだけのものよ。」
「っ、よ、ちゃ…はっ、そんな、人じゃっ、く、あっ…!」
「なに。すぐ分かるさ。…嫌でもな。」
睡眠時間を削っても蒼はやはり悪夢を見た。
毎日毎晩、どれだけ疲れていようと必ず悪夢を見続けた。
四時間の睡眠を次の日には三時間に削った。それでも悪夢を見てしまうから、二時間に削った。
全く眠らないよりはマシだけれど、それでもマシなだけで日々を二、三時間の睡眠で過ごすようになった蒼の顔色は病人かと思うほどに悪くなっていった。
男は夢の中で蒼に不吉な事ばかりを言うようになった。
蒼の心が洋太から離れていくのを望んでいるのだろう。
洋太がどんな男なのか。卑怯で臆病で小心者。身勝手で蒼の事など一つも考えていないと馬鹿にしたように蒼に言うけれど、蒼は男の言葉など信じなかった。
洋太の何を知っている。
幼い頃からずっと一緒にいたのは蒼で、男ではない。
だから男の勝手な言い分を信じる事もなかった。
自分と洋太の愛は永遠なのだ。
幼い頃から蒼は洋太だけが好きだった。
洋太もまた、蒼に告白した際、子供の頃から蒼が好きだったと伝えてくれた。
洋太との愛はこれからも変わらず続くもので、男が言うような未来など訪れない。
けれど、蒼と洋太の間には少しずつ亀裂が生まれていた。
「…蒼、今日はどう…?」
「あ…うん、少し怠いだけ…。」
「…そっか。じゃあ…しても、大丈夫かな?」
「え…?あ、う、うん…。」
洋太は顔色の悪い蒼を心配するけれど、自分のしたい事を我慢はしなかった。
蒼を気遣う言葉をかけたり心配そうな表情を見せるけれど、蒼が“大丈夫”と言えばそれ以上気遣う事はしなかった。
例えば。
朝から顔色の悪い蒼を知っていても、蒼が大丈夫と言えば会社の付き合いに参加して遅くに帰宅したり、蒼が辛そうだからといって休みの日に自ら家事を手伝ったりはしない。
そして今も、蒼の顔色が悪くとも、セックスしたくなったからセックスをする。
蒼は洋太のしたい事を止めるつもりはない。洋太の幸せは蒼の幸せだから。
だけど、
「…あんまり濡れてないな…。」
「んっ…」
「…入れていい?」
「え……うん………っ…!」
「きっつ…、でも、…はあ…これはこれで…気持ちいい…」
だけど、少しだけ。ほんの少しだけ蒼は寂しく感じた。
濡れていないままでの挿入は蒼にとって痛みしかなかった。
洋太は気持ち良さそうに勢いよく腰を打ち付けているが、洋太の腰が大きく動くたびに蒼の膣は痛んだ。
愛してる、愛してる蒼と譫言のように洋太の口から何度も出る言葉。
いつもならとても幸せな気持ちになるはずなのに、この時の行為では幸せよりも痛みが勝ち、終わった後に蒼は涙が溢れた。
少しずつ、少しずつ。
洋太と蒼の間に亀裂が入っていく。
蒼はこのままではいけないと、何とか悪夢を見なくなる方法がないか考えた。
神社や寺に行き毎晩悪夢を見てしまうと相談もしてみたが“大丈夫ですよ”と言って真剣には取り合われず厄除けも意味が無かった。
病院や心療内科も受診したが結果は“環境が変わった事によるストレス”としか診断されず悪夢を見る日々は変わらなかった。
少しずつ、少しずつ。
小さなもの、些細なものが積み重なりやがて大きな亀裂になっていく。
「…また濡れてない。」
「…ごめ、」
「気持ちよくない?」
「そ、んなこと、ないっ…」
「…そんな体調悪いなら、嫌って言いなよ。僕だって、無理にしたいとは思ってないんだからさ。」
「…う、ん…ごめんね、洋ちゃん…。
大丈夫だから、続けて…。」
「…っていうか、大丈夫な顔色じゃないじゃん。いくら触っても全然濡れないし。…俺もちょっと疲れた。」
「ごめ…」
「もう寝よう。」
怒ったような、呆れたような洋太の声に蒼は自分が情けなくなった。
自分が悪い。洋太は何も悪くない。
洋太にはしたいことをして欲しいのに、セックスだって、洋太に我慢させてしまっている。
小さな事が、些細な事が積み重なって少しずつ亀裂が大きくなっていく。
蒼は初めて、男の言葉が現実になってしまいそうな気がした。
「何かしたんですか…。」
「はて。何の事だ?」
「洋ちゃんに、です…!」
「何かとは、何だ?」
「最近、機嫌の悪い日が増えて…いつも、何だか苛々してて、…人に当たるなんて、しない洋ちゃんが…。
私にこんな悪夢を見せているように、洋ちゃんに何かしたんじゃないんですか…!」
「ははははは…!そうかそうか!
蒼、それはあの男の本性よ。これまで上手く被っておった化けの皮が剥がれつつあるだけよ。」
「何を…。洋ちゃんはいつも優しくて、誰かを気遣える人なんです!」
「ほう。…人を気遣える優しい人間が濡れてもいないお前に無体を働くのか。」
「!!」
「痛かったろうに。
…まあ、あの男の本性と信じたくないのならそれでいいさ。
俺は何もしとらんよ。する意味もない。何故なら、俺が何もせんでも何れこうなると分かっておった。あの男がどんな男か知っているからな。
これも、信じられぬのならそれでいい。」
「……。」
「殺してやろうかと思った事は何度もあるが。
しかし殺してしまっては得られんものがある。
それに…殺して終わりでは気が済まん。
あの男は知るだろう。己が、何に手を出したのか。」
「…え…?」
「さて蒼、今宵もまぐわうぞ。
うんと悦くしてやろう。」
この夜も蒼は悪夢を見た。
蒼の体を時間をかけ、優しく労りながら解した後に交わる。
蒼は男との行為で体に痛みを感じた事は一度もなかった。
蒼が望んでいない行為なのだから無理矢理と言えば無理矢理なのだろう。
けれど、男は蒼に強い快楽は与えても決して痛みを与える事はしない。
止めてという言葉は一切聞かないのに蒼に触れる手はいつも優しいもので、乱暴に触れたり痛め付ける事は決してない。
いっそのこと酷くされた方がいいと思えるくらい、男のセックスは蒼ありきのものだった。
「ふぅぅ…、やだ、…やさしく、しないでよぉ…」
「お前を痛め付けたいとは思っておらん。痛め付けるよりもうんと悦くしてやりたいのよ。
苦痛に歪む顔よりも蕩けた顔が見たい。
痛みの悲鳴よりも、甘く媚びた喘ぎ声が聞きたい。」
「ひっく…あんっ…やらぁ…やな、のにぃ…!」
「ああ…お前の女陰はよく締まるっ…!愛いぞ蒼っ…」
相手が洋太であればどんなに幸せだったろうか。
この快楽が洋太から与えられるものだったなら、蒼は罪悪を感じずに済んだのに。
罪悪感から必死になって快楽を耐える必要もないのに。
蒼が悪夢を見るようになって三ヶ月が経とうとしている中、洋太と蒼、二人の間に出来た亀裂はどんどん大きくなっていった。
まだまだ新婚であるはずなのに、洋太の機嫌が悪くなる事が増え、蒼を蔑ろにする言動や行動も増えてきた。
「…ただいま。」
「洋ちゃんお帰りなさい。
お仕事お疲れ様でした。」
「…うん。…今日も、まだ顔色悪いみたいだけど……あのさ、病気とかじゃないんだよね?」
「え?…あ、うん。…病気じゃないよ…。お医者さんからも何かの病気とは言われてないし…。」
「…環境が変わった事によるストレス、だっけ。」
「…う、うん。」
「…ストレス、ね。働いてもないのに?」
「……。」
「何がそんなにストレスなの?知らない土地だから?まだ慣れてないだけ?僕に着いてこない方が良かった?」
「ちが、そんなことないよ!」
「じゃあ何で、最近いつも顔色が悪いのさ。
僕はまだ転勤したばかりの会社で仕事しながら職場の人間関係にも気を使わなくちゃいけないんだよ。
会社で沢山気を使って、家に帰ったら顔色の悪い蒼がいる。
蒼が悪いわけじゃないけど、その顔色だと気も使う。…僕の方がストレスだよ。」
「…ごめん、…洋ちゃん、ごめんなさい…。」
「…はあ。…ご飯出来てるの?」
「う、うん!」
洋太の機嫌は日々違った。
蒼に優しい時もあれば苛立って蒼に当たることもあり、ねちねちと嫌味を言うこともあるけれど、蒼は自分が全て悪いと思っている為洋太に何を言われても耐えていた。
どれだけ八つ当たりされようと嫌味を言われようと、蒼は洋太を嫌いにはならなかったし変わらず洋太を愛していたけれど、蒼の意思など関係なく無理矢理セックスされるのだけは酷く悲しかった。
「いたっ…いたいよ、ひっ…よ、ちゃ…、」
「はっ、はっ…!もう少し、だからっ…我慢してっ…!あ、イキそっ…イクっ…あ、はっ、…くぅっ…!」
「っ、ぁ……ぐす…、」
この頃、蒼にとって洋太とのセックスは痛みを伴うものとなってしまっていた。
互いの愛を確かめ合う幸せに満ちた行為だったはずなのに、今は心も体も酷く痛む、そんな行為になっていた。
愛の言葉もなく、口付けや前戯もおざなり。
濡れてもいない膣に入ってくる洋太の陰茎は最早凶器だった。
心地良さも一つの快楽もない行為はまるで拷問のようで…蒼は行為の終わりが早く訪れるようにと涙を流しながら耐えるだけだった。
あんなにも、幸せだったのに。
洋太に触れられると、心地よくて幸せに満ちた気持ちになれたはずだったのに、今はただただ悲しくて苦痛なものになってしまった。
洋太とのセックスとは反して、男との行為は甘さを増していった。
「あんっ、あんんっ…、ぅぁ、あああっ♡」
「はは、随分気持ち良さそうだなあ、蒼♡奥を優しく刺激されるのがそんなに悦いか?
とんとんと奥を刺激するのに合わせてきゅうきゅう締め付けて…蒼が悦んでおるのが伝わってくるぞ♡」
「しょこ♡いやぁ♡ぐりぐり♡やらぁ♡」
「そうかそうか♡もっとしてほしいか♡あー…♡蒼の体はこんなにも素直なのに、心は中々素直にならんなあ。
最中は夫婦のように甘え媚ながら俺に縋ってくるくせにいつまでもつれん。
蒼、そろそろ子種が欲しいだろう?♡
今日こそは蒼の肚に出させておくれ♡」
「ひんっ♡ああ…♡あああぁ…♡やら、中、やらぁ♡よ、ちゃんも、まだっ、あん♡まだ、なのっ…♡らめ、なかっ♡らめっ…!」
「降りた子宮が子種を求めて吸い付いておるのに…なんと強情な♡
ほれ、とんとん♡とんとん♡蒼の子宮は孕みたくて仕方ない様子だぞ?」
「ち、が、うぅぅぅ…♡」
「あー…♡また吸い付きながら締めてっ…♡はぁ…♡このまま出してやろうな♡よく耐えた褒美だ♡」
蕩けた笑みを浮かべながら男が蒼の体を抱き込んだ。
仰向けで足を大きく開く蒼の身動きを封じるように抱き込み、男の腹と蒼の股の間に僅かな隙間も許さないと言わんばかりにぴたりと肌をくっつけ…どぷりと、濃厚な子種を射精し始めた。
「ーーーーーーーー♡♡♡」
悪夢を見るようになって三ヶ月が経った今日、蒼は、初めての膣内射精を経験した。
「蒼、俺の子種が子宮口の小さな穴を通り中に入っておるだろう?
重たい、濃厚な子種が子宮の中に溜まっていくのが分かるか?」
「♡♡♡」
「そうかそうか、分かるか♡
蒼の子宮が嬉しそうに子種を呑んでおるのが俺にも分かるぞ♡」
ごくごくと蒼の子宮は男の子種を味わい、はくはくと口を動かしながら声にならない声を上げ、全身を痙攣させながら絶頂を迎えた。
脳髄にまで届く快楽が蒼を襲う。
愛し合う夫婦のように口付けを交わしながら男の射精は長く続き、蒼の薄い肚が膨れても出ていく事はなかった。
絶頂さえも知らなかった蒼の体は夢の中で何度も繰り返される男との行為で変化していく。
男の手が蒼の弱い部分に触れるだけで、男の逞しい陰茎が蒼の奥を刺激するだけで蒼の体は簡単に快楽を拾い、絶頂を迎えるようになっていた。
まるで体が男専用になったように馴染んでしまっている。
唇を塞がれ舌が這うだけで、胸の先を押し潰されるだけできゅんきゅんと、蒼の膣壁は勝手に男の陰茎を締め付けてしまい、男を喜ばせているのが分かってしまう。
快楽を知り、絶頂を知り、そして今日の悪夢で膣内射精を経験した蒼の体にはもう何処にも、未熟だった面影などなくなっていた。
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