ノラの女

五味千里

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五話 凡庸

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 ユリ姉はワンボックスカーに乗ってやってきた。

「いやぁ、父さんがめちゃくちゃ眠そうに運転してるからさあ、代わりに運転してやったよ」

 そうケラケラ笑いながら車を降りながら、ユリ姉は白いワンピースをはためかせた。三十超えてもこういう服が着れるのは、生まれもっての顔の良さと自信によるものだろう。
 そのユリ姉とは対照に、カズは猫背のまま暗い表情で出てきた。以前ユリ姉に言われたのか、髪は短く切っている。
 久しぶりに姉弟が揃った瞬間だった。感動といえば感動なのかもしれない。けれど、その感動を確かめる時間さえままならずユリ姉は「香澄、海行こう」と言い出した。嫌な予感がする。

 海に向かうときもユリ姉が運転した。「運転する?」と訊かれたが、免許をとっていないので断った。帰ってきたとき窮屈よ、と終始ユリ姉はからかい調子だ。
 
「ねえ、なんで海なの」

 さとうきび畑を眺めながら訊ねた。島はさとうきびばかりで、ドライブにしては味気がない。

「大事な話は海でって相場が決まってるの」

 ユリ姉は誇らしげだった。日差しがユリ姉の白肌を反射して眩しい。ただワンボックスカーを運転しているだけなのに、この人がやると不思議と絵になる。

「大事な話って、やっぱり知ってるんじゃない、あのこと」ちょっと咎めるように言う。

「あのことって、どのこと?」ユリ姉は母と同じようにはぐらかした。島一番の急カーブを車は難なく抜ける。

 母とユリ姉は似ている。性格とか容姿はあんまりだけど、根幹が一緒なのだ。意味もなくはぐらかして、かと思えば我に帰ったように確信を突いてくる。そして絶対に言葉を多く語らない。ネチネチもせず、ただ冷静に、相手の心の芯を突いてくる。
 正面からの紫外線が気になってサンバイザーを下ろす。お気に入りのコーデにシミがついている気がした。ユリ姉の服はどこのなんだろう。こんな輝く白は、初めて見た。

 当然だけど、海は青くて広大だった。絵の具のチューブをそのまま塗りたくったような群青が、岸辺に近づくにつれ澄みきっていく。青から水色へ、そして透明になる。砂浜の一粒ずつには太陽の熱がこもって、銀河の星屑のように煌めいていた。グラデーションの海原と煌々とした砂塵の群衆が、私の五感に踏み込んでいく。
 でもこの海は、有名でもなんでもない。別の島に行けば似たり寄ったりの海に出会える。同じくらい青くて、同じくらい広大な海に。この海も砂浜も、本当は凡庸なはずなんだ。つまらなくて、鈍間な風景のはずなんだ。
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