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八話 ビール
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酒屋に着くと、カズがビール瓶を箱ごと持って突っ立っていた。汗をだらだら流して、いまにも溶けそうだ。どうやらカズは酒屋の帰りを送ってもらいたいらしく、私たちを呼んだらしい。カズが力なく開いたドアから熱風が押し寄せる。曲がTUBEに切り替わったのもあって生々しい夏の暑さだ。
「私たちにそのまま頼めばよかったのに」
車内温度を弄る。クーラーの風の無機質さが肌を悪戯に冷ました。温度差からかカズの汗は一層吹き出し、後部座席の熱気がここまでやってきそうだ。
「知らないよ。親父に言って」
カズは汗をシートにつけないよう前屈みで座っていた。就活生らしく整えた前髪が水分で乱れている。あきらかに気怠そうな声から、父の要求の面倒さがうかがえた。
父にはそういうところがある。比較的気の強そうなユリ姉や私にあれこれ言わない代わり、カズにやたらしわ寄せが来るのだ。何でもないような買い物を休日の昼間に頼んだり、どうでもいいことに顔色変えて怒鳴ったりする。それで言い訳すると「お前はうちの長男だから」と、継ぐものもないのに言うのだから傍目からみても災難だ。それだからか私にもユリ姉にも来なかった反抗期がカズにはあった。
父は玄関で待っていた。カズが来るなり何か言おうとしたのだろうが、二人の姉妹に気づくな否や閉口しているようだった。
「私たちに頼めばよかったのに」
カズに言ったことを今度はユリ姉が繰り返した。父はまた適当な返しでぐらぐらと弁明をする。カズの表情が良いものではないことは真前にいる私でもわかった。
うちの飲みはビールばっかりだ。誰かがビールを好きというわけでもないのに、ビール瓶が所狭しと冷蔵庫に詰められる。ブラウンに光沢する瓶は見慣れたどこにでもあるロゴだけど、こうも一つの空間に密集しているとさすがに圧巻だ。母はそのうちから三本持ってきて、特に冷えている一本だけを開けた。ポンッと身近で華やかな音が鳴り、三人のグラスに注ぐ。金色の滝が小気味良い音とともに雲のような気泡を作り出した。母とカズは酒を飲まない。前に東京をカズに案内するときも頑なに居酒屋は避けていた。
「じゃあ、家族の再会を祝して、乾杯!」
父が音頭をとって、かちんと出来損ないの風鈴のような音がした。ユリ姉はさっそくビールをぐいっと飲んで「ぬるっ!」とツッコんだ。私も唐揚げをかじって、流し込む。唐揚げよりの水温がビールの炭酸と苦味を引きたたせた。
「私たちにそのまま頼めばよかったのに」
車内温度を弄る。クーラーの風の無機質さが肌を悪戯に冷ました。温度差からかカズの汗は一層吹き出し、後部座席の熱気がここまでやってきそうだ。
「知らないよ。親父に言って」
カズは汗をシートにつけないよう前屈みで座っていた。就活生らしく整えた前髪が水分で乱れている。あきらかに気怠そうな声から、父の要求の面倒さがうかがえた。
父にはそういうところがある。比較的気の強そうなユリ姉や私にあれこれ言わない代わり、カズにやたらしわ寄せが来るのだ。何でもないような買い物を休日の昼間に頼んだり、どうでもいいことに顔色変えて怒鳴ったりする。それで言い訳すると「お前はうちの長男だから」と、継ぐものもないのに言うのだから傍目からみても災難だ。それだからか私にもユリ姉にも来なかった反抗期がカズにはあった。
父は玄関で待っていた。カズが来るなり何か言おうとしたのだろうが、二人の姉妹に気づくな否や閉口しているようだった。
「私たちに頼めばよかったのに」
カズに言ったことを今度はユリ姉が繰り返した。父はまた適当な返しでぐらぐらと弁明をする。カズの表情が良いものではないことは真前にいる私でもわかった。
うちの飲みはビールばっかりだ。誰かがビールを好きというわけでもないのに、ビール瓶が所狭しと冷蔵庫に詰められる。ブラウンに光沢する瓶は見慣れたどこにでもあるロゴだけど、こうも一つの空間に密集しているとさすがに圧巻だ。母はそのうちから三本持ってきて、特に冷えている一本だけを開けた。ポンッと身近で華やかな音が鳴り、三人のグラスに注ぐ。金色の滝が小気味良い音とともに雲のような気泡を作り出した。母とカズは酒を飲まない。前に東京をカズに案内するときも頑なに居酒屋は避けていた。
「じゃあ、家族の再会を祝して、乾杯!」
父が音頭をとって、かちんと出来損ないの風鈴のような音がした。ユリ姉はさっそくビールをぐいっと飲んで「ぬるっ!」とツッコんだ。私も唐揚げをかじって、流し込む。唐揚げよりの水温がビールの炭酸と苦味を引きたたせた。
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