ノラの女

五味千里

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十話 弟

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 私とカズは少し似ている。何がどうとは言えないけども、こう、根の暗さと曲がり方が一緒なのだ。いちいちしょうもないことの不満が溜まって吐き出したくなる性質なのだ。しかし、そうであるには自分が強くあるべきで、強くなければ愚痴や文句はすべて自分に帰る刃になる。
 これは勝手な妄想だけど、カズは上手くいっていない。根拠は感覚に過ぎないのだけれど、口数の多さとか、猫背の具合で察するものがある。
 カズは今度はすらっと立ち上がり、右ポケットからマルボロをだした。そして荒っぽくタバコを取り出したかと思えば、今度は博物館の展示に触れるように慎重に火をつけた。タバコは最近らしい。

「か、かす姉はいつからタバコ吸いだしたのさ」

 臆病気味にカズは訊いた。言葉に若干の吃りがあって、特に「かす姉」という懐かしい単語に躊躇したようだった。

「私は、社会人になってから。会社の先輩がタバコ吸っているのを見て、それがかっこよくってさ」

 素直に答えるとまたカズは黙り込んだ。短く切った黒髪が夜に溶けて、不健康な白い肌が強調されている。心なしか風が湿って、雨の心配で家内を覗く。父とユリ姉が仲睦まじくテレビで笑っていた。

「ユリ姉はうまいよね、人と打ち解けられるというか懐に入るのが。前に東京で会った時も、商店街のおばちゃんとかと冗談言い合ったりしてて。天性の人たらしなのかも。憧れてもしょうがないんだけどね、私は私だし」

 手探りに話題を提示した。たった一言、何かあった? と訊けばいいものの、そういう言葉が人を苛立たせることを私は知っている。
 カズの吸う速度は遅かった。低温調理のようにじわじわと巻紙に火が通っていく。紫煙もどこかなよなよしていた。
 
「あれは、そういうもんじゃないよ。自分に芯がある、とか自分を持っている、とかじゃなくて、ただ単に甘やかされただけ。……甘やかされて、否定されたことがないからあんな風に堂々とできるんだ……甘やかされたから」

 カズは行き場のない悲しい眼をしていた。よく見ると目の下に深いクマもある。カズの言い分には少し疑問もあったけれど、内容よりも彼の溜まったヘドロの混じりが印象に残った。
 沈黙が続いて、たまらずタバコを地面に押し付ける。捻ってポケット灰皿にしまう。カズはもう火の弱いマルボロを飾りのように口に咥えたままだった。
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