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十一話 夢
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廃校というものはなんと閑散としているのだろう。人がもう来ないというだけで、そこは魂が抜けたような感じがある。人がいないというだけなら夏休みにユリ姉とかと何度も遊びに行ったものだが、今はそのときの気持ちとは全く違う。
「うわぁ、机もないのね」
一年一組だった教室をユリ姉はスマホで照らす。真っ昼間というのに電気の通っていない校内は暗く、まさに廃墟だった。人の営みが全て過去に押しやられて、空間だけの場所。小学生の頃は眩しかった白い内壁も、今は灰色に見える。
うわっ、と私が声をあげる。木目の床の一部が湿気っていたらしく、靴下から古い水が伝わった。左右の重みがアンバランスになり、左足を引きずると大筆のような跡が床に描かれた。
提案者のカズは、終始物を言わなかった。ただ何かの感情に浸りながら空間を眺めている。立った埃の一部がカズの大学生風な格好に靄をかけていた。
私たちは屋上に向かった。廃校と対照的な快活な風が断続的に流れる。一度も来たことのない屋上なのに、胸にノスタルジーの音色が木霊した。
「で、カズは何でここに来たかったの」
私が訊こうとしたことを先にユリ姉が言った。カズは溜息だけを漏らして、わずかな小言を吐いた。その声は風に乗っても私たちには届かない。
「もしかして就活、うまくいってないの?」
わざとなのか、ユリ姉はからかうように笑う。ユリ姉なりのユーモアなのかもしれないが、カズの様子からすると危険な笑みだ。カズは細かく首を振った。痩せた頬肉がぺたりと骨に張り付いている。
「いや、就職先は、決まった。その、劇団員。脚本家に、なりたいんだ、近い将来。三年前に、劇観て、いいなぁと思って、仲間もできて、そのうちに彼女もできて、二人で一緒に大阪の劇団でって……」
バラバラに砕いたクッキーのような言葉だった。培ってきた夢を要素に分けて話す姿はどこか貯金箱を壊す子供に似ている。
「いいじゃん! 脚本家」
無理に跳ねた声でフォローを入れた。しかし同時に、本気? というユリ姉の怪訝な声色が通った。初めて聴いたような、ユリ姉の強い声だった。
私はてっきりユリ姉も同調してくれるもんだと思っていたから、慌てて二人を交互に見る。ユリ姉の表情はこれまでになく真剣で、カズは動揺からか目をコンクリートに向けていた。
「うわぁ、机もないのね」
一年一組だった教室をユリ姉はスマホで照らす。真っ昼間というのに電気の通っていない校内は暗く、まさに廃墟だった。人の営みが全て過去に押しやられて、空間だけの場所。小学生の頃は眩しかった白い内壁も、今は灰色に見える。
うわっ、と私が声をあげる。木目の床の一部が湿気っていたらしく、靴下から古い水が伝わった。左右の重みがアンバランスになり、左足を引きずると大筆のような跡が床に描かれた。
提案者のカズは、終始物を言わなかった。ただ何かの感情に浸りながら空間を眺めている。立った埃の一部がカズの大学生風な格好に靄をかけていた。
私たちは屋上に向かった。廃校と対照的な快活な風が断続的に流れる。一度も来たことのない屋上なのに、胸にノスタルジーの音色が木霊した。
「で、カズは何でここに来たかったの」
私が訊こうとしたことを先にユリ姉が言った。カズは溜息だけを漏らして、わずかな小言を吐いた。その声は風に乗っても私たちには届かない。
「もしかして就活、うまくいってないの?」
わざとなのか、ユリ姉はからかうように笑う。ユリ姉なりのユーモアなのかもしれないが、カズの様子からすると危険な笑みだ。カズは細かく首を振った。痩せた頬肉がぺたりと骨に張り付いている。
「いや、就職先は、決まった。その、劇団員。脚本家に、なりたいんだ、近い将来。三年前に、劇観て、いいなぁと思って、仲間もできて、そのうちに彼女もできて、二人で一緒に大阪の劇団でって……」
バラバラに砕いたクッキーのような言葉だった。培ってきた夢を要素に分けて話す姿はどこか貯金箱を壊す子供に似ている。
「いいじゃん! 脚本家」
無理に跳ねた声でフォローを入れた。しかし同時に、本気? というユリ姉の怪訝な声色が通った。初めて聴いたような、ユリ姉の強い声だった。
私はてっきりユリ姉も同調してくれるもんだと思っていたから、慌てて二人を交互に見る。ユリ姉の表情はこれまでになく真剣で、カズは動揺からか目をコンクリートに向けていた。
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