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第二章 呪文探しの旅に出よう!

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「なっ……、どうしてです!?」

 真純は、思わず叫んでいた。ルチアーノが説明する。

「話は、当時の王室事情に遡る。私の父・ミケーレ二世と正妃・エリザベッタ王妃との間には、クラウディオという一人息子がいらっしゃった。アルマンティリア王国の王太子であり、私の兄だ。だが彼は、生来お体が弱かった。彼にもしものことがあれば、お世継ぎがいなくなるのではと心配した側近たちは、国王に側妃を迎えていただこうと考えた。様々な令嬢が候補に挙がる中、国王は一人の女性に目を留められた……。だが彼女には、すでに婚約者がいた。代々アルマンティリア国王に仕えてきた由緒正しき家系の宮廷魔術師・ベゲットだ」

 この上なく不吉な予感に、真純は眉をひそめた。

「さすがに、側近たちは反対した。国王が、婚約者のいる女性を強奪するなど、外聞が悪いと。しかも、その当時宮廷では、すでにパッソーニが権力を握りつつあった。自分を差し置いて、新参者のパッソーニを重用する国王に、ベゲットはたいそう不満を抱いていたようだ。その上婚約者まで奪われたとなれば、一色触発となるのは目に見えている。だがそんな中、国王の命を忠実に実行しようとした者がいた。それが、当時宰相を務めていた、ボネーラの父だ」

「どうして、そのような……」

 ジュダがつぶやく。わからぬ、とルチアーノはかぶりを振った。

「ボネーラは、その理由を語ろうとしなかった。あるいは、ボネーラ自身も知らなかったのかもしれぬ。とにかく、宮廷内でベゲットと宰相の対立は決定的となった。そんなある日、宰相は屋敷で、不慮の死を遂げた」

 ベゲットの話題が最初に出た時、ボネーラが顔を曇らせたのはそのせいだったのか、と真純は思い出していた。

「ベゲットが殺したという、確たる証拠は無かった。だが宰相の死は原因不明で、おまけに事件当日、彼の屋敷から立ち去るベゲットを目撃した者がいた。だから誰もが、ベゲットが何らかの呪術を用いて彼を殺害したものと信じて疑わなかった」

 真純もジュダも黙り込んだ。ルチアーノが、淡々と続ける。

「本来なら死罪となってもおかしくないが、証拠が無いこと、代々宮廷に尽くしてきたという功績が考慮され、ベゲットは宮廷追放処分にとどまった。だが彼は、ずっと無実を訴え続けていたそうだ」

「結局国王陛下は、ベゲットの婚約者を妃にはなさらなかったのですね」

 確認するように、ジュダが尋ねる。そうだ、とルチアーノはあっさり答えた。

「宰相が殺されたことで、さすがに気がとがめたのだろう。代わりに私の母を娶り、私という子をもうけたわけだが……。まあ、それは今はいい。そんなわけでベゲットは、故郷へ戻り、予定通り婚約者と結婚した。そして男児をもうけたらしいが、産後の肥立ちが悪く、妻は亡くなったそうだ。そして、ベゲット本人と息子も、火事で亡くなったと……」
 
「何だか、そのベゲットさんて、かわいそうですね……」

 真純は思わずつぶやいたのだが、ジュダは眉を吊り上げた。

「おい、殿下のお話を聞いていたのか? ベゲットって奴は、殺人犯だぞ。自業自得だろ」
「けど、無実だって主張していたんでしょう」
「どう考えても、状況的に怪しいだろうが。それに、そいつが冤罪だったかどうかなんて、今は関係無いだろ。俺たちがすべきことは、フィリッポとやらに、殿下の呪いを解かせること……」

「関係無くはないぞ?」

 澄んだ声が響く。ルチアーノだった。

「フィリッポは、師匠だったベゲットをたいそう崇拝していたらしい。きっと、彼の無実を信じていることだろう。そんな彼を追放したアルマンティリア王室のことは、恨みこそすれ、好感を持っているはずは無い。仮にフィリッポが回復呪文を知っていたとしても、説得して聞き出すのは至難の業と思うが? それゆえ、容易には進まぬかもしれぬと言ったのだ。ボネーラを無理に同行させなかったのも、フィリッポの神経を逆なでしないためだ」

 ぐうの音も出なかったのか、ジュダは黙り込んだ。真純は、そんな彼の横でぼんやり考えていた。

(ベゲットって人は、本当に冤罪だったのかな? だとすれば、ボネーラさんのお父さんを殺したのは、一体……?)

  
  
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