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第七章 殿下、あなたを信じていいのですか
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その後、真純、ルチアーノたち一行は、無事王都へ帰り着いた。王宮へ入ると、ボネーラが迎えに出て来た。
「お帰りなさいませ。国王陛下がお待ちでいらっしゃいます」
「すぐに参ろう」
ルチアーノは頷いた。ボネーラの案内の下、大広間へ向かうと、そこにはミケーレ二世の他、王妃やパッソーニ、側近らがずらりと勢ぞろいしていた。居残り組だった近衛騎士団のメンバーも、そろっている。そこで、真純はおやと思った。王妃以外に、もう一人女性がいたのだ。パッソーニの隣に控えている。
「あちらは、ラウラ夫人。パッソーニの奥方です」
真純の疑問に気付いたのか、ボネーラは説明してくれた。年齢は、五十歳くらいだろうか。栗色の巻き毛を高々と結い上げた、派手な雰囲気の女性だ。目鼻立ちは華やかで、美人の部類に入るのだろうが、高慢な印象が先立った。
「今日は、どうしても同席したいと。夫の立場を脅かす魔術師の出現に、焦ったのでしょうな」
ボネーラが呟く。フィリッポは、鼻で笑った。
「傲慢そうな女だ。似合いの夫婦ですな」
「静かに」
ルチアーノは、チラとこちらを見てフィリッポを制した。ミケーレ二世の前に進み出て、うやうやしく礼をする。
「陛下、ご機嫌うるわしゅう存じます。クオピボより、無事戻りました。ご安心くださいませ。魔物は、一匹残らず退治いたしました。こちらのフィリッポと、マスミの活躍によるものです」
ルチアーノが報告すると、国王はほっとしたような表情を浮かべた。
「おお、それは何より。フィリッポ殿、マスミ殿、ご苦労であった」
フィリッポと真純は、神妙に礼をした。パッソーニはと見れば、苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。ルチアーノはクスリと笑った。
「おや、パッソーニ殿。いかがされましたかな? 魔物を狩れたというのに、あまりお喜びでは無いようですが」
「い……、いや、そのようなことは無い。そこの二人、まずは第一関門突破というわけだな。おこがましくも、宮廷魔術師の補佐を申し出るくらいだ。魔物くらい、余裕で退治できねば」
フンと鼻を鳴らしながら、パッソーニが胸を反らす。すると、王妃が口を挟んだ。
「魔術師のお二方、ルチアーノ殿下、無事に帰還されて何よりですわ。どうぞ、ごゆるりと疲れを癒やしなさいませ」
微笑む王妃を、ルチアーノはじっと見返した。
「王妃陛下、お言葉ありがとう存じます。ですが残念ながら、完全に無事だったとも言い切れぬのです」
何だろう、と言いたげに、王妃が小首をかしげる。するとルチアーノは、外の廊下に向かって声をかけた。
「連れて来るように」
即座に、扉が開く。入って来たのは、真純たちを襲った近衛騎士団のメンバーだった。拘束された彼らを見て、国王は目を剥いた。
「こ、これは……。一体、いかがした?」
「国王陛下。大変嘆かわしいことに、この者たちは、フィリッポ殿とマスミ殿を暗殺しようとしたのでございます」
「まさか……。馬鹿な!」
ミケーレ二世が、絶句する。すると、パッソーニが席を立った。
「いやいや、アルマンティリア王国の誇る近衛騎士団が、そのような愚行に走るものか。ルチアーノ殿下、何かの間違いでは?」
パッソーニは、そう言いながら進み出ようとしたが、ルチアーノは彼の前に立ち塞がった。
「あいにく、証人もおります。まずは、指揮官の話をお聞きくださいませ」
「ルチアーノ殿下の仰る通りですわ」
意外にもルチアーノに賛同したのは、何と王妃だった。パッソーニを、じろりとにらみつける。
「パッソーニ殿。あなたは、確かに優れた宮廷魔術師。ですが、こちらにいらっしゃるのは、王子殿下なのですよ? それも、間も無く王太子となろうかというお方。その方の話を遮るなど、無礼千万!」
一同は、王妃の言葉に頷きながら、パッソーニに非難の視線を送っている。真純は意外に思った。
(王妃陛下は、パッソーニの味方をしないのか。二人は、協力関係では無い……?)
「お口添えいただき、感謝いたします」
ルチアーノは、王妃に向かって微笑んだ。
「ですが、私が王太子となるかどうかは、パッソーニ殿の占い次第。まだ未知数ゆえ、その件は言及をお控えいただきたい。何しろ、色々なお考えの方がいらっしゃいますからな」
王妃は、一瞬沈黙した後、口の端を上げた。
「確かに、先走りましたわね。ルチアーノ殿下は、謙虚でいらっしゃること」
控えている側近たちは、チラチラと二人を見比べては、囁き合った。
「うむ、殿下は謙虚でいらっしゃるな」
「いやいや、王妃陛下の方が寛大だろう。何せ殿下は、第二夫人のご子息……」
さすがに見かねたのか、国王は咳払いをした。
「静粛に。では、指揮官の話を聞こうではないか」
国王に促され、騎士団の指揮官が進み出た。
「恐れながら、申し上げます。ルチアーノ殿下の仰る通り、私どもは、二人の魔術師様を手にかけようといたしました」
パッソーニが、固唾を呑んでいるのがわかる。ミケーレ二世は尋ねた。
「何ゆえだ。誰の指示だ?」
指揮官が、ごくりと唾を飲む。そして彼は、こう告げた。
「どなたのご指示でもございません。私どもの独断です」
「お帰りなさいませ。国王陛下がお待ちでいらっしゃいます」
「すぐに参ろう」
ルチアーノは頷いた。ボネーラの案内の下、大広間へ向かうと、そこにはミケーレ二世の他、王妃やパッソーニ、側近らがずらりと勢ぞろいしていた。居残り組だった近衛騎士団のメンバーも、そろっている。そこで、真純はおやと思った。王妃以外に、もう一人女性がいたのだ。パッソーニの隣に控えている。
「あちらは、ラウラ夫人。パッソーニの奥方です」
真純の疑問に気付いたのか、ボネーラは説明してくれた。年齢は、五十歳くらいだろうか。栗色の巻き毛を高々と結い上げた、派手な雰囲気の女性だ。目鼻立ちは華やかで、美人の部類に入るのだろうが、高慢な印象が先立った。
「今日は、どうしても同席したいと。夫の立場を脅かす魔術師の出現に、焦ったのでしょうな」
ボネーラが呟く。フィリッポは、鼻で笑った。
「傲慢そうな女だ。似合いの夫婦ですな」
「静かに」
ルチアーノは、チラとこちらを見てフィリッポを制した。ミケーレ二世の前に進み出て、うやうやしく礼をする。
「陛下、ご機嫌うるわしゅう存じます。クオピボより、無事戻りました。ご安心くださいませ。魔物は、一匹残らず退治いたしました。こちらのフィリッポと、マスミの活躍によるものです」
ルチアーノが報告すると、国王はほっとしたような表情を浮かべた。
「おお、それは何より。フィリッポ殿、マスミ殿、ご苦労であった」
フィリッポと真純は、神妙に礼をした。パッソーニはと見れば、苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。ルチアーノはクスリと笑った。
「おや、パッソーニ殿。いかがされましたかな? 魔物を狩れたというのに、あまりお喜びでは無いようですが」
「い……、いや、そのようなことは無い。そこの二人、まずは第一関門突破というわけだな。おこがましくも、宮廷魔術師の補佐を申し出るくらいだ。魔物くらい、余裕で退治できねば」
フンと鼻を鳴らしながら、パッソーニが胸を反らす。すると、王妃が口を挟んだ。
「魔術師のお二方、ルチアーノ殿下、無事に帰還されて何よりですわ。どうぞ、ごゆるりと疲れを癒やしなさいませ」
微笑む王妃を、ルチアーノはじっと見返した。
「王妃陛下、お言葉ありがとう存じます。ですが残念ながら、完全に無事だったとも言い切れぬのです」
何だろう、と言いたげに、王妃が小首をかしげる。するとルチアーノは、外の廊下に向かって声をかけた。
「連れて来るように」
即座に、扉が開く。入って来たのは、真純たちを襲った近衛騎士団のメンバーだった。拘束された彼らを見て、国王は目を剥いた。
「こ、これは……。一体、いかがした?」
「国王陛下。大変嘆かわしいことに、この者たちは、フィリッポ殿とマスミ殿を暗殺しようとしたのでございます」
「まさか……。馬鹿な!」
ミケーレ二世が、絶句する。すると、パッソーニが席を立った。
「いやいや、アルマンティリア王国の誇る近衛騎士団が、そのような愚行に走るものか。ルチアーノ殿下、何かの間違いでは?」
パッソーニは、そう言いながら進み出ようとしたが、ルチアーノは彼の前に立ち塞がった。
「あいにく、証人もおります。まずは、指揮官の話をお聞きくださいませ」
「ルチアーノ殿下の仰る通りですわ」
意外にもルチアーノに賛同したのは、何と王妃だった。パッソーニを、じろりとにらみつける。
「パッソーニ殿。あなたは、確かに優れた宮廷魔術師。ですが、こちらにいらっしゃるのは、王子殿下なのですよ? それも、間も無く王太子となろうかというお方。その方の話を遮るなど、無礼千万!」
一同は、王妃の言葉に頷きながら、パッソーニに非難の視線を送っている。真純は意外に思った。
(王妃陛下は、パッソーニの味方をしないのか。二人は、協力関係では無い……?)
「お口添えいただき、感謝いたします」
ルチアーノは、王妃に向かって微笑んだ。
「ですが、私が王太子となるかどうかは、パッソーニ殿の占い次第。まだ未知数ゆえ、その件は言及をお控えいただきたい。何しろ、色々なお考えの方がいらっしゃいますからな」
王妃は、一瞬沈黙した後、口の端を上げた。
「確かに、先走りましたわね。ルチアーノ殿下は、謙虚でいらっしゃること」
控えている側近たちは、チラチラと二人を見比べては、囁き合った。
「うむ、殿下は謙虚でいらっしゃるな」
「いやいや、王妃陛下の方が寛大だろう。何せ殿下は、第二夫人のご子息……」
さすがに見かねたのか、国王は咳払いをした。
「静粛に。では、指揮官の話を聞こうではないか」
国王に促され、騎士団の指揮官が進み出た。
「恐れながら、申し上げます。ルチアーノ殿下の仰る通り、私どもは、二人の魔術師様を手にかけようといたしました」
パッソーニが、固唾を呑んでいるのがわかる。ミケーレ二世は尋ねた。
「何ゆえだ。誰の指示だ?」
指揮官が、ごくりと唾を飲む。そして彼は、こう告げた。
「どなたのご指示でもございません。私どもの独断です」
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