熱血俳優の執愛

花房ジュリー

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Side:陽斗

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  陽斗と伊織は、中学一年の一年間、同じクラスだった。伊織は誰ともつるむことなく、いつも一人で本を読んでいた。今にして思えば、当時から作家志望だったのだろうか。顔立ちはよく見ると整っていたが、黒縁の眼鏡のせいか、印象は地味だった。派手な容姿と明るい性格で、すぐにクラスの人気者になった陽斗とは、まるで正反対だった。
 そんな伊織を初めて意識したのは、最初の定期試験の時だった。彼と同じ小学校出身の生徒から、頭の良い奴だと聞かされた陽斗は、不安になった。
(――俺は、学年トップを獲れるだろうか)
 陽斗の父親はエリートサラリーマンで、兄二人は名門高校に通っていた。両親は陽斗に、あらゆる分野でトップを獲るよう求めた。焦燥に駆られた陽斗は、徹夜で試験勉強に取り組んだ……。
 そして、試験初日の朝。陽斗は愕然とした。目が真っ赤に充血していたのだ。ヤバいな、と陽斗は思った。これでは、ガリ勉したのが見え見えだ……。
 陽斗は早めに登校すると、目薬を手にトイレへ駆け込んだ。だが、中には先客がいた。伊織だった。
(――最悪)
 陽斗は、とっさに口走っていた。
『ついゲームしちゃってさ。それでこの充血。……ほら、試験直前て、意外とやることなくねえ?』
『……そう。別に、何も聞いてないけど』
 伊織は、静かに答えた。陽斗はなおも言いつのろうとしたが、彼はそのまま出て行った。
(よく考えたら、あいつと話すの、何気に初めてだよな……)
  とはいえ、会話の余韻に浸っている余裕は無かった。テストの結果もだが、伊織がこのことを言いふらさないかで、頭がいっぱいだったからだ。
 結果、陽斗は無事学年トップの成績を収めた。伊織は二位だったが、悔しがる様子も無く、淡々とした態度を崩さなかった。充血の件を、人に話すこともしなかった。それでも、陽斗の不安は消えることは無かった。
(あいつは気づいてる。俺が、常に必死だってことを……)
 授業中や休み時間、どこか冷めた伊織の視線とぶつかるたび、陽斗は表現しがたい敗北感に襲われたのだった。 
 その後陽斗は、一位の座を守り続けた。伊織は、常に二位だった。とはいえクラスメートの注目は、圧倒的に陽斗に集まった。目鼻立ちのくっきりした派手な顔に加えて、スポーツや音楽にも秀でていたからだろう。男女問わず人気のあった陽斗は、学級委員や行事の実行委員に、毎度選ばれた。担任もそんな陽斗に、クラスの仕切りを委ねるようになった。クラスメートらは、陽斗の指示に素直に従った。……しかし、唯一言うことをきかない人物がいた。伊織だった。
 協調性が無い、とでもいうのだろうか。クラスの行事に、伊織は最低限しか関わろうとしなかった。クラスメートの中には、『桜庭にひがんでるんじゃないか』と陰口を叩く者もいた。だが、陽斗にはわかっていた。
(違う。本当にひがんでるのは、俺の方だ……)
 伊織には、常に余裕があった。彼が本気を出せば、簡単に成績を抜かされる気がした。それだけに、陽斗は苛立った。
 そんな二人が本格的に衝突したのは、秋の文化祭の時だった。
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