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第2話 オナジイエ
しおりを挟むそれから一週間ほどが経ち、俺は本格的に自分がこれから住まう町。住まう家へと足を運ぶ。
引越しの荷物は夕方前には着く予定で、俺自身は向こうに昼過ぎには着く予定だった。そのため荷物が届くまで少しだけ時間の余裕がある……そう思っていた。
……今俺の目の前に広がっている光景を一文字で表すと「山」だ。
俺がいるのは別に山の麓でも山頂でもない。ただの玄関だ。
ダンボールが山のように積み上がり小さな山が出来上がっている。俺はこれをかき分けて行かなければ家の中に入れない。
つまり……だ、この山を攻略しなければいけない。
まずは、近くのダンボールを何個か触ってみる。
「……これだな」
色々な段ボールを触った結果、中に固いものが入っているのがそれだった。
この段ボール山を攻略するにあたり崖を上るのは必須。つまりその足場となる踏んでも潰れないわりかし頑丈めな段ボールを選別したというわけだ。
すいすいと上っていき、ようやく俺は向こう側にいける高さに到達(段ボール三つ分)。
そのまま対岸の段ボールと段ボールの隙間に足をかけ下りる。これでようやく家の中に入れた。
「……あ」
その山を作った原因となる相手がリビングから出てくる。
家の鍵がかかっていなかった時点で分かってはいたのだが、その当人文野茉莉がしっかりと目の前にいた。
「ども」
「……うん」
ファーストコンタクトなんてこんなもんだろうと思い、ズンズンと家のリビングのほうに向かう。
この家は平屋の一軒家だ。数年前にリフォームしたということもあって比較的新しい。
間取り的には3LDKで、それにロフトもあるので実質四部屋のようなものだろう。
玄関からリビングに向かう廊下に三つ部屋があり、そこを抜ければリビングである。ちなみにトイレは真ん中の部屋の反対側にあり、その隣が洗面所だ。
「ふう」
肩に背負っていたカバンを下ろす。パソコンなどがあったためそこそこ重かった。
俺の視線の先では小さな身体の女の子が先ほどの段ボール山から大変そうに荷物を運んでいる。
そのまま黙って座ってみているのも悪い気がするので立ち上がる。
「これ、運ぶの手伝うよ」
一瞬、驚いた顔をしたがすぐに頷いて「ありがとう」といって作業に取り掛かる。
正直今の今まで家族の集まり以外の場で顔を合わせたことがないため、距離感が計りづらい。これも徐々に慣れていくのだろう。
その山を更地にするのに一時間ほどがかかった。
段ボールだけでなく机などのものもあり分担しながらだったので少し時間がかかった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
時計を見れば三時前くらいで今からどこかにいくには少し時間が足りない。
リビングに座っていると、ある程度片付けに区切りをつけた彼女がやってくる。
「おつかれ、そういえば何であんな大荷物一人で片付けてたんだ……?」
「お母さん、今日仕事だから」
「それじゃあ、父親は?」
そのとき、俺は地雷を踏んだことに気付いた。
父親というワードが出た瞬間彼女の顔が暗くなったのだ。
「お父さんは……死んじゃったから」
「ごめん。無神経だった」
「大丈夫」
俺も他人のこと言えないから良く分かるが家族の死に関するワードはかなりの地雷だ、本当に申し訳ないことをした。
ピリつく空気を何とか変えるべく話を振る。
「そういや、今更俺が言うのもなんだけど本当に大丈夫だったのか?」
「大丈夫、それに本当に今更」
なんとなく棘を感じる言い方だ。正論だから何もいえない。
「まさか、絆君がいるとは思ってなかった」
「絆でいいよ、これから一緒に住むことになる訳だし」
「わかった、私のことも茉莉でいい」
「了解」
それから、軽くやり取りをしたところで俺の荷物が届く。
彼女が頼んだ業者と違ったところは、業者が玄関ではなくちゃんと部屋に荷物を運んでくれたところだ。
それを見ていた彼女も驚いたような顔をしていた。多分業者によるんだな。
荷解きを後回しにし(そもそも必要最低限の物しか持って来てないからすぐに終わる)俺はこれからの方針について話をしようとリビングに集める。
「じゃあ、とりあえず最低限ルールを決めようか」
「うん」
まず俺の議題として挙げたのは食事の問題、彼女が挙げたのは金銭面的問題だった。共通する部分もあったのでありがたい。
「じゃあ、まず先に茉莉の話からだな」
金銭面的と大雑把に言ったものの要は、家賃や水道・光熱費などだ。これは案外すんなりいったというか、実際俺が親と決めていたようなことをここでしただけだ。つまり基本的に半分ずつという形になった。毎月の終わり頃に俺が半分を受け取り父さんに渡し、それを父さんが払ってくれるということで合意。結果的に両方親が出してくれることになり、実質俺らは家賃を払わずに済む形になった。
こればっかりは本当に申し訳なくなる。
そして、水道・光熱費などに関してはこれは使うのが俺らなので俺らが出し合いそれを先ほど同様俺の父さんに渡す。これで合意。
俺が議題に挙げた食事に関しては基本的に各自でとなった。
洗濯なども別々に個人でするなど他にも細かいところは数点あったがそれも解決。
「そういえば、茉莉はどこ大に行くの?」
「海大だよ」
「あ、同じじゃん」
といったように軽い雑談で思いもよらないことが分かった。
「え、学部は?」
「人文」
「え、同じだ……」
恐ろしいこともあるもんだ。
「ちなみにだけど、学科は?」
「英米」
「あ、そこは違うのね」
ちがうんかい。
俺らが通う海陽学園大学は人文だけでなく経済や法学など様々な学部が存在する。俗に言うユニバーシティだ。その中の人文学部では主に学科が二つ存在し、一つが日本文化、もう一つが英米文化だ。俺はその日本文化学科に、茉莉は英米文化学科に通うことになるらしい。肝心なところは逆なのね。
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