ジャズバー『シャドウ』に集う面々《1》…子供でも良いかもしれない

YUKI

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大切な場所と拘束される場所

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 初日がライブという、初めて味わう大人の世界。
ステージで龍也はサックスで木島のピアノと共演していた。
俺の知らない龍也がそこにいた。
龍也は演奏者として参加している。俺は、その日だけ助っ人としてカウンターから出て、ウエイターをした。初めての経験。
落ち着いた雰囲気の店内。生で演奏される音楽。ピアノ、サックス、歌声、ジャズを楽しみ、酒を楽しみ、会話を楽しみ、その空間での出来事は俺の中の何かを変えた。
フロアでテーブルの間を行ったり来たり、酒の種類もカクテルの名前も何の知識もないまま、紡がれた名を書き留め、カウンター内にいるバーテンダーに伝え、出来上がった作品を間違わずお客様に届ける。
届けられた作品に口付けたお客様の喜び、満足、その想いを乗せた声をテーブルを離れ次のテーブルに向かう俺の背中は聞く。
次の日からはフロアではなくカウンター内でバーテンダーの補助をした。
酒の種類、カクテルの名前、それを作り出す道具、覚える事は学校で習う知識より遥かに難しく、繊細。
社会に出ればこんなにも習う事が沢山あるのだと気付かされる。
学校の勉強にプラスで覚える事が増え、最初は弱音を吐きそうになっていた。
龍也はライブの時だけの助っ人プラス演奏者。
木島さんにお前はダメだと思われないように頑張る事のみ、今は。いつか必ず横に立っても馬鹿にされないようになってやる。
対等とまでは思わないけど、俺だけを特別に見てほしい、側にいても良い人間だと思われたい。
そんな想いで緊張して失敗もしたが、月日と共に少しずつ隠せるようになってきて、木島さんの指摘や指図が少なくなりつつある。
その結果、揶揄われる回数も減って寂しく感じる気持ちに蓋をする事が増えて複雑でもある。
やっとこの店にも慣れてきた証拠にこの店が会員制だという事を知ったり、木島さん以外の従業員の名前と顔が一致し始めてきた。
今更なんだろうが・・・俺の中でやっと木島一色だったのが、少しだけ他の事にも目を向ける余裕が出てきたという事だ。
受付のモトさん、ボーイのアキラさん。二人とも20代後半で、なかなかの美丈夫で恋人同士だ。それとバーテンダーの櫻井さん、秋乃さん、ボーイの堤さん、翔さん、以上が俺がやっと認識したメンバーである。
その頃には、木島さんの事を亮さんと呼ぶ様になっていた。訪れる常連の人がそう呼ぶからつい釣られて呼んだら、怒られなかった。きっと穏やかな時間を求めやってくる常連さんのおかげだろう。
たまに亮さんはピアノに向かい、気ままにジャズを奏でる。その音は心にそっと忍び込み癒していくような、穏やかで優しい音色。
あの野獣のような人が・・・と、初めて聞いた時の俺はポカンと呆けた顔をしてしまい、また一つ俺の中で特別になった瞬間でもある。

バーテンダーの櫻井さんに閉店後カクテルを作らせてもらったりしている。俺は飲んではダメだと言われているから飲まないけど、代わりに櫻井さんが試飲してくれて、この間は美味しいと言ってもらえた。
父親ぐらいの年齢のせいか無意識に甘えた態度をとっている事があるみたいだ。
「櫻井さんにはヒロは可愛くなるよな。」
「そんな事ないです。櫻井さんは優しいから好きなだけです。特別なだけです。」
秋乃さんに言われ恥ずかしくて慌てて大きな声を出していた事を亮さんに咎められてしまった。
その日から、秋乃さんやアキラさんにヒロの特別な人と揶揄われ、櫻井さんには申し訳ないと思うのに、気にする事ないと頭を撫でられるとやっぱり嬉しい。
もういない父親にはこんな事されていたのは小さな時だけで、大きくなっては気恥ずかしく避けていたのに不思議な想いだ。
働き始めてあっという間に3ヶ月が過ぎていた。
家族との思い出が消えたわけでは無いし、寂しいと感じる時もある。でも、忙しく時が過ぎていくせいか、快楽に逃げたりしなくなっている。
少し前まで連絡を取り合っていた相手から時折ラインやらメールが届くが、無視をしていたら俺に彼氏が出来たと噂が広がっていると、マンション前で待ち伏せされた高科から聞かされた。
「ヒロ、俺には無理だとか、そんな人はいらないとか言いながらちゃっかり彼氏を作ったのか?」
嫌味混じりに言われ、腕を取り引き寄せようとする腕を払いのけ、後ずさる俺を追いかけて来る。
「彼氏なんていない。今はバイトと学校で忙しいだけだ。何、変な噂広げてるんだよ。良い加減にしてくれ。」
相手にしていてもキリがないと高科に背を向けマンションに向かっていた俺の首筋に何かが当てられたと思った時には体が痺れ意識が消えていた。

いつベッドに寝たんだったか、曖昧な記憶に頭がぼんやりとして寝返りを打とうとした体は思う様に動かない。
段々と意識がはっきりしてきた俺は、動かない腕に目をやるとベッドに縛られている現実に遭遇。
最後の記憶から高科の仕業なのだと思えるし、見覚えのあるベッドルームでもあるから深い溜息が溢れる。
「起きたか?」
「・・・。」
ずっと側にいたのか気づかなかった。
「無視をする事ないだろう。」
「何をしてるんですか?こんな事しても俺は貴方の事を特別な人には思わないですよ。」
「解ってる。」
俯き小さな声で呟く彼には、セフレであった頃の快活とした輝きが消えている。
「何があったんですか?言いたい事があるなら聞きますから、この拘束を解いて下さい。逃げたりも暴力も振るいませんから。」
俺の言い分に少しばかり躊躇したが、拘束を解いてくれ、力無く床にペタリと座り込んでしまった。
「中坊相手に大人が何をしているのやら。」
起き上がりベッドに腰掛けた俺は、目の前で俯き項垂れる高科の姿に呆れて高科の頭をこつりと叩いた。
「すまない。」
マンション前の薄暗い道端では気づかなかったが、目の下にはクマを作り無精髭のだらしのないおじさんに成り果てていた。
「ホントに何があったんだ?この有様は俺のせいだとか言わないでくれよ。貴方はもう、立派な大人なんだからな。」
「すまない。」
それ以上何も言わない男に深い溜息しか出てこない。
「何も言わないのなら俺帰るけど良いのか?こんな事までして俺と話したかったんだろ?」
「君と会わなくなって何もかも上手くいかなくなって、連絡しても君は無視をするし、ジムでは下手をして怪我をするし、病院に行ったらその帰りに事故に合うし、保険処理しようとしたら保険が効かないとか言われるし、弁償問題で揉めるし、お金はどんどん出ていくのにジムは首になるし。」
話を聞いてるうちに気の毒になってきた。
俺みたいに天涯孤独になりましたなんてことではないが、小さな悪夢が重なって大きく膨らんでいったんだなと自分の事でもないのに悲しくなってきそうだ。
「それで、何で俺なんだ?他に相談する人ぐらいいるだろう?家族とかさ。」
「親に助けて貰い事故の件は片付いた。」
「それなら、後は何が問題なんだ?」
「・・・。」
「黙ってないで言えよ。」
「寂しい。」
「はぁ?何だそれ?」
「俺を一人にしないでくれ!ヒロが好きなんだ。」
訴える様に俺を見上げる男からは、ただ不幸続きで弱った心を慰めてくれるなら誰でもいい、俺でなくても。
愛情なんて1ミリも感じない。
「帰る。悪いけど力にはなれないよ。あんたからは愛なんてもの感じない。他をあたりな。」
ベッドから立ち上がった俺の足を払った高科は、何処にそんな力があったのかって程の力で俺をベッドに押し付けのしかかってきた。
「愛してるよ。ずっと言っていただろ。俺の物になれって。」
「俺は物じゃない。退けよ、怪我したくないなら退け。」
「怪我だって?この状態で俺に逆らうのか?」
「愛してるとか言いながら、力尽くでしか俺を自由に出来ないとか、最低だな!」
悔しそうな表情の高科は反論する事も出来ず俺を押さえつけているだけ。
「良いよ、抱けば気が済むんなら好きにすれば良い。この部屋に閉じ込めたいなら閉じ込めれば良い。好きにすればいいさ。でも、俺はあんたを絶対に好きにはならないけどな。」
抵抗しないと言った俺を高科は気が済むまで抱いた。
事が終わった俺を満足そうにタオルで拭く姿は俺には哀れに見えた。
手錠で繋がれ部屋からは出る事ができない。窓には雨戸が閉められ、外の様子がわからない。
時計もないから正確な時間さえわからなくなっていた。
毎晩好き勝手に抱かれ、疲れて眠り、慣らされた体は愛撫に反応し、眠りから覚まされ、また疲れて眠る。
疲労から愛撫に感じにくくなった体には薬を使われ、無理矢理に感じさせられて意識は飛んでしまう。高科はいつになれば俺に飽きるだろうか?
薬の影響なのか、食欲も湧かないから食べない。
高科が少しばかり心配そうに俺に食べさせようとスープを掬ったスプーンを俺の口元に持って来る。逆らわず気が済むまで付き合うけど、結局は殆どを吐いてしまう。
俺が吐きそうにすると抱えてトイレに走る高科は少しばかり笑えてしまい、そんな俺を見て歪んだ笑みを見せる高科がいた。
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