ジャズバー『シャドウ』に集う面々《1》…子供でも良いかもしれない

YUKI

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勘違いで円満解決

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一応止血はしてるけど出来れば早く治療をしたい俺は、泣いて謝る真一さんを嬉しそうに宥める祐介さんに呆れてしまう。
「お二人さん、そろそろ病院に行きたいのですが、祐介さん大事にならない様にしてくれる知り合いの医者とかいないですか?」
俺の言葉に理解が及ばない祐介さんのはてなマークの飛び交う表情に二度目の大きな溜息を溢す。
「傷は浅いけど多少は縫わないといけないと思うのだが、ちゃんと理解してます?」
俺は上着のボタンを外し、脇腹の怪我を見せる。
「えっ!何それ?なんで怪我?えっ!シャツが真っ赤なんだけど!」
「祐介、ごめんなさい。勘違いで僕が刺してしまったんです。」
「はぁぁ?」
だからさっきから真一さんが泣きながら説明してたと思うのだが、聞いてなかったのか?
「何を聞いていたんだ?」
「いや、真一の泣き顔があまりに可愛くて聞いてなかった。すまない。」
「了解。今はもう状況は理解したと言う事で、さっきの俺の質問の答えはどうかな?」
これも聞いてなかったなんて言う様なら俺は一発殴ってもいいだろうと思うのだが、如何だろう?
「えっと、医者だよな。いる!少し遠いけど大丈夫かな?」
「これだけ待ったんだから今更だよ。祐介さん、車出せる?こんな遅い時間だけど診てくれるかな?頼んで貰えるだろうか?」
「勿論、送っていくに決まってるだろ!走りながら話そう。」
やっと、俺たち三人は車へと移動することができた。
後部座席に乗り込んだ俺は、やっと楽になれると緊張の糸が切れたらズキズキと痛みが襲って来た。
「祐介さん、横になっていてもいいかな?」
額に汗を滲ませる俺の様子に真一さんが慌てて助手席から降りて後部座席に乗り込んできた。
「僕の膝に頭を置いてください。僕にはそれぐらいしかできないので。」
「ありがとう、じゃあ遠慮なくお願いしようかな。祐介さんはヤキモチ妬かないでくださいね。」
「解ってます!僕はそんなに心が狭くありませんから。さぁ出発しますよ。」
車を走らせ大通りまで出た所で、ハンドフリーにした携帯で祐介さんは心当たりのある医者に連絡を取り始めた。
何度か呼び出し音の後、低くてずっしりとした男らしいバリトンボイスが聞こえてきた。
『もしもし、祐介。こんな時間にどうしたんだ?飲みの誘いならOKだぜ。』
「篤、今家にいるのか?」
『まだ、病院だけど直ぐに出れるよ。何処に行けばいい?』
「良かった、まだ病院にいてくれて。篤、頼み事なんだが、内緒の急患を一人連れて行く。頼めるかな?」
『はぁぁ、久しぶりに連絡してきたと思えば急患ですか、それも内緒のとは。いいぜ、連れてきな!それで容態はどうなんだ?重症ではなさそうだな。』
「重症って程ではないと思う。脇腹をトコっと刺されてるかな。」
『なるほど、脇腹をトコっと刺されてるね。深くか?浅くか?どっちだ!』
「えっと・・・。」
そこまでわからない祐介さんに代わって俺は起き上がり携帯に声が届く様に少し大きめの声で割り込んだ。
「刃渡15センチ程のナイフで、前から後ろ外への傷です。止血はしてますがまだ少し出血してます。眩暈とかはありません。刃が斜めに入ったので貫通してます。」
『中々にしっかりしてるね。出血は背中側からかな?』
「どちらもです。」
『了解!準備して待ってる。今何処らへん走ってる?』
「36号線、いつもの回る寿司屋を過ぎた。30分もすれば到着するよ。」
『解った。待ってるよ、事故らずに早く来い。』
慣れた感じの説明に二人の仲の良さが伝わってくる。ホッと息を吐き出すと益々緊張が薄れ、体が重く眠気が襲って来た。
「祐介さん、少し寝ていても良いかな?」
「僕の膝にどうぞ。眠っている間に着きますから。」
「では、真一さんの膝をお借りします。」
傷口を上にして俺は横になる事にした。
これだけ離れた病院なら亮さんにバレる事もないだろうと、こちらの件でも安心したら余計に眠くなってきた。
脇腹の痛みと微かに熱も出てきてる様な気がする。うつらうつら考えていたのにフッと糸が切れる様に意識が飛んだ。

自分を呼ぶ声が微かに聞こえる。
「弘樹さん、着きましたよ。起きれそうですか?」
「大丈夫だ。」
まだふらふらとする体を起こして呼吸を整えていると段々と視界もはっきりとしてきた。
開いた扉の向こうに心配そうに顔を覗かせる祐介さんが見え、病院に着いたのだと理解した。
「着いたが動けそうか?車椅子を借りてくるか?」
「大丈夫だよ。自分で動けるから。」
動こうとした動作が脇腹に響き、思わず呻いてしまった俺に二人の顔色が変わる。
「大丈夫じゃないだろう。無理をしないでください。弘樹君はいつも一人で頑張ろうとするんですから。」
祐介さんの困ったような寂しそうな表情に苦笑いで返してしまう。
「さぁ、動けるならとっとと診てもらいましょう。」
少しだけ気不味くなりかけた空気を祐介さんの明るい声が晴らしていく。こんな所がやはり俺とは違う大人だと思える所だ。
動くと引き攣るような痛みが走るが全く動けないわけではない。それでもやっとと言う言葉が出てしまうくらいには、我慢を重ねたと思える。
「やっぱり弘樹さん、無理してるんじゃないですか?僕の所為なのに何で怒らないんですか?こんな辛い思いまでさせられて。人が良すぎます。」
額に汗をかく俺の横を歩く真一さんは、自分の肩に腕を回して少しばかり体重を預ける俺がかなり辛そうな様子に心配しながらも俺の態度に疑問を投げかけてくる。
「それは、真一さんが可愛いから何でも許してしまうんです。」
「弘樹さん、僕を揶揄ってます?僕は真剣に聞いてるんですよ。」
頬を膨らまし怒る姿が本当に可愛い。
「揶揄ってなんていないですって、本気ですよ。今だって凄く可愛い。」
「もう!中学生の弘樹さんに言われても嬉しくないですって!」
廊下の先、白い服を纏った大柄の男が腕を組み仁王立ちしているのが見えた。
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