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<12/リリエンヌ>

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 布おむつカバーも、授乳服も、思った以上にスムーズに開発出来て、順調な育児生活を満喫しております。ふふ。
 「結構な無茶を言うつもりだから、発想が自由で、楽しんでくれる仕立て屋さんを手配して」、とハイネに頼んだ所、紹介されたオスカーおネエ様が、相性ばっちりだったのよ。
 オスカーは、身長が百九十センチ以上はありそうな大柄な体格に、ムッキムキの二の腕を持つ美丈夫なのだけど、心は乙女。
 ムッキムキなのに、顔立ちが綺麗だからか、ゴリラっぽさはない。
 身に纏っているのは、いっそシンプルな位に装飾控えめなのだけど、ラインの綺麗なワンピースだ。
 元々は、騎士団で訓練を積んでいた騎士様だったそう。でも、ずっと、自分に違和感があったんですって。
 本人の口から聞いたわけではないけど恐らく武門の貴族出身で、恵まれた体格を持ち、将来有望だったオスカー。
 ある年の忘年会(この世界にもあるんだね、忘年会)で、お笑い要員として女装した時に、
「…これだ…!」
と、天啓を受けたらしい。
 男性的な筋肉を鍛えまくってきたのは、己の中の女性性から目を逸らす為だったのよ…、と、憂いを帯びた目で語ってくれた。
 心が乙女である事に気づいたオスカーだけど、とにかく大柄なので、適当な婦人服を手に入れてこっそり女装する、とかは無理。
 何しろ、入る服がないからね。
 で、元々、手先が器用だった事もあって、自分が着たい服を自分で作るようになって…今に至る、と。
 その間をちょっと、省略し過ぎじゃありませんこと?と横目で見てみたのだけど、
「うふふ、いい女には秘密があるものでしょう?」
と、ドキッとするような笑みを浮かべられた。
 ともあれ、元々が、「世の中にない服を作る」事からスタートした人なので、これまで、この世界になかった私のアイディア商品にも対応出来るのでは、と、ハイネが紹介してくれたのだ。
 二人はどうも、学園の同級生だったらしい。
 と言う事は、オスカーは三十歳…?
 尋ねてみたら、
「乙女に年を聞くなんて、いけない子ねっ」
と、めっ!とされてしまった…何でしょう、キュンとしたんだけど。
 ボディラインこそマスキュラインなままだけれど、髪を伸ばし、ワンピースを着て生活しているオスカーに、女性の名に変える事はしないの?と尋ねた事がある。
「父には勘当されてしまったけれど、実家は好きだし、産んでくれた事にも感謝してるのよ。だから、両親に貰った名は、このまま、名乗っていくつもりなの」
 少しだけ寂しそうに、でも、誇らしそうに話してくれたオスカーは、仕立て屋さんとしてだけではなく、お友達になって欲しい人だ。
 応用力も期待以上で、私が下手なイラストを描きつつ、布おむつカバーについて一生懸命説明した所、ふむふむと言いながら、その場でさくさくと仮縫いまでしてくれた。
 防水布を使ったカバーで漏れを押さえ、内側の吸収体は折りたたんだだけの布なので、洗濯しやすい。
 この世界に面ファスナーは存在しないから、カバーを留めるのはボタン。
 微調整は、面ファスナーの方がしやすいんだけどね…原理を理解してないから、転生チートによる開発は難しそう。
 オナモミ的なものを見つけたら、これを参考に面ファスナー開発して!と、それらしい所に開発を丸投げしようと思っている。
 ともあれ、これぞ、私の前世の記憶にある布おむつ…!と言うものが完成した。
 クローディアスに使うようになって一ヶ月だけど、こまめにチェックしてるからか、滅多に漏れる事はない。
 寝返りするようになったり、ハイハイするようになったら、微調整が必要になるかな。
 もう一点のアイディア商品、授乳服。
 こっちの方は、心は乙女とは言え男性相手なので、上手に説明出来るか判らなかったのだけど、偶然、オスカーの妹さんが授乳中って事で、色々と相談をしてくれたみたい。
 妹さんは、商家の後継ぎさんに嫁いだ為、乳母なしで自力で子育てしているらしい。
 第一弾は、前身頃に縦にピンタックをたくさん入れたデザインだった。
 パッと見は、前中心から左右対称にピンタックを寄せているクラシカルなデザインのワンピースドレスなのだけれど、実はピンタックで布の合わせ目が隠してあるの。
 丁度、乳首の出る位置が、隠しボタンで開けられるようになっているから、上半身をごそっと脱がなくても、ボタンを二つばかり外すだけで授乳可能。
 便利!
 幾ら、王子妃として入浴も侍女達に手伝ってもらっているとは言え、あんまり、大っぴらに授乳してる姿を見せるのは、恥ずかしいと言うか…。
 着脱に慣れてしまえば、対面している相手にも気づかれずに授乳出来ちゃう。
 この授乳服は、オスカーの妹さんにも好評だったので、自分が着る為だけではなく、幅広い階級に普及出来るようなデザインを、色々と起こして貰った。
 そのうち、王都で流行るといいなぁ。
 私が着ているものは、一応は王族なので、最も装飾性が高いかな。
 そうは言っても、大事なクローディアスの可愛いお顔に傷なんてついた日には泣くに泣けないので、使う素材は柔らかいものだけ、と限定してるんだけどね。
 こんな感じで便利育児グッズを開発しつつ、クローディアスのお世話をしながら、新生児期が過ぎました。
 ルーカス殿下に宣言した通り、私は基本、日中のみ、クローディアスのお世話をしていて、夜間は乳母と侍女にお任せ。
 お陰で、子供を産んだばかりなのに、しっかりと休ませて貰ってます。
 だからか、体の回復も早いように感じる。
 睡眠不足ってほんと、万病の元だなぁ、と思う。
 育児を手助けしてくれる手がある、って、大きいわ。
 お陰様で、快調快調。
 ルーカス殿下は、週に一、二回、王子宮を訪れては、クローディアスを抱っこしていくようになった。
 里帰り出産なら、パパが週一面会も当然だから、前世の男性陣に比べて極端に少ない事もないと思う。
 同じ宮に住んでいるよりは接触が少ないだろうけど、私が想像していたよりも会いに来てくれている。
 赤ちゃんの可愛さに目覚めたと言う事なのか、パパの自覚を持ってくれたと言う事なのか。
 クローディアスのヤンデレ化防止大作戦として、ルーカス殿下がクローディアスに関心を持ってくれるのは大歓迎なので、来てくれるのは嬉しい。
 ただ、時期がまだまだ早い玩具を持って来た上で、次に訪れた時に、
「…あれは、気に入らなかったのか…?」
と悲しそうに聞かれるのは…正直、困る。
 固い木製の積み木とか、小さいビー玉みたいな硝子玉とか、まだ首も据わってない生後一ヶ月の乳児には早過ぎますって!
 危ないからね、誤飲!!
 その度に、
「玩具はとても素敵なのですけれど、クローディアスにはまだ早いのですわ。適切な時期になりましたら、喜んで遊ぶ事でしょう」
と、穏やかに答えなくてはいけない苦痛よ…。
 気が付いて。
 貴方の息子はまだ、それで遊べる程には成長していないの…!
 う~ん…何かしたい、と言う気持ちはお持ちのようだから、こちらから、どんなものが欲しいか、話してみようかな。
「リリエンヌ様、ルーカス殿下がおいでになりました」
 そんな事を考えているうちに、また、おいでになったらしい。
 最初のうちは、ルーカス殿下が訪問する度に多少慌てていたハイネも、今では慣れたものだ。
 いやぁ…ほんと、凄いな、赤ちゃんパワー。
 一年で一回だった訪問が、クローディアス誕生から既に何回かしら。
「クローディアス。お父様が、貴方に会いに来て下さったわよ」
 ヤンデレフラグ、折れただろうか?
 いやいや、まだ、生後一ヶ月。
 ここで油断は禁物だよね。

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