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エディスが、西域騎士団に来て四週間。
元々、エディスは立哨当番に組み込まれていないが、この一週間は休暇となっている。
女性の障りがある時期と休暇を被せて貰うようになって、十年。
僅かなタイムラグが命取りになる現場を思うと、緊急出動も避けたい所だ。
驚いた事に、未だに婚約者殿に会えていない。
何しろ、エディスは相手の名前も顔も年齢も知らない。
こちらから探すのが難しい以上、先方から名乗り出て貰うしかないのだ。
だが、会いたい用件が、
「婚約破棄は、まだですか?」
との問い合わせなのだから、何と言うか、会いたいようで会いたくないようで。
いや、婚約破棄そのものは、覚悟している。
この十年の婚活で、エディスを配偶者に迎えたいと言う奇特な男性が存在しない事は、骨の髄まで沁みて理解した。
だから、これは、エディスの心安らかな未来へと進む為の、大事なワンステップだ。
最終目的は、家を出る事。
三人の兄達は結婚し、三人の弟達のうち、二人は婚約済みで挙式準備中。
末弟キムは成人したばかりだが、そう遠くないうちに、きっと相手が見つかる事だろう。
二人の兄は婿入りして、家を出た。
二人の弟のうち、オリバーは婿入り、カーティスは実家の近くに家を買う予定。
こうして、どんどん兄弟が実家を出ていくけれど、長兄アーサーの妻フローラと子供達は、ずっと同居しているのだ。
近い将来、弟達も家を出て行ったら、最終的に実家で暮らすのは、家長である父トマス、後継者である兄アーサーとその家族、そして、小姑であるエディス。
幸せな家族の中に、これ以上、何でもない顔をして混ざる事は出来ない。
勿論、誰一人として、エディスを邪魔者扱いする事はない。
寧ろ、とても大切にしてくれている。
九歳を頭に、先日生まれたばかりの赤ん坊を含めて四人の甥っ子達(ラングリード一族は、徹底した男系だ)の成長を傍で見ていられるのは、嬉しい。
手助け出来る事は、何でもして来たつもりだ。
けれど、自分の存在は、ともすると可愛い甥っ子達の人生の妨げになってしまうかもしれない。
色々と大人の事情が判るようになってきた甥っ子クリスに、
「エディス姉、俺が大人になったら…お嫁に来る?」
とか言われてしまったら、義姉に申し訳なさ過ぎて、もう。
クリスの事は大好きだけど、残念ながら叔母と甥は結婚出来ないんだよ、と、にこやかにお断りはしたものの、九歳に気を遣わせてしまうなんて、絶対、よくない。
こうなったら、婚約破棄された傷物として、正々堂々胸を張って家を出なくては。
別々に暮らして、週に一度とか、月に二度の頻度で会う位ならば、きっと、大丈夫。
ある程度の距離を保てば、クリスも気を遣う事はなかろう。
よし、来い、婚約破棄!
けれど、ここまで名乗り出ないと言う事は、相手は互いに傷がつかないように婚約解消しようとしているのではないか、とも、エディスは思う。
婚約破棄と言えば、女性側が不利益を被る事が多い。
例え、男性側に問題があったとしても、婚約を破棄された令嬢、と言うレッテルがついて、傷物扱いされるのは女性側だ。
そうである反面、男性だって、女性側からの評価は著しく下がってしまう。
「あの男は、何の瑕疵もない女性との婚約を破棄したのよ!」と、総すかんを食らう可能性が、ないとは言えない。
…エディスに何の瑕疵もないかは…見方に依るかもしれないけれど。
エディスの婚約者は、(恐らく)大貴族家で、引く手数多で困っているモテ男のようだから、ちょっと位、悪い噂が出た所で、大勢に影響はないと思うのだが。
今回の婚約で益があるのは、虫除けが欲しい男性側のみ。
エディスにとっては、何一つ良い事はないどころか、デメリットしかない。
婚約者は、良心が咎める、として、穏便な形での決着を求めているのかもしれない。
そうであれば、未だに名乗り出ない理由も判ろうと言うもの。
実際は、がっつりはっきり婚約破棄してくれる方が、明確に傷物となるので、有難いのだけど。
「あ」
そう言えば、トマスは大きなヒントを出してくれていたじゃないか。
エディスは、四週間経って、漸く気が付いた。
婚約決定と聞いて、あの時の自分は、自覚していた以上に混乱していたらしい。
トマスは、助っ人として西域騎士団を訪れた時に婚約者の父親と意気投合して、二人の子供の婚約を決めたと聞いた。
つまり、婚約者も、婚約者の父親も、二人ともが西域騎士団に所属している、と言う事。
「え~と…」
四週間も経てば、顔と名前だけではなく、家名も含めて覚えている。
傷病休暇中で、顔も知らない団員だって、名だけなら把握出来ているのだ。
親子、親子…と、脳内の騎士団員リストを検索していたエディスは、首を傾げた。
いない。
親子で西域騎士団に所属している騎士なんて、いない。
幹部でなければ、騎士の定年は、五十歳。
肉体労働の為、定年まで勤め上げる者の方が少ない。
深淵の森で魔獣を相手にするよりも、街中でゴロツキを相手にする方が、危険性は低い。
経験値と言う物は大事だが、深淵の森の魔獣は、衰え始めた体で対応出来る程に甘くはないのだ。
西域騎士団で、唯一、父子で在籍しているのは、ジェレマイアと団長ティボルトだが…。
「ないない」
確かに、父子で騎士団在籍、と言う条件には当てはまっているけれど、ジェレマイアが婚約者である可能性は、西域に来て早々に、ない、と断じた。
何しろ、ジェレマイアに日々届く身上書の量は、尋常ではない。
少しずつ、「お断り」の返信を送ってはいるものの、こちらが返信するよりも、届く量が大きく上回っているのだ。
そんな状態のジェレマイアが婚約を発表したとして、相手がエディスでは、焼け石に水、二階どころか三階から目薬。
虫除けの効果が見込めると思えない。
ジェレマイアは、凄い人だ、と、エディスは思う。
整理整頓など、少々、頼りない面もあるけれど、公爵家子息であり、副団長と言う地位にありながら、平騎士の助言を聞く素直さを持ち合わせてもいる。
命の危険と隣り合わせの現場だから猶更、経験者の言葉は重い。
だが、そう知っている事と、実際に受け止めて自身に適用出来るかは、別の話なのだ。
副団長に就任したばかりなのもあるのだろうが、なかなか得難い資質だ。
少しばかり贔屓目が入るのは、エディスよりも若いのに重責を担っている彼を、尊敬する思いがあるからだ。
バシリスクの件以降、二回、緊急出動があった。
その時に、指示を出しながら、自らも魔法を駆使し、剣を振るって戦っていた姿から、史上最年少で副団長になったのも当然と思える実力を感じた。
傍で見ていて、あれ程の安心感を覚えた騎士は、父や兄弟以外に覚えがない。
エディスに、東域騎士団以外で討伐に出た経験がなかったせいもあるかもしれないが、彼が屈指の実力者なのは確かだ。
また、彼は気配りの人でもある。
エディスは、自分が強い事を知っている。
魔力による身体強化に長け、己の特性を活かす戦い方が出来ると自負もしている。
バシリスクの一件で、西域騎士団内でも、実力者として認められるようになった実感もある。
だから、自然と、訓練をつけている新人騎士達だけではなく、エディスよりも年長の者達までが、エディスに指示を仰ぎ、助言を求めるようになっているが、その対応に困惑する事もなかった。
東域騎士団でも、ずっと、そうだったから。
だからこそ、ジェレマイアがエディスを頼り、現場の指揮を任せてくれる一方で、無理をしていないか、怪我を負っていないかと気を配ったり、書類整理の補佐中に、差し入れと言ってちょっとお高いお菓子をくれる事が、何だか気恥ずかしく甘酸っぱいような気持ちにさせる。
助っ人だから、なのだろう。
他団からの借り物だから、気を遣ってくれているのだ。
そうは、思うのだけれど…理由が何であれ、家族以外で彼程、エディスを気に掛けてくれる男性に、初めて出会った。
時折、ジェレマイアは本当はエディスの性別を正しく認識していて、女性として大切に扱ってくれているのではないか、とすら、思ってしまいそうになる。
…勘違いなのは、よく判っているけれど。
「…幸せに、なって欲しいなぁ…」
日々、隣で彼の補佐をしていて、エディスはより一層、その思いを強くしていた。
弟達と同年代と言う事もあるが、ジェレマイアには是非とも、温かい家庭を築いて欲しい。
騎士と言う仕事は、肉体だけではなく、心も摩耗するものだ。
相手が魔獣であっても、命を奪うと言う行為は、心の何処か柔い部分を傷つけている。
愛する家族の待つ家庭がある事で、生還への意思が高まり、家族を守れたと言う自信が、己の心もまた守るからこそ、本当に心の通い合った人と、結ばれて欲しい。
今の所、ジェレマイアが身上書に興味を持った事はなく、中身も見ずに「お断り」として処理してしまうが、彼はエディスと違って大モテなのだから、いいお相手に、出会える筈だ。
と言うか、いいお相手を見つけてあげたい。
「あ、そうか」
父子で在籍、と考えていたけれど、エディスが来るまでに父親の方が退職している可能性を、失念していた。
トマスは、三ヶ月、西域騎士団に滞在していたのだ。
その間に退職している可能性は、十分にある。
恐らく、自分の騎士人生の終焉が見えて来た時に、息子に婚約者がいない事が不安になったとか、そんな話ではないだろうか。
きっと、そうだ。
だから、万が一にも、ジェレマイアから婚約破棄を告げられる未来は、ない。
エディスは、何処かホッとする。
安堵の理由に、自分でも、気が付かないまま。
元々、エディスは立哨当番に組み込まれていないが、この一週間は休暇となっている。
女性の障りがある時期と休暇を被せて貰うようになって、十年。
僅かなタイムラグが命取りになる現場を思うと、緊急出動も避けたい所だ。
驚いた事に、未だに婚約者殿に会えていない。
何しろ、エディスは相手の名前も顔も年齢も知らない。
こちらから探すのが難しい以上、先方から名乗り出て貰うしかないのだ。
だが、会いたい用件が、
「婚約破棄は、まだですか?」
との問い合わせなのだから、何と言うか、会いたいようで会いたくないようで。
いや、婚約破棄そのものは、覚悟している。
この十年の婚活で、エディスを配偶者に迎えたいと言う奇特な男性が存在しない事は、骨の髄まで沁みて理解した。
だから、これは、エディスの心安らかな未来へと進む為の、大事なワンステップだ。
最終目的は、家を出る事。
三人の兄達は結婚し、三人の弟達のうち、二人は婚約済みで挙式準備中。
末弟キムは成人したばかりだが、そう遠くないうちに、きっと相手が見つかる事だろう。
二人の兄は婿入りして、家を出た。
二人の弟のうち、オリバーは婿入り、カーティスは実家の近くに家を買う予定。
こうして、どんどん兄弟が実家を出ていくけれど、長兄アーサーの妻フローラと子供達は、ずっと同居しているのだ。
近い将来、弟達も家を出て行ったら、最終的に実家で暮らすのは、家長である父トマス、後継者である兄アーサーとその家族、そして、小姑であるエディス。
幸せな家族の中に、これ以上、何でもない顔をして混ざる事は出来ない。
勿論、誰一人として、エディスを邪魔者扱いする事はない。
寧ろ、とても大切にしてくれている。
九歳を頭に、先日生まれたばかりの赤ん坊を含めて四人の甥っ子達(ラングリード一族は、徹底した男系だ)の成長を傍で見ていられるのは、嬉しい。
手助け出来る事は、何でもして来たつもりだ。
けれど、自分の存在は、ともすると可愛い甥っ子達の人生の妨げになってしまうかもしれない。
色々と大人の事情が判るようになってきた甥っ子クリスに、
「エディス姉、俺が大人になったら…お嫁に来る?」
とか言われてしまったら、義姉に申し訳なさ過ぎて、もう。
クリスの事は大好きだけど、残念ながら叔母と甥は結婚出来ないんだよ、と、にこやかにお断りはしたものの、九歳に気を遣わせてしまうなんて、絶対、よくない。
こうなったら、婚約破棄された傷物として、正々堂々胸を張って家を出なくては。
別々に暮らして、週に一度とか、月に二度の頻度で会う位ならば、きっと、大丈夫。
ある程度の距離を保てば、クリスも気を遣う事はなかろう。
よし、来い、婚約破棄!
けれど、ここまで名乗り出ないと言う事は、相手は互いに傷がつかないように婚約解消しようとしているのではないか、とも、エディスは思う。
婚約破棄と言えば、女性側が不利益を被る事が多い。
例え、男性側に問題があったとしても、婚約を破棄された令嬢、と言うレッテルがついて、傷物扱いされるのは女性側だ。
そうである反面、男性だって、女性側からの評価は著しく下がってしまう。
「あの男は、何の瑕疵もない女性との婚約を破棄したのよ!」と、総すかんを食らう可能性が、ないとは言えない。
…エディスに何の瑕疵もないかは…見方に依るかもしれないけれど。
エディスの婚約者は、(恐らく)大貴族家で、引く手数多で困っているモテ男のようだから、ちょっと位、悪い噂が出た所で、大勢に影響はないと思うのだが。
今回の婚約で益があるのは、虫除けが欲しい男性側のみ。
エディスにとっては、何一つ良い事はないどころか、デメリットしかない。
婚約者は、良心が咎める、として、穏便な形での決着を求めているのかもしれない。
そうであれば、未だに名乗り出ない理由も判ろうと言うもの。
実際は、がっつりはっきり婚約破棄してくれる方が、明確に傷物となるので、有難いのだけど。
「あ」
そう言えば、トマスは大きなヒントを出してくれていたじゃないか。
エディスは、四週間経って、漸く気が付いた。
婚約決定と聞いて、あの時の自分は、自覚していた以上に混乱していたらしい。
トマスは、助っ人として西域騎士団を訪れた時に婚約者の父親と意気投合して、二人の子供の婚約を決めたと聞いた。
つまり、婚約者も、婚約者の父親も、二人ともが西域騎士団に所属している、と言う事。
「え~と…」
四週間も経てば、顔と名前だけではなく、家名も含めて覚えている。
傷病休暇中で、顔も知らない団員だって、名だけなら把握出来ているのだ。
親子、親子…と、脳内の騎士団員リストを検索していたエディスは、首を傾げた。
いない。
親子で西域騎士団に所属している騎士なんて、いない。
幹部でなければ、騎士の定年は、五十歳。
肉体労働の為、定年まで勤め上げる者の方が少ない。
深淵の森で魔獣を相手にするよりも、街中でゴロツキを相手にする方が、危険性は低い。
経験値と言う物は大事だが、深淵の森の魔獣は、衰え始めた体で対応出来る程に甘くはないのだ。
西域騎士団で、唯一、父子で在籍しているのは、ジェレマイアと団長ティボルトだが…。
「ないない」
確かに、父子で騎士団在籍、と言う条件には当てはまっているけれど、ジェレマイアが婚約者である可能性は、西域に来て早々に、ない、と断じた。
何しろ、ジェレマイアに日々届く身上書の量は、尋常ではない。
少しずつ、「お断り」の返信を送ってはいるものの、こちらが返信するよりも、届く量が大きく上回っているのだ。
そんな状態のジェレマイアが婚約を発表したとして、相手がエディスでは、焼け石に水、二階どころか三階から目薬。
虫除けの効果が見込めると思えない。
ジェレマイアは、凄い人だ、と、エディスは思う。
整理整頓など、少々、頼りない面もあるけれど、公爵家子息であり、副団長と言う地位にありながら、平騎士の助言を聞く素直さを持ち合わせてもいる。
命の危険と隣り合わせの現場だから猶更、経験者の言葉は重い。
だが、そう知っている事と、実際に受け止めて自身に適用出来るかは、別の話なのだ。
副団長に就任したばかりなのもあるのだろうが、なかなか得難い資質だ。
少しばかり贔屓目が入るのは、エディスよりも若いのに重責を担っている彼を、尊敬する思いがあるからだ。
バシリスクの件以降、二回、緊急出動があった。
その時に、指示を出しながら、自らも魔法を駆使し、剣を振るって戦っていた姿から、史上最年少で副団長になったのも当然と思える実力を感じた。
傍で見ていて、あれ程の安心感を覚えた騎士は、父や兄弟以外に覚えがない。
エディスに、東域騎士団以外で討伐に出た経験がなかったせいもあるかもしれないが、彼が屈指の実力者なのは確かだ。
また、彼は気配りの人でもある。
エディスは、自分が強い事を知っている。
魔力による身体強化に長け、己の特性を活かす戦い方が出来ると自負もしている。
バシリスクの一件で、西域騎士団内でも、実力者として認められるようになった実感もある。
だから、自然と、訓練をつけている新人騎士達だけではなく、エディスよりも年長の者達までが、エディスに指示を仰ぎ、助言を求めるようになっているが、その対応に困惑する事もなかった。
東域騎士団でも、ずっと、そうだったから。
だからこそ、ジェレマイアがエディスを頼り、現場の指揮を任せてくれる一方で、無理をしていないか、怪我を負っていないかと気を配ったり、書類整理の補佐中に、差し入れと言ってちょっとお高いお菓子をくれる事が、何だか気恥ずかしく甘酸っぱいような気持ちにさせる。
助っ人だから、なのだろう。
他団からの借り物だから、気を遣ってくれているのだ。
そうは、思うのだけれど…理由が何であれ、家族以外で彼程、エディスを気に掛けてくれる男性に、初めて出会った。
時折、ジェレマイアは本当はエディスの性別を正しく認識していて、女性として大切に扱ってくれているのではないか、とすら、思ってしまいそうになる。
…勘違いなのは、よく判っているけれど。
「…幸せに、なって欲しいなぁ…」
日々、隣で彼の補佐をしていて、エディスはより一層、その思いを強くしていた。
弟達と同年代と言う事もあるが、ジェレマイアには是非とも、温かい家庭を築いて欲しい。
騎士と言う仕事は、肉体だけではなく、心も摩耗するものだ。
相手が魔獣であっても、命を奪うと言う行為は、心の何処か柔い部分を傷つけている。
愛する家族の待つ家庭がある事で、生還への意思が高まり、家族を守れたと言う自信が、己の心もまた守るからこそ、本当に心の通い合った人と、結ばれて欲しい。
今の所、ジェレマイアが身上書に興味を持った事はなく、中身も見ずに「お断り」として処理してしまうが、彼はエディスと違って大モテなのだから、いいお相手に、出会える筈だ。
と言うか、いいお相手を見つけてあげたい。
「あ、そうか」
父子で在籍、と考えていたけれど、エディスが来るまでに父親の方が退職している可能性を、失念していた。
トマスは、三ヶ月、西域騎士団に滞在していたのだ。
その間に退職している可能性は、十分にある。
恐らく、自分の騎士人生の終焉が見えて来た時に、息子に婚約者がいない事が不安になったとか、そんな話ではないだろうか。
きっと、そうだ。
だから、万が一にも、ジェレマイアから婚約破棄を告げられる未来は、ない。
エディスは、何処かホッとする。
安堵の理由に、自分でも、気が付かないまま。
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