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第1章 ラヴェラルタ家の令嬢は病弱である
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街道上には七、八頭の赤魔狼の死骸が散らばっており、血まみれの男たち数人も土の上に倒れていた。
しかしそれよりも、二人の青年の前に立ちふさがる獣の姿に、マルティーヌですら戦慄を覚えた。
「どうして……巨躯魔狼が……」
現在では伝説上の魔獣とされる、その猛々しい姿が目の前にあった。
姿形は地面に転がっている赤魔狼と変わらないが、攻撃態勢を低く取った体高は二階建ての建物ほどあり、ギラギラした赤い目は人の頭より大きい。
鋭い牙がずらりと並んだ巨大な口は、牛一頭を容易く丸呑みにできる。
全身を覆う真紅の体毛は一本一本が鋼でできているかのごとく硬く、巨大な爪は岩山を削り取るほど鋭い。
「ジョエルっ!」
銀の髪の青年が叫んだ時、大きく開かれた赤い口が黒髪の青年を襲った。
彼はとっさに身をかわしながら、長剣を握った右腕を振るう。
しかし。
「うわぁっっ!」
右肩から上半身を巨大な口に捕らえられ、口の端からのぞいた手首から、長剣が落ちた。
「くそっ! ジョエルを放せ!」
ジョエルと呼ばれた青年の両足が土から離れ、宙づりになった。
もう一人の青年が巨大な狼の首筋に斬りかかるが、硬い体毛に弾き返され、全くダメージを与えられない。
「ヴィルジールさ……ま、くっ……お逃げ……ください!」
「そんなこと、できるかっ!」
魔狼は大きく首を振ると、咥えていた青年を脇の藪の中に放り投げた。
「ジョエルーっ!」
小木をなぎ倒す音に紛れて、青年の悲鳴が遠ざかっていく。
そして魔狼は、なおも攻撃を続けていたもう一人に向かって、うるさい蝿を追い払うように前足を振るった。
「うわぁぁっ!」
巨大な爪が凄まじい速さで青年を襲う。
しかしその爪は、とっさに地に体を伏せた彼に届かなかった。
赤黒い毛に覆われた獣の手首が、どさりと音を立てて彼の目の前に落ちる。
滝のように落ちてきた獣の血が、赤黒く地面を染めた。
ギャァァー!
魔狼は悲鳴をあげると後ずさった。
何が起きたのか理解できない様子で、先のなくなった前脚を目の前に持ち上げる。
これだけレベルの高い魔獣だから、きっと怪我を負った経験などなかったに違いない。
初めて味わう痛みという感覚に戸惑う間にも、血がぼたぼたと落ちていく。
「もう少し早く駆けつけられればよかった。すまない」
その声にはっとした青年が顔を上げると、視界を塞ぐ大きな獣の足裏ごしに、人の上半身がちらりと見えた。
背中に広がるもっさりと長い茶色の髪。
白いブラウスの肩は華奢だ。
信じられないことに、巨大な魔獣との間に割り込んできたのは小柄な少女だった。
「だ……め、だ。逃げ……ろ」
青年が必死に声を振り絞ったが、その警告は少女には届かなかった。
しかしそれよりも、二人の青年の前に立ちふさがる獣の姿に、マルティーヌですら戦慄を覚えた。
「どうして……巨躯魔狼が……」
現在では伝説上の魔獣とされる、その猛々しい姿が目の前にあった。
姿形は地面に転がっている赤魔狼と変わらないが、攻撃態勢を低く取った体高は二階建ての建物ほどあり、ギラギラした赤い目は人の頭より大きい。
鋭い牙がずらりと並んだ巨大な口は、牛一頭を容易く丸呑みにできる。
全身を覆う真紅の体毛は一本一本が鋼でできているかのごとく硬く、巨大な爪は岩山を削り取るほど鋭い。
「ジョエルっ!」
銀の髪の青年が叫んだ時、大きく開かれた赤い口が黒髪の青年を襲った。
彼はとっさに身をかわしながら、長剣を握った右腕を振るう。
しかし。
「うわぁっっ!」
右肩から上半身を巨大な口に捕らえられ、口の端からのぞいた手首から、長剣が落ちた。
「くそっ! ジョエルを放せ!」
ジョエルと呼ばれた青年の両足が土から離れ、宙づりになった。
もう一人の青年が巨大な狼の首筋に斬りかかるが、硬い体毛に弾き返され、全くダメージを与えられない。
「ヴィルジールさ……ま、くっ……お逃げ……ください!」
「そんなこと、できるかっ!」
魔狼は大きく首を振ると、咥えていた青年を脇の藪の中に放り投げた。
「ジョエルーっ!」
小木をなぎ倒す音に紛れて、青年の悲鳴が遠ざかっていく。
そして魔狼は、なおも攻撃を続けていたもう一人に向かって、うるさい蝿を追い払うように前足を振るった。
「うわぁぁっ!」
巨大な爪が凄まじい速さで青年を襲う。
しかしその爪は、とっさに地に体を伏せた彼に届かなかった。
赤黒い毛に覆われた獣の手首が、どさりと音を立てて彼の目の前に落ちる。
滝のように落ちてきた獣の血が、赤黒く地面を染めた。
ギャァァー!
魔狼は悲鳴をあげると後ずさった。
何が起きたのか理解できない様子で、先のなくなった前脚を目の前に持ち上げる。
これだけレベルの高い魔獣だから、きっと怪我を負った経験などなかったに違いない。
初めて味わう痛みという感覚に戸惑う間にも、血がぼたぼたと落ちていく。
「もう少し早く駆けつけられればよかった。すまない」
その声にはっとした青年が顔を上げると、視界を塞ぐ大きな獣の足裏ごしに、人の上半身がちらりと見えた。
背中に広がるもっさりと長い茶色の髪。
白いブラウスの肩は華奢だ。
信じられないことに、巨大な魔獣との間に割り込んできたのは小柄な少女だった。
「だ……め、だ。逃げ……ろ」
青年が必死に声を振り絞ったが、その警告は少女には届かなかった。
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