鳥を狩るドロシー | 三題噺Vol.26

冴月練

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鳥を狩るドロシー

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📘 三題噺のお題
鏡の裏の森
月に届く梯子
言葉を食べる鳥

――――――――――――――――――――――

【本文】
 久しぶりの寮の部屋に入ると、ルームメイトのリリーナが鏡台の前で髪をとかしていた。
「ごめん、リリーナ」
「わ! ドロシー、久しぶり。どこに行ってたの? その大きなリュックは何?」
「人間界」
 それだけ言うと、リリーナには悪いけど、鏡台の鏡を引いた。リリーナが体をのけ反らせて鏡を避ける。
 鏡の裏は森へとつながっている。鏡台を踏み越えて森へと入る。
「リリーナ、閉めといて」
 振り返ってリリーナに向かって叫ぶ。今日こそはと思うと、気が急いてしまう。
「ドロシー、どこ行くの?」
 後ろからリリーナの声が聞こえたが、それには答えず走る。
 今日こそ決着をつけてやる!

 探知魔法を使い、鳥の居場所を探す。すぐに見つかった。ここから遠くない。思わず口元が緩む。
 しばらく走ると、前方の木の枝に鳥がとまっているのが見えた。寝ているようだ。
 右手に雷魔法を、左手に炎魔法を作り出し、二つを合わせる。名付けて、プラズマ火球。
「挨拶代わりだ!」
 白く発光する超高温の火球が、高速で鳥に飛んでいく。
 直撃だ。爆発が起こり、爆風に目を細める。
 爆煙が消えると、鳥が煙を吐いていた。木に至っては、少し焦げただけだ。
 今の魔法、人間界で使えば、小さなクレーターができるのだが、ここ魔法界ではこんなものだ。

 鳥がこちらを見る。立ち止まって、鳥に指を突き付ける。宣戦布告だ。
「鳥! 今日こそお前との因縁に決着をつけて○○○。○○○○○!」
 パクパクパク。
 食べられた。人の話くらい、最後まで聞きなさいよ。
「ケケケ」と鳴くと、鳥はどこかに飛んで行った。



 あの鳥は人間の言葉を食べる鳥だ。普通はいろいろな人の言葉を少しずつ食べる。だが、“あの鳥”はなぜか私の言葉ばかり食べる。
 動物学の先生に相談したら、おそらく私の言葉が好物なのだろうと言われた。特に、好意や愛を含む言葉が大好物らしい。
 その結果どうなっているかというと、私の感謝の言葉は食べられ、相手に届かない。そして、いつの間にか私は「感謝もしないお高く留まった人」と学校で言われるようになってしまった。今では、事情を知る少数の人しか話してくれないボッチ生活だ。
 さらに大問題が、好きな彼に勇気を出して告白した言葉すらも食べられたことだ。それも4回も。彼には口をパクパクさせるだけの変な人だと思われている。ここから挽回できるのだろうか?

 私は、鳥を狩ることに決めた。



 再び探知魔法を発動する。それほど離れていない。私の言葉が好物なのだから、私からはそれほど離れはしない。それに、私の攻撃など効かないと思っているのだろう。
 リュックから人間界で調達してきたものを取り出す。
 準備完了。鳥め! 目にもの見せてやる。

 走って鳥に近づくが、やはり鳥は私を舐めている。逃げようともしない。今回は好都合だ。
 氷魔法を放つ。人間界ならビル1棟を凍らせる威力があるが、やはりここではたいしたことはない。だが、鳥を木の枝に足止めすることには成功した。
 人間界で買ってきたショットガンを構え、鳥に狙いをつける。
 鳥は見たことの無いものを私が持っているから、警戒している。慌てて氷から逃れようとする。だが、こちらの方が速い。嗜虐的な喜びを感じながら引き金を引いた。

「チィッ」
 鳥はギリギリで避けやがった。
 だが、鳥の止まっていた木の枝は木っ端みじんだ。やはり人間界の武器なら、魔法界のものを壊せる。それが確認できただけで十分だ。

 再び鳥へと近づくが、今度は鳥は警戒してこちらを見ている。初めての反応に、嬉しくて思わず笑ってしまう。
「鳥。人間界のあちこちで働いて稼いだお金で買った武器、その力○○○○○○!」
 パクパクパク。
 また食べやがった。
 頭に来たから、無造作に手榴弾を投げた。

 大急ぎで非難したが、こちらも無傷では済まない。何しろ私も魔法界のものだ。人間界の武器は効く。
 よろよろと立ち上がり、周囲を確認する。あたりの木が吹っ飛んでいる。魔法界でこんな光景を見たのは初めてだ。人間界ではよく見たけど。
 鳥がふらふらと飛んでいくのが見えた。あちらの方向はまずい。

 回復魔法を使いながら鳥を追いかける。鳥もだんだんと動きが良くなる。ヤツも回復魔法を使っているようだ。
 やがて天へと続く梯子が見えてきた。やはりそこへ行くか。
 鳥は梯子に沿うように上昇し、やがて見えなくなった。

 こちらも梯子の下に到着。上を見上げるが、終わりは見えない。
 この梯子は月まで届いている。昔、学校の授業で一度登ったことがある。ただ、あの時は先生たちが手伝ってくれた。一人で登れるだろうかと思ったが、登ってみせると気合を入れる。
 魔力を練り、身体強化魔法をフル出力で自分にかけると、高速で梯子を登る。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

 人間、気合が大切のようだ。思ったよりも簡単に月に到着できた。わずかの時間、達成感に浸った。
 ハア、ハア、と肩で息をしながら、鳥を探す。
 人間界の月には空気が無いらしいが、魔法界の月にはある。ただ、人間界と同じように、身体がふわふわする。

 鳥は離れた場所からこちらを見ていた。
 ライフルを取り出し、鳥を狙撃する。しかし、弾丸は思ったのと違う軌道を描く。全弾発射したが同じ結果だ。
 ひょっとして、このふわふわする感じが影響しているのだろうか?
「ケケケ」と鳥が嬉しそうに笑う声が腹立たしい。

「鳥! これで勝ったと思う○○。○○○○○○○○○○○○○」
 パクパクパク。
 食べられた。
 堪忍袋の緒が切れた。両手を天にかざし、魔法の準備に入る。この魔法は時間がかかるのが欠点だ。
 鳥は「ケケケ」と笑い続けている。さらに動きで挑発してくる。
 イラッとする心を静め、魔法に集中する。

 魔法が完成した。鳥に気づかれないように、唇の端を持ち上げて笑う。
「おい、鳥。上を見ろ」
 冷徹に告げてやる。今度は食べられなかった。
 鳥は上を見ると、笑うのも動くのも止めた。
 そこには、月の5分の1ほどの大きさの隕石がある。
「メテオ」
 私は静かに魔法の名前を発し、自分が巻きこまれることも構わず、隕石を鳥の上に落とした。



 リリーナに膝枕されながら、「うーん、うーん」と唸る。
 私を心配したリリーナが後から追いかけてきてくれ、月から落ちてきた私を魔法で受け止めてくれた。
 怪我は回復魔法ですぐに治ったが、その後の先生たちのお説教が長かった。何人の先生のお説教を聞いたのだろうか? 思い出したくない。
 人間界で調達してきた武器も没収されてしまった。せっかく人間界の戦地を渡り歩き、働いたお金で買ったのに……。

 ため息をつく私の頭を、リリーナが優しく撫でてくれる。
 リリーナはこんな私にもいつも優しい。リリーナの顔を見て口を開いた。
「リリーナ、い○○○○○○○○」
 私の感謝の言葉は消えた。
 窓を見ると、鳥が「ケケケ」と笑っているのが見える。

 殺意のこもった目で鳥を見る私を、リリーナが優しく見ているのが窓ガラスに映っていた。

――――――――――――――――――――――

【感想】
 3つのお題からファンタジーの方向にすると決めました。
「月に届く梯子」をどう扱うかを考えた末に、「登る」ことに決めました。登れる人を考えたら、ドロシーのようなキャラになりました。
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