地味悪役令嬢、破滅回避のために全力で透明になります

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王都中央広場。
かつて数多の断罪が執行され、涙と怒号が交錯した場所。

だが今、その石畳の上に設えられた断罪台は、  
もはや“罪人”を吊るすためではなく。
“制度”そのものを裁くために設けられたものだった。

《最終断罪式 開催告知》  
《対象：断罪制度および神託運用に関する是正審問》  
《審問官：イザーク＝ヴァン＝グローレ》  
《証言者：アニカ＝フォン＝ヴァレンティナ》

街の壁という壁に掲げられたその告知は、  
かつて罪とされた者たちを、そして黙していた者たちを、  
ひとつの場へと呼び寄せた。

＊

アニカは断罪台に上がる。  
その背には、もう透明の魔法はない。

彼女は、自らの姿を隠さず、堂々と民衆の前に立った。

「私は透明でした。  
でも、それは見られることが怖かったからではありません。  
真実が言葉にならぬ世界で、生き残るためでした」

広場の空気が張り詰める。

審問席に座るイザークが立ち上がり、手に持った文書を掲げる。

「ここに記されているのは、  
透明記録装置により保存された神託生成の構造。  
そして、聖女庁が用いていた感情誘導香と幻視導入香の配合比率、  
さらに制度関係者全員に課せられた“異議を禁ずる誓約文”の実物である」

静かに、だが確かに読み上げられる証拠。  
それは叫びではなく、真実そのものだった。

「神の声は、香で作られていた」  
「正義は、契約によって黙らされていた」

人々の息が止まる。

アニカは一歩、前へ進む。

「これは、私一人の断罪ではありません。  
沈黙を強いてきたこの世界そのものへの断罪です」

その言葉は、まるで鐘の音のように広場を満たした。

怒号も涙もない。  
あるのはただ、全てを聞き届けようとする静寂。

断罪台の“形式美”が壊れた瞬間。
それは、裁きが“怒り”ではなく“証明”によって行われる時代の幕開けだった。

沈黙は破られた。  
だがその破られ方こそが、最も美しく、最も公平な“終焉”の形だった。