地味悪役令嬢、破滅回避のために全力で透明になります

黒瀬ユカ

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王都中央広場。  

最後の断罪台の前、審問官イザーク=ヴァン=グローレは、  
深紅の法衣を翻しながら、ひとつ息を吐いた。

「本日、証人アニカ=フォン=ヴァレンティナの証言と記録、  
並びに国王陛下の再審勅命を受け、断罪制度、および神託構造について、  
法的無効を宣告する」

その一言が、王都の空を割った。

ざわめく民衆。  
だが誰一人、叫ばなかった。  
あまりに重く、長きに渡って“正義”と信じてきた制度が、  
法の名において否定された瞬間だったからだ。

イザークは続ける。

「神託を香と魔術で構成し、それを利用して他者を沈黙させ、  
虚偽の証言と形式美で断罪を繰り返してきたこの制度は“信仰を装った統治”に過ぎない」

「したがって、以下の者たちを正式に指名し、裁きを下す」

会場に張り巡らされた魔導板に、次々と浮かび上がる名。

・王都貴族評議会より三名、制度利用による私益取得  
・香調師セレナ、誘導香構文の非公認調合と神託偽装  
・文官局記録部長、誓約文条項の改竄と記録封鎖への加担

名指しされた者たちの顔が広場に映され、  
かつての“正義の執行者”が、今や“虚構の共犯者”として晒された。



そして最後に、アニカが進み出る。

透明魔法を帯びた記録結晶。
“透明なる観測者の証拠”を映写台に置き、静かに魔力を流す。

瞬間、会場に浮かび上がる映像。

聖女の瞳に溢れる苦悶の涙。  
香炉に仕込まれた構文石。  
断罪式の裏で交わされた虚偽の密談。

「見えなかった真実が、ここにあります」

アニカの声が、静かに響いた。

「誰もが目を逸らしていた沈黙。  
でも私は、それを記録するために、透明であったのです」

その言葉とともに、映像は締めくくられる。

人々は、静かに頷いた。  
誰一人、声を荒げる者はいなかった。

この日、断罪制度は法の下で正式に“廃止”と記される。  
そして、新たな制度“記録に基づく対話と再審”の枠組みが始まる。

沈黙は終わった。  
そして、記録が語る時代が。
静かに、確かに、始まったのだった。
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