元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径

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第四章

二人からの大きな愛情があふれていた

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「リーシャ。昨日の男たちのことできたのか?」
「はい。─── どうかしたのですか?」

詰め所にいた兵士たちは、私の姿を見て不快そうな表情をみせた。
それは私に対してではないのだろう。
一部の兵士は申し訳ないという表情になっている。

「王家の権限でも使われましたか?」
「あ、ああ。リーシャは鑑定の魔道具を持っているんだったな」
「はい。『隣国フェロールの第二王子』で間違いありませんか?」
「それで間違いない」

兵士の話では、従者が一命を取り留めたものの死にかけたのは私に全責任がある。
その慰謝料として有り金全部と家を明け渡せ、と訴えてきたそうだ。
たしかに私の家は歓楽街から徒歩圏内。
一見すると普通の家だ。
そこにこどもが一人で暮らしている。
私を脅して家を奪えば、歓楽街へ遊びにきても宿泊に困らない、と考えているのだろう。

「仕方がないですね。皆さんにはご迷惑をおかけしました。伯父に相談します」
「悪かったな。手助け出来なくて」
「連中は王都にあるフェロール領事館に逃げ込んだんだ」
「病人を連れて、ですか?」
「ああ、そうだ。そして今日の昼にフェロールから正式な使者が書状を持って来るらしい。『一国の王子を殺そうとした非礼、その生命をもって償ってもらう。それが嫌なら家を明け渡せ』。これがその王子が置いていった命令書だ」
「─── バカですね。各家の扉には訪問者の記録が残されるんです。自分たちが何をしたのか、その記録と共に証拠として提出します」
「すまないな。我々では王族に手を出せない。─── それも、ほかの国相手には」
「いいえ、証拠は残っているのです。ですから正式に王都へ抗議してきます」
「────── 気を付けてな」
「はい、行ってきます」



王都へは馬車で八日の距離でも竜騎では三十分とかからない。
家に帰り、扉につけられた記録の魔導具を新規の魔導具に取り替える。
これで、詰め所でもらった命令書と共に伯父へ証拠として提出すれば大丈夫だろう。

この町には竜騎ギルドがある。
だから両親はこの町に家を購入した。
父方の叔父、そして隠居した母方の祖父母、竜騎ギルドに所属する叔父、冒険者をしているレティシア様、ほかにも母の兄妹や親戚の人たち。
みんなが竜騎で来られる場所だからだそうだ。
両親は言っていた、「みんな、理由をつけてあなたたちに会いたいからよ」と。

家が小さいのは商人として出ていることが多いからだ。
それでも居室は三部屋あった。
祖父母と両親、そして子供部屋だ。
子供部屋にはロフトがあり、兄の部屋となる予定だった。
屋根裏部屋が子供部屋になっていたため、部屋を三等分にしたらロフトが兄側についていたのだ。
屋根には魔導具が付いていて内側から見上げると窓のように空が見える。
そのため下の居室のように二つに分けて私と姉が一緒に使うことで、空に近くなるロフトが私たち三人の寝室になった。
一階にはキッチンとリビングがある。
今は両親の部屋を私の部屋に、祖父母の部屋を雑貨やアクセサリーを作る作業部屋にした。
子供部屋だったところは……そのままになっている。
兄姉と一緒に寝転がり、いつも窓から見える星空の伝説を聞きながら眠っていた。

時々、思い出して悲しくなるとここで寝る。
そうすると、あの頃の兄姉の声を思い出す。
一生懸命、星の伝説を覚えて話してくれた兄。
姉は星にまつわる神話を話してくれた。
それらの本はこの部屋の本棚の一番上にある。
私の目が届かない場所に置かれた五冊の本には、二人が幼い私でも分かりやすいように話すために色々な書き込みがされていた。
────── 二人からの大きな愛情が本からあふれていた。

私はこの大切な家を決して奪われたくない。
だから伯父に……サフェール国国王にお願いしに行く。
「私の家を守って」と。
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