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第四章
一階の明かりは消えていた……
しおりを挟む国境に父王の手が回る前にフェロール国を出られたのは運が良かった。
単騎で走ったのが良かったのだろう。
そのまま国境を越えて、あとはのんびりとサフェール国の王都へ向かった。
途中にある村で目立たない服に着替え、駄馬と荷馬車を手に入れた。
田舎の荷馬車にまで空間魔法の魔導具がついているとは……
やはり『帝国の腰巾着』なのだと思った。
サフェール国の王都では、まるで犯罪者のように監視されている気分になった。
いま思い返せば、父の謹慎を破って出てきた後ろめたさが周囲の目が自分に向いていると勘違いさせたのだろう。
それと降神祭が近付いて人が集まり、警備が強化されていただけだ。
しかし、居心地の良いものではない。
そして近くの町に活動拠点を移すことにした。
竜騎で一乗りで行けるその町は王都に近いせいもあるのか、王都並みに整えられた町だった。
賑やかだったものの、それは王都でも有名な繁盛店が支店を出しているからだ。
この町だけではなく、竜騎ギルドがある町に支店を出している繁盛店がほとんどらしい。
人が多いからだろう、歓楽街では見た目が良く洗練された女たちが多く働いていた。
私たちは金をばら撒き遊び回った。
町を歩く女に声をかけても断られるが、この町に住んでいるのではなく仕事で来ているのだろう。
そう考えて、私たちは歓楽街の商売女と宿を行き来する日々を過ごしてきた。
そのうち、宿が宿泊料を値上げすると掲示した。
降神祭まで二週間を切ったからだ。
さらに前日からまた値上がりするらしい。
それに合わせて物品の単価も飲食店の金額も値上がりしはじめた。
そんな頃に耳にしたのが、商業地区にある一軒家に住んでいた商人の一家が長らく帰ってこなかった。
行商人ならそれもあるだろう。
しかし一年以上も、冬にさえ帰ってこない。
それで皆殺しになって空き家なのだと思っていたら、最近になって子供だけが戻ってきた。
「以前に空き家だったら購入しようと思って調べたんだけどな。どうやら持ち家らしい。その子供も商人だから冬を前に帰ってきたようだ」
良い話を聞いた。
その家を私がもらってあげれば高い金を宿屋に出さなくて済む。
そしてその子供を働かせて、稼いだ金を使ってやろう。
私たちはその家を特定し、襲撃することにした。
従者の一人に病気になったフリをさせてその家に向かった。
途中で降り出した雨の中、その家の扉を叩く。
二階の電気がついているということは、まだ起きているのだろう。
しかし、一階が明るくなる様子はない。
二階にいるから聞こえないのか?
ダダダン‼︎ ダダダン‼︎
叩く拳をさらに強くする。
「すまない! 助けてくれ!」
「開けてくれ!」
降り出した秋の雨が濡れた身体を凍らせていく。
「どなたですか」
声はハッキリ聞こえたが扉は開けられない。
しかし、ここまで待ったのだ。
なんとか中に入りたい。
「すまない! 開けてくれ!」
「仲間が高熱を出したんだ!」
病人がいると言えばこの扉もひらくだろう。
しかし返ってきたのは冷たい言葉だった。
「急病でしたら治療院へどうぞ」
信じられない。
この家の子供は人が死んでもいいというのか。
「すまない! 中に入れてくれ!」
「常識を考えたらどうです? こんな夜間に商業地区で騒げば、押し込み強盗だと通報を受けた兵士たちが駆けつけますよ」
常識だと⁉︎
それをいうならこの雨の中、扉を開けない貴様の方が非常識だろうが!
怒鳴り散らしたい気持ちを抑えつける。
急病人役がこの寒さで意識をなくしている。
演技を長らせるわけにはいかない。
そう考えた私は、頭からかぶったマントを外して顔を見せる。
「申し訳ない。私の従者がこの雨で熱を出したんだ。すでに意識はない。だから……」
「気の毒ですね。熱を出しても治療院へ連れて行ってもらえず。雨の中を引きずり回された挙げ句に高熱で死にかけるなんて。病人に対して正当な扱いができない人を家に招き入れる気は一切ございません。サッサとお引き取り願います」
「頼む! 一晩でいい! 雨宿りさせてくれ!」
「そこでなにをしている!」
話を打ち切られたと同時に背後から声がした。
振り向くと私たちは二十人近い兵士たちに囲まれていた。
振り返ると一階の明かりはすでに消えていた……
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