ドS騎士団長のご奉仕メイドに任命されましたが、私××なんですけど!?

yori

文字の大きさ
20 / 22
番外編

【コミカライズ一巻発売記念】ランドルフを寝かしつけるお話

しおりを挟む
■コミカライズ一巻 2025.2.7出荷・電子書籍配信start!

※コミカライズ5話と6話(デビュタント前日)の時間軸です




 ランドルフ団長に初めて最後までご奉仕してから、数日が経った。
 明日はいよいよ、王城でデビュタントホールが開かれる。
 貴族が多く出入りする王城内も浮き立った様子だというのに、ランドルフ団長はというと、いつもよりも忙しそうで早朝から机に張り付いている。
 書類と向き合う姿は、まるで敵と対峙しているかのように眉間に皺を寄せ、険しい表情をしていた。

 ランドルフ団長もデビュタントホールに来るはずだが、陽が落ちてもなお、書類の山は高く聳え立っている。
 今日の私はというと、ご奉仕をするための休憩にも呼ばれず、ただひたすらランドルフ団長の身の回りの世話をしてばかりだった。

 朝昼の食事を運んだり、少しでもリラックスできるようにコーヒーを淹れたり……。
 書き損じをしたであろう床に丸まった書類を拾い集め、紙屑籠の前に纏める。
 紙屑籠に捨ててしまわないのは、重要書類を誤って処分したら、私のクビが飛ぶからだ。

(さすがに物理的には切り飛ばされはしないと思うけれど……)

 斬首の執行人と恐れられるランドルフ団長は、かつての戦で多くの敵の首を刎ねたという。
 同僚のメイドたちや、彼の配下の騎士たちにも怖がられているが、本当は優しい人だと私は知っている。

 本来なら配下に振り分けるべき書類をこうして自ら抱え込み、ひたすら捌いているのも責任感の強さゆえなのだろう。
 けれど、こんなに書類仕事ばかりしていては、剣ダコよりもペンダコのほうが厚くなってしまいそうだ。

「ランドルフ団長、コーヒーのおかわりはいかがですか?」
「ああ、頼む」

 大きく溜息を吐き、伸びをするランドルフ団長の机に、新しいコーヒーカップを置く。
 すると、彼はあろうことか、それを一気に飲み干した。

「っ!? ランドルフ団長、火傷は大丈夫ですか!?」
「問題ない」

 慌てて近寄ると、ランドルフ団長は平然としたまま、再びペンを手に取る。
 少しも休もうとしない彼の顔色は、温かいコーヒーを飲んだ後なのに、いつもより悪い。

「恐れながらランドルフ団長、お忙しいとは思いますが、少し休まれてはいかがでしょうか」

 心配して眉を下げて訴えると、ランドルフ団長はなぜか大きく目を逸らした。
 やはり受け入れてもらえないかと思ったその時、彼は額に手を当て、深いため息を吐いた。

「お前の言う通りだな。頭が重くなってきたから、少し目を閉じたい」
「っ!!」

 ふと、兄が所属する辺境伯軍の訓練場で、とある騎士が言っていたことを思い出す。
 私は名案を思いつき、ランドルフ団長の手を引っ張った。

「……なんだ?」

 ランドルフ団長は、まるで眩しいものを見るかのように目を細めた。
 少し表情が柔らかくなったのを確認し、私はほっとしながら彼の手を引く。

 執務室の主であるランドルフ団長を差し置いて、私はソファに座り、膝を叩いた。

「ランドルフ団長! 殿方は女性の膝枕で甘やかされると、疲れが吹っ飛ぶのだと聞いたことがあります!」
「……どこでそんなことを聞いたんだ」

 ランドルフ団長は呆れたように言った。
 ――もしかして膝枕は愚策だったのだろうか。
 私が不安になったその瞬間、ソファの座面が揺れる。

 反射的に隣を見ると、そこにはやや不機嫌そうなランドルフ団長がいた。
 そして驚くべきことに、私の太腿に頭を預けてくれて寝そべったのだ。

「っ、ランドルフ団長!?」
「ちょうどいい高さだ。……どこの馬の骨かも分からない男の言葉であることだけが気に入らないが」
「大丈夫です! ちゃんと身元がはっきりしている辺境軍の人間の言葉ですから!」
「…………そういうことじゃない」

 息を吐きながら、少し拗ねたように言ったランドルフ団長は横を向いた。
 一体何が気に入らないのか察することができず、私の頭には疑問符が浮かぶ。
 それでも、そっと彼の髪を撫でてみる。

「いつもお疲れさまです。ランドルフ団長が皆のために頑張っていること、私は知っていますよ。今日は一段とお忙しそうですが、ご無理はなさらず、お休みくださいね」

 綺麗な黒髪を撫でながら言えば、ランドルフ団長の耳がうっすらと赤くなる。
 照れているのだと分かると、殿方に対して失礼かもしれないがその仕草が可愛く思えてしまい、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。

「……実はヨーゼフが、第一騎士団の団長に仕事を押し付けられてな。いつもなら毅然と跳ね除けるんだが、配下がやらかしたようで尻拭いをせねばならず……」

 ゆっくりと語るランドルフ団長の言葉に耳を傾けつつ、撫でる手を止めない。
 彼の呼吸が次第に深くなっていく。

「――どんなに忙しくても、エミリアの晴れ舞台には参加する……」
「っ」

 思いがけない言葉に、心臓がどきりと跳ねた。

 ――想ってはいけない人なのに、どうしてこう、ただのメイドをたらしこむのか。

 何か言い返そうとした時、下から静かな寝息が聞こえてきた。

(ランドルフ団長は、本当に意地悪だ……)

 じっとりと、下で眠るランドルフ団長を見つめる。
 目を閉じる彼の睫毛は長く、本当に美しい顔立ちをしている。
 それでも眉間の皺は寄ったままで、思わずくすくすと笑ってしまう。

「おやすみなさいませ。ランドルフ団長」

 眠るランドルフ団長の額に、そっと口付けを落とす。
 すると彼の眉間の皺が少し緩み、同時に私の口角も自然と上がる。

 明日のデビュタントホールが、より楽しみになるのであった。





しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。