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番外編
【コミカライズ一巻発売記念】ランドルフを寝かしつけるお話
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■コミカライズ一巻 2025.2.7出荷・電子書籍配信start!
※コミカライズ5話と6話(デビュタント前日)の時間軸です
ランドルフ団長に初めて最後までご奉仕してから、数日が経った。
明日はいよいよ、王城でデビュタントホールが開かれる。
貴族が多く出入りする王城内も浮き立った様子だというのに、ランドルフ団長はというと、いつもよりも忙しそうで早朝から机に張り付いている。
書類と向き合う姿は、まるで敵と対峙しているかのように眉間に皺を寄せ、険しい表情をしていた。
ランドルフ団長もデビュタントホールに来るはずだが、陽が落ちてもなお、書類の山は高く聳え立っている。
今日の私はというと、ご奉仕をするための休憩にも呼ばれず、ただひたすらランドルフ団長の身の回りの世話をしてばかりだった。
朝昼の食事を運んだり、少しでもリラックスできるようにコーヒーを淹れたり……。
書き損じをしたであろう床に丸まった書類を拾い集め、紙屑籠の前に纏める。
紙屑籠に捨ててしまわないのは、重要書類を誤って処分したら、私のクビが飛ぶからだ。
(さすがに物理的には切り飛ばされはしないと思うけれど……)
斬首の執行人と恐れられるランドルフ団長は、かつての戦で多くの敵の首を刎ねたという。
同僚のメイドたちや、彼の配下の騎士たちにも怖がられているが、本当は優しい人だと私は知っている。
本来なら配下に振り分けるべき書類をこうして自ら抱え込み、ひたすら捌いているのも責任感の強さゆえなのだろう。
けれど、こんなに書類仕事ばかりしていては、剣ダコよりもペンダコのほうが厚くなってしまいそうだ。
「ランドルフ団長、コーヒーのおかわりはいかがですか?」
「ああ、頼む」
大きく溜息を吐き、伸びをするランドルフ団長の机に、新しいコーヒーカップを置く。
すると、彼はあろうことか、それを一気に飲み干した。
「っ!? ランドルフ団長、火傷は大丈夫ですか!?」
「問題ない」
慌てて近寄ると、ランドルフ団長は平然としたまま、再びペンを手に取る。
少しも休もうとしない彼の顔色は、温かいコーヒーを飲んだ後なのに、いつもより悪い。
「恐れながらランドルフ団長、お忙しいとは思いますが、少し休まれてはいかがでしょうか」
心配して眉を下げて訴えると、ランドルフ団長はなぜか大きく目を逸らした。
やはり受け入れてもらえないかと思ったその時、彼は額に手を当て、深いため息を吐いた。
「お前の言う通りだな。頭が重くなってきたから、少し目を閉じたい」
「っ!!」
ふと、兄が所属する辺境伯軍の訓練場で、とある騎士が言っていたことを思い出す。
私は名案を思いつき、ランドルフ団長の手を引っ張った。
「……なんだ?」
ランドルフ団長は、まるで眩しいものを見るかのように目を細めた。
少し表情が柔らかくなったのを確認し、私はほっとしながら彼の手を引く。
執務室の主であるランドルフ団長を差し置いて、私はソファに座り、膝を叩いた。
「ランドルフ団長! 殿方は女性の膝枕で甘やかされると、疲れが吹っ飛ぶのだと聞いたことがあります!」
「……どこでそんなことを聞いたんだ」
ランドルフ団長は呆れたように言った。
――もしかして膝枕は愚策だったのだろうか。
私が不安になったその瞬間、ソファの座面が揺れる。
反射的に隣を見ると、そこにはやや不機嫌そうなランドルフ団長がいた。
そして驚くべきことに、私の太腿に頭を預けてくれて寝そべったのだ。
「っ、ランドルフ団長!?」
「ちょうどいい高さだ。……どこの馬の骨かも分からない男の言葉であることだけが気に入らないが」
「大丈夫です! ちゃんと身元がはっきりしている辺境軍の人間の言葉ですから!」
「…………そういうことじゃない」
息を吐きながら、少し拗ねたように言ったランドルフ団長は横を向いた。
一体何が気に入らないのか察することができず、私の頭には疑問符が浮かぶ。
それでも、そっと彼の髪を撫でてみる。
「いつもお疲れさまです。ランドルフ団長が皆のために頑張っていること、私は知っていますよ。今日は一段とお忙しそうですが、ご無理はなさらず、お休みくださいね」
綺麗な黒髪を撫でながら言えば、ランドルフ団長の耳がうっすらと赤くなる。
照れているのだと分かると、殿方に対して失礼かもしれないがその仕草が可愛く思えてしまい、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「……実はヨーゼフが、第一騎士団の団長に仕事を押し付けられてな。いつもなら毅然と跳ね除けるんだが、配下がやらかしたようで尻拭いをせねばならず……」
ゆっくりと語るランドルフ団長の言葉に耳を傾けつつ、撫でる手を止めない。
彼の呼吸が次第に深くなっていく。
「――どんなに忙しくても、エミリアの晴れ舞台には参加する……」
「っ」
思いがけない言葉に、心臓がどきりと跳ねた。
――想ってはいけない人なのに、どうしてこう、ただのメイドをたらしこむのか。
何か言い返そうとした時、下から静かな寝息が聞こえてきた。
(ランドルフ団長は、本当に意地悪だ……)
じっとりと、下で眠るランドルフ団長を見つめる。
目を閉じる彼の睫毛は長く、本当に美しい顔立ちをしている。
それでも眉間の皺は寄ったままで、思わずくすくすと笑ってしまう。
「おやすみなさいませ。ランドルフ団長」
眠るランドルフ団長の額に、そっと口付けを落とす。
すると彼の眉間の皺が少し緩み、同時に私の口角も自然と上がる。
明日のデビュタントホールが、より楽しみになるのであった。
※コミカライズ5話と6話(デビュタント前日)の時間軸です
ランドルフ団長に初めて最後までご奉仕してから、数日が経った。
明日はいよいよ、王城でデビュタントホールが開かれる。
貴族が多く出入りする王城内も浮き立った様子だというのに、ランドルフ団長はというと、いつもよりも忙しそうで早朝から机に張り付いている。
書類と向き合う姿は、まるで敵と対峙しているかのように眉間に皺を寄せ、険しい表情をしていた。
ランドルフ団長もデビュタントホールに来るはずだが、陽が落ちてもなお、書類の山は高く聳え立っている。
今日の私はというと、ご奉仕をするための休憩にも呼ばれず、ただひたすらランドルフ団長の身の回りの世話をしてばかりだった。
朝昼の食事を運んだり、少しでもリラックスできるようにコーヒーを淹れたり……。
書き損じをしたであろう床に丸まった書類を拾い集め、紙屑籠の前に纏める。
紙屑籠に捨ててしまわないのは、重要書類を誤って処分したら、私のクビが飛ぶからだ。
(さすがに物理的には切り飛ばされはしないと思うけれど……)
斬首の執行人と恐れられるランドルフ団長は、かつての戦で多くの敵の首を刎ねたという。
同僚のメイドたちや、彼の配下の騎士たちにも怖がられているが、本当は優しい人だと私は知っている。
本来なら配下に振り分けるべき書類をこうして自ら抱え込み、ひたすら捌いているのも責任感の強さゆえなのだろう。
けれど、こんなに書類仕事ばかりしていては、剣ダコよりもペンダコのほうが厚くなってしまいそうだ。
「ランドルフ団長、コーヒーのおかわりはいかがですか?」
「ああ、頼む」
大きく溜息を吐き、伸びをするランドルフ団長の机に、新しいコーヒーカップを置く。
すると、彼はあろうことか、それを一気に飲み干した。
「っ!? ランドルフ団長、火傷は大丈夫ですか!?」
「問題ない」
慌てて近寄ると、ランドルフ団長は平然としたまま、再びペンを手に取る。
少しも休もうとしない彼の顔色は、温かいコーヒーを飲んだ後なのに、いつもより悪い。
「恐れながらランドルフ団長、お忙しいとは思いますが、少し休まれてはいかがでしょうか」
心配して眉を下げて訴えると、ランドルフ団長はなぜか大きく目を逸らした。
やはり受け入れてもらえないかと思ったその時、彼は額に手を当て、深いため息を吐いた。
「お前の言う通りだな。頭が重くなってきたから、少し目を閉じたい」
「っ!!」
ふと、兄が所属する辺境伯軍の訓練場で、とある騎士が言っていたことを思い出す。
私は名案を思いつき、ランドルフ団長の手を引っ張った。
「……なんだ?」
ランドルフ団長は、まるで眩しいものを見るかのように目を細めた。
少し表情が柔らかくなったのを確認し、私はほっとしながら彼の手を引く。
執務室の主であるランドルフ団長を差し置いて、私はソファに座り、膝を叩いた。
「ランドルフ団長! 殿方は女性の膝枕で甘やかされると、疲れが吹っ飛ぶのだと聞いたことがあります!」
「……どこでそんなことを聞いたんだ」
ランドルフ団長は呆れたように言った。
――もしかして膝枕は愚策だったのだろうか。
私が不安になったその瞬間、ソファの座面が揺れる。
反射的に隣を見ると、そこにはやや不機嫌そうなランドルフ団長がいた。
そして驚くべきことに、私の太腿に頭を預けてくれて寝そべったのだ。
「っ、ランドルフ団長!?」
「ちょうどいい高さだ。……どこの馬の骨かも分からない男の言葉であることだけが気に入らないが」
「大丈夫です! ちゃんと身元がはっきりしている辺境軍の人間の言葉ですから!」
「…………そういうことじゃない」
息を吐きながら、少し拗ねたように言ったランドルフ団長は横を向いた。
一体何が気に入らないのか察することができず、私の頭には疑問符が浮かぶ。
それでも、そっと彼の髪を撫でてみる。
「いつもお疲れさまです。ランドルフ団長が皆のために頑張っていること、私は知っていますよ。今日は一段とお忙しそうですが、ご無理はなさらず、お休みくださいね」
綺麗な黒髪を撫でながら言えば、ランドルフ団長の耳がうっすらと赤くなる。
照れているのだと分かると、殿方に対して失礼かもしれないがその仕草が可愛く思えてしまい、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
「……実はヨーゼフが、第一騎士団の団長に仕事を押し付けられてな。いつもなら毅然と跳ね除けるんだが、配下がやらかしたようで尻拭いをせねばならず……」
ゆっくりと語るランドルフ団長の言葉に耳を傾けつつ、撫でる手を止めない。
彼の呼吸が次第に深くなっていく。
「――どんなに忙しくても、エミリアの晴れ舞台には参加する……」
「っ」
思いがけない言葉に、心臓がどきりと跳ねた。
――想ってはいけない人なのに、どうしてこう、ただのメイドをたらしこむのか。
何か言い返そうとした時、下から静かな寝息が聞こえてきた。
(ランドルフ団長は、本当に意地悪だ……)
じっとりと、下で眠るランドルフ団長を見つめる。
目を閉じる彼の睫毛は長く、本当に美しい顔立ちをしている。
それでも眉間の皺は寄ったままで、思わずくすくすと笑ってしまう。
「おやすみなさいませ。ランドルフ団長」
眠るランドルフ団長の額に、そっと口付けを落とす。
すると彼の眉間の皺が少し緩み、同時に私の口角も自然と上がる。
明日のデビュタントホールが、より楽しみになるのであった。
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