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ぷるぷる。その日は、突然に。
しおりを挟むその日は、よく晴れた日のことだった。リンゴーン。来客を知らせるベルがなる。朝ごはんを食べ終わったタイミングで、まったりしていたというのに、なんだなんだ、こんな朝早くに非常識でないのか?!
と、俺はぷんぷん。食後は、父と母が甘やかしてくれる時間なのだぞ!
母の膝の上で背中を撫でられていたというのに。
ここからは、誰が来たのか分からないが、どんな原理か分からぬがある不思議な板を見ると、遠く離れた門の場所が映るのだ。それを見た父が、
「げっ。嫌な予感……」
と呟いている。
誰が来たのだ?
無下に出来ない相手なのか、出迎えている。俺と母も不思議な板を見ると、母も同じようにげっと呟く。
それは、いかにも使者っぽい人と馬車が見えたからだ。
敷地内に出迎えることなく、外で対応する父の顔は、明らかに嫌そう。使者はむっとしながらも、強く言えないのかペコペコしていた。貴族が、特級冒険者とはいえ平民の父に。
本来はありえない光景だが、それだけでもめんどくさい案件なことが分かる。
ため息を吐いてちょっと待っててくれ、と伝えると踵を返す。あれは、父が折れたのだろう。母もそれが分かり、用意を始める。
何やら書状もあるみたいだしな。
父が部屋に入ってきて、書状を見せてくれたが、緊急事態が発生したために早急に館まで来られたしという内容だった。末尾に、一大事のために、どうか、どうか、何卒という懇願めいた言葉まである。
必死すぎる……仮にも領主なのに。だが、それだけ重要案件ということか。
そうして、訪れた領主の館。すぐさま、応接間に通され紅茶と茶菓子が出される。ちゃんと俺の分まであるぞ!
わくわく!食べていいのか?!
父が笑い、母がいいぞと許可をする。
テーブルに乗り、早速お菓子をがぶり。うまっ!な、なんだこれは!
普段食べるお菓子とは全然違うではないか!ばたーたっぷり、しかも中央に乗っているジャムがまた格別だった。
クッキーといっても色んなタイプのものがあるのだな。
ガジガジ!
「クロちゃん、ほっぺに付いているよ。」
父が、手拭きで拭ってくれる。用意されていたクッキーを全て平らげた時、ようやく扉が開き、領主ほか数人が入ってきた。
父が立ち上がり、何か言葉を交わしたのち、目の前の椅子に領主が腰掛ける。そうして始まった今回の話。本来、俺は別室に待機しておもちゃで遊ぶ予定だったそうだが、俺は父と母と離れたくなかったから拒否だ。
父と母も、傍にいることを望んだため、俺は母の膝の上で大人しく座っている。えらいだろ? ふふん。
領主の話はこうだ。聖教国で神託のあった勇者がこちらに向かっているそうだ。理由は父と母。世界でふたりしかいない超特級冒険者に魔王討伐に協力してほしい。そういうことだった。
つまり、勇者一行に加われということ。
新造が跳ねる。父と母が、勇者……一行……に?
そうなったら……
ぐにゅう……
ぐにゅう……涙が出てきそう。
だけど、俺の耳に飛び込んできたのは、
「お断りをします。」
という父の言葉だった。
へ? ぱぁあああ!
「これは国だけでなく、世界にとっての危機と伝えても?」
領主の言葉は硬い。圧を感じるが、怖くもない。だって、俺は高レベルだし、なによりも傍に父と母がいるのだ。
「ふぅ、そうか。なら、仕方がない。ではこちらを見て欲しい。」
領主は、懐から一通の手紙を差し出してきた。
国王からの手紙か?
それを見た父は、
「え? 」
驚きの声を出し、母へ手紙を見せる。
母も信じられないって顔をしていて、気になった俺は手紙を覗き込だ。
そこには、
『ピンク色のスライムを保護した。このスライムは、隣国の王宮に潜り込み、現在は勇者とともにそちらへ向かっている。』
と書かれてあった。
ピンク色のスライム……?
これがどうかしたのか?
「分かりました。会いましょう。それでいつ頃着くのですか?」
なっ?! 父!さっき言ってたことと違うではないか!
『パパ!?』
「早ければ2日後に着くそうだ。では、受け入れるということでよろしいか?」
「ええ。まずは確認をしてからになりますが、状況次第ではそうなるでしょうね。」
益々信じられない。ピンク色のスライムなんて、たくさんいるではないか!
ぴぃぴぃ抗議の鳴き声をあげるも、父は振り向いてくれなかったし、母は俺の体を撫でるだけで父に何も言わない。
な、なんでだ……?
俺は、父と母と敵対してしまうの、か?
心が絶望に染まる。そ、そんなの、い、イヤだ……!イヤだ!
「びっぴぴぃいいい~~~~~~~~~!」
「く、クロちゃん?!」
「クロノス、待て!」
バタンッ
扉を開け、パタパタ高速で羽を動かす。俺は、レベルが上がって飛行スピードも格段に上がったのだ。涙を溢れさせながら、俺は羽を止めずに動かし続ける。
追いかけてくる足跡。
だけど、今はひとりにさせて!
そうしてたどり着いたひとつの部屋。立派な重厚なカーテンがあって、俺はその中へ潜り込む。まだまだ太陽が上がっていく時間なのに、重厚なカーテンは太陽の光を完全に遮断してくれている。
闇の空間。
俺の色……
ぐにゅう。ぽたぽた。涙がとどめなく溢れてきて、カーテンを濡らす。父と母と、……戦わないといけないのか?
俺は……た、戦いたくない。
でも、成体になったら、魔王様直属の配下として、勇者一行と戦わなければならない。
ポタポタ。
一回は断ったではないか。それなのに、な、なぜ。ピンク色のスライムが、そんなにも、大事なのか……?
お、俺よりも……?
ポタポタ。
「君は誰?」
ビクン。突然かけられた言葉。全然気が付かなかった! 動揺していて全然警戒していなかった!
「どうしたの? 泣いてるの?」
優しい声。
カーテンの隙間から覗くと、そこにいたのは、授与式でみた男だった。母を切なそうに見ていた男。見た目こそ、若くまだ20代前半といったところか。どこか、さっき見たおじさんに似ている。
もしかして、領主の息子?
「そうだ。確か、さっき。」
男は、俺を見ても攻撃とかはせずに、机から何か取ると差し出してくる。なんなのだ、それは。小さな丸い黒い玉。初めて見るものに戸惑うが、なにやら少し甘い匂いがして、ぱたぱたと羽が動いてしまう。
尻尾が玉に伸びそうになって慌てて引き寄せる。
「ふふ。これはね、チョコレートって言うんだよ。ほら、まずは僕が食べてみるね。」
男はひとつ手に取ると自分の口の中に入れ、何回か噛むとごくりと飲み込む。噛んだ瞬間、甘い匂いが漂ってきて、気が付いたら男の手にのったチョコレートを食べていた。
口いっぱいに広がるほろ苦く、でもとっても甘い味にビックリする。
「ふふ、美味しいでしょう? もっとあるけど、食べる?」
俺はコクコク頷いた。
それから、男と色々話をした。俺が、なんで泣いていたのかも、ノートを使って伝えた。魔王様との関係は話せないが、父と母と敵対するかもしれないことも、それが悲しいことも。
男は、うん、うんと遮ることなく話を聞いてくれた。
全て話し終えると、お父さんとお母さんが大好きなんだね。って、その言葉にまたポロリと涙が出てくる。
「その気持ちをそのまま、伝えたらいいと思うよ。君の大好きなお父さんとお母さんなら、ちゃんと答えてくれるはずだ。」
男に言われて、確かにそうだと思う。父と母は、俺に嘘をついたことはないし、愛情いっぱいに育ててくれた。
時に怒られるけど、その後はいっぱい甘やかしてくれる。
うん。自分の気持ちを伝えるのは、ちょっと怖いけど、男の言う通り、勇気をだして伝えてみようと思う。
『ありあと……お兄ちゃん。』
ノートに書いた文字に、どういたしましてと微笑むお兄ちゃんは、何か吹っ切れたように見えた。
それからお兄ちゃんに連れられて確実に騒がしい場所に向かうと、父と母が大騒ぎしていた。俺に気が付くと、涙ながらに抱きしめられる。抱き締められると、おさまったはずの涙が溢れ出す。
父と、母に必死に伝えた。
母は言葉は分からないだろうに、父と時々視線を合わせながら話を聞いてくれる。いつの間にか、俺たち家族だけになっており、時間をかけて自分の気持ちを全て伝えた。
自分が、魔王様の直属の配下なことも、産まれ変わったことも、敵対することの不安も全て。
【クロノス】
魔王様直属の配下だけど、父と母とまだ一緒にいたいと赤ちゃんのうちは馳せ参じないことに決めた。成体まで1ヶ月は、思う存分甘える予定だったけど、まさかの魔王討伐に加わるかもしれない状況に絶望。大好きな父と母と戦わなければならない……の?
【スラ】
クロノスが部屋から飛び出し、動揺。隠密スキルを使われたために、姿を見失い、焦る。おろおろ。
【クラウド】
同じく、大切なクロノスを見失い、冷静を失う。不安がっていたのに、それを分かっていたのに、泣かせてしまったと後悔の念に駆られる。部屋を片っ端から開けて探しに行きたいが、領主の家でそんなことも出来ず。
【領主】
人外な強さを持つ超特級冒険者の人間らしい姿を見て、どこかホッとする。そして、同時に関係性を把握した。確かに自分の息子が泣きながら出ていって姿をくらますのは、親として心配だろう。年頃の子供たちを育ててきた親としての貫禄をみせる。つまり、喝を入れて、帰ってきた時に出迎える気概を見せろ的な。
【領主の息子(次男)】
21歳で父や兄のサポートをしていて、兄は既に結婚しているが、まだ未婚。学生時代、クラウドを見かけて、ちょっとあられもない姿を見て惚れた。授与式まで名前すら知らなかったが、名前を知り益々高まる恋心。
そんなある日、クロノスが突然部屋に入ってきてビックリする。そのまま、カーテンの中へと直行し、ぐすぐすと泣く音が聞こえて心配し、声をかけた。心優しき青年。ノートで、クロノスの悩み相談を受け、この子が自分の恋する人の子供だと知る。クラウドが既婚者ということや既に子供がいることにショックを受けるが、それを隠してクロノスを励ます。ひとつの切ない恋心が終わりを遂げた。
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