好きって言えないっ!~呼び出したのは悪魔みたいな妖精でした~

葉咲透織

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8 夏休みの終わり、一度目の満月

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 花火大会の次の次の日は、一度目の満月の日だった。

 俊くんからの好意のひとかけらは感じたけれど、進展といえばそれだけ。手当てをさせてしまったのが申し訳なくて、合わせる顔もなく、私はあれ以降、図書室通いをやめてしまった。

 幸い、待ち伏せのために毎日図書室でやることといえば、勉強くらいしかなく、宿題はほとんど終わっていて、家でもやることがない。

 本当は、ハートちゃんの服を作って遊びたいところだが、肝心のハートちゃんが、にくたらしい存在になってしまっているため、やる気が出なかった。

 夏休みもあと一週間。紗菜と優美からそれぞれ、「宿題が終わらない!」というヘルプが来て、「うちにおいで」とすぐさま返信をした。優美は他校だけど、まぁ監視役くらいにはなれるだろう。

 優美は頭いいはずなのに、いつもこうなるのは、なんでかな?

 すぐに弱音を吐く紗菜と、気づけばスマホを触る優美を鋭く制して、私はふたりの宿題を監視する。紗菜は私の宿題を写させてもらえるとばかり思っていたようだけど、それは最終手段。きっちり限界まで頑張ってくれたら、検討します。

 そんなスパルタを続けて、始業式前日、ようやくふたりの宿題は終わった。ローテーブルに突っ伏した彼女たちに、「おつかれさま」とねぎらいの言葉をかけ、ジュースとクッキーをふるまう。アメとムチのアメの方だ。

 優美は一気に飲み干すと、「ふぃ~」と、どこかのオジサンみたいな溜息をついた。

「うまい、もう一杯!」
「はいはい」

 ペットボトルから注いでやると、今度はちびちびと大切そうにコップに口をつける。

 宿題が終わったとなれば、あとは楽しいガールズトークの時間。明日から学校行くの面倒だとか、二学期は行事がたくさんあるから楽しみだとか、そういう話題から、次第に恋の話へと移っていく。

 彼氏持ちの紗菜ののろけ話よりも、優美は私の片思いについて聞きたいという顔をする。

「花火大会行ったところまでは聞いたけどさ、その後の進展は?」

 拳を軽く握ってマイクを差し出すジェスチャーつきでの優美の問いかけに、私は酸っぱいものを食べたみたいな顔をして、黙ってしまう。

「え。ないの? なんにも? なんのための夏? 紗菜みたいにチューのひとつやふたつくらいすればいいのに!」
「ちょ! なんっであんた、知ってんのよー!?」

 そっか。ひとつ大人の階段をのぼったのか、紗菜……。

 よく知るふたりのキスシーンは、ドラマや映画を見るみたいにはいかない。なんというか、想像しちゃいけないシーンのように感じて、頭がうまくはたらかない。

 目の前でめったうちにされている優美は、頭をかばいながら泣き言を言う。

「茉由ぅ! 見てないで助けてよぉ!」
「あ」

 ごめんごめん、と気のない謝罪をして、紗菜を止める。もちろん、親友の息の根を止めようとしているわけではないので、私の制止に紗菜はすぐに手を止めた。両手首を振って、首を左右に倒し、ポキリという音を立てるあたり、優美への威嚇はやめないようだ。

「そ、それよりさぁ!」

 いまだ怒りの冷めない紗菜の気をそらすべく、優美は引きつった笑顔で話題転換をはかる。

「そもそも、なんで茉由は綾瀬くんのことが好きなの?」

 彼女のもくろみは成功し、紗菜も目を丸くして、「そういえば聞いてなかったよね」とうなずく。

 協力をあおいでおいて、詳しいことは何も知らされていないなんて、フェアじゃない、か。

 夏休み、ギャップでドキドキさせよう大作戦は半分成功で半分失敗? あとだいだい二ヶ月くらいで告白してもらわなきゃならないんだから、ふたりのアドバイスは貴重なのだ。

 私はちらっと机の上のハートちゃん(妖精入り)を見る。

 ふたりがいるから動かないし、喋らないけれど、彼? は私の話に聞き耳を立てているだろう。

 少なくともこちらの顔が見えないように、ハンカチでもかけておけばよかった。

 今からそんなことをすれば、怪しいことこのうえないので、私はあきらめて、恋に落ちた瞬間のことを思い出す。

「三年生のときなんだけど……」
 
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