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第21話
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夫の質問に狼狽えている専務が何か口を開こうとした時、
「申し訳ありません。専務は海外に向けての大きなプロジェクトを計画している最中でして、社内にいることはほとんど無かったのです。ですから、若奥様とはあまり面識が無いのです。若奥様も若奥様で、あまり職場のブースから出る仕事をしておりませんし、すれ違うことも皆無だったと思います……ただ、私は直属の上司として、その仕事ぶりはよく知っております。」
と、藪坂部長がフォローした。
メチャクチャ言ってるよ、この人。
海外プロジェクトなんて聞いたことないし、後からこちらが調べないとでも思っているのかしら?
それに、私をブースで囲うように仕事させていたのは、あなたでしょう。
部署に誰もいなくなるのは良くないからって、ランチ時の留守番はほとんど私にさせていたし。仕事って言っても、封入やラベル貼り、切り取りなど、学生アルバイトでもできるようなことばかり。
まるで私にわざと仕事させないような。
「……そうですか。まあ、詩豆に聞けばわかることですから。で、社長の容態は?」
「社長はまだ入院中でして、今は私が代理をしております。副社長は社長に付き切りですので。」
えっ?社長、入院中!?
体調崩したのかな?
「こういう時に夫婦で上役をしていると役に立たない。株主が何と言うか。次の総会は覚悟するように。」
「は、はい……」
ぅわっ、冷たっ。
体調を気遣うよりも仕事ができるかどうかしかみてないのかしら。
でも、藪坂さんって社長の娘よね。いいのかな、親族のいる前でそんな態度。
「お大事になさって下さいね。」
なんとなくソワソワして、私は思わず口にしていた。
だって藪坂さんの顔がさっきから引きつっているし。
「……詩豆、君のいた場所を案内してくれ。」
私の言動については何も咎めず、夫は私に案内人を任じた。
ちょっと藪坂さんの顔が恐い。
夫を睨んでいる。
普通、あからさまにそんな行為できないよ、さすがだね。社長令嬢は。
こうして私は自分が前いた職場に向かった。
エレベーターに乗って5階を押す。
私と夫、土方さんと毛利さん、SPみたいな人2人と6人だけ。
藪坂さんと川口専務は別のエレベーターに乗った。
藪坂さんが同じエレベーターに乗ろうとしたが、土方さんが制したからだ。
私は見逃さなかった。
その時、藪坂さんが夫に向かって口パクで何か伝えていたのを。
もしかしたら、
もしかしたらだけど、夫と藪坂さんは何か関係があるのかもしれない。
なんとなくだけどそんな思いがして、私の雰囲気が影響したのか、エレベーター内はとても重苦しかった。
5階に着き、ドアが開くと、少しして隣のエレベーターも到着した。
ゾロゾロと向かう先は、『広報宣伝部』
藪坂さんが部長で、後は50代のパートの女性が2人と、派遣社員の私以外は全て男性だった。
広報宣伝部ということで、取引先はひっきりなしに訪れていて、いつも誰かは商談中であった。
そして入室した時も、商談ブースの2つは誰かが使用中だった。
「お仕事中失礼します。」
と、先陣切って毛利さんが言う。
私が言うべきかと思っていたが、後ろからグッと前に出てきてそれだけ言うと、また最後尾に下がった。
一斉にみんな手を止めてこちらを向いた。毛利さんの声は決して大きくないが、よくとおる。
「あれ?名波さん?だよね?えっ?どうして……あ、部長、名波さんが来てますが……。」
「名波さん!どうしたんですか?急に!」
「名波さんだっ!うわっ、なんかきれいな格好してて、ますます……」
いろんな場所から上がる『名波さん』コールに、
「残念だが、詩豆はもう名波詩豆じゃない。遠藤詩豆だ。」
と、夫が声をかぶせた。
その声は割と大きく、お腹に響くほどよく浸透した。
ていうか、皆さん知らないの?
私が遠藤詩豆になってること。しかも、今日来ることすらわかってない感じだし。
「坊っちゃまはわざと今日のご視察を部長までと限り、それ以下の方々には伏せていらっしゃいました。私も先程知りまして。抜き打ちでのご視察の模様でございます。」
唖然としている私に、毛利さんが耳打ちしてきた。
ええっ!?
さっき聞いた話と随分違う。
今回の視察はこの会社から直々に夫婦でと要請があって、それを私のために会長が許可したんじゃなかったの?
私の思いを飲み込んでいるのか、
「申し訳ございません。全て坊っちゃまのご計画のようでございます。何か、ワケありかと……」
「ワケあり……なんの?」
それにしても、夫が発した内容で、この部署の空気は随分と変わった。
とりわけ、斜め後ろからの視線がキツイ。見えていないがよく感じる。
藪坂さんの目が釣りあがったまま私をみていることを。
「申し訳ありません。専務は海外に向けての大きなプロジェクトを計画している最中でして、社内にいることはほとんど無かったのです。ですから、若奥様とはあまり面識が無いのです。若奥様も若奥様で、あまり職場のブースから出る仕事をしておりませんし、すれ違うことも皆無だったと思います……ただ、私は直属の上司として、その仕事ぶりはよく知っております。」
と、藪坂部長がフォローした。
メチャクチャ言ってるよ、この人。
海外プロジェクトなんて聞いたことないし、後からこちらが調べないとでも思っているのかしら?
それに、私をブースで囲うように仕事させていたのは、あなたでしょう。
部署に誰もいなくなるのは良くないからって、ランチ時の留守番はほとんど私にさせていたし。仕事って言っても、封入やラベル貼り、切り取りなど、学生アルバイトでもできるようなことばかり。
まるで私にわざと仕事させないような。
「……そうですか。まあ、詩豆に聞けばわかることですから。で、社長の容態は?」
「社長はまだ入院中でして、今は私が代理をしております。副社長は社長に付き切りですので。」
えっ?社長、入院中!?
体調崩したのかな?
「こういう時に夫婦で上役をしていると役に立たない。株主が何と言うか。次の総会は覚悟するように。」
「は、はい……」
ぅわっ、冷たっ。
体調を気遣うよりも仕事ができるかどうかしかみてないのかしら。
でも、藪坂さんって社長の娘よね。いいのかな、親族のいる前でそんな態度。
「お大事になさって下さいね。」
なんとなくソワソワして、私は思わず口にしていた。
だって藪坂さんの顔がさっきから引きつっているし。
「……詩豆、君のいた場所を案内してくれ。」
私の言動については何も咎めず、夫は私に案内人を任じた。
ちょっと藪坂さんの顔が恐い。
夫を睨んでいる。
普通、あからさまにそんな行為できないよ、さすがだね。社長令嬢は。
こうして私は自分が前いた職場に向かった。
エレベーターに乗って5階を押す。
私と夫、土方さんと毛利さん、SPみたいな人2人と6人だけ。
藪坂さんと川口専務は別のエレベーターに乗った。
藪坂さんが同じエレベーターに乗ろうとしたが、土方さんが制したからだ。
私は見逃さなかった。
その時、藪坂さんが夫に向かって口パクで何か伝えていたのを。
もしかしたら、
もしかしたらだけど、夫と藪坂さんは何か関係があるのかもしれない。
なんとなくだけどそんな思いがして、私の雰囲気が影響したのか、エレベーター内はとても重苦しかった。
5階に着き、ドアが開くと、少しして隣のエレベーターも到着した。
ゾロゾロと向かう先は、『広報宣伝部』
藪坂さんが部長で、後は50代のパートの女性が2人と、派遣社員の私以外は全て男性だった。
広報宣伝部ということで、取引先はひっきりなしに訪れていて、いつも誰かは商談中であった。
そして入室した時も、商談ブースの2つは誰かが使用中だった。
「お仕事中失礼します。」
と、先陣切って毛利さんが言う。
私が言うべきかと思っていたが、後ろからグッと前に出てきてそれだけ言うと、また最後尾に下がった。
一斉にみんな手を止めてこちらを向いた。毛利さんの声は決して大きくないが、よくとおる。
「あれ?名波さん?だよね?えっ?どうして……あ、部長、名波さんが来てますが……。」
「名波さん!どうしたんですか?急に!」
「名波さんだっ!うわっ、なんかきれいな格好してて、ますます……」
いろんな場所から上がる『名波さん』コールに、
「残念だが、詩豆はもう名波詩豆じゃない。遠藤詩豆だ。」
と、夫が声をかぶせた。
その声は割と大きく、お腹に響くほどよく浸透した。
ていうか、皆さん知らないの?
私が遠藤詩豆になってること。しかも、今日来ることすらわかってない感じだし。
「坊っちゃまはわざと今日のご視察を部長までと限り、それ以下の方々には伏せていらっしゃいました。私も先程知りまして。抜き打ちでのご視察の模様でございます。」
唖然としている私に、毛利さんが耳打ちしてきた。
ええっ!?
さっき聞いた話と随分違う。
今回の視察はこの会社から直々に夫婦でと要請があって、それを私のために会長が許可したんじゃなかったの?
私の思いを飲み込んでいるのか、
「申し訳ございません。全て坊っちゃまのご計画のようでございます。何か、ワケありかと……」
「ワケあり……なんの?」
それにしても、夫が発した内容で、この部署の空気は随分と変わった。
とりわけ、斜め後ろからの視線がキツイ。見えていないがよく感じる。
藪坂さんの目が釣りあがったまま私をみていることを。
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