嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第22話

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「で、詩豆はどんな仕事を誰としていたんだ?」

 こちらを見もせずに夫が質問する。
 誰に聞いているのかわからないが、多分私だろう。

「えーと、あのブースの中で、大体1人で仕事してました。内容は」

「企業広告やメディアへの掲載についての社内案をまとめたり、経費を換算したりしていただいてました。とても優秀でしたよ。」

 私が応えている途中で藪坂さんが声をかぶせてきた。
 しかも、えええっ!?の内容だけど?
 私、そんな大層なことやった覚えないし。

「……そうですか。では、藪坂さんと随分信頼関係があったわけですね。派遣社員でも。」

「ええ、はい。もちろんです。うちは派遣社員もパート社員も、大事な戦力であることに変わりないですから。」

 あまりにも酷い嘘っぷりに、一発殴ってやろうかとさえ思えた。
 この女部長のせいで、私の頭に10円ハゲができたこともあるのに!隠すの大変だったんだからっ。

 私が黙っているのをいいことに、藪坂さんはニコニコ笑顔でこちらを向いていた。
 化け猫だわ、この人。


 そのあとは特に当たり障りない話をして、他部署もいくつか回り、私達は帰路についた。

『来た時よりも美しく』
とはよく言ったもの。
 会社に着いた時は閑散としていたエントランス付近も、帰り時は小綺麗な女性社員が溢れかえっていた。中には取引先と思われる人もいた。
 どの人も、目をキラキラさせて夫を見ていた。が、私に気づくと、小声で何やら言ってクスクス笑っていた。

 帰りの車内でも、夫はタブレットと睨めっこをしていた。が、勝者は夫で、決してその顔が笑うことはなかった。



☆☆



「ーー倒産?!」

 その話は突然だった。
 あの視察から1週間過ぎた頃、毛利さんから聞かされた。

「Aプロダクトは、我がエンドーグループの中でも取り分け懇意にしていた会社でございましたが、それは昔の話。ここ何年かの内に、会長の庇護の元、横柄な態度で行なっていた経営は悪化を辿るばかりでした。
 実は、若奥様が入社された時はまだ信用に足る会社だったのですか……。色々ございましたようで……」

「……そうだったんですか……。全く気付きませんでした。」

「しかし、若奥様は『広報宣伝部』にて経費の換算など金銭に関わることもあったのでは?」

 確かに。
 藪坂さん談ではそうなるよね。
 でも私、パソコン開いたのって、宛名ラベル印刷するための顧客名簿のファイルくらいだし、取引先もそんなに知らないし。

「……はあ、どうですかね?もう忘れちゃいました。」

 言うに言えず、藪坂さんの嘘をバラすのもなんだかなぁと思ってしまった。

 そんな私の返答に、毛利さんは納得していなかったが。

 だが、なぜ夫がAプロダクトに視察に行ったのか、それなら納得できる。
 そして、川口専務に冷たかった理由も。藪坂さんに対しても素っ気なかったとは思うが、冷たくなりきれていなかったことはわかっていた。
 
 
 あの口パク……。


 そして、倒産した後はどうなるのか?債権は?社員は?などの話を延々と毛利さんから受けた。
 社員についてはエンドーグループ内で受け入れていくらしいが、役員達は解雇という結果だった。
 どうやら、ここまで相当黒い金銭授受もあったらしく、不正に関与した人物をあげれば、役員達はほとんど全滅だったらしい。

 

 その日から1週間が過ぎた。私は夫に会っていない。
 処理に忙しいらしい。
 私にも何かできることがあるのではないかと口に出してみたが、「今は出番ではございません」と、土方さんにやんわりと断られた。
 まだまだ足りないってことね。
 わかりやすく言えば、足手纏いだということだ。



 そして夜。
 お風呂から出た私が見たのは、私のベッドで眠る無精ヒゲを生やした夫の姿であった。






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