嘘つきは私かもしれない

koyumi

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第23話

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 何か景色が違う。

 どこかがおかしい。

 浴室を出てすぐに思った。


「きゃっ!ちょっ、ちょっとっ!!」

 夫がベッドで寝ている。
 ワイシャツとスラックス姿で。
 横向きだったのが寝返りを打ち、仰向けになったことで、イビキが始まった。

「やっ、うるさっ!」

 中々の音量。
 口元から顎にかけて生える無精ヒゲ。
 普段イケメンで騒がれているとは思えないほど汚らしいその姿に、最初こそ恐怖だったが、徐々に愛らしさを感じてしまった。
(この人も一応人間なんだな……)

 しかしどうすればいいだろう。
 恐らく、土方さんに連絡すればどうにかなるかと思うが……

「…………さん…………」

 その時微かに夫が寝言を発し、

「えっ?何?」

と、不覚にも聞き直してしまった。
 『寝言に応えてはいけない』と、いつか両親に聞かされたことがあるというのに、だ。

「ぐがぁー、ぐがぁー、」

 結局眠っている夫が私の問いに答えることはなかったが、私は何故か気になってしかたなかった。

「誰かを呼んでる感じだったよね。○○さん的な。誰だろ?」

 夫が付けで呼ぶ人物は限られている。
 だが、私が知ってる人物は皆呼び捨てか肩書きかだ。

 ドライヤーの音で案外目が覚めるかもしれないと、ガーガー音を立てて乾かした。が、この部屋のものは性能がいいらさく、かなりの静音仕様のためか夫は起きなかった。
 あまりにも思い切り眠っているので、段々と起こすことに躊躇いを感じてきた。

 私も、今日は疲労感が半端なく、ベッドに横たわりたい。
 かといって夫の隣は無理だ。

「そうだ!!」

 我ながらいい考え。
 私がこの部屋を出て、寝室を使えばいいのだ。

 できるだけ従者さん達の手を煩わせたくなくて、私は忍び足で自室を出て、夫婦の部屋に入ることに成功した。

(もったいない場所……)

と思う。

 ピカピカのキッチンは、未だ使用したことがないし、大画面のテレビだって付けたことはない。

「ソファだって、うちの実家の何倍も広くてふかふか。」

 それなのに、冷蔵庫の中はいつも何かしら飲み物や簡易的な食材が入っていて、布団だって毎日干すかクリーナーがかけられている。
 時々夫が使用しているのかと思いきや、別館で一晩明かす時はソファを使っているのだとか。

 じゃあ、何のための寝室なのか……。

 まだまだ夫の感覚を私は理解できない。お互いに歩み寄ることもないのだから仕方ないとは思うが、この部屋にいると、それがとてつもなく悪いことのように思えてくる。

 ガラっと、寝室である和室のドアを開け、襖に整列している布団を出してひく。 

「これこれ~、きっもちいい~」

 久しぶりのお布団はすごく気持ちよくて、幸せな気分になれた。
 そのまま私は目を閉じて、いつの間にか眠りについていた。

☆☆☆


「詩豆は!?詩豆はどこだっ!?」

 まだ明け方の5時前。

 ドアの遠くのまた遠くの方で聞こえた夫の声に、私は寝ぼけながらも目覚めた。

 ドタドタと大股で歩く足音がし、私を探す声がする。

 次第に声は近くなり、やがて、夫婦の部屋に入ってきたことがわかった。

 私もすぐに返事くらいしておけばよかったのだが、早朝から怒鳴られるのも嫌で、寝たふりを通そうと決めた。

 そして、寝室のドアが開かれた時、

「……ここかよ。」

 と、小さく夫が呟くのがわかり、妙に切ない気持ちになってしまった。

 夫は徐々に私に近づき、足音が消えたが気配は消えず、私の胸の内はバクバクだった。

 そしてーーー

 大きな手が、私の頭を一撫した。

「出ていってしまったかと思った……。お前は本当、強い、人間だな……。」

 その繊細な声が耳に届き、もしかしたらこの人は心に闇を抱えているのかもしれないと思った。が、次の瞬間、

「だが、たぬきじゃなく人間なのだから、少しくらいこうしても気付かないだろう。」

と、急にガバッと抱きしめられてしまった。

「おいっ、起きてるんだろう?白状しないとこれ以上のことをするぞ。」

 そう耳元で囁かれ、私はゾクリと身をよじらせてしまった。だが、目だけは絶対に開けまいと固く誓う。

「……いいんだな?まあ、夫婦だから、誰に咎められることはない。ましてここは寝室。従者は誰も入ってこれないし、主が入室中は、こちらが呼ぶまで声をかけてはならないルールだ。だから」

「や、わかりました、わかりました!起きてます!起きましたよっ!もうっ、久しぶりにお布団にくるまって幸せで、寝坊したい気分だったのにっ!」

 私は軽々と降参してしまった。
 これ以上のことなんて、一体どんなことなのか考えるだけで恐ろしい。
 夫婦だけど、夫婦の寝室に2人きりだけど、でも、でも…… 


 
 そして目を開けて起き上がろうとした瞬間、夫は私を押し倒し、唇を重ねてきた。




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