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第16話
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吉澤のお客様、片山さんは、それから何点かのバッグに興味を持ち、吟味してから1番値段の張るボストンバッグを購入した。
商品は後日吉澤が自宅まで持って行くことになり、日程を調整していた。
「もしよければ貴方も一度うちにいらっしゃい。」
柔かな顔で何ということを……!
正直、この手の話題はサロンに来てから何度かされたことはあるが、基本的に勤務時間内にお客様の家に伺うことは、外商の務め以外ない。
あくまでも純粋に、デパート内の販売職なのだ。
だから、『プライベートなら』いいと、言われた。ただし、利害が出るようなことはしてはいけない。
だから、この『ウチくる?』発言をされるのが、雛実にとってとても難しい話題であった。
「まあ深く考えないでいいのよ。ごめんなさいね、お仕事中に困らせたわ。」
「いえ、そんなことはありません。とても嬉しいお誘いありがとうございます。もし機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。」
ーーこんな感じでいいのかな?
下手したら相手の好意を踏みにじった偉そうな販売員だと逆上されることもある。
ただ堂々と、しかし主張せず、対応するなどまだまだ難しい。
「吉澤さん、私、川内さん気に入りましたわ。この方がここを辞めないように取り計らってちょうだいね。頼むわよ。」
片山さんは茶目っ気たっぷりにそう言いながら、退席した。
結果、どうにか片山さんの自宅に行かなくてもよさそうだ。
片山さんを見送り終えた吉澤がサロンに戻ってきた。
雛実を見つけるなり、
「すごいよ雛実ちゃん!」
と、握手を求めた。
聞けば、片山さんは滅多にサロンに来ないが、爬虫類バッグのコレクターで、今日は『是非!』としつこく吉澤がアピールしたことで珍しく実現したらしい。
既にいいものを沢山持っているので、まさか購入して頂けるとは思っていなかったという。
「雛実ちゃんの接客が気に入ったから決めたみたいだよ。」
吉澤は興奮しながらそう言うが……。
雛実としては、他のお客様同様、失礼のないように笑顔で対応しただけで、特別商品について片山に説明はしていないのに……と思う。
「やっぱり違うよね。雛実ちゃんは。なんていうか、人に好かれるものがあるんだよ。」
高額商品の売り上げに浮ついているのか、どんどん雛実を持ち上げていく吉澤。言われて悪い気はしないが、なんとなく嫌な予感もしてくる。
「ーーで、僕としては先日のことも含めて一度ご飯にでも行けたらと思うんだけど。君と。」
やっぱり……!
先日の野上との情事を、雛実たちが見ていたことに、吉澤は気づいていた。
だが、彼にとって『雛実に』見られたことはある種の興奮材料にもなったわけでーーー
「す、すみませんが、それはお断りします。私は、違うんでっ。」
雛実は首を振り、手を振り、大きく拒否した。
「大丈夫だよ。あんなことしたくて誘ってるんじゃないからさ。ほら、あの日はあっちから仕掛けてきて、どうしようもなかったというか……ま、気楽に飲みに行こうよ。」
尚も雛実を口説く吉澤。
弱気に見えるが、内容はひどい。
「あの、無理ですから。ないですから。私、か、彼氏、いますからっ!」
商品は後日吉澤が自宅まで持って行くことになり、日程を調整していた。
「もしよければ貴方も一度うちにいらっしゃい。」
柔かな顔で何ということを……!
正直、この手の話題はサロンに来てから何度かされたことはあるが、基本的に勤務時間内にお客様の家に伺うことは、外商の務め以外ない。
あくまでも純粋に、デパート内の販売職なのだ。
だから、『プライベートなら』いいと、言われた。ただし、利害が出るようなことはしてはいけない。
だから、この『ウチくる?』発言をされるのが、雛実にとってとても難しい話題であった。
「まあ深く考えないでいいのよ。ごめんなさいね、お仕事中に困らせたわ。」
「いえ、そんなことはありません。とても嬉しいお誘いありがとうございます。もし機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。」
ーーこんな感じでいいのかな?
下手したら相手の好意を踏みにじった偉そうな販売員だと逆上されることもある。
ただ堂々と、しかし主張せず、対応するなどまだまだ難しい。
「吉澤さん、私、川内さん気に入りましたわ。この方がここを辞めないように取り計らってちょうだいね。頼むわよ。」
片山さんは茶目っ気たっぷりにそう言いながら、退席した。
結果、どうにか片山さんの自宅に行かなくてもよさそうだ。
片山さんを見送り終えた吉澤がサロンに戻ってきた。
雛実を見つけるなり、
「すごいよ雛実ちゃん!」
と、握手を求めた。
聞けば、片山さんは滅多にサロンに来ないが、爬虫類バッグのコレクターで、今日は『是非!』としつこく吉澤がアピールしたことで珍しく実現したらしい。
既にいいものを沢山持っているので、まさか購入して頂けるとは思っていなかったという。
「雛実ちゃんの接客が気に入ったから決めたみたいだよ。」
吉澤は興奮しながらそう言うが……。
雛実としては、他のお客様同様、失礼のないように笑顔で対応しただけで、特別商品について片山に説明はしていないのに……と思う。
「やっぱり違うよね。雛実ちゃんは。なんていうか、人に好かれるものがあるんだよ。」
高額商品の売り上げに浮ついているのか、どんどん雛実を持ち上げていく吉澤。言われて悪い気はしないが、なんとなく嫌な予感もしてくる。
「ーーで、僕としては先日のことも含めて一度ご飯にでも行けたらと思うんだけど。君と。」
やっぱり……!
先日の野上との情事を、雛実たちが見ていたことに、吉澤は気づいていた。
だが、彼にとって『雛実に』見られたことはある種の興奮材料にもなったわけでーーー
「す、すみませんが、それはお断りします。私は、違うんでっ。」
雛実は首を振り、手を振り、大きく拒否した。
「大丈夫だよ。あんなことしたくて誘ってるんじゃないからさ。ほら、あの日はあっちから仕掛けてきて、どうしようもなかったというか……ま、気楽に飲みに行こうよ。」
尚も雛実を口説く吉澤。
弱気に見えるが、内容はひどい。
「あの、無理ですから。ないですから。私、か、彼氏、いますからっ!」
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