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第19話
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梅雨が始まったのか、雨ばかり続き、雛実は自転車で通勤できない日々にうんざりしていた。
いくら職場から近いとはいえ、やはりいつもは5分の道のりを歩いて20分の通勤は疲れる。バスでも使えばいいのだが、あのぎゅうぎゅう詰めの様子を見れば億劫になる。
朝はまだいい。帰宅時、しかも遅出続きの時は物騒だ。
街灯もそんなに無く、雛実の家に近づく辺りは人も2、3人見かければいいくらいだ。
昼時の休憩室でそんな帰路を思い浮かべ、ため息を漏らすと、目の前に微糖コーヒーの缶が置かれた。
「お疲れ、雛実ちゃん。」
木浦だ。
「お疲れ様です、木浦さん。珍しいですね、こんな時間に。」
昼時といえば食品売場はてんやわんやだ。パートならともかく、社員の木浦が休憩に入っているのは珍しい。
「今日は本当は休みだったんだけど、半日勤務に変わったから。14時からなんだ。」
時計の針は12時40分。14時までまだまだ時間はあるが、できるだけ早めに来なきゃいけない理由があるのだろう。
「そうですか、予定狂っちゃいますね。定休日ないのも考えものですね。」
デパートは昔定休日があったのに、今や正月以外は無休だ。商談中であればお客様の都合を優先するし、シフトなどあってないもの。
「それ、あまり口にする人少ないよ。さすが雛実ちゃん。」
「えぇ?そうですか?でも少なからず皆んな胸の内にあるものかと……内緒ですよ。」
「まあね。大丈夫、口は堅いよ。」
「そうでした。木浦さんなら大丈夫。」
「……あまり油断しすぎないように。」
「ん?それってどういう……あっ!」
木浦の言う意味がわかった。
気づかなかったが、雛実の視界の端にかろうじて入った男の人がいる。細川だ。
いつからいたのだろう。
入った時にはいなかったのに。
「……だから、俺が虫除け係にかってでるよ。」
「すみません……。ただ、もう大丈夫かなと思うんですけど……あ、メールします。」
雛実は木浦に先日の「彼氏がいる」発言からその後の状況などを端的に文章にした。そして、木浦に送信する。
メールを読み終えた木浦は「フッ」と大人な感じで笑い、何やら返信してきた。
『だったら俺が彼氏役になるよ。』
その一文を読み、雛実はコーヒーを吹き出しそうになった。
『そんな迷惑かけられませんよ。』
雛実はすぐにまた返信したが、それを読んだ木浦は、急に雛実の肩にかかる髪を一房摘んだ。
「ーーっえ!?」
雛実は目を丸くして、ゴクリとした。
だが、すぐにその動作の意味がわかった。
細川が雛実の後ろを通る瞬間だったからだ。
「……ね?使ってよ。俺のこと。この中だけでも。」
真っ赤になっている雛実に、更に拍車をかけるべく真剣な目で木浦は訴える。
「まあ、雛実ちゃんが否定しても、俺は絶対に守るからさ。道ならぬことから。」
雛実にもはや断るすべなどない。
胸がドキドキして仕方ない。
これじゃ本当に恋に落ちそうだ。
「……で、本気になったら教えてよ。大歓迎するからさ。」
ど真ん中だ。
射抜かれた。
今まで木浦に対して抱いていた気持ちはどんなものだったろう?
木浦は自分のタイプだったのか?
もはや、木浦がタイプの男になったのではないか?
たった5分ほどのやり取りの間で、雛実の心は総入れ替えを始めていた。
「じゃ、また連絡するよ。」
そう言い、休憩室を出た木浦に、ただただ頷くことしかできず、雛実は深呼吸をした。
いくら職場から近いとはいえ、やはりいつもは5分の道のりを歩いて20分の通勤は疲れる。バスでも使えばいいのだが、あのぎゅうぎゅう詰めの様子を見れば億劫になる。
朝はまだいい。帰宅時、しかも遅出続きの時は物騒だ。
街灯もそんなに無く、雛実の家に近づく辺りは人も2、3人見かければいいくらいだ。
昼時の休憩室でそんな帰路を思い浮かべ、ため息を漏らすと、目の前に微糖コーヒーの缶が置かれた。
「お疲れ、雛実ちゃん。」
木浦だ。
「お疲れ様です、木浦さん。珍しいですね、こんな時間に。」
昼時といえば食品売場はてんやわんやだ。パートならともかく、社員の木浦が休憩に入っているのは珍しい。
「今日は本当は休みだったんだけど、半日勤務に変わったから。14時からなんだ。」
時計の針は12時40分。14時までまだまだ時間はあるが、できるだけ早めに来なきゃいけない理由があるのだろう。
「そうですか、予定狂っちゃいますね。定休日ないのも考えものですね。」
デパートは昔定休日があったのに、今や正月以外は無休だ。商談中であればお客様の都合を優先するし、シフトなどあってないもの。
「それ、あまり口にする人少ないよ。さすが雛実ちゃん。」
「えぇ?そうですか?でも少なからず皆んな胸の内にあるものかと……内緒ですよ。」
「まあね。大丈夫、口は堅いよ。」
「そうでした。木浦さんなら大丈夫。」
「……あまり油断しすぎないように。」
「ん?それってどういう……あっ!」
木浦の言う意味がわかった。
気づかなかったが、雛実の視界の端にかろうじて入った男の人がいる。細川だ。
いつからいたのだろう。
入った時にはいなかったのに。
「……だから、俺が虫除け係にかってでるよ。」
「すみません……。ただ、もう大丈夫かなと思うんですけど……あ、メールします。」
雛実は木浦に先日の「彼氏がいる」発言からその後の状況などを端的に文章にした。そして、木浦に送信する。
メールを読み終えた木浦は「フッ」と大人な感じで笑い、何やら返信してきた。
『だったら俺が彼氏役になるよ。』
その一文を読み、雛実はコーヒーを吹き出しそうになった。
『そんな迷惑かけられませんよ。』
雛実はすぐにまた返信したが、それを読んだ木浦は、急に雛実の肩にかかる髪を一房摘んだ。
「ーーっえ!?」
雛実は目を丸くして、ゴクリとした。
だが、すぐにその動作の意味がわかった。
細川が雛実の後ろを通る瞬間だったからだ。
「……ね?使ってよ。俺のこと。この中だけでも。」
真っ赤になっている雛実に、更に拍車をかけるべく真剣な目で木浦は訴える。
「まあ、雛実ちゃんが否定しても、俺は絶対に守るからさ。道ならぬことから。」
雛実にもはや断るすべなどない。
胸がドキドキして仕方ない。
これじゃ本当に恋に落ちそうだ。
「……で、本気になったら教えてよ。大歓迎するからさ。」
ど真ん中だ。
射抜かれた。
今まで木浦に対して抱いていた気持ちはどんなものだったろう?
木浦は自分のタイプだったのか?
もはや、木浦がタイプの男になったのではないか?
たった5分ほどのやり取りの間で、雛実の心は総入れ替えを始めていた。
「じゃ、また連絡するよ。」
そう言い、休憩室を出た木浦に、ただただ頷くことしかできず、雛実は深呼吸をした。
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