倫としましょう

koyumi

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第20話

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 高垣玲香は悩んでいた。
 ただし、この手の悩みは嬉しい悩みとでもいうだろうか。

 先日の飲み会の後、ついに細川と一線を超えてしまった。
 いや、超えつつあった。
 部屋に入るなり、お互い求めあって激しい接吻をした。口内を弄り合い、息も絶え絶えに必死にしかみついた。
「ん……はぅ……細川さぁん……」
 自分はもう羞恥心など持ち合わせていなかった。乱れに乱れ、ここが自分の部屋でなく、ラブホテルだったらもっと淫乱になれたのにと悔やむほどだ。

 ただ、細川はいざ挿入というところで寸止めした。
「玲香さんのこと、本気になりそうだよ。だから、ちゃんと責任持てるようになったら、この続きをするから。」
 
 うまいことを言っているようだが、つまり細川はできなかったのだ。
 いざという時に、何故か萎え始めてしまった。硬さは失われ、力無い男の部分を見て、愕然とした。
 だが、こんなことを高垣に知られるわけにはいかない。だから、どうにか頭に浮かんだことを繋いで口にした。
 そして、せめて高垣だけでも……と、舌を使い、指を使い、その女体を悦ばせた。

(やばいな……やっぱり雛実ちゃんじゃないとダメなのかもしれない……)

 浅はかな思考だが、そうでもしないとどうにかなりそうだった。


 高垣はその後、細川とメールのやり取りをしながら関係を深めている…と思い込んでいる。婦人服売場の鬼主任は、もはや顔が緩々だ。

 吉澤は野上との逢瀬で、他愛もない会話の中、高垣の様子を聞いた。
「最近の主任はフワフワしてる。恋でもしてるのかしら。」と。だから、
「主任に彼氏できたのか聞いたら、思わせぶりに焦らすのよ。あれはきっとこっち側の恋愛してるのよ。」
 野上にとっては主任の悪口はいつも言ってることだし、吉澤は聞き流すような内容だったはずだが、この日は違っていた。
 
ーーー狙える。

 吉澤の目が怪しく光った。
 高垣玲香は今がチャンスだ。

 吉澤はキリッとして、抜け目のない高垣を美しいとは思っていたが、狙うことはなかった。もし彼女に相手がいれば、ハイスペックな男に違いないと思っていたからだ。そんな男に自分は張り合うような術はない。
 ただ、最近は、そろそろいい年齢なのに浮ついた話のない高垣に興味があった。
 そんな高垣が浮ついている……。しかも、野上の見立てによると、相手は既婚者だ。となれば、立場上似たり寄ったり。高垣は不倫を良しとする女なのだ。

 吉澤は勝手に妄想を膨らまし、その日はいつにも増して野上に食らいついた。

 そして先ほど、客の要望を伝えるフリをして、婦人服売場の事務所に行った。 
 そこで、雛実にしたように、自分のメルアドを記入したメモをこっそり高垣に渡した。
 最初は驚き、警戒していた高垣だが、
「玲香ちゃん綺麗な爪してるよね。」と、吉澤に自慢の爪を褒められ、(しかも名前で呼ばれ)鎧を剥がした。
(絶対にイケる!)
 高垣の反応を見て、吉澤は確信した。この女性は本当に今、ガードが緩々だと。

 そして今、高垣玲香は吉澤の誘いをどうしようかと悩んでいたのだ。

 《午後8時mkの前で》

 mkと言えば、雰囲気のいいバーの略称でこの辺りでは有名である。そんな、有名所に連れていかれるとなれば、そんなに怪しい誘いではないだろう。いや、逆に本気と見れるのではないか。
 自分は今細川といい関係だ。
 それなのに吉澤にも誘われて、ホイホイついていってもいいのだろうか?
 だが、自分の課の若い野上とも仲のよろしい吉澤が、一体どんな男なのかも気になる。見た目、パッとしないが、それをも忘れるくらいのテクがあるのだろうか?
 
 細川によって、久々に快感を得た高垣は、男そのものに興味を抱きはじめてもいた。
 もはや、ニタついた顔は止められない。
 鬼主任と呼ばれた高垣は今、泥沼の世界のどっぷりコースへと足を踏み入れていた。


 一方、細川から狙われ続けている雛実は、木浦との時間を思い出し、顔を赤らめていた。もはや、外で降り続く雨など気にならない。歩いて帰る時間に、しっかりと今日の出来事を思い出して優越感に浸るのもいいだろう。

 まさかの木浦のナイト宣言に、雛実はもはや骨抜きされていた。
 自分でもこんなに落ちやすい女だとは驚きだ。
 だが、浮かれてばかりはいられない、何せ、木浦が言っているのは『彼氏役』なのだ。いつか本気になっても大歓迎と言われたが、これは暗に雛実が提案を受け入れやすくするために言っただけかもしれない。気遣いの木浦だ。大いに考えられる。

 閉店の音楽が鳴り、施錠業務に入ると、雛実の携帯が震えた。
 早速木浦からのメールかと思い、ルンルンで開くと、名前を見た瞬間「イッ」と声が出てしまった。

 細川からだった。
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