愛しい人は誰のもの?

koyumi

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第11話

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「な、な、なんで……」

 全裸で恥ずかしげにこちらを見ている川嶋さん。

「……町島さん……お風呂、一緒に浴びよう。」

「っな、なんてことを……」

 全くもって意味がわからない。
 川嶋さん、それってどういう意味かわかってるのか?
 それってつまり、つまり___


「もう、恥ずかしいから早く脱いで!女だけ裸にして、男が脱がないなんてありえないでしょ?!」

 女だけ裸にして?って、いや、俺は川嶋さんに手をかけていないし、男は脱ぐものだとか、どうしてそんな発想が……

「川嶋さんっ!ま、待って、待って!」

 あろうことか、呆然と立ち尽くす俺の服に、川嶋さんは手をかけた。

「待たない!待てない!ほんっとに、あなたって、あなたって……ぜんっぜんデリカシーがないのねっ!!」

「え?えええ~~!!」

 結局俺はなす術のないまま、川嶋さんに衣服を剥ぎ取られてしまった。
 もちろん、最後の一枚もだ。
 さすがにその時は抵抗して、お尻の割れ目が痛くなるくらい逆らったが、結局それは無駄だった。

 川嶋さんが、俺の逸物に手をかけたのだ。

「ちょ、そこは、一番ヤバいとこ」

「知ってる。だからよ。見せないんなら触るしかないでしょ?……ふーん。」

 なんだかちょっと怖い。
 ふーんって何を納得しているんだ?
 誰かと比べているのか?
 川嶋さんってこんなにハードな女の子だったのか?
 イメージがどんどん崩れていく。
 彼女はもっと恥じらいがあって、可愛くて仕方ないくらい優しい女の子で……。

「もしかして、ドッキリとか?」
 
 ああ、そうだ。きっとそうだ。
 もしくは、中川講師と何か賭けたのかもしれない。でないと、川嶋さんがこんな簡単に素肌を晒すわけがない。こんな簡単に男の部分を触るわけがない。
 でも、それにしても大胆すぎる。
 すると、

「町島さん……ほんっとヘタレね、彼の言った通りだわ……」

と、言われ、シャットダウンされてしまった。
 両肩を突かれて後ろに躓いた隙に、川嶋さんはまた浴室に入ってドアを閉めてしまった。
 急変した彼女の様子に慌てて、

「ご、ごめんっ、川嶋さん、ごめんっ」

 と謝罪した。
 彼女が自分にしてくれたことに応えられなかった。お願いしたわけじゃないが、遠からず望んでいたことなのに。

「……帰って、帰って帰って帰って帰って!」

 浴室内にこだまする声。
 一切の猶予もない感じだ。
 どうする?
 開けるべきだろうか?
 でも、開けた後、俺はどうすればいいんだ?抱きしめて、慰めるのか?
 でもそんなことをしたら、まるで俺は川嶋さんを好きみたいじゃないか?

 あれ?

 俺、川嶋さんのこと好きだったよな?

 毎日毎日彼女を想い、恋い焦がれてきたよな?

 だからこそ、今回の研修に力入れて頑張れていたよな?

 ……いや、でも、違うんだ。違ってたんだ。
 彼女は俺が思ってた感じと違う。
 もっとこう、守ってあげたい、そんな女性だったはず。
 でも、本当の彼女は違っていた。
 だってほら、見てみろよ。洗面台の上。
 歯ブラシ何本あるんだ?
 それに、”彼”って誰だ?
 俺の何を噂していたんだ?

 この状況に全くついて行くことができず、為すすべのない俺は帰ることを選んだ。

 なんだろう?
 この虚しい気持ち。
 どうしてだろう?
 川嶋さんの部屋を去るのに、切なさや愛しさが皆無だ。

 わけがわからない。
 多分、きっと多分だけど、川嶋さんは誰かと付き合っている。しかも、何人もの男と寝ている。
 その中に俺を混ぜようとしたのだろう。

 なんてこった。
 なんてこった。


 逢沢、今頃中川講師と飲みなおしてるんだろうな……。

 
 俺は願っても無いチャンスを無駄にした。
 それなのに、後悔の念は微塵もなかった。


*****


「やっぱりね……」

 後日、相変わらず逢沢と飲んでいる俺は、あの川嶋さんの様子を喋ってしまった。
 あれから何度も逢沢からメールがあり、『どうだった?』『何か進展あったの?』と、あの夜のことを聞かれたが、どこをどう切り取ればいいのか?俺自身整理がつかずに何も返せないでいた。
 そして研修最終日の夜、逢沢に引っ張られるようにして、居酒屋に入った。

 そこで酒の力も手伝って、俺はあの夜の出来事を逢沢にちびちび話した。ちびちびが重なって、最終的に全部話したことになるが。

「やっぱりって何でだよ?知ってたのか?」

 俺の話を聞くなり、納得したように頷く逢沢に府が落ちない。

「うーん、正確に言えば、知らないのは町島くらい?」
「はぁ?」
「川嶋さんの噂は社内問わず社外でも目立ってたわよ。だからじゃない?あの時、彼女を助けなかったのは。」
「あの時?あの時って__あ、最初の傘?」
「そうよ。みんな見て見ぬ振りしてたのよ。だってこの辺りじゃ有名なのよ。彼女は日替わり定食って。」
「日替わり定食…?まさか……」
「まさかじゃないわよ。真実。その辺は中川講師に聞いたし、うちの部署の女の子も彼氏寝取られてるし。ほら、その歯ブラシも、ぜーんぶ男どものものよ。」
「……は、はは。な、なんてこった」

 逢沢はあの日、中川講師の様子が変だったので、いつもの聞き役女房でいろいろと聞き出したらしい。

 川嶋さんは1人の男じゃ満足しないこと。
 自分に気がある男を探してはアピールして関係を結んでいたこと。
 中川講師は親が決めた彼女の婚約者だが、自分は他に好きな女がいるから川嶋さんの男漁りを手伝っていたこと。
 ちなみにその女は逢沢であること。
 などなど。

「あんたがいつ気付くかなぁって待ってたけど、まさか仲間にされるところだったとはねぇ。まぁ、未遂でよかったわね。兄弟増えなくてさ。」

「お前……あっさり言うな。」

 つまり俺は、彼女を美化しすぎたせいで、本当の彼女を見ていなかったということだ。

「町島さぁ、いい加減、内面見るように努力したら?女は案外根が深いから咲いてる花だけ見ても本当のところは見ようとしなきゃ見えてこないのよ。」

「例えばどうやって見るんだよ。」

「うーん、まあ、とりあえずアタシを見ておけば?」

「お前を?見てどうすんだよ。それに、逢沢のことならよく知ってるよ。」

「へぇー、知ってて恋に落ちないわけ?」

「はぁ?みんながみんなお前に恋すると思ってんのか?ったく、川嶋さんのこと責められないぞ。」

「ふっ、はっはっはっはっ!!!」

 突然大口開けて声高らかに笑う逢沢。

「おい、恥ずかしいだろ!やめろよ!」

 それでもまあ、人間らしいといえば人間らしいし、こんな奴でも俺の一番の理解者のようだし……って?えぇ?

「逢沢、まさか、お前俺のこと……」

「好きに決まってるじゃん。遅いよ気付くの。」

「な、な、何で?いつから?どうして?」

「んー、何でかはわからないし、いつからかもわからないし、どうしてかもわからない。とにかく町島がいいなって。」

 そう言いながら生ビールをジョッキでグイグイ飲んでいく。

「色気ねえ。」

「まあね。あんたに色気出すつもりないから。」

「はぁ?俺のこと好きなんじゃないのか?だったら」

「バッカねえ。好きな男に色気出したらそれしかない薄っぺらい女にしかならないでしょ?色気ってのは出そうとして出すもんじゃないし、他人が見て感じるものでしょ?」

「だったらどうやってアピールするんだよ?」

「ふん、そんなの自分で気付きなさいよ。まあどうだっていいわ。そんなこと。私は町島が好きで、町島と飲んでいたいだけ。それでいいじゃない。」

 ドキッ!

「……わかったよっ、飲めばいいんだろ、飲めば。」

 ドキドキ……。

 よくわからないが、なんだかさっぱりわからないが、俺はドキドキが止まらないまま、ジョッキに口つけた。


 数時間後、川嶋さんへの恋慕はいつの間にか綺麗さっぱり無くなっていた。
 何を喋ったか、何があったかとかも、よくわからなくなっていた。
 全部逢沢が聞いてくれたから。

 俺こそ、逢沢がいないとダメなのかもしれないと、ようやく気がついた。


           (完)
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