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ep.7
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知りたくなかったといえば知りたくなかったし、知りたいといえば知りたかったし。
そうなると、この桂木さんは私の生まれたままの姿を知っているということになるではないかーー。なんということ。
同じ職場なのにあり得ない。
「貴和子ちゃん、とりあえずご飯食べに行こうか?せっかくの誕生日だし、美味しいものご馳走するよ。」
卒倒している私をよそに、桂木さんはどこかに電話して笑っている。
「大丈夫、まだ間に合うって」と、私にオッケーのサインを見せ、横文字かカタカナか分からない言葉を相手に伝え、最後に「15分後に」と言って切った。
きっとディナーの予約をしたのだろう。
「本当は6時半の予約だったんだ。でも、貴和子ちゃん先約があるっていうから一応キャンセルしていたんだけど、やっぱり連れて行きたいなって。」
DVDを綺麗に収め、ダンボールの蓋を閉じてから靴を履く桂木さん。「ほら、貴和子ちゃんも」と言って靴を指差す。
このまま『さようなら』してみたい気持ちもあったけど、結局私も靴を履いてしまった。ダメだ、今日の衝撃は思考能力を全て奪ってしまった。
エレベーターで降りて、ちゃっかり来客用の駐車場にある桂木さんの車に乗る。桂木さんはナビを作動させて、迷いなく目的地に着いた。
そこは、私が真子ちゃんとお昼に一度だけ行ったことのあるイタリアンで、夜はお昼と違い、ハードルが高いメニューに変わるお店だった。
「岸野さんに聞いたんだ。貴和子ちゃんはここのディナーに興味持ってたって。」
助手席のドアを開けながら、ネタばらしをする桂木さん。「岸野さんには内緒だよ。」とか言ってるけど、真子ちゃんはわかってると思う。
木製のドアを開けると、昼間と違ってライトダウンさせた店内は、落ち着いた音楽が流れていた。トマトにブラックペッパーとガーリックをまぶした時のような香りが充満し、食欲を誘う。
ちょっとだけ、誕生日にこういうお店でディナーができることが嬉しくなっていた。
案内されたのは1番奥の窓際の席。
『reserved』と書かれた札がよけられ、テーブルセッティングが始まる。
既にメニューも注文済みのようで、あとはドリンクを選ぶだけだった。
桂木さんは運転があるのでノンアルコールを選び、私はジンジャーエールにした。
いくらなんでもアルコールは懲り懲りだ。
「飲んでいいのに。」なんて桂木さんは言うけれど、それだけは絶対に無理だと首を左右に振った。
別段話が盛り上がるわけでもなかったが、出てくる料理はどれも美味しくて、私の気分は高揚してきていた。
だが、最後に、よくドラマや子供向けのパーティとかで見る、数人の店員がハッピーバースデーを歌いながらロウソクのついたケーキを持ってくる演出をされてしまったのは、格段恥ずかしかった。
全く知らない人から拍手を受け、私は立ち上がって何度も頭を下げた。そうしたら、桂木さんも同じように頭を下げていた。まるでウエディングケーキ入場の場面のように思えたのは私だけだろうか。
そうなると、この桂木さんは私の生まれたままの姿を知っているということになるではないかーー。なんということ。
同じ職場なのにあり得ない。
「貴和子ちゃん、とりあえずご飯食べに行こうか?せっかくの誕生日だし、美味しいものご馳走するよ。」
卒倒している私をよそに、桂木さんはどこかに電話して笑っている。
「大丈夫、まだ間に合うって」と、私にオッケーのサインを見せ、横文字かカタカナか分からない言葉を相手に伝え、最後に「15分後に」と言って切った。
きっとディナーの予約をしたのだろう。
「本当は6時半の予約だったんだ。でも、貴和子ちゃん先約があるっていうから一応キャンセルしていたんだけど、やっぱり連れて行きたいなって。」
DVDを綺麗に収め、ダンボールの蓋を閉じてから靴を履く桂木さん。「ほら、貴和子ちゃんも」と言って靴を指差す。
このまま『さようなら』してみたい気持ちもあったけど、結局私も靴を履いてしまった。ダメだ、今日の衝撃は思考能力を全て奪ってしまった。
エレベーターで降りて、ちゃっかり来客用の駐車場にある桂木さんの車に乗る。桂木さんはナビを作動させて、迷いなく目的地に着いた。
そこは、私が真子ちゃんとお昼に一度だけ行ったことのあるイタリアンで、夜はお昼と違い、ハードルが高いメニューに変わるお店だった。
「岸野さんに聞いたんだ。貴和子ちゃんはここのディナーに興味持ってたって。」
助手席のドアを開けながら、ネタばらしをする桂木さん。「岸野さんには内緒だよ。」とか言ってるけど、真子ちゃんはわかってると思う。
木製のドアを開けると、昼間と違ってライトダウンさせた店内は、落ち着いた音楽が流れていた。トマトにブラックペッパーとガーリックをまぶした時のような香りが充満し、食欲を誘う。
ちょっとだけ、誕生日にこういうお店でディナーができることが嬉しくなっていた。
案内されたのは1番奥の窓際の席。
『reserved』と書かれた札がよけられ、テーブルセッティングが始まる。
既にメニューも注文済みのようで、あとはドリンクを選ぶだけだった。
桂木さんは運転があるのでノンアルコールを選び、私はジンジャーエールにした。
いくらなんでもアルコールは懲り懲りだ。
「飲んでいいのに。」なんて桂木さんは言うけれど、それだけは絶対に無理だと首を左右に振った。
別段話が盛り上がるわけでもなかったが、出てくる料理はどれも美味しくて、私の気分は高揚してきていた。
だが、最後に、よくドラマや子供向けのパーティとかで見る、数人の店員がハッピーバースデーを歌いながらロウソクのついたケーキを持ってくる演出をされてしまったのは、格段恥ずかしかった。
全く知らない人から拍手を受け、私は立ち上がって何度も頭を下げた。そうしたら、桂木さんも同じように頭を下げていた。まるでウエディングケーキ入場の場面のように思えたのは私だけだろうか。
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