僕と生きてください

koyumi

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ep.8

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「で、それからどうしたの?」

 午後11時、電話の向こうでワクワクしている様子の英子にウンザリしながら話す貴和子。1時間前に桂木と別れ、ようやく1人の時間になり、英子に謝罪メールを送信したところ、即着信があり、今日の出来事を白状する羽目になった。

 始めに、あのエキストラのバイトの時にあった打ち上げで、貴和子が一緒に消えた相手が桂木だったという衝撃の事実を話すと、やはり驚いていた。
「えー!それはわからなかったー!だって彼、ロン毛だったよね?」
「でしょ。私も全く気づかなかったのよ。」
 そして今、同じ職場で嘘か真か好意を寄せられていて、今日の誕生日に至ったのだと大まかに話し、ディナーでイタリアンに連れて行ってもらったという場面まで教えたところだ。
 あの店を出た後、当然のように桂木は貴和子をマンションまで送った。だが、なかなか車から出させてもらえず、ひと騒動あったのだ。
 というのも、やはり桂木は貴和子が夢中になっている男が映っているDVDを、意にそぐわず、わざわざ誕生日プレゼントとして贈ったことが悔やまれ、DVDは返して欲しいと言い出したのだ。
 貴和子にしてみれば、あのDVDこそほんとに欲しかったプレゼントであるのに、それを自分の嫉妬心で返せと言われても聞き入れられない。そのくらい探していたし、手に入れたかったものだった。
「桂木さん、男気ないですよ。」
「貴和子ちゃんだって、君を好きだという男が目の前にいるのに、手の届かない男を恋しがるなんて、ちょっとは僕のことを考えてよ。」
 まるで幼稚園児の駄々っ子のように拗ねる桂木に、ミーハーが過ぎる貴和子の思いは交差することはなく、20分くらいお互いが譲らなかったのだ。
 第3者として経緯を聞いていた英子は、耳かきをしたくてたまらなくなっていた。実際、目の前にスタンバイさせてある。

 なかなかラチがあかないやり取りに、我慢ならなくなったのは桂木の方だった。譲歩案を出したのだ。
「じゃあ、僕の誕生日に、僕が1番好きなものをちょうだい。」と。
 一瞬にして身の危険を感じた貴和子だったが、案外桂木だって、どこぞのアイドルのDVDがいいとか言い出すかもしれないと思い、「いいですよ。その代わり、常識の範囲内ですからね。」と返事をした。

 貴和子の俳優熱はもう15年以上にわたる。今や、『あの◯は今?』というテレビ番組で話題になるような人だから、最近はパッタリ地上波ではお目にかかれない。だから、リサイクルショップを巡り、その俳優が出ているDVDを見つけることが、28年間彼氏のいない貴和子のささやかな幸せであったのだ。

「貴和子の価値観で考えちゃったの……?」
と、英子からしたら拍子抜けする和解談であった。だが、まさか2人が体の関係があったとは思っていないから、
(貴和子もいよいよか……まあ、愛されてるなら大丈夫、ガンバ!)
と、親心のような思いを抱いたのもまた事実である。
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