僕と生きてください

koyumi

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ep.9

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 あれから、幾度となく桂木は貴和子の部屋に押しかけた。とはいえ、オートロックであるし、以前のような偶然もないので門前払いのような状況であった。

 職場で顔を合わせれば、桂木は馴れ馴れしく触れてこようとしていたが、貴和子の野生の勘により、上手く逃げることができた。

 遠くから視線を感じても、貴和子はついつい顔を赤らめてしまう。だから、できるだけ視野に入らないように肩まである髪の毛は下ろすようになった。ついでにメガネもマスクもしたいが、余計な心配をさせるのもひと騒動ありそうでやめた。
 初体験の相手が同じ職場にいるなんて、自分の未来にそんな場面は想像していなかった。しかも、当時を覚えていない。一体どんな言葉を吐いて抱かれていたのかわからず、またそんな自分が情けなくなる。

 日中あまりにも桂木を避けるから、本部長をはじめとする職場の人達は、誕生日に桂木と何かがあったと確信し、あらぬ噂を立てている。
 社内恋愛は隠密にしたいのだろうという見方がほとんどで、貴和子の意思に反していた。

 そして、桂木はどうしても貴和子と先に進みたいらしく、決定的な告白をしなければと焦っていた。
 自分の思いはとても深い。
 あの飲み会で貴和子と密な関係になり、それからというもの、貴和子を探し続けた。気にかけた周りの友人が、何度か飲み会という名の合コンも開いてくれ、貴和子と同様に酩酊して女の子と一夜を過ごしたこともあったが、ひどく後悔した。貴和子と寝た時のようなしつこさを呼びおこすものを感じられなかった。だから、それは2回まで。次に自分が誰かと肌を合わせるなら、絶対貴和子とと決めていた。

 だから、もしかしたら通報されるかもしれないけれど、毎晩貴和子の部屋番号を押す。
「花の世話をしようと思って。」
「美味しいケーキを買ってきた。」
「実家から野菜が送られてきて。」
 などといろんな理由をつけたが、一向に避けられ、上がらせてもらえない。常識的にあっているのは貴和子で、やたらめったら男性を部屋に入れないことがわかって感心する。

 そんなこんなで、桂木は自白するんじゃなかったかなと落ち込み始めた。
 見兼ねたのは岸野真子。若さ溢れる強引なやり方で、貴和子に迫った。

『ピンポーン』

「……はい。」

『あっ、安田ちゃん?よかったぁ、いてくれてぇー、ちょっといれてぇー。』

 突然貴和子の家に押しかけた真子。
 しかも、口調からして酔っ払っている。マンションの集合玄関で酔い潰れられても困るので、仕方なくロック解除し、部屋の玄関を開けた。
 
「どうしたのー?酔ってるのー?…………げっ、や、やっぱりやーめっ」
「無理無理、もうダメ!安田ちゃん、トイレ貸してくださぁい!!」

 ドアが開くなり見えたもう1人の人間に、やっぱりやめてと閉めようと思ったが、切羽詰まっている真子に気後れし、結局2人とも中に入れてしまった。
 しかも、トイレから出てきた真子は、見た感じ酔っ払っている風じゃない。しっかりした足取りで、「ごめーん、彼氏から電話あって今からデート、だから帰ります。」と言って桂木を置いて出て行ってしまった。
「早く仲直りするんだよー。」って恋人関係断定して。


「……ごめんね、貴和子ちゃん。岸野さんが協力してくれるっていうから付いてきたんだ。」

と、謝罪しながらも嬉しそうな顔を隠せない桂木に、貴和子は目が座っていく。

「あの、桂木さんも帰って下さいっ!いい加減にしないと、ほんっとに通報しますよ!」

 “通報”と聞いて、怖くないはずはない。だけど、桂木にとっては後輩の岸野が身を呈して演じてくれたことで得たまたとないチャンス。
 真剣に、誠実に、想いを伝えて実らせようっと「ふーっ」と一息ついた。

「貴和子ちゃん、僕は、君のことが好きだ。ずっとずっと探してた。君を抱いてから君が忘れられないんだ。いや、抱く前から好きだった。ん?いや、今でも好きでいる。え?あれ?……好き、だったは要らないか、過去形になるしな……とにかく好きで好きでたまらない。」

「ーーっぷっ。」

 なんだこのハチャメチャな告白は。 
 思わず笑ってしまったじゃないか。

「ブハハハハー!」

 一度ツボに入るとなかなか抜けられない性分を呪いたい。『相手が真剣な時には笑ってはいけません』って何度も母親に怒られてきたじゃないか。
 それなのに、体はわかっておりません。

「……貴和子ちゃん……酷い……。」

 何オクターブか先程より低い声が耳に届き、ようやく笑いは治った。
 見上げると、桂木はほんとに悲しそうな顔をしてこちらを見ている。

「……ごめん、なさい。」

「……して。」

「ん?何?何して?」

「……謝るならお詫びのキスして。」

「は?キス?き、キス!?……っん!」

 何故お詫びがキスなのか、問いかけることもできず、瞬時に唇を奪われた。

 人生で初めての記憶に残るキス。
 
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