9 / 38
ep.9
しおりを挟む
あれから、幾度となく桂木は貴和子の部屋に押しかけた。とはいえ、オートロックであるし、以前のような偶然もないので門前払いのような状況であった。
職場で顔を合わせれば、桂木は馴れ馴れしく触れてこようとしていたが、貴和子の野生の勘により、上手く逃げることができた。
遠くから視線を感じても、貴和子はついつい顔を赤らめてしまう。だから、できるだけ視野に入らないように肩まである髪の毛は下ろすようになった。ついでにメガネもマスクもしたいが、余計な心配をさせるのもひと騒動ありそうでやめた。
初体験の相手が同じ職場にいるなんて、自分の未来にそんな場面は想像していなかった。しかも、当時を覚えていない。一体どんな言葉を吐いて抱かれていたのかわからず、またそんな自分が情けなくなる。
日中あまりにも桂木を避けるから、本部長をはじめとする職場の人達は、誕生日に桂木と何かがあったと確信し、あらぬ噂を立てている。
社内恋愛は隠密にしたいのだろうという見方がほとんどで、貴和子の意思に反していた。
そして、桂木はどうしても貴和子と先に進みたいらしく、決定的な告白をしなければと焦っていた。
自分の思いはとても深い。
あの飲み会で貴和子と密な関係になり、それからというもの、貴和子を探し続けた。気にかけた周りの友人が、何度か飲み会という名の合コンも開いてくれ、貴和子と同様に酩酊して女の子と一夜を過ごしたこともあったが、ひどく後悔した。貴和子と寝た時のようなしつこさを呼びおこすものを感じられなかった。だから、それは2回まで。次に自分が誰かと肌を合わせるなら、絶対貴和子とと決めていた。
だから、もしかしたら通報されるかもしれないけれど、毎晩貴和子の部屋番号を押す。
「花の世話をしようと思って。」
「美味しいケーキを買ってきた。」
「実家から野菜が送られてきて。」
などといろんな理由をつけたが、一向に避けられ、上がらせてもらえない。常識的にあっているのは貴和子で、やたらめったら男性を部屋に入れないことがわかって感心する。
そんなこんなで、桂木は自白するんじゃなかったかなと落ち込み始めた。
見兼ねたのは岸野真子。若さ溢れる強引なやり方で、貴和子に迫った。
『ピンポーン』
「……はい。」
『あっ、安田ちゃん?よかったぁ、いてくれてぇー、ちょっといれてぇー。』
突然貴和子の家に押しかけた真子。
しかも、口調からして酔っ払っている。マンションの集合玄関で酔い潰れられても困るので、仕方なくロック解除し、部屋の玄関を開けた。
「どうしたのー?酔ってるのー?…………げっ、や、やっぱりやーめっ」
「無理無理、もうダメ!安田ちゃん、トイレ貸してくださぁい!!」
ドアが開くなり見えたもう1人の人間に、やっぱりやめてと閉めようと思ったが、切羽詰まっている真子に気後れし、結局2人とも中に入れてしまった。
しかも、トイレから出てきた真子は、見た感じ酔っ払っている風じゃない。しっかりした足取りで、「ごめーん、彼氏から電話あって今からデート、だから帰ります。」と言って桂木を置いて出て行ってしまった。
「早く仲直りするんだよー。」って恋人関係断定して。
「……ごめんね、貴和子ちゃん。岸野さんが協力してくれるっていうから付いてきたんだ。」
と、謝罪しながらも嬉しそうな顔を隠せない桂木に、貴和子は目が座っていく。
「あの、桂木さんも帰って下さいっ!いい加減にしないと、ほんっとに通報しますよ!」
“通報”と聞いて、怖くないはずはない。だけど、桂木にとっては後輩の岸野が身を呈して演じてくれたことで得たまたとないチャンス。
真剣に、誠実に、想いを伝えて実らせようっと「ふーっ」と一息ついた。
「貴和子ちゃん、僕は、君のことが好きだ。ずっとずっと探してた。君を抱いてから君が忘れられないんだ。いや、抱く前から好きだった。ん?いや、今でも好きでいる。え?あれ?……好き、だったは要らないか、過去形になるしな……とにかく好きで好きでたまらない。」
「ーーっぷっ。」
なんだこのハチャメチャな告白は。
思わず笑ってしまったじゃないか。
「ブハハハハー!」
一度ツボに入るとなかなか抜けられない性分を呪いたい。『相手が真剣な時には笑ってはいけません』って何度も母親に怒られてきたじゃないか。
それなのに、体はわかっておりません。
「……貴和子ちゃん……酷い……。」
何オクターブか先程より低い声が耳に届き、ようやく笑いは治った。
見上げると、桂木はほんとに悲しそうな顔をしてこちらを見ている。
「……ごめん、なさい。」
「……して。」
「ん?何?何して?」
「……謝るならお詫びのキスして。」
「は?キス?き、キス!?……っん!」
何故お詫びがキスなのか、問いかけることもできず、瞬時に唇を奪われた。
人生で初めての記憶に残るキス。
職場で顔を合わせれば、桂木は馴れ馴れしく触れてこようとしていたが、貴和子の野生の勘により、上手く逃げることができた。
遠くから視線を感じても、貴和子はついつい顔を赤らめてしまう。だから、できるだけ視野に入らないように肩まである髪の毛は下ろすようになった。ついでにメガネもマスクもしたいが、余計な心配をさせるのもひと騒動ありそうでやめた。
初体験の相手が同じ職場にいるなんて、自分の未来にそんな場面は想像していなかった。しかも、当時を覚えていない。一体どんな言葉を吐いて抱かれていたのかわからず、またそんな自分が情けなくなる。
日中あまりにも桂木を避けるから、本部長をはじめとする職場の人達は、誕生日に桂木と何かがあったと確信し、あらぬ噂を立てている。
社内恋愛は隠密にしたいのだろうという見方がほとんどで、貴和子の意思に反していた。
そして、桂木はどうしても貴和子と先に進みたいらしく、決定的な告白をしなければと焦っていた。
自分の思いはとても深い。
あの飲み会で貴和子と密な関係になり、それからというもの、貴和子を探し続けた。気にかけた周りの友人が、何度か飲み会という名の合コンも開いてくれ、貴和子と同様に酩酊して女の子と一夜を過ごしたこともあったが、ひどく後悔した。貴和子と寝た時のようなしつこさを呼びおこすものを感じられなかった。だから、それは2回まで。次に自分が誰かと肌を合わせるなら、絶対貴和子とと決めていた。
だから、もしかしたら通報されるかもしれないけれど、毎晩貴和子の部屋番号を押す。
「花の世話をしようと思って。」
「美味しいケーキを買ってきた。」
「実家から野菜が送られてきて。」
などといろんな理由をつけたが、一向に避けられ、上がらせてもらえない。常識的にあっているのは貴和子で、やたらめったら男性を部屋に入れないことがわかって感心する。
そんなこんなで、桂木は自白するんじゃなかったかなと落ち込み始めた。
見兼ねたのは岸野真子。若さ溢れる強引なやり方で、貴和子に迫った。
『ピンポーン』
「……はい。」
『あっ、安田ちゃん?よかったぁ、いてくれてぇー、ちょっといれてぇー。』
突然貴和子の家に押しかけた真子。
しかも、口調からして酔っ払っている。マンションの集合玄関で酔い潰れられても困るので、仕方なくロック解除し、部屋の玄関を開けた。
「どうしたのー?酔ってるのー?…………げっ、や、やっぱりやーめっ」
「無理無理、もうダメ!安田ちゃん、トイレ貸してくださぁい!!」
ドアが開くなり見えたもう1人の人間に、やっぱりやめてと閉めようと思ったが、切羽詰まっている真子に気後れし、結局2人とも中に入れてしまった。
しかも、トイレから出てきた真子は、見た感じ酔っ払っている風じゃない。しっかりした足取りで、「ごめーん、彼氏から電話あって今からデート、だから帰ります。」と言って桂木を置いて出て行ってしまった。
「早く仲直りするんだよー。」って恋人関係断定して。
「……ごめんね、貴和子ちゃん。岸野さんが協力してくれるっていうから付いてきたんだ。」
と、謝罪しながらも嬉しそうな顔を隠せない桂木に、貴和子は目が座っていく。
「あの、桂木さんも帰って下さいっ!いい加減にしないと、ほんっとに通報しますよ!」
“通報”と聞いて、怖くないはずはない。だけど、桂木にとっては後輩の岸野が身を呈して演じてくれたことで得たまたとないチャンス。
真剣に、誠実に、想いを伝えて実らせようっと「ふーっ」と一息ついた。
「貴和子ちゃん、僕は、君のことが好きだ。ずっとずっと探してた。君を抱いてから君が忘れられないんだ。いや、抱く前から好きだった。ん?いや、今でも好きでいる。え?あれ?……好き、だったは要らないか、過去形になるしな……とにかく好きで好きでたまらない。」
「ーーっぷっ。」
なんだこのハチャメチャな告白は。
思わず笑ってしまったじゃないか。
「ブハハハハー!」
一度ツボに入るとなかなか抜けられない性分を呪いたい。『相手が真剣な時には笑ってはいけません』って何度も母親に怒られてきたじゃないか。
それなのに、体はわかっておりません。
「……貴和子ちゃん……酷い……。」
何オクターブか先程より低い声が耳に届き、ようやく笑いは治った。
見上げると、桂木はほんとに悲しそうな顔をしてこちらを見ている。
「……ごめん、なさい。」
「……して。」
「ん?何?何して?」
「……謝るならお詫びのキスして。」
「は?キス?き、キス!?……っん!」
何故お詫びがキスなのか、問いかけることもできず、瞬時に唇を奪われた。
人生で初めての記憶に残るキス。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる