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ep.13
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おかしい。
すごくおかしい。
ものすごくおかしい。
あの日以来、桂木は貴和子を避けている。というより、隣にいても全く気にする素振りを見せないし、挨拶はすれど、ビジネスライクな「おつかれさまです」止まりだ。
もしかしたら、押してダメなら引いてみろという、昔からの恋を成就させる駆け引きというものを実践中なのかもしれない。
それは、貴和子だけではなく、本部長以下、職員皆が思っていた。
だが、3日、1週間、10日と続けば、さすがに「桂木さんって誰が好きなんでしたっけ?」なんて話題が飛び交うようにもなった。いや、今までが今までだから、10日でそんな話題になるのだろう。
普通なら誰が誰を好きだったかなど、1ヶ月くらい経たないと気づかない変化だ。
「安田ちゃん、何かしたの?それとも桂木さんが心変わり!?」
何かしたかと問われれば、キスもしたし、抱き合いもした。
ただ、心変わりしたかどうかを問われれば、貴和子とてわからない。
そうならそうで、一言いってほしいくらいだ。
「桂木さん、今まで安田ちゃんにデレデレの顔しか見たことなかったけど、今や根っからのビジネスマンって感じで、実はカッコいいのよねー。」
「うんうん。電話しながらパソコン打ってる姿とか、キャーってなっちゃう。」
次第に、若い女性職員の間で桂木さんの株が上がっていく。
貴和子はあまり聞いていていい気はしないが、それでもまだ嫉妬という気持ちを抱くほどではない。
ある午後、取引先の出版社の担当が変わるからと、会議室のセッティングを任された。
「椅子の数よし、花は枯れていない、テーブルの埃もなし、拭き後も目立ってない、あとは茶器の準備準備。」
確か、先方は煎茶が苦手で、ほうじ茶を頼まれていた。
珍しい指示だったが、特に何も考えずに準備した。
そして10分後、現れた出版社の担当者を見て、貴和子は胸がチクっとしてしまった。
正確に言えば、担当者の女性と、横に並ぶ桂木さんがあまりにもお似合いで、仲睦まげの姿を見たからだ。
タイトなパンツスーツを颯爽と着こなす松永華恵さんは、モデルのような美人で、一瞬にして、この事務室の雰囲気を格上げした。そして、以前より幾分シュッとしたスーツ姿で、長い足を際立たせている桂木さんと並ぶと、間違いなく『街行くイケてるカップル取材』を受ける2人という感じだった。
それに引き換え、貴和子はパンツスーツなど購入したことはない。
太ももに合わせたら、パンツのラインが間違いなく、作った人の意図を裏切る形になるからだ。まあ、要するに、太い割に足が短いということだ。
(別に悩む必要なんかないわっ。)
と、まるで桂木の隣に相応しくない自分が嫌、みたいに思っている思考を一蹴した。
「安田ちゃん、会議室、変わろうか?」
真子が何かを感じ取ったらしく、貴和子に小声で囁いた。
だが、貴和子は、
「ううん、いいよ。私の担当だし。」
と、返事をした。
(お茶の香りを楽しめ楽しめ、そして落ち着け)と心中穏やかとは言わなかったが。
すごくおかしい。
ものすごくおかしい。
あの日以来、桂木は貴和子を避けている。というより、隣にいても全く気にする素振りを見せないし、挨拶はすれど、ビジネスライクな「おつかれさまです」止まりだ。
もしかしたら、押してダメなら引いてみろという、昔からの恋を成就させる駆け引きというものを実践中なのかもしれない。
それは、貴和子だけではなく、本部長以下、職員皆が思っていた。
だが、3日、1週間、10日と続けば、さすがに「桂木さんって誰が好きなんでしたっけ?」なんて話題が飛び交うようにもなった。いや、今までが今までだから、10日でそんな話題になるのだろう。
普通なら誰が誰を好きだったかなど、1ヶ月くらい経たないと気づかない変化だ。
「安田ちゃん、何かしたの?それとも桂木さんが心変わり!?」
何かしたかと問われれば、キスもしたし、抱き合いもした。
ただ、心変わりしたかどうかを問われれば、貴和子とてわからない。
そうならそうで、一言いってほしいくらいだ。
「桂木さん、今まで安田ちゃんにデレデレの顔しか見たことなかったけど、今や根っからのビジネスマンって感じで、実はカッコいいのよねー。」
「うんうん。電話しながらパソコン打ってる姿とか、キャーってなっちゃう。」
次第に、若い女性職員の間で桂木さんの株が上がっていく。
貴和子はあまり聞いていていい気はしないが、それでもまだ嫉妬という気持ちを抱くほどではない。
ある午後、取引先の出版社の担当が変わるからと、会議室のセッティングを任された。
「椅子の数よし、花は枯れていない、テーブルの埃もなし、拭き後も目立ってない、あとは茶器の準備準備。」
確か、先方は煎茶が苦手で、ほうじ茶を頼まれていた。
珍しい指示だったが、特に何も考えずに準備した。
そして10分後、現れた出版社の担当者を見て、貴和子は胸がチクっとしてしまった。
正確に言えば、担当者の女性と、横に並ぶ桂木さんがあまりにもお似合いで、仲睦まげの姿を見たからだ。
タイトなパンツスーツを颯爽と着こなす松永華恵さんは、モデルのような美人で、一瞬にして、この事務室の雰囲気を格上げした。そして、以前より幾分シュッとしたスーツ姿で、長い足を際立たせている桂木さんと並ぶと、間違いなく『街行くイケてるカップル取材』を受ける2人という感じだった。
それに引き換え、貴和子はパンツスーツなど購入したことはない。
太ももに合わせたら、パンツのラインが間違いなく、作った人の意図を裏切る形になるからだ。まあ、要するに、太い割に足が短いということだ。
(別に悩む必要なんかないわっ。)
と、まるで桂木の隣に相応しくない自分が嫌、みたいに思っている思考を一蹴した。
「安田ちゃん、会議室、変わろうか?」
真子が何かを感じ取ったらしく、貴和子に小声で囁いた。
だが、貴和子は、
「ううん、いいよ。私の担当だし。」
と、返事をした。
(お茶の香りを楽しめ楽しめ、そして落ち着け)と心中穏やかとは言わなかったが。
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