僕と生きてください

koyumi

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ep.15

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「……や、やめて、ください。」

 貴和子がようやく言うと、桂木は「やっぱり」と、言いながらまわしていた腕を離した。

「ねえ、今夜飲みに行かない?やっと残業から解放されるんだ。つきあってよ。」

「無理です。」

「いや、行こう。待ってるから。」

 桂木はそう言うなり、スッと会議室を出ていった。

 本当にやばかった。
 自分がわからなかった。
 それなりに体は桂木を覚えているのだろうか?脳内は逃げろコールがこだましていたのに。

「ふあーーー」

 できれば今すぐ早退したいくらい、貴和子は仕事に意識が向かなかった。

 それでもサボるなんて思考はできず、もちろん実行もできず、貴和子は自身の就業時間がくるまできっちし働いた。
 あの後は作業室での印刷やらダイレクトメールの封入やら、地味な業務しかなかったことは有り難かった。

 桂木は「待ってるから」とは言ったが、どこで待っているかなど言わなかったし、みんながみんな同じ時間が定時ではない勤務体系だから、桂木の就業時間だってわからない。  
 今日は貴和子は早出だったから、桂木が同じ時間に業務が終了しているとは思えない。

「まぁ、いっか。気にしないでいよ。」

 貴和子はそう呟き、まだ残る職員に「お疲れ様でした」と挨拶してエレベーターに乗り込んだ。

 この時貴和子は忘れていた。
 桂木は以前、いつも貴和子の勤務表をチェックして、退勤時間にエントランスで待ち伏せしていたことを。
 それをしなかったのは、本日までのたった10日間だけだったけれど、その10日間で貴和子も、周りの人間も桂木が心変わりしたと思っていたくらいだから。

「貴和子ちゃん。やっと来たね。さぁ行こう。」

 エレベーターが開いて、出たところで腕を掴まれた。
 ギョッとして右肩を見ると、桂木が顎をのせていた。

「や、な、何してるんですか!!」

「何って、貴和子ちゃんを待ってただけ。」

「も、もう上がりなんですか!?」

「あ、あぁ、っていうより、今日は休日出勤。この前の土曜日と休みを入れ替えてたけど、ほら、例の取引先が今日じゃなきゃ無理だっていうから。」

 話すために、肩にあった顎は離してくれたけど、腕にあった手は、しっかりと貴和子の手の甲を包み込んでいる。

「待ってるからって言ったよね?」

「言いましたけど、でも私はーー」

「決めてるんだ。」

 言いたいことは最後まで言わせてもらえない。

「貴和子ちゃんと結婚するって。」

「はい??」

 もう、開いた口が塞がらない。

「だから、今日プロポーズしようかと思って。」
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