僕と生きてください

koyumi

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ep.21

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 いつ誰が来るかわからない場所で、急に抱きすくめられ、動転しないわけはない。

「部屋、入っていい?」

 状況からして脅迫じみた言い方に、ゴクリと喉を鳴らし、貴和子は首を縦に振った。

「何もしないでくださいよ。」

 玄関のドアを開けながら、貴和子は牽制した。

「ここじゃしないよ。」

 桂木は全否定することはない。
 それでも貴和子はようやく帰れた自分の城に、ホッと一息ついた。
 彼氏でもない男の家に連れていかれ、挙句、プロポーズを受けて一夜をそこで明かしたのだ。

(こんな結婚話ってある?いや、結婚しないでしょ?だって私、桂木さんのこと、好きじゃない。まだ、好きじゃない……。)

 貴和子より先にズンズン部屋に入っていく桂木は、足元に転がる何かにつまづいた。

「わっ、なんだこれ!?」
「え?あ、あわわわっ、割れてる!!」

 そこに落ちていたのは、いつしか桂木が貴和子にプレゼントした某俳優主演ドラマのDVDケースだった。
 見るも無残にジャケットの俳優の顔の中心に亀裂が入っていた。

「ごめん、貴和子。怒った?」
「ううん、散らかしてたのは私だから。」
「…………。」

 沈黙。
 部屋を一周見て回る。
 うん、お客様が来るような部屋じゃない。

「貴和子って、片付け苦手なの?」

「そう、かも。すみません。」

 慌てて脱ぎっぱなしのパジャマを洗濯機に投げ入れた。先程割れた以外のDVDも、何個か散らばったままだし、食器だって片付いていない。

「片付けは女の子の特技だと思ってた。」

 チクリ。と胸を刺す言葉。
 だったら私を嫌いになってくれていいのに。

「やっぱり、貴和子は違う。意外性はポイント高いよ。」

 いやいや、そこは下がるポイントでしょ?

 やっぱり桂木さんは、掴めない。

「僕の寝床はどこかな?」

「寝床?」

「だって結婚するんだし、たまにはお泊まりするべきだろ?駐車場だって結構前から借りておいたんだ。そこの角にある広いところ。毎日だっていいけど、会えない時間があるのも盛り上がる一因になるだろうし。」
 
 駐車場?あぁ、だからあっちに行ってたんだ。しかも結構前からって、一体いつから……。

「あの、確かめたいことが……。」

 言うべきよね?
 遅いくらいだけど、言うべきよね?

「桂木さんと、私って、結婚するの?」

「そうだけど……。まさか、それも覚えてないの?」

「あ、うん……。私、やっぱりお酒に弱いみたい。だめよねー、記憶なくしちゃうんだから。」

 本当は覚えてるんだけど、ここは嘘も必要な場面だよね。あんな牢獄のような雰囲気で承諾したプロポーズなんて、白紙にしちゃって当然だよね。
 ちょっと、かわいそうな気もしたけれど。

「じゃあ、後でビデオを見せるから、記念に撮っていたんだ。気づかなかった?」

「ビデオ?えぇぇ!?桂木さんちで?」

「うん。結構わかりやすく三脚立てて置いてもらってたんだけどな。」

「全然わからなかった……。」

 抜け目がない。
 逃げ道もない。

「貴和子はすぐに記憶をなくすから、こういうこともあるかと思ってさ、準備していたんだよ。だから、後で見よう。
 それより、早くしたくてたまらないよ。いいよね?」

 桂木はそう言うなり、貴和子の腰を引き寄せて唇を塞いだ。
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