僕と生きてください

koyumi

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ep.30

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 桂木はいつになく落ち着かなかった。
 今日が休みだから尚更だ。
 わざわざ休日出勤するつもりだったが、上司に阻止された。
 昨夜のことだ。

「明日の夜は職場の女子で久々にご飯食べに行きますから。」

 貴和子から寝る間際に伝えられた言葉。
 桂木は翌日休みだし、貴和子も早出だから、たまには外食に行こうとリサーチしていた。それなのに、先約があるとは何事だ。

「貴和子ちゃんそれはちょっと…」
「明日朝一で本部長とB画材さんとで打ち合わせがあるので、今日はもう寝ますね。ぜーったいに触れてこないでくださいよっ!本部長の勘は鋭いんですから。もし私が寝不足でミスしようものなら責められるのは桂木さんですからね!わかってます?」
「げっ……本部長を出すとは……」

 ただでさえ、最近の本部長は桂木のスケジュールを詰めにかかっている。わざと貴和子との休みもズラされているような気もする。以前は幾らかこちらに味方してくれていたのに。

「それでは、おやすみなさい。」

 眠ってしまった貴和子を前に、桂木の手は自然と宙を舞う。
 触りたい。
 あのプニプニした脇腹をつつきたいし、弾力のある背中をさすりたい。
 目を閉じてイマジネーション力を奮起していると、

「…んぐぁっ、は、は、はぁー、ふぃ~……」
と、たまにかく、貴和子のイビキが聞こえてきて、桂木は一気に引いた。
 女性のイビキに抵抗があるわけじゃない。ただ、貴和子のイビキを聞くと、貴和子の疲労を思い、休息させてあげたくなるのだ。

 そんなこんなで、休日前の密事は成せなかった。
 そして、本日もまた貴和子に触れられない夜を過ごすことになろうとは……!

 朝、仕事を残していたからと出勤するつもりだった。
 だが、貴和子から
「今日は、桂木さんはしっかり休んでもらうと本部長が言ってましたよ。明日から残業続きになるみたいですから。」
と、爆弾を落とされてしまった。
 本部長には何もかもお見通しである。
 
 さては……? 
 
 今夜の女子会は、いわゆるバチェラーパーティーみたいなものなのかもしれない。
 女性側ってどんなことをするんだ?
 筋肉マッチョな野郎どもの館にて、大騒ぎか?もしくは、ドンペリ頼みまくりのホスト祭りか?

 桂木の思考はどんどんエスカレートしていく。
 冷静に考えれば、ドンペリなんて高額な飲物を頼む祭りなど、事務員の給料じゃ無理なのだが。

「あぁ、貴和子ちゃん……!どうして……」
 頭を抱え込み、目に浮かぶ合成画像を何枚も作成していく。 
 とてもじゃないがプリントアウトなどできない際どいものまで……。

 学校の近くで待ち伏せして、女子会についていこうかと思ったが、それもまた貴和子を信じていないようでやるせない。
 何度かどこのお店に行くのかメールしてみたが、『まだ決まってません』の一点張りだ。

 気になって気になってどうにかなりそうな桂木は、苦肉の策に出た。


******


「桂木さん、よく邪魔しませんでしたね?」

 ビールの入ったグラスを傾けながら、真子は貴和子に言う。
 女子会のメンバーは、同期の真子、先輩の竹中由美子、浜井絵里、そして貴和子の4名だ。
 竹中と浜井は貴和子と同じ年齢で、入社時から、竹中は貴和子に、浜井は真子について仕事を教えていた。
 そのため、普段から仲が良く、グループラインも作成済みだった。
 
 今回の女子会会場は竹中の部屋。
 あらかじめ竹中がアルコール類を用意し、あとはお昼休みを利用してテイクアウトの項目を決めて電話注文にて宅配してもらっていた。
 4人揃って早出の日はなかなか無く、ようやくできたタイミングを生かした。

「桂木さんはほんっとに安田ちゃんが好きだからねぇ。いつかこうなると思ってたよ。」
 竹中が言う。
「ええぇー!私は絶対無理だと思ってたぁ。安田ちゃん素っ気なかったし。」
 浜井はかつて桂木のファンだったらしい。だが、貴和子に対する執着を目の当たりにしてからは手の平返して諦めたという。
「で、プロポーズは何だったの?」
 真子の言葉に皆が貴和子に注目する。
 貴和子にとって、一番答えづらい内容であり、実のところ、どれがプロポーズかもわからない。
「……なんだろ?」
「は?まさか、プロポーズされてないの??じゃあこの指輪は?」
 貴和子の指には某有名ブランドの小洒落た指輪がはまっている。
 これは、つい最近、桂木からプレゼントされたものだ。
「貴和子ちゃんに似合うと思って」
と言って渡されたため、プロポーズとは違う気がする。

「うーん、イマイチどれがプロポーズなのか……」

 貴和子のつぶやきに、一堂納得して頷いた。

「うん、確かに……。桂木さん、毎日がプロポーズって感じだったし。」
「最初っからじゃない?ブレてないのが凄いよね。」
「あの牽制、凄かったし。」

 思い起こせば赤面もののアピールばかりだ。

「で、安田ちゃんはどこで踏ん切りつけたの?」
「そうそう、あんなに嫌がってたのに急に結婚することになったって聞いて、びっくりしたわよ。」

 この質問もスルーしたい。
 どこで?と言われれば……初体験の相手が桂木だったみたい……とか、自分の黒歴史を語る羽目になるし。
 昔イケてた俳優さんが今でも好きで、そのDVD攻撃にちょっとヤられたっていうしかないかな……。
 まともな純愛ストーリーのような、わかりやすいキッカケがない。
 桂木にしてみれば、初体験の貴和子をずっと探し求めていたらしいが。

 その時だ。

『ピンポーン』

 時刻は午後8時前。
 女性の一人暮らしの部屋に、こんな時間にインターフォンが鳴るのはおかしい。宅配はもう来たし、竹中の彼氏とかだろうか?

「ちょっと見てくる。」と言って、そっと玄関に向かった。
 そして、誰だか確認した竹中はドアを開けた。
「や、ちょっとなんでまたこんな日に?!」
「えー、連絡したじゃん。出ないから直接行けばいいやと思って。」
「もう!今日は来客中なの!だから無理よ。」
「へぇー、彼氏?じゃないな、このパンプスの数からして女子会?」

 よくとおる大きな声で、玄関で揉めていた2人が気になった浜井は.
「どしたのー?由美ちゃん……ぇ?ええ?彼氏!?」
と、来客者の姿を見て驚いた。 
「まさか!従兄弟よ、従兄弟!竹中健太、同じ年で上の階に住んでるどうしようもない奴!」
 竹中由美子は必死に帰そうとするが、
「そうなの!?いいじゃない、いいじゃない!一緒に飲みましょっ。ほらほら、ね?」
「ちょっと絵里!あ、こら、健太!」
 絵里こと浜井に手を取られた健太は、嬉しげに貴和子と真子がいるリビングに入っていった。
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