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ep.31
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竹中健太は28歳で、由美子や貴和子と同級生だった。
中肉中背だが彫りの深い顔は、いかにもおしゃべり好きな雰囲気だ。
「由美子も酷いよなぁ。こんな美人勢揃いの職場だったなんてさ、紹介してくれたらいいのに。」
とりあえず社交辞令的な褒め言葉で、すんなりと女子達に歓迎された。
貴和子は桂木のことを思い出し、ちょっとだけ後ろめたい感じがしたが、由美子の従兄弟だし……と、気を取り直した。実際、この場を目にしたら、たとえ健太が貴和子をど嫌いしていた風でも嫉妬に狂うのが桂木だ。そうなると、夜の営みが怖い。
「由美子、マナーモードのままなんだろ?切り替えたか?」
「ん?あ、そうだった。ついつい忘れちゃうのよねー。」
「うんうん私もー」
「……!あ、やばいかも……!」
貴和子はふと自分も電話をマナーモードにしていたことに気がついた。しかも鞄の中にそれはある。
桂木からの着信が無くなって、ホッとしていたのに……気づかなかっただけ、とか?
貴和子は慌てて携帯電話を確認すると、画面は着信のお知らせで埋まっていた。
「げっ」
と、呟いたが、相手をみれば《お母さん》とある。
(まさか実家で何かが?!)
と、慌ててリビングを出て、廊下で掛け直した。
『あ、母さん?どうしたの?何かあったの?』
『やっと出たわね貴和子!今どこにいるのよ?』
『今?今は会社の同僚の家にお邪魔してるのよ。なんで?』
『あら?同僚さんの?なんてお名前なの?』
『え?なんてって…竹中由美子さんって人よ。聞いてどうするのよ。』
『聞いてどうするのかって、そりゃ結婚式で会った時に挨拶しなきゃいけないでしょう?お家に行くほどの仲なんだから。』
『ああ、そういうことね。で、どうしたの?』
『どうしたのかって、今嘉人君が来ていてね、夕食一緒に食べてるのよ。今日はお休みなんですってね。嬉しいわぁ、私の好きな◯△庵の大福も持って来てくれたの。それに、お父さんの好きな日本酒も。
でね、嘉人君、そろそろあんたを迎えに行くっていうんだけど充電切れちゃってね。だから私が代わりに電話してるわけよ。』
開いた口が塞がらない……。
あれ程かわしていたのに。
絶対に場所を教えないとみんなで誓ったのに。
ちなみに、桂木はアルバム事件の後、ご丁寧に返却するために貴和子の実家に向かった。住所も教えてもらっていたようだ。
そこで、玄関から一歩踏み入れるなり、「おめでとう貴和子!」と家族総出で大歓迎されていた。
貴和子は桂木との結婚について、慎重に、かつ穏便に話すつもりだったが、娘の吉報を待ち焦がれていた両親とはかなり温度差があった。
桂木は初めこそいつもの倍増しの紳士ぶりを見せていたが、すぐにボロが出て、家族の前だというのに貴和子にべったりだった。
プロポーズもままならず、家族への挨拶も緊張感なく、何の障害もない2人の婚約に、貴和子は少しビビってさえいた。
そして今桂木は前触れなく、1人で貴和子の実家におしかけている。
今回、貴和子は桂木の策に伏した。
絶対に携帯電話の充電など、切れちゃいないはずだ。あの桂木がそんな失敗するわけがない。
わざと、電源を切っているだけだ。
そうまでして他愛ない女子会を邪魔したいのか?
ジワジワと桂木に対抗心が出てきた貴和子は、ふと閃いた。
『お母さん、お父さんと代わってくれない?』
貴和子がそう言うと、すぐに父親が電話に出た。
『やぁやぁ貴和子~、珍しいな、お父さんに用があるとは』
『あのね、桂木さんもその日本酒、好きみたいよ。一度お父さんと一杯交わしたいって言ってたの。私なら今日は先輩の家に泊まるし、心配ないから桂木さんとゆっくりしてよ。ね?お父さんも1人酒よりいいでしょ?』
『ほうほう、そういうことなら……任せなさい。おーい、嘉人君、一緒に飲もう。貴和子は今日は泊まるから心配ないそうだ。』
貴和子の父はいつも寂しく1人酒である。いつか、貴和子が旦那を連れてきたら2人で交わすことを望んでいた。
『ほらほら、遠慮せずに。君と2人で飲むともっとうまいんだろうな。だから、ほら、おちょこおちょこ。』
『貴和子?いいのあんた、大丈夫なの?』
父親が行動を起こしたせいか、母親としては強く止められず、桂木も義父になる人からの誘いを無碍にはできなかった。
『ノープロブレム!ここ、実はうちから歩いて5分だし、心配いらないよ。それよりごめんね。桂木さん、一晩よろしくねー』
『え?一晩?貴和子?貴和子ー!』
これでよしっ!
なんとなく違和感も感じるけれど、貴和子は電話をマナーモードのまま代えず、また鞄の中にポイっと入れた。
そしてすぐリビングに入り、女子会に合流した。
中肉中背だが彫りの深い顔は、いかにもおしゃべり好きな雰囲気だ。
「由美子も酷いよなぁ。こんな美人勢揃いの職場だったなんてさ、紹介してくれたらいいのに。」
とりあえず社交辞令的な褒め言葉で、すんなりと女子達に歓迎された。
貴和子は桂木のことを思い出し、ちょっとだけ後ろめたい感じがしたが、由美子の従兄弟だし……と、気を取り直した。実際、この場を目にしたら、たとえ健太が貴和子をど嫌いしていた風でも嫉妬に狂うのが桂木だ。そうなると、夜の営みが怖い。
「由美子、マナーモードのままなんだろ?切り替えたか?」
「ん?あ、そうだった。ついつい忘れちゃうのよねー。」
「うんうん私もー」
「……!あ、やばいかも……!」
貴和子はふと自分も電話をマナーモードにしていたことに気がついた。しかも鞄の中にそれはある。
桂木からの着信が無くなって、ホッとしていたのに……気づかなかっただけ、とか?
貴和子は慌てて携帯電話を確認すると、画面は着信のお知らせで埋まっていた。
「げっ」
と、呟いたが、相手をみれば《お母さん》とある。
(まさか実家で何かが?!)
と、慌ててリビングを出て、廊下で掛け直した。
『あ、母さん?どうしたの?何かあったの?』
『やっと出たわね貴和子!今どこにいるのよ?』
『今?今は会社の同僚の家にお邪魔してるのよ。なんで?』
『あら?同僚さんの?なんてお名前なの?』
『え?なんてって…竹中由美子さんって人よ。聞いてどうするのよ。』
『聞いてどうするのかって、そりゃ結婚式で会った時に挨拶しなきゃいけないでしょう?お家に行くほどの仲なんだから。』
『ああ、そういうことね。で、どうしたの?』
『どうしたのかって、今嘉人君が来ていてね、夕食一緒に食べてるのよ。今日はお休みなんですってね。嬉しいわぁ、私の好きな◯△庵の大福も持って来てくれたの。それに、お父さんの好きな日本酒も。
でね、嘉人君、そろそろあんたを迎えに行くっていうんだけど充電切れちゃってね。だから私が代わりに電話してるわけよ。』
開いた口が塞がらない……。
あれ程かわしていたのに。
絶対に場所を教えないとみんなで誓ったのに。
ちなみに、桂木はアルバム事件の後、ご丁寧に返却するために貴和子の実家に向かった。住所も教えてもらっていたようだ。
そこで、玄関から一歩踏み入れるなり、「おめでとう貴和子!」と家族総出で大歓迎されていた。
貴和子は桂木との結婚について、慎重に、かつ穏便に話すつもりだったが、娘の吉報を待ち焦がれていた両親とはかなり温度差があった。
桂木は初めこそいつもの倍増しの紳士ぶりを見せていたが、すぐにボロが出て、家族の前だというのに貴和子にべったりだった。
プロポーズもままならず、家族への挨拶も緊張感なく、何の障害もない2人の婚約に、貴和子は少しビビってさえいた。
そして今桂木は前触れなく、1人で貴和子の実家におしかけている。
今回、貴和子は桂木の策に伏した。
絶対に携帯電話の充電など、切れちゃいないはずだ。あの桂木がそんな失敗するわけがない。
わざと、電源を切っているだけだ。
そうまでして他愛ない女子会を邪魔したいのか?
ジワジワと桂木に対抗心が出てきた貴和子は、ふと閃いた。
『お母さん、お父さんと代わってくれない?』
貴和子がそう言うと、すぐに父親が電話に出た。
『やぁやぁ貴和子~、珍しいな、お父さんに用があるとは』
『あのね、桂木さんもその日本酒、好きみたいよ。一度お父さんと一杯交わしたいって言ってたの。私なら今日は先輩の家に泊まるし、心配ないから桂木さんとゆっくりしてよ。ね?お父さんも1人酒よりいいでしょ?』
『ほうほう、そういうことなら……任せなさい。おーい、嘉人君、一緒に飲もう。貴和子は今日は泊まるから心配ないそうだ。』
貴和子の父はいつも寂しく1人酒である。いつか、貴和子が旦那を連れてきたら2人で交わすことを望んでいた。
『ほらほら、遠慮せずに。君と2人で飲むともっとうまいんだろうな。だから、ほら、おちょこおちょこ。』
『貴和子?いいのあんた、大丈夫なの?』
父親が行動を起こしたせいか、母親としては強く止められず、桂木も義父になる人からの誘いを無碍にはできなかった。
『ノープロブレム!ここ、実はうちから歩いて5分だし、心配いらないよ。それよりごめんね。桂木さん、一晩よろしくねー』
『え?一晩?貴和子?貴和子ー!』
これでよしっ!
なんとなく違和感も感じるけれど、貴和子は電話をマナーモードのまま代えず、また鞄の中にポイっと入れた。
そしてすぐリビングに入り、女子会に合流した。
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