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父親
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あれから諭に電話して、彼女の妊娠について確認しておいた。
あまり、こういった電話をするべきではないのかもしれないと思ったが、街でバッタリ会った時に、お互い気まずくなるのは避けたいので、ひとこと「私は大丈夫」とだけ伝えた。
「鴨井さんか……。」
と、情報源にすぐ気付いた諭は、諦めの言葉を吐き、私に詳細を教えてくれた。
彼女とは週1くらいで会っていたらしく、浮気相手の中では1番長く続いたらしい。まあ、そんなこと聞いたって幻滅この上ないのだが、諭は淡々と私に語る。妊娠に気付いてから諭と距離を置いたらしい。つまり、彼女は諭を真剣に愛していたのだ。
迷惑かけたくなかった、ということだ。好きな人に冷たい目で見られるかもしれないと、妊娠した自分を責めたが、やはり産みたくて、こっそり産婦人科に通っていたらしい。
運は彼女に向いていたらしく、たまたま離婚届を提出した日に、彼女の友人が役所で諭を見かけたという。「父親になることを話しておいた方が絶対いい」とその友人に説得され、恐る恐る彼女は諭に連絡をとった。そして、大きなお腹を見せたことで、諭は愕然とし、自分の子であることを知ったのだという。
私が離婚してくれうんぬんやってる間、諭の子はお腹の中ですくすく育っていたのだ。
「……大丈夫。私のことはもういいから、諭は彼女と子供の為に、幸せな家庭を築いて。もう連絡しないし、もし、あの部屋に私のものが残っていたとしても遠慮なく処分していいから。……ほんと、離婚しといてよかったわ。じゃあね、さよなら。」
これで終わり。
子供が無事、生まれてくればもしかしたら諭は変わるかもしれない。
「はぁー、何やってんだろ。」
ため息ついたっていいよね。
そして月日は経ち、弟の結婚式のため、私ははるばる九州に降り立った。
土日合わせて1週間のお休み。金曜日に着いて、日曜日に式がある。土曜日は、久々に会える家族とゆっくり過ごすつもりだ。
昼間はまだ暑い日もあるが、風は爽やかな秋の空に、「うーん」と背伸びをする。
「あー、空気が美味しい!やっぱいいなぁ田舎って……。」
「依子もこっちに来る?」
お茶のいい香りがして、振り向いたら母さんがにっこり笑って私を見ていた。
「……来て、いいの?」
「本気なの?冗談かと思ったけれど。」
「うーん、微妙よね……。バツイチの娘がいるなんて……。」
その時、母さんはハッとした顔をし、湯のみと急須が載ったお盆を縁側に置き、私の両肩に手を置いた。
「……辛かったね、依子。それなのに、悠介の結婚式のことでも無理いっちゃって……あの後、お父さんにこっ酷く怒られて口聞いてもらえなかったの。腹痛めて産んだ娘の気持ちより、嫌味な金持ちのご機嫌取りを優先するのかって。」
「父さんが?」
「そう。あの人、責任感じてるの。元はと言えば、お父さんが諭くんと結婚決めてしまったわけじゃない?だから、こういう結果になってしまって、依子に申し訳ないのよ。」
そうなんだ……。確かにあの時は、雰囲気に流されて、あれよあれよとトントン拍子に決まってしまった。それでも受け入れたのは自分自身だ。
「お父さんは悪くないわ。離婚したのは結局私達2人の問題だもの。」
誰かに責任を押しつけるつもりはない。私達が離婚したことで、周りの人が思い悩むことに辛さを感じるが、誰かに心配されていたということに、ホッとしたのも事実。
そして何故か、一瞬、ほんの一瞬だけ、高原さんのことが思い浮かび、胸がズキっとした。
あまり、こういった電話をするべきではないのかもしれないと思ったが、街でバッタリ会った時に、お互い気まずくなるのは避けたいので、ひとこと「私は大丈夫」とだけ伝えた。
「鴨井さんか……。」
と、情報源にすぐ気付いた諭は、諦めの言葉を吐き、私に詳細を教えてくれた。
彼女とは週1くらいで会っていたらしく、浮気相手の中では1番長く続いたらしい。まあ、そんなこと聞いたって幻滅この上ないのだが、諭は淡々と私に語る。妊娠に気付いてから諭と距離を置いたらしい。つまり、彼女は諭を真剣に愛していたのだ。
迷惑かけたくなかった、ということだ。好きな人に冷たい目で見られるかもしれないと、妊娠した自分を責めたが、やはり産みたくて、こっそり産婦人科に通っていたらしい。
運は彼女に向いていたらしく、たまたま離婚届を提出した日に、彼女の友人が役所で諭を見かけたという。「父親になることを話しておいた方が絶対いい」とその友人に説得され、恐る恐る彼女は諭に連絡をとった。そして、大きなお腹を見せたことで、諭は愕然とし、自分の子であることを知ったのだという。
私が離婚してくれうんぬんやってる間、諭の子はお腹の中ですくすく育っていたのだ。
「……大丈夫。私のことはもういいから、諭は彼女と子供の為に、幸せな家庭を築いて。もう連絡しないし、もし、あの部屋に私のものが残っていたとしても遠慮なく処分していいから。……ほんと、離婚しといてよかったわ。じゃあね、さよなら。」
これで終わり。
子供が無事、生まれてくればもしかしたら諭は変わるかもしれない。
「はぁー、何やってんだろ。」
ため息ついたっていいよね。
そして月日は経ち、弟の結婚式のため、私ははるばる九州に降り立った。
土日合わせて1週間のお休み。金曜日に着いて、日曜日に式がある。土曜日は、久々に会える家族とゆっくり過ごすつもりだ。
昼間はまだ暑い日もあるが、風は爽やかな秋の空に、「うーん」と背伸びをする。
「あー、空気が美味しい!やっぱいいなぁ田舎って……。」
「依子もこっちに来る?」
お茶のいい香りがして、振り向いたら母さんがにっこり笑って私を見ていた。
「……来て、いいの?」
「本気なの?冗談かと思ったけれど。」
「うーん、微妙よね……。バツイチの娘がいるなんて……。」
その時、母さんはハッとした顔をし、湯のみと急須が載ったお盆を縁側に置き、私の両肩に手を置いた。
「……辛かったね、依子。それなのに、悠介の結婚式のことでも無理いっちゃって……あの後、お父さんにこっ酷く怒られて口聞いてもらえなかったの。腹痛めて産んだ娘の気持ちより、嫌味な金持ちのご機嫌取りを優先するのかって。」
「父さんが?」
「そう。あの人、責任感じてるの。元はと言えば、お父さんが諭くんと結婚決めてしまったわけじゃない?だから、こういう結果になってしまって、依子に申し訳ないのよ。」
そうなんだ……。確かにあの時は、雰囲気に流されて、あれよあれよとトントン拍子に決まってしまった。それでも受け入れたのは自分自身だ。
「お父さんは悪くないわ。離婚したのは結局私達2人の問題だもの。」
誰かに責任を押しつけるつもりはない。私達が離婚したことで、周りの人が思い悩むことに辛さを感じるが、誰かに心配されていたということに、ホッとしたのも事実。
そして何故か、一瞬、ほんの一瞬だけ、高原さんのことが思い浮かび、胸がズキっとした。
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