私と離婚してください。

koyumi

文字の大きさ
38 / 89

父親

しおりを挟む
 あれから諭に電話して、彼女の妊娠について確認しておいた。
 あまり、こういった電話をするべきではないのかもしれないと思ったが、街でバッタリ会った時に、お互い気まずくなるのは避けたいので、ひとこと「私は大丈夫」とだけ伝えた。
「鴨井さんか……。」
と、情報源にすぐ気付いた諭は、諦めの言葉を吐き、私に詳細を教えてくれた。

 彼女とは週1くらいで会っていたらしく、浮気相手の中では1番長く続いたらしい。まあ、そんなこと聞いたって幻滅この上ないのだが、諭は淡々と私に語る。妊娠に気付いてから諭と距離を置いたらしい。つまり、彼女は諭を真剣に愛していたのだ。

 迷惑かけたくなかった、ということだ。好きな人に冷たい目で見られるかもしれないと、妊娠した自分を責めたが、やはり産みたくて、こっそり産婦人科に通っていたらしい。
 
 運は彼女に向いていたらしく、たまたま離婚届を提出した日に、彼女の友人が役所で諭を見かけたという。「父親になることを話しておいた方が絶対いい」とその友人に説得され、恐る恐る彼女は諭に連絡をとった。そして、大きなお腹を見せたことで、諭は愕然とし、自分の子であることを知ったのだという。

 私が離婚してくれうんぬんやってる間、諭の子はお腹の中ですくすく育っていたのだ。

「……大丈夫。私のことはもういいから、諭は彼女と子供の為に、幸せな家庭を築いて。もう連絡しないし、もし、あの部屋に私のものが残っていたとしても遠慮なく処分していいから。……ほんと、離婚しといてよかったわ。じゃあね、さよなら。」

 これで終わり。
 子供が無事、生まれてくればもしかしたら諭は変わるかもしれない。

「はぁー、何やってんだろ。」

 ため息ついたっていいよね。


 そして月日は経ち、弟の結婚式のため、私ははるばる九州に降り立った。
 土日合わせて1週間のお休み。金曜日に着いて、日曜日に式がある。土曜日は、久々に会える家族とゆっくり過ごすつもりだ。

 昼間はまだ暑い日もあるが、風は爽やかな秋の空に、「うーん」と背伸びをする。
「あー、空気が美味しい!やっぱいいなぁ田舎って……。」

「依子もこっちに来る?」

 お茶のいい香りがして、振り向いたら母さんがにっこり笑って私を見ていた。

「……来て、いいの?」

「本気なの?冗談かと思ったけれど。」

「うーん、微妙よね……。バツイチの娘がいるなんて……。」

 その時、母さんはハッとした顔をし、湯のみと急須が載ったお盆を縁側に置き、私の両肩に手を置いた。

「……辛かったね、依子。それなのに、悠介の結婚式のことでも無理いっちゃって……あの後、お父さんにこっ酷く怒られて口聞いてもらえなかったの。腹痛めて産んだ娘の気持ちより、嫌味な金持ちのご機嫌取りを優先するのかって。」

「父さんが?」

「そう。あの人、責任感じてるの。元はと言えば、お父さんが諭くんと結婚決めてしまったわけじゃない?だから、こういう結果になってしまって、依子に申し訳ないのよ。」

 そうなんだ……。確かにあの時は、雰囲気に流されて、あれよあれよとトントン拍子に決まってしまった。それでも受け入れたのは自分自身だ。

「お父さんは悪くないわ。離婚したのは結局私達2人の問題だもの。」

 誰かに責任を押しつけるつもりはない。私達が離婚したことで、周りの人が思い悩むことに辛さを感じるが、誰かに心配されていたということに、ホッとしたのも事実。

 そして何故か、一瞬、ほんの一瞬だけ、高原さんのことが思い浮かび、胸がズキっとした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...